【艦これ】まるゆ「隊長が鎮守府に着任しました」

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1 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/03/11(水) 10:34:36.68 ID:Qsh5gqK30
 息を潜(ひそ)め、海に潜(もぐ)り、敵を狙い撃つ海のスナイパー、潜水艦。
 艦娘となった彼女達の役割は、先制雷撃による敵戦力の減衰、囮、海洋資源の回収、特定海域の定期的な安全確保等、多岐にわたる。
 しかし、潜水艦娘は重宝されこそすれ、重用されることは少ない。
 “使いやすい便利なコマ”、それが大抵の鎮守府における潜水艦娘達への評価だ。
 無論、全ての鎮守府がそうした評価を最終的に下している訳ではない。
 例えば、この鎮守府でも――。




「初期艦のまるゆです。よろしくお願いします、隊長」

「チェンジで」

「そんなぁ!?」




 ――これは、一人の提督と六人の潜水艦娘によるドタバタ奮闘記である。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1426037676
2 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/03/11(水) 10:35:26.09 ID:Qsh5gqK30
 初期艦は大事だ。とても大事だ。
 共にこれから戦う初めての仲間なのだから、友好を築きやすく頼りになるに越したことはない。
 百歩譲って初期艦が生真面目過ぎたりふざけていたり自信家だったりドジっ娘だったりおどおどし過ぎていたりしても、ゆくゆくはどうとでもなる。
 ――しかし、努力で解決出来ないことも、世界には確かに存在した。

「隊長、出撃ですか?」

「まるゆ、お前自殺願望でもあるのか? あるなら先に言え。解体者を大本営からすぐに呼んでやる」

「そんなの無いです。まるゆ、戦う為にここに居るんです!」

 いかにもやる気がありますという目と仕草で自分への出撃命令を促すまるゆ。
 それに深いため息を吐いた後で、提督は言葉を返す。

「お前達艦娘に“無茶”はさせるつもりだが、“無謀”なことをさせる気はない。確実に海の藻屑になる奴を出撃なんぞさせられるか」

「やってみなきゃ分かりません!」

「うるさいモグラ、いいからまずは工廠行くぞ」

「まるゆ、モグラじゃないもん!」

 自分の肩程も無い身長の初期艦についてのデータに目を通しながら、彼は工廠を目指す。
 何故彼女が自分の初期艦なのか、ここに配属される予定だった叢雲はどうなったのか、他にも様々なことが気にかかってはいるものの、そこに書かれている一文こそが、彼にとって今一番気になることだった。




 ――潜水能力に難あり。
3 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/03/11(水) 10:41:03.25 ID:Qsh5gqK30
 工廠に着いた二人を迎えたのは、数人のツナギを着た妖精だった。
 彼等、或いは彼女等は人間の言葉を理解しているが、基本的に人語を話すことはない。
 しかし、その性質は極めて人間に友好的であり、気分によるムラはあるものの、開発や建造を頼めば断られることはまず無かった。

「まるゆ、最初の任務だ。艦娘を二人建造する」

「まるゆじゃなくて隊長が頼んでも、妖精さんは建造してくれますよ?」

「今言っただろ、これは任務だ」

「了解しました!」

 流石に二度同じことを繰り返すようなことはせず、意気揚々と妖精の元へ駆け出し、建造を依頼するまるゆ。それを眺めながら、提督は少し思案する。

(初期艦が最悪の場合出撃すら危うい、か。今建造依頼した二隻と合わせて明日一度出撃させてみるとしよう。それでダメならまた考えるしか無いな――あっ)

 張り切ったあまり滑って転けている初期艦の姿に、また一つ大きなため息を吐く。
 しかし、かなり頼りないながらも一生懸命な彼女に提督は、まだ右も左も分からない新米だがとにかく頑張ろうという気にさせられるのだった。
4 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/03/11(水) 10:41:28.48 ID:Qsh5gqK30
「まるゆ、これが暫くはお前の机になる」

「隊長、わざわざ丸にゆって描いてくれなくてもいいですから……」

「サービスだ」

「そんなサービスいらないです」

「あっ、歪んだ」

(まるゆ、この隊長の下でやっていけるかなぁ……)

 まだ荷解きの途中で荷物が散乱している執務室。その中心で提督は一つの段ボールを組み立て、マジック片手に円を描いている。
 最初は真面目で少し怖そうな印象を彼に持ったまるゆからすれば、その行動は意外であり、少し不安にもさせられるものだった。

「――よし、完成だ」

「わー、まるゆ、すごくうれしいです」

「心底嬉しくなさそうな声で言うな。待ってろ、これで不満なら今から白く塗ってやる」

「もうまるゆの机はいいですから、隊長は早く荷物の整理をして下さい」

「分かった、白く塗るのは後にするとして、そろそろもう一度工廠に行くか」

「あっ、もうこんな時間。整理全然進まないよぉ……」

 予め妖精さんに示された建造にかかる時間は約三十分。既に時計の短針が一周はしているので、すぐに新しい艦娘を迎えに行く必要がある。
 二人はまだ全く整理出来ていない執務室を後にし、再び工廠へと向かうのだった。
5 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/03/11(水) 10:43:26.06 ID:Qsh5gqK30
「伊168よ。言いにくいならイムヤでいいわ」

「伊58だよ。ゴーヤって呼んでね」

「念のために確認するが、二人の艦種は何だ?」

「「潜水艦」」

「おいモグラ、どうやったらこうなる」

「だからまるゆはモグラじゃないもん!」

 建造が終わり、蓋を開けてみれば潜水艦が追加で二隻。これでこの鎮守府には、現時点で存在が確認されている日本艦の潜水艦娘の半分が着任したことになる。
 油と鉄、多種の弾薬、それからボーキサイトを用い、妖精が未知の技術で行うのが“建造”という行為だ。
 どの艦娘が建造されるかは艦艇の魂や残留思念が資源で構成された肉体に完全に定着するまで判別出来ず、特定の艦娘を狙って建造することは出来ない。
 故に、この結果は完全なる偶然ではあるものの、提督は流石に頭を抱えた。

「何よ、私達が建造されたのが司令にはそんなに不満なの?」

「ゴーヤの魚雷はお利口さんだから、きっと役に立つでち」

「……お前達、潜水には当然自信があるよな?」

「当たり前じゃない」

「潜るのは大好きだよ?」

「だったらまるゆと明日出撃してもらう。今日は一緒に執務室や私室の整理だ」

「それは構わないけど、司令官、他の艦娘は?」

「ゴーヤ、挨拶したいでち」

「まるゆはここに居るよ?」

「……まさか、これだけなの?」

「理解が早くて助かる」

「そもそもまるゆって誰でちか?」

「まるゆはまるゆだよ!?」

「冗談でち」

 早速意気投合、とまではいかないものの、比較的良好な関係を築けそうな二人の艦娘を新たに迎え、四人は執務室へと歩いていく。
 丸は難しかったが数字だけなら簡単だなと考える提督に早足でついていくまるゆの表情がその時少し曇っていたのに、彼が気付くことはなかった。
6 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/03/11(水) 10:45:06.64 ID:Qsh5gqK30
書き貯めはここまで、更新はゆっくりです
7 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/03/11(水) 10:55:16.67 ID:Qsh5gqK30
関連する予定のスレ(読んでなくても大丈夫です)

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1399761014/-20
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1401844632/l20
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1406746107/l20
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1416478239/l20
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1423975394/l20

関連しない過去スレ

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1402048723/l20
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1415103633/-20
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/11(水) 11:10:00.78 ID:w7Pli/5Q0
チェンジと発言した件について陸軍憲兵司令部がお呼びです
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/11(水) 11:24:47.85 ID:ZCZNo1FSO
>>1乙です
前回のギス鎮終わりに言ってた潜水艦メインスレか。大鳳スレ共々更新楽しみにしてます
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/11(水) 12:35:53.83 ID:VDr9zvcJo
乙です
ろーちゃんは出ないのかな…
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/11(水) 13:16:01.74 ID:AfZSo0O5O
ろーちゃん要らないゆーちゃんで
12 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/03/12(木) 12:54:00.46 ID:yUSUK4N70
 執務室に戻り、イムヤの机とゴーヤの机を作った後、本格的に提督は荷物整理を始める。
 とは言っても半分ぐらいは彼の私物であり、四人でここに必要なものだけを出していくと、そう時間はかからなかった。

「ふぅ……とりあえずは出来ましたね、隊長」

「この段ボール机、どうにかならない?」

「ゴーヤは結構気に入ったよ。おっきな段ボール、大好きです」

「段ボールを被るなゴーヤ、それは隠れる為の物じゃない」

 頭隠して尻隠さず、段ボールからはみ出ているゴーヤの尻を提督が直視していると、二つの視線が彼に突き刺さった。
 別にそれを見ていかがわしい事を考えていた訳ではないのだが、ずっと見ているのは確かに無遠慮だったなと視界から外す。

「――時にお前達、料理が出来たりするか?」

 場の空気を変える為、という訳でもなく真面目に聞いた提督の問いかけに、まずは首が二つ横に振られ、残る一人は段ボールを左右に振って答える。
 つまり、艦娘の中に料理が出来るものは居ないということだ。

「となると、必然的に俺が作ることになるのか」

「隊長、料理出来るんですか?」

「出来る。が、味は保証しない」

「司令官以外にこの鎮守府に人は居ないの?」

「どこの鎮守府にも“人”は提督しか居ない。何か鎮守府内で問題が生じた時、処分する人間の数は少ない方がいいという有難い配慮があってのことだそうだ」

「ふーん……」

 “労働力が足りないのならば艦娘を使え”、それが大本営の方針だ。
 確かに掃除や洗濯、炊事も自分達でやってやれないことはなく、無駄な人件費を一切省き資源や物資などの確保に回すというのは、一つの正しい選択といえる。
 ただ、泡まみれの手で出撃準備や、慌てて火にかけっぱなしになった油がはねて火事になるというような事態にもなりかねないので、ある程度の人数が揃わないと管理が大変なのも事実だった。

「そもそも初めて物を口にするから、ゴーヤには味なんて全く分からないでち」

「私もよ」

「まるゆは普通に食べてたから、分かります」

「どうせそのうち自分で作ることにもなるだろう。今から食堂で作るから横で見とけ」

「隊長、何を作るんですか?」

「チャーハン」




 総評、食べられる。
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/12(木) 20:02:16.96 ID:qiU9zoc0o
チャーハン作るよ!
14 : ◆UeZ8dRl.OE [saga sage]:2015/03/13(金) 19:03:49.87 ID:HW4s92Tj0
「旗艦はまるゆ、イムヤとゴーヤも出撃だ」

「まるゆ、頑張ります!」

「海のスナイパー、イムヤに任せて」

「いっぱい潜るでち」

 提督が着任して二日目になり、いよいよ初出撃の瞬間が訪れる。
 潜水艦のみでの出撃なのでもう少し準備を整えてからするべきなのかもしれないが、はぐれ一隻以外と遭遇した場合は即撤退するように命じてあるので、そこまで危険がある訳ではない。

「じゃあ行ってこい。沈むならもっと良い舞台をいつか用意してやるから、今はとにかくここへ帰ってくるのを優先しろ」

「陸地に近い場所に居るのは大抵弱い個体なんでしょ? 私達をあんまり舐めないでよね」

「余裕でち」

「――じゃあ、出撃します」




 その時三人が見たものは、天空を蹴るように水面から突き出したまるゆの両足が、ジタバタともがく姿。
 提督が一瞬それを見て犬神家の一族のマネで笑わせようとしたのかと錯覚したほど、彼女の足はピンと張っていた。
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