他の閲覧方法【
専用ブラウザ
ガラケー版リーダー
スマホ版リーダー
BBS2ch
DAT
】
↓
VIP Service
SS速報VIP
更新
検索
全部
最新50
朝潮「制裁」
Check
Tweet
396 :
◆oUFoaE/FvU
[saga sage]:2015/10/30(金) 16:19:43.93 ID:K/bR7wz90
こんな時間ですが再開します。
くたびれた方たちにとって一抹の清涼剤にでもなりましたら幸いです。
397 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/10/30(金) 16:22:40.32 ID:K/bR7wz90
―――――
―――
あれほど痛かったのに、もう痛覚はない。
体の震えも止まっていた。
荒潮 (もう・・・・・・疲れたわ・・・)
頬を火が舐めるに任せる。
体どころか顔を上げる力さえ込められなくなっていた
視界は赤から真っ白に霞み音はもうしない。
細胞が静止してゆく。
感覚が閉じて行く中で、荒潮は自分の精神の中へ落ちてゆく。
恐怖で摩耗しきった精神も、安息を求め深海に沈むんでゆくように暗く冷たく静かになってきていた。
荒潮 (あれほど生きたいと願っていたのに)
荒潮 (もう開放されたい・・・)
遠くから朝潮の声が聞こえたような気がした。
―――――
―――
398 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/10/30(金) 16:25:20.15 ID:K/bR7wz90
タ級の砲撃がなされたと同時に朝潮は指揮作戦艇を離れ荒潮へ向けて走り出していた。
正面からは殺意の塊が迫っている。
提督は朝潮を止めなかった。
一寸一秒も無駄にできないのは朝潮だけではない。
圧倒的優位にある敵から、どう損耗せずに撤退するか。
次の戦いは始まり、艦隊の命運は提督の采配にかかっていた。
指揮作戦艇に付いた拡声器で艦隊をまくしたてる。
提督 「羽黒は全速前進して一時旗艦となって指揮作戦艇に付け」
提督 「ビスマルク・プリンツは砲撃と合わせて雷撃をばらまいて敵を近づけさせるな」
提督 「同時に砲弾を撃ち切って体を少しでも軽くして指揮作戦艇へ後退を始めろ!」
提督 「加賀ァ!!!」
加賀は弦の切れた弓を支えに海面に何とか立っていた。
大破の影響で今も肩で息をしている。
提督 「ビスマルク!命令を追加だ、隙を見て加賀を拾え!!!」
了解の合図に手を挙げるビスマルクのすぐ横を、タ級の砲弾が通過する。
飛翔する敵砲弾をビスマルクは自身の防御壁で弾こうとも防ごうこともしない。
それが荒潮への優しさだとビスマルクは思っていた。
風圧で飛びそうになった帽子を目深に押さえビスマルクは手で十字を切った。
朝潮は走っていた。
走っても間に合わないのは明確だった。
砲弾が荒潮に接近するほど不思議に朝潮の集中は増し時が遅くなるように感じた。
朝潮 (荒潮の死を遠ざけるため?)
走る朝潮の目から涙がこぼれた。
にじむ視界の中で砲弾は荒潮に着弾した。
朝潮 「荒潮!!!!!!!」
―――――
―――
399 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/10/30(金) 16:28:31.91 ID:K/bR7wz90
砲弾は防御壁を貫き四つん這いで伏せる荒潮の背部艤装に直撃。
聞きなれた重い着弾音とほぼ同時に、
命中した荒潮の艤装はアルミ缶を一瞬で潰したような甲高い金属音の悲鳴を発して歪んだ。
次の瞬間、砲弾が炸裂し光と衝撃を放つ。
朝潮は反射的に両手をかざし耐ショック姿勢をとり目をきつく閉じた。
閉じた視界が真っ白に焼き付く。
衝撃波で朝潮の体はほぼ水平に数メートルずれた。
飛びそうになる意識を衝撃波につづいて巻き起こった熱風が引き戻す。
かざした両腕の艤装が甲高く連続して鳴り、
朝潮の皮膚がやすりをかけられたように熱く痛む。
四散した艤装の鉄片が衝撃波に混ざり凶悪に吹き荒んでいた。
爆音でほぼ失われた聴覚に機関銃弾が掠めたような音がする。
暴風の弱まりにかざした両手の隙間から着弾地点を伺う。
砲弾の衝撃で海面が異様に大きくおわん状にへこんでおり、荒潮は見えなかった。
朝潮 (荒潮はどこ・・・
爆発に押し付けられ圧縮していた海面が元にもどろうと膨張を開始していた。
朝潮は耐ショック姿勢をとり、その目は再び闇を迎える。
水柱が空中を駆け上る。
同時に質量を持った水の塊が横なぶりに朝潮を襲った。
つむった目、爆発で一時的に失っている聴力でも、違和感はしていた。
肌を伝う海水の温度や粘度。
どれもいつも浴びる海水のものと違った。
朝潮は色も音もない静止した世界から、固く閉じた瞼を開き外界を見た。
腕、いや全身が、視界が全て真っ赤に染まっていた。
―――――
―――
400 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/10/30(金) 16:30:28.58 ID:K/bR7wz90
朝潮にとってコマ送りのように起こった一連の出来事は、
艦隊の他の人間からは一瞬に起きた出来事に過ぎなかった。
羽黒 「ひっ・・・」
既に旗艦代理として指揮作戦艇に付いていた羽黒が悲鳴を小さく上げる。
しかし、それ以上の悲鳴を飲み込み羽黒は震えながら砲を再び構え直した。
荒潮を喪った悲しさより、死に対する恐怖が勝っていた。
その恐怖が羽黒を素早く現実に引き戻した。
悲しむ暇などない戦場だった。
頭上では我が物顔で敵艦載機が飛び交い、殺気を含んだ重圧を振りまいている。
提督 (いつでも殺せるとでも言いたいのか)
提督 (いや・・・なら、何故攻撃を始めない?)
羽黒 「ど、どうしました?」
提督 「敵艦載機・・・」
羽黒 「え!?敵艦載機が来てますか?!」ビクビク
提督 (気のせいか?)
赤い水柱がその形を崩そうとしていた。
―――――
―――
401 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/10/30(金) 16:32:45.72 ID:K/bR7wz90
海水と混ざり生臭く生暖かい粘度を持った赤い液体が体にまとわりつく。
朝潮の顔や体に粘り付き酸鼻な臭いが鼻の奥の奥を刺激する。
朝潮は突きつけられた現実に押し潰されるように、
両膝から四つん這いになるように海面に崩れ落ちた。
朝潮 (荒潮が死んだ・・・)
支えにした両手からは気味の悪い感触が返ってきていた。
手の周り、目の前の海面はじんわりと赤く染まり、
爆発に押し付けられ沈んでいた艤装の破片と肉片が浮いてきていた。
手のひらに温度の残る肉片が触る。
吐き気がした。
朝潮 「・は・・・あ・・」
髪が付いた皮膚、腕、どこかの内臓のような奇怪な肉片、
白い骨が覗く大きな肉、紐状の筋張った肉片、艤装の破片、肉片肉片肉片、、、
凄惨な光景に現実感を失ったまま、朝潮はそれらが浮沈し漂うのを眺めていた。
目の前で高く聳え立つ水柱が崩壊を始め生暖かい赤い雨が降り注いだ。
艤装や肉片交じりのそれはべちゃべちゃと不快な音をたてて落下し、更に朝潮を赤く染めた。
朝潮 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
朝潮は四つん這いから上体を起こし虚空へ叫ぶ。
どうにかなりそうだった。
上空へ避難していたウミネコたちが鳴きながら海上に漂う肉片めがけて一斉に舞い降りてきていた。
402 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/10/30(金) 16:36:49.59 ID:K/bR7wz90
羽黒 「・・・うぷ、おぇぇぇぇ」
提督 「・・・」
提督は吐く羽黒に何も言わないで上空を眺めていた。
提督 「やはり・・・敵の艦載機が撤退を始めている・・・」
ヲ級は、艦娘達に警戒もせず艦載機の収納を始めていた。
提督 「全艦に通達、攻撃を止めさせろ」
羽黒 「え?」
提督 「敵が見逃してくれるそうだ・・・攻撃を止めて撤退させろ」
羽黒 「はっはい」
提督 「敵が心変わりせんとも限らん、警戒は解かせるな」
羽黒 「はい」
じきに、悔しそうなビスマルク、焦った表情のプリンツ、暗い表情の加賀、
三者三様の表情で指揮作戦挺に足早に集まってくる。
指揮作戦艇への集合は、撤退の完了と同義であった。
高速で移動可能な指揮作戦艇上で、
集まった艦娘が協力して防御壁を張ることで、
深海棲艦から安全に逃げることができた。
403 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/10/30(金) 16:39:34.07 ID:K/bR7wz90
提督 「朝潮は何をしている」
ビス 「まだ震えているわ」
提督 「・・・呼び続けろ、長くいれば相手の気が変わらんとも限らん」
ビスマルクが提督に詰め寄る。
ビス 「仲間を殺されて何もしないどころか敵に情けを受けるなんて、恥を知りなさい」
提督 「情けで逃されたと思っているのか?」
提督 「そういう判断しかできないからお前は・・・」
ビス 「なんですって?!」
提督 「瀕死の獣ほど危ないものはない」
提督 「石橋を叩いて渡る慎重な敵だ」
提督 「これ以上追撃する危険が成果に見合わないと冷静に判断した、それだけだ」
提督 「それもわからないから、敵に砲撃を当てられないし、命令違反したことにも気付かない」
ビス 「はぁ!?」
プリ 「姉様!!」
提督 「その様子だとプリンツは気付いていたようだな」
提督 「今日の旗艦は朝潮だ、加賀の命令を何で聞いた?」
提督 「命令違反で更迭されたくないなら今日は視界に入るな、屑が」
ビス 「・・・」ギリ
プリ 「姉様、命令違反は最悪反乱罪として死刑にもなりますから・・・」
ビス 「提督!!精々加賀と一緒にいるようにすることね・・・死にたくないのならね」
提督 「止めてくれ、貴様ごときに忠告をもらうと惨めになる」フフ
ビス 「なんですってぇ・・・」イラ
プリンツがビスマルクの艤装を引っ張って、提督から遠ざけようとする。
朝潮は一人呆けたようにその場で座り込んでいた。
―――――
―――
404 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/10/30(金) 16:43:35.87 ID:K/bR7wz90
羽黒 「撤退してくださいー」
羽黒の艤装無線が朝潮の脳内に響く。
荒潮の轟沈でざわついていた海面は、いつもの脈動を取り戻していた。
朝潮などお構いなしに高い波と風が吹き付ける。
海面の漂流物や朝潮の小さい体を伝っていた血は、殆ど消えていた。
半身を開いて正座するような姿勢の朝潮の周りで、
僅かに残ったものをウミネコ同士が取り合いギャアギャアやかましい。
朝潮 (救えなかった)
今日の夢が、これまで失くしたものたちがよぎる。
朝潮 (今度からあの夢に荒潮も・・・)
変な笑いが出た。
荒潮との楽しい思い出がぐるぐるとまわり、
続いて荒潮と一緒にいたらこれから起こったであろう楽しい日常が浮かぶ。
荒潮と楽しく普通の日常を過ごし荒潮の結婚式に参加して子供を見せてもらって、
空想の中でいくら時間がたっても荒潮は今死んだ姿のままであった。
矛盾と悲しみで脳裏の景色が歪んだ時、
失くすのに慣れている積もりだった朝潮の頬を再び涙が伝う。
朝潮 (荒潮、荒潮を守ろうと思った、だから提督と・・・)
朝潮 (なんで・・・なんでなんでなんで・・・)
405 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/10/30(金) 16:44:52.29 ID:K/bR7wz90
悲しみで萎縮した感情が変質し膨張し始めていた。
心臓に針で縫われるような鈍痛を感じる。
あの夜、提督に感じたような怒りが、怨みが、
心臓を叩き溶岩のように熱い血液を体中へ送り出していた。
朝潮 (深海棲艦の攻撃を、恐怖を、精一杯耐えていた荒潮を・・・)
朝潮 (いたぶって、おもちゃのように弄んで、恐怖させて、轟沈させた)
朝潮 (タ級!!!!)
これまで朝潮は奪われてきた。母を姉を自身の貞潔を、そして今は荒潮を。
片時も忘れたことはない。
その時の情景が夜ごと朝潮を苦しめ、
心の傷は時間が経っても膿むばかりで治らなかった。
奪われたことも、奪う人間も許せなかった。
誰にもこんな思いをさせたくない。
子供ごころに純真で凶暴な正義感を抱いていた少女は艦娘になり力を手に入れていた。
朝潮 (許さない・・・)
406 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/10/30(金) 16:46:27.84 ID:K/bR7wz90
この時、タ級の砲弾にあてられていた朝潮を不思議な感覚が襲っていた。
海面に座り虚空の一点しか眺めていない筈の朝潮に、
タ級やヲ級、果てはヲ級の艦載機の位置や動きまでが、
戦闘海域を俯瞰しているかのようにわかった。
その感覚の正確さは、虚空の一点を眺めていた視線を流すことで確認できた。
ヲ級艦載機の動向を読んだ時のように、
それぞれの深海棲艦が発する波長を今の朝潮は感じていた。
朝潮 (加賀にはこれが見えていたの?・・・)
初めての知覚は、高揚感を与えることなく朝潮を冷静にさせた。
日本刀が火と水で鍛えるように、
朝潮は復讐に燃える心を感覚で鍛え研ぎ澄ましていた。
タ級の薄ら笑いと息の根を止めろと朝潮の全細胞が叫んでいた。
ふつふつと煮えたぎる感情を、抑えこみ敵をどう殺すか考える。
朝潮から貞潔を奪った提督は、朝潮に狡猾さを。
朝潮から復讐の機会を奪った加賀は、この新知覚の利用法を。
それぞれ朝潮に与えてくれていた。
407 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/10/30(金) 16:47:47.89 ID:K/bR7wz90
朝潮 (私の体は殆ど無傷、対する敵も小破前後)
朝潮 (有効な攻撃を加えられそうなのは、具現化できる対潜装備の爆雷・・・)
朝潮 (敵には私が加賀のような知覚を使って動けることは知られていない)
朝潮 (けど、加賀の避けられない攻撃を私が爆雷を抱えて避けて接近?・・・無理か)
朝潮 (この知覚を中途半端に発揮するなら、隠した方が・・・)
朝潮 (もっと、もっと敵が嫌がり苦しむような物理精神両面の死角を突くような)
考えこむ朝潮の足を何かが撫でる。
見ると具現化が剥がれ墜落した加賀の矢の一つが波に乗って朝潮の足に当たったようで、
何食わぬ顔で正面プロペラをくるくるさせながら波間を揺れていた。
お腹には可愛い魚雷が付いている。
朝潮 (艦攻の矢・・・)
朝潮の思案顔が一瞬緩む。
それを周囲に気付かれないように、矢をゆっくりと水面下に押し付けると折って沈めた。
悪意を撒き散らす提督のような歪んだ笑顔を、朝潮は心の中で存分にしていた。
朝潮 (表情のある深海棲艦で良かった)
空中を飛ぶヲ級の艦載機はあと僅かとなっていた。
―――――
―――
408 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/10/30(金) 16:50:16.67 ID:K/bR7wz90
ヲ級の艦攻が、
下手な動きをすれば殺すとでも言うかのように、
飛行音を指揮作戦艇の上空で撒き散らしていた。
提督 「朝潮に意識はあるのか?」
加賀 「少し動いているからあるんでしょう」
提督 「羽黒、確かに艤装無線は通じているな?」
羽黒 「はぃ・・・」
加賀 「私にも羽黒の艤装無線は聞こえているし間違いないわ」ゲホ
提督 「なら何故指揮作戦艇に戻らない?」
提督たちの注目が朝潮に集まっている時、
座っていた朝潮がおもむろに前かがみになると思いっきり水面を両手で叩いた。
提督 「あぁ?!」
小さい波が起こり、驚いた周囲のウミネコが風に流されながら慌ただしく一斉に飛び立つ。
ぎゃあぎゃあと羽を散らしながらウミネコが飛び立つ中で、
朝潮は糸に吊られるかのように肩からうつむきがちのまま立ち上がる。
立って顔を上げると同時に朝潮は右手の砲艤装を左腕で支え、
タ級とヲ級に狙いをつけて砲艤装を乱射し始めた。
409 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/10/30(金) 16:54:08.97 ID:K/bR7wz90
戦艦や重巡より連射の効く小口径砲が、
これまでの騒音に比べればおもちゃのような軽い発射音を鳴らしている。
提督 「はぁ!!?」
提督 「狂ったか?」
加賀 「何であんなこと・・・」
羽黒 「ひぃぃ、どうしますかぁ?司令官」
海域の敵味方が呆気にとらわれていた。
匕首を喉元に突きつけられている指揮作戦艇の面々は、
戦々恐々としつつも何もせず見守る他なかった。
提督 「浮足立つな、このままの距離で様子を見る」
提督 「変に動いて敵を刺激するな」
提督 (朝潮を置いて逃げるのならいつでもできる)
提督 「このまま上空の敵艦載機から目を離さず警戒を保て」
羽黒 「わ・・・わかりましたぁ」
飛び立ちかけたウミネコが大混乱を起こし、
押し合い圧し合い数匹が朝潮の射線に入り赤い花を咲かせた。
朝潮は構わず指揮作戦艇に背中を向けたまま、
その場を動かず反動に上半身だけ揺らしながら滅茶苦茶に連射し続ける。
提督 「タ級とヲ級に動きは?!」
加賀 「ないわ」
加賀 「タ級はこちらを向いたまま」
410 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/10/30(金) 16:55:27.82 ID:K/bR7wz90
朝潮の右腕砲艤装は12.7連装砲。
お世辞にも強いと言えるような武装ではない。
艦娘本来の具現化を伴った攻撃は、
砲艤装と具現化砲の砲撃のタイミングを合わせ
艤装の砲弾を具現化した砲弾の寄り代とすることで行われる。
しかし、その本来の攻撃を12.7連装砲が行えたとしても、
戦艦や正規空母にかすり傷さえ負わせられる能力はなかった。
ウミネコをミンチにできても、それだけだ。
実際、乱射されてばらまかれた砲弾の内、
辛うじて当たった数発もタ級の防御壁に弾かれて乱れ飛ぶだけだ。
そもそも、集中を欠き一発ごとの砲弾に威力はなく、
反動を抑えられないような連射で精度さえ失っていた。
武器に関わらず、脅威となる攻撃と思えなかった。
411 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/10/30(金) 16:59:49.14 ID:K/bR7wz90
自然、タ級とヲ級がそれを気にすることなどない。
ヲ級は、朝潮の砲撃を一切意に介さず、そのまま撤退の用意を進めていた。
タ級は、元いる位置を動かず、指揮作戦艇に向いたまま、朝潮を一瞥もしない。
たまに当たる砲弾がタ級の防御壁に弾かれる度に弱々しい音を発する以外、静かなものだった。
提督 「相手にさえされてないな」
提督 「ビスマルク!朝潮を回収する準備をしろ」
ビス 「ふん・・・」
提督 「しかし・・・何の積もりだ」
提督 「今のあいつに何ができる」
指揮作戦艇からは、一言も発せず表情も見ることができない朝潮は不気味の一言に尽きた。
そして、その不気味の感は、艦娘側より深海棲艦側の方が強かった。
強力な敵として相対していた艦娘側からの、
突然の非力で意味のない挑発的攻撃に深海棲艦の二人は少なからず動揺していた。
タ級とヲ級はそれをおくびにも出さず、
朝潮を無視し指揮作戦艇を向き睨んでいた。
提督 「朝潮の攻撃を扇動や囮と決めつけたようだな、隙がない」
提督 「羽黒、手でも振るか?」
羽黒 「結構です!!」
提督 「・・・朝潮の砲で敵を粉砕することは可能か?加賀」
加賀は普通に話せる程度には回復していた。
しかし、制服と艤装の破損は直らない。
戦闘に再度参加するのは難しい。
加賀 「無理です」
加賀 「そもそもかすり傷さえ付けられないでしょう」
加賀 「防御壁でも一番外側の強度が低い部分はビスマルクたちが既に砲撃で破壊しています」
加賀 「朝潮がいくら撃っても、残った堅牢な防御壁に阻まれて弾かれるだけです」
提督 「死にたいだけか」
加賀 「それは・・・」
412 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/10/30(金) 17:02:28.24 ID:K/bR7wz90
悩む提督の横で加賀には思い当たる節があった。
提督に伝えていないあの夜、朝潮は感情のまま暴走していた。
加賀 「提と・・・
プリ 「提督ぅ、朝潮は左腕の魚雷艤装は破損してました?」
提督 「いや、破損してない筈だ」
提督 「海面を叩く時に見えた限り目立った破損はなかった」
提督 「荒潮へタ級の砲弾が着弾した時、防御に使っていたから内部は壊れてるかもしれんがな」
プリ 「ん〜???」
ビス 「どうしたの?プリンツ」
プリ 「いえ、立ち上がる時にちらりと見えた左腕の魚雷艤装が壊れていたような」
羽黒 「あ、私もそう見えました、壊れて魚雷が全部なくなってたました」
提督 「そういうこと・・・か」
提督 「しかし、それでタ級が殺れるか」ブツブツ
プリ 「どういうことです??」
提督 「・・・それはな」
加賀だけが、提督が察したことを解していた。
加賀 (それでも足りない・・・あの夜の狂気にはまだ)
朝潮の狂気に触れた加賀だけが、あの夜より静かな朝潮に違和感を覚えていた。
提督 「というわけだ」
ビス 「ふん、私はわかっていたわ」
プリ 「さすがお姉様!!」
提督 「・・・」
朝潮は指揮作戦艇に背中を向けたまま、無意味な連射を続けていた。
―――――
―――
413 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/10/30(金) 17:04:50.36 ID:K/bR7wz90
朝潮 (くそっ、こんなに・・・)
指揮作戦艇から見えない左腕の魚雷艤装の破損は、朝潮の肉をもえぐっていた。
削れて覗く肉から血が流れる。
これは誤算だった。
朝潮は提督の想像通り左腕の魚雷艤装から魚雷を放っていた。
深海棲艦に気付かれないように細心の注意を払い、
砲艤装乱射の寸前、海面を叩いた時に、水面下で。
魚雷は普通ならば投射機から炸薬で押し出され、
着水してからは自身の推進力で目標まで進む。
この炸薬が問題だった。
水中は空中より衝撃が伝わる。
有名な言葉通り、魚雷を押し出す炸薬の爆発は、
通常より強い衝撃を投射機に伝え、投射機は耐えられず破裂した。
朝潮 (魚雷が誘爆しなかったからいい・・・けど)
タ級は、艦載機を収納するヲ級を朝潮から庇う位置から動かず、
相変わらず、朝潮でなく指揮作戦艇を向いて警戒していた。
414 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/10/30(金) 17:06:20.36 ID:K/bR7wz90
朝潮 (荒潮の血が付いていると錯覚してくれることを祈るしか・・・)
朝潮 (それでも、この血の量・・・いや、タ級ならいずれ気付く)
確信に近かった。
朝潮 (どうする・・・何か・・・)
朝潮は、弾けた左腕の痛みをこらえ、苦しい表情を押し隠す。
朝潮 (荒潮はもっと痛かったはず)
タ級の気を海面から散らせるために、タ級の防御壁でも上部を狙って乱射する。
砲撃の反動を制御する余裕がないという演技でもあった。
朝潮 (あと少し、あと少しで)
高い波がただでさえ見分け難い四本の酸素魚雷の雷跡を隠した。
その時、朝潮から漏れた殺気を感知したかのように、タ級の視線がぎょろりと朝潮をとらえた。
動揺した朝潮の演技が崩れ一瞬乱射を止めてしまう。
朝潮 「うっ・・・」
朝潮 (気付かれた!?)
タ級は、この狂ったように攻撃をしてくる小さい者が、
宿敵とする自身の視線に歓喜せず焦りを見せた様子にすぐ何かを察した。
タ級は膝をつき、その手を海面に当てた。
415 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/10/30(金) 17:09:18.14 ID:K/bR7wz90
提督 「海中の音速は空中の4倍。ばれたな」
羽黒 「司令官さん。どちらにしても魚雷が当たったとして倒せるんですか?」
提督 「お前らの方がわかってるだろ?」
プリ 「最大限同調を高めて集中して撃ったら、手傷くらいは」
提督 「その程度だろうな」
羽黒 「それだけ・・・なんですかね?」
提督 「?」
タ級はすぐ体を上げると、ヲ級に何か指示を出す。
タ級は体がやっと朝潮を向いた。しかし、その位置を動くことはない。
ヲ級は、朝潮に対してよりタ級の影に入るように、少し動く。ただ、それだけだった。
朝潮は諦めたように乱射を止め、赤く爛れた砲身を海中に突き刺した。
海水が泡を吹きながら蒸発する。
プリ 「何で敵は魚雷がくるのをわかっているようなのに動かないんでしょう??」
提督 「今日は波も海流も強くて魚雷がよく曲がる」
提督 「変に動くと、元々いた位置を狙った魚雷が曲がって、タ級の後ろのヲ級に当たる可能性もあるからな」
提督 「元いた位置から動かないのが安全を考えれば正解だ」
提督 「大したダメージにもならないとは言え、今のヲ級は艦載機を殆ど収納して火薬庫に近いからな」
プリ 「ほぇー」
提督 「ビスマルク、朝潮を拾いに行け。遊びは終わりだ」
416 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/10/30(金) 17:14:42.75 ID:K/bR7wz90
朝潮の乱射も終わり、全員の視線が海面に向いていた。
波に隠れて見えない魚雷はどこまで進んだのか。
いくら良く見ても、海面には艦載機の飛行音と波の音だけがこだまし、何の動きもない。
タ級が身構えると、それを待っていたかのように爆発音と伴に水柱が上がる。
水柱はタ級を綺麗に挟むような位置で四本、
非具現化の魚雷としてはできすぎな位に高く上がった。
タ級はその時、水柱と水柱の間に朝潮のまだ死んでない瞳を捉えていた。
朝潮は、静かに海中に刺した砲身を引き抜き。
また宙空へ乱射し始める、ように見えた。
またかという弛緩した空気が戦場を支配していた中で、
タ級だけが緊張を取り戻し、身構えた姿勢を解かない。
朝潮は皆が想像するより、ゆっくりと構えると呼吸を整えて数発速射した。
海上に響いた朝潮の砲撃音は相変わらず悲しいほど軽い。
その音に異音が混ざった。
ガン
聞き覚えのある音だった。
海面を見ていた全員が朝潮の砲撃した先を見る。
深海棲艦の操っていた艦攻が制御を失い、
火を吹きながら上空からタ級とヲ級に向けて墜落していた。
―――――
―――
417 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/10/30(金) 17:18:45.41 ID:K/bR7wz90
朝潮 (やった・・・)
朝潮は全身が泡立つのを感じる。
朝潮 (死ね・・・焼かれて死ね)
深海棲艦の艦攻は、錐揉みして燃料を撒き散らしながら墜落。
タ級の防御壁にぶち当たり、戦闘開始に見た強烈な爆発をタ級の至近で起こしていた。
タ級とヲ級の周囲海面が、火と黒煙にあっという間に包まれる。
見えない黒煙の先で、爆発が勃勃と起こり黒煙がもこもこと生き物のように形を変えながら立ち上った。
砲艤装の乱射、乱射した砲弾の跳弾、魚雷、魚雷の水柱、全て朝潮の計算尽くだった。
ヲ級が、こちらへの警戒のため、いつでも殺せるという示威のため、
艦攻数機を指揮作戦艇上空に最後まで待機させていたのは、手に入れた知覚で掴んでいた。
残り少なくなった艦攻たちの限られたヲ級への着艦侵入ルートを、
乱射と跳弾で誘導し、それに気付かれぬよう魚雷で海面へ注目させる。
最後に魚雷の水柱で侵入ルートを更に追い込み、そこを砲艤装で狙い撃った。
四方八方から加賀を攻撃した艦載機を狙うより、
方向の限られる着艦しようとする艦載機を狙う方が遥かに容易だった。
波長に対する知覚が研ぎ澄まされたのも、狙い撃ちするのを助けた。
朝潮には数秒先の艦載機の動きを読むことができていた。
火と黒煙に包まれる寸前、最後に見えたタ級の表情は笑っていたようにも見えた。
黒煙の中から遠ざかるタ級とヲ級の波長を感じる。
朝潮 (けど、無事じゃいられない)
朝潮は確かに手応えを感じていた。
敵へのダメージでなく、自分の才気と知覚に。
朝潮 (荒潮・・・)
天高く濛々と湧き上がる黒煙を見上げながら、朝潮は荒潮にさよならを言う。
そして、もう目の前で仲間を失わないことを強く誓った。
―――――
―――
418 :
◆oUFoaE/FvU
[saga sage]:2015/10/30(金) 17:23:12.65 ID:K/bR7wz90
本日更新分終了です
ご読了ありがとうございました。
期間が空いたことをお詫びします。
夏イベを全甲クリアしたり、厄年的なことも続き、公私多忙に付き遅れました。
何か、ご質問ご指摘ありましたら、お願い申し上げます。
物語の先に触れないものなら何でもお答えします。
419 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/10/30(金) 17:23:37.84 ID:wzPgVTpBo
乙
420 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/10/30(金) 17:32:40.12 ID:jj/p5Y9hO
おつおつ
421 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/10/30(金) 18:07:03.42 ID:NWXXmqQ/O
乙
422 :
◆oUFoaE/FvU
[saga sage]:2015/10/30(金) 20:34:19.57 ID:K/bR7wz90
>>382-385
様
>>419-421
様
乙お米ありがとうございます。
>>386-388
様
>>395
様
保守ありがとうございます。
>>392-394
様
ご期待ありがとうございます。
まとめての返信で恐縮です。
恐らく残り半分となります。
最後までおつきいただければ恐悦至極でございます。
423 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/10/30(金) 20:46:24.88 ID:hWczQL37O
これからも頑張ってください
424 :
◆oUFoaE/FvU
[saga sage]:2015/10/31(土) 12:01:10.42 ID:1MB6/tqq0
>>423
様
激励ありがとうございます。
皆様のお米を糧に書いています。
書きたいだけなら便所紙の裏に書けばいいですからね。
お米はホントにありがたいものです。
425 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2015/10/31(土) 20:50:05.33 ID:X22/TmiN0
待ってた
426 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/10/31(土) 20:51:52.64 ID:ggZm1I84O
sageろや
427 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/10/31(土) 22:44:45.06 ID:Z7QuIFfB0
とりあえず「制裁」の意味がしりたい
それまではエタるな
428 :
◆oUFoaE/FvU
[saga sage]:2015/11/01(日) 02:23:38.41 ID:i+/MuE610
>>425
様
お米ありがとうございます。
期間が空いたことで慌てて、私も色々文中に思い残すことがあったりします。
ここで書いた後、渋かどこかに加筆修正したものを載せたいと思うことがあります。
私のレベルで書いて許されるところがありましたら、どなたか教えてもらえれば幸いです。
これだけは言いたいのですが、
訂正したいと言っても結果的に思い残すことがあっただけで、
ここのものに手を抜く気はないのでご安心ください。
>>427
様
お米ありがとうございます。
一番最初に投下した付近の見通しとして、
私自身の米で「二週間で書き切ります」と書いておきながら、
もう一年を迎えてしまいそうになっている現状を改めてお詫び申し上げます。
これまでも申し上げている単純な遅筆に加え、
書いてる途中で加えたいこともできたりで、時間がかかってしまっています。
429 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/01(日) 02:45:53.53 ID:n/ZLRekyO
このレベルなら渋でもハーメルンでもアルカディアでも何処だって通用するんじゃないの?
どれだけ長引いてもいいからきちんと満足行くものを書き上げてくださいな
430 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/01(日) 03:24:27.79 ID:vy+DlSlKo
乙です
こういう頭脳プレイは幾らご都合主義だとしても、展開がアツくて勢いで読みきれるからいいよね
ゾクゾクする感じを味わえて良かった
431 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/02(月) 00:51:16.01 ID:yRBoj9Wso
おっつがんばがんば
432 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/19(木) 02:32:25.23 ID:hL0kvdLBO
保守
433 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/11/27(金) 10:50:24.37 ID:NF6s1ni2O
ほ
434 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/12/01(火) 23:51:49.26 ID:s4UWjFCfO
ほ
435 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/12/15(火) 00:06:56.96 ID:IpZIwdkyO
保守
436 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/12/28(月) 08:09:10.98 ID:D6mxgQmwO
ほ
437 :
以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします
[sage]:2016/01/01(金) 16:54:10.08 ID:d0ZFDLHmO
ほ
438 :
◆oUFoaE/FvU
[sage]:2016/01/13(水) 01:47:13.46 ID:JeEYbqIA0
保守とお米ありがとうございます。
近く投下できると思うものの二ヶ月過ぎていたので生存報告です。
>>429
様
お褒めに預かり光栄です。書き終わったら始めようと思います。
>>430
様
ある程度地の文多めで書いた文章を、
読みやすさと戦闘のテンポを考えて削りまくるという作り方をしました。
そのため、削りすぎてしまい意味不明にならないかと不安なところがありました。
そこに問題なく戦闘の熱さを感じて頂けたなら感謝の極みです。
439 :
以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします
[sage]:2016/01/14(木) 09:34:43.78 ID:yUts5BwiO
生きてたか良かった良かった
次の投下も期待してる
440 :
以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします
[sage]:2016/01/14(木) 20:57:16.93 ID:tQUbnfCeO
待ってた
441 :
以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします
[sage]:2016/01/19(火) 00:07:59.34 ID:SmYOu5MGO
まだか
442 :
以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします
[sage]:2016/01/19(火) 00:32:51.79 ID:nxDXmWZMO
急かすな落ち着け
いつまでも待ってるぞ
443 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/01/26(火) 20:28:29.51 ID:KjeDtbduO
ほ
444 :
◆oUFoaE/FvU
[sage]:2016/02/20(土) 02:46:20.58 ID:G6MEXvOk0
保守お米ありがとうございます
投下再開します
445 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 02:49:23.24 ID:G6MEXvOk0
〜指揮作戦艇内作戦室〜
指揮作戦艇は一人減った艦娘たちと提督を乗せて鎮守府へ走る。
帰途、甲板に集められた彼女たちを船内の一室に一人ずつ提督が呼び出した。
それぞれの艦娘が話した内容は朝潮にはわからない。
朝潮が呼ばれたのは一番最後だった。
短い階段を降り向かう窓のない船内の一室。
光源は電子機器の棘々とした明かりのみで薄暗い。
暖気された生ぬるい空気が中破で風通りの良くなった制服から染み入る。
繰り返すエンジン音と揺れが暗い室内と相まって朝潮を何かの体内にいるような気分にさせた。
作戦の説明用に海図を映し出すモニターがはめ込まれた机を挟んで提督と対面する。
朝潮と提督が話したのは、最終戦の内容・荒潮の損傷度、そして・・・。
提督 「最終戦闘での命令違反・・・二回」
提督 「荒潮轟沈前の暴走未遂、轟沈後の単独攻撃」
提督 「・・・どういう処罰が下るかわかっているな」
朝潮 「反乱予備罪で死刑もしくはそれに準ずる重刑、ですか」
提督 「知っていてやるか?普通」ハァ
朝潮 「申し訳ありません」
提督 「・・・なんでそうなっているかわかるか?」
朝潮 「艦娘は鎮守府と提督の厳格な統制下に置かれなければならない」
朝潮 「この軍規を破ったからですか」
提督 「40点だ、まぬけ」
446 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 02:51:16.56 ID:G6MEXvOk0
提督 「一から教えてやる」
提督 「お前は艦娘が人間の瞳にどう映るか、考えたことがあるか?」
朝潮 「人間にですか?」
朝潮 「・・・深海棲艦に有効打を与え得る唯一の戦力にして人類の希望ですか」
提督 「訓練学校ではそうやって煽てられたか?」クク
提督 「現実を見ろ」
提督 「艤装という装備を持つだけで人のサイズで深海棲艦並の戦闘力」
提督 「その力の根源である艤装自体にはまだ謎が多い」
提督 「人間ってものは強力なものに畏怖し、わからないものには不安になるものだ」
朝潮 「艦娘を・・・恐れているとでも言うのですか」
提督 「そうだ」
提督 「人間と艦娘を分かつものは力だ」
提督 「そして、力を持たないということは、力を持つものに屈するしかないということだ」
提督 「深海棲艦に蹂躙され放題だった苦い経験を持つ今の人間なら誰でも知ってる」
提督 「お前も力に屈し、過去に姉、今日は荒潮の命を奪われた」
提督 「違うか?」
朝潮 「それは間違いありません、しかし
提督 「あの災厄を経験した人間は誰しもパワーバランスに敏感だ」
提督 「艦娘が反乱を起こしたら、艤装が暴走し深海棲艦化したら・・・」
朝潮 「馬鹿げてる・・・」
提督 「人間は日々お前ら艦娘の攻撃の矛先が自身に向かないか怯えている」
朝潮 「私達は、艦娘は、人間が安全に暮らせるよう深海棲艦から命懸けで守っています」
朝潮 「それなのに・・・そんなこと!!」
447 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 02:53:46.10 ID:G6MEXvOk0
提督 「何度も言わせるな」
提督 「お前の内心がどうかは関係ない、今は現実的にどう見えるかの話をしている」
提督 「まだわからないようだから、わかりやすく言ってやろうか」
提督 「人間が核爆弾や兵器を愛し感謝すると思うのか?」
朝潮 「それは・・・」
提督 「そんな危ないもん、できるだけ手にしたくないのが心情ってもんだ」
朝潮 「艦娘を兵器だと仰るのですか?」
提督 「同じ力の塊だ、何が違う?」
朝潮 「っ・・・」
提督 「ここまで聞いて、艦娘の編成権・作戦指揮権が全て提督のものである理由がわかるか?」
朝潮 「艦娘を・・・縛るためですか」
提督 「わかってきたようだな」
提督 「提督は人間側の代表として、艦娘を束ね監視し従える」
提督 「だから提督の意思に沿わない艦娘には、人間への反逆として重刑が課されるわけだ」
提督 「それが今の人と艦娘の関係だ、朝潮型一番艦朝潮」
提督 「お前らはもう人間ではない、強力な兵器の一つだ」
提督 「意思に反して動く積もりなら、処理するしかない」
提督 「そう、不発弾のようにな・・・」
朝潮 「私達だって人間です、そして人間のために戦っています」
提督 「人間が深海棲艦と戦えるか?あほう」
提督 「本当に人間のためと思うならおれに絶対服従しろ」
提督 「おれが進軍しろと言えば進軍しろ、死ねと言えば死ね、命令を下されたら完遂しろ!」
提督が机を思い切り叩く。
448 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 02:58:39.35 ID:G6MEXvOk0
朝潮 「・・・」
提督 「だんまりか、いい度胸だな」
提督 「これからも人間へ安心じゃなく恐怖を振りまく積もりか?、その力で」
提督 「深海棲艦と変わらんなぁお前は」
権力という名の力で、恐怖を振りまいてきたのは誰か。
提督 「これまで言った軍規的建前を抜きにしても、だ」
提督 「戦場において指揮官と兵卒を分けるのは太古の戦争から存在する合理的な仕組みだ」
提督 「その合理性を否定し、タ級の挑発に乗ってお前が暴走しかけてどうなった?」
朝潮 「・・・」
提督 「言えよ、お前が暴走しかけた結果を」
朝潮 「しかし・・・荒潮は」
提督 「日本語がわからないのか?口答えなんて聞いてない」
提督 「結果を言ってやろうか・・・」
提督 「お前が暴走しなければ、制空優勢のまま荒潮を囮に攻撃を続けて勝てたんだ」
提督 「お前が・・・命令無視をして、荒潮を殺し、加賀をも殺しかけた」
朝潮 「しかし!荒潮の同調は!!!」
提督 「昨日大破して時間が経った轟沈前の同調と同じ?」
提督 「そんなの関係あるか」
提督 「この海域はどんな海域だ、言ってみろ」
朝潮 「深海棲艦との戦争の最前線にして、小中破から轟沈する危険海域ですか」
提督 「そうだ」
提督 「轟沈が度々あるこの海域で、轟沈前の乱れた同調?」
提督 「そんなもん掃いて捨てるほど今までもあっただろうよ」
提督 「ごく普通なことだ」
449 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 03:01:15.23 ID:G6MEXvOk0
朝潮 「それは・・・」
提督 「あのまま苦戦に耐え攻撃を続ければ荒潮が生きる目があった」
提督 「制空優勢を落とし確実な敗北へ舵を切ったのはお前だ」
提督 「荒潮を殺したのは朝潮、お前なんだよ」
朝潮 「私が・・・」
提督 「認めろ!!!!!」
提督がその握りこぶしを朝潮の頬に当てつつ横薙ぎに振りぬいた。
朝潮はその場から微動だにしない。
口の中で鉄の味がする。
提督 「おれが許せないのはお前が荒潮を轟沈させたことだけじゃない」
提督 「辛うじて加賀が荒潮救出に行くと言いお前が暴走を思い止まったな?」
提督 「しかし、お前自身が荒潮救出に向かっていればどうなっていたかわかるか!?」
提督 「防御に隙ができた指揮作戦艇を見逃すヲ級とタ級じゃない」
提督 「奴らの攻撃で指揮作戦挺と言う足を潰されれば、撤退できなくなった艦隊全員はどうなった?!」
提督 「荒潮同様・・・いや、それ以上に一人ずつじわじわと嬲り殺しにされただろうよ」
提督 「お前は艦隊全員を殺しかけたんだ」
朝潮 「私が・・・艦隊を・・・」
提督 「これだけのことを起こせば死刑は確定だ」
提督 「奇しくも荒潮の元に行けるわけだ、良かったな」
朝潮 (殺しかけた・・・荒潮を守ろうとして)
450 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 03:02:55.21 ID:G6MEXvOk0
机にはめ込まれたモニターから漏れる青白い光を受けて尚、提督の顔の紅潮がわかる。
朝潮は艇内の揺れを酷く大きく感じ、足が震える。
自分の犯したことの重みに朝潮はふらつく。
朝潮 「艦隊を危険に晒したこと・・・反省しています」
提督 「当たり前だ」
朝潮 「何とか・・・なりませんでしょうか」
提督 「何とかぁ?情状酌量を得られるように嘘の報告でもしろと言うのかッ?!」
朝潮 「すいませんっ・・・」
提督の怒りの声は、朝潮を脊髄反射的に萎縮させた。
その時、朝潮が最終戦で見せた華々しい戦果で付けた自信は元より、
その戦果により提督が懲罰を多少加減してくれるかもしれないという甘い考えは一瞬で溶けてなくなっていた。
朝潮 (なんで、けど、死にたくない・・・)
提督の視線に耐え切れず朝潮は俯く。
すると薄暗く殆ど見えない筈の足元が絞首刑台のように開きそうな錯覚に襲われる。
朝潮 (あのタ級とヲ級、深海棲艦に一矢報いることもなくこのまま陸で・・・死ぬ?)
死ぬこと自体はどうでも良かった。
自身にこれから訪れるであろう刑死が勇敢に戦った荒潮の死を無駄にさせることが虚しかった。
朝潮 「すいません・・・どうにか・・・・」
語尾は自然と震えた。
―――――
―――
451 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 03:06:08.41 ID:G6MEXvOk0
責任に押しつぶされそうな朝潮を見ながら提督が長い息を吐く。
提督 「ふー・・・」
提督 「十分反省しているようだし・・・・今回は許してやる」
朝潮 「は?え?ゆるす?」
頭が付いて行かない朝潮は上げた顔で提督を見る。
提督 「最終戦の行動は全部おれが指示したことにしてやる」
提督 「荒潮救出作戦も、お前の単独攻撃も全てだ」
提督 「これで命令違反はなくなる」
朝潮 「・・・」
提督 「お前が艦隊全員を殺しかけたことは当然おれの胸にしまっておく」
朝潮 「はぁ・・・????」
提督 「つまり・・・だ」
提督 「今日からお前は荒潮の仇討ちにヲ級とタ級を駆逐艦ながら倒した英雄となるわけだ」
提督 「不足はないだろ」
朝潮 「えっと・・・・あっありがとうございます」
朝潮は笑顔で応えていた。
喜びでなく安堵で生み出された卑屈な笑顔の下にはいびつな首輪が付けられていた。
452 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 03:08:42.85 ID:G6MEXvOk0
提督 「後なぁ、タ級とヲ級は撃沈したことにする」
朝潮 「はい?」
提督 「・・・」
朝潮 「既に申し上げました通りっ」
朝潮は自身の知覚を信じ、煙の向こうで撤退しているヲ級とタ級のことは既に報告していた。
朝潮 「私の感覚が正しければヲ級とタ級は撤退しているはずです」
朝潮 「それに
提督 「黙れ」
空気が凍った。
提督 「朝潮」
朝潮 「・・・はい」
提督 「今回は特別に許すと言った」
提督 「初めての轟沈、しかも親友だ、動揺もする」
提督 「だが、次は・・・ない」
提督 「命令違反にも今のような考えなしの口答えにもな」
提督 「もし、そんなことがあれば・・・そうだな」
提督 「お前が命令違反を脅迫してもみ消したと、熨斗を付けて上に報告してやる」
朝潮 「申し訳ありません」
提督の言いたいことが朝潮にはよくわかった。
昨日まで脅す材料だった荒潮の命が朝潮自身の命になっただけだった。
453 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 03:10:24.88 ID:G6MEXvOk0
提督 「・・・お前の代わりはいくらでもいる」
提督 「それなのにお前を救ってやる意味を・・・恩を忘れるな」
提督 「いいな?」
朝潮 「はい・・・」
提督 「話を戻す、おれの決定に問題でもあるか?」
朝潮 「っ・・・ありません」
提督 「遠慮するな、言おうとしたことを言ってみろ」
朝潮 「強力な深海棲艦の生存は・・・」
朝潮 「周知されないと他鎮守府の艦隊や民間船舶が危険ではないかと・・・思っただけです」
提督 「問題ない」
提督 「本出撃の海域は荒潮がそうであるように小中破轟沈がある危険海域だ」
提督 「お前には言ってなかったかも知れんが、当海域に挑むのは我々の鎮守府だけだ」
提督 「よって、我々が内々に処理をして注意をすればいい話だ」
提督 「そうだな?」
朝潮 「・・・はい」
提督 「それにお前も荒潮の最終評価が良い方がいいだろう?」
最終戦闘の内容、突き詰めれば轟沈時の働き如何で、死後の昇進や遺族への保障が変わった。
454 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 03:11:20.10 ID:G6MEXvOk0
朝潮 (荒潮・・・)
荒潮の家族を考えれば迷う余地もなかった。
しかし、朝潮にとって戦果を水増しするという不正行為に未だ抵抗感があった。
提督 「何を迷う」
提督 「既に命令違反の隠蔽と虚偽報告、二つの罪に加担してるだろうが・・・」
提督が急かすようにモニターを指で叩く。
その目は、穴を覗き込むような暗い瞳をしていた。
朝潮 (違う!!私は!!!)
朝潮 「・・・」
提督 「そもそも・・・だ」
提督 「お前の知覚とやらは正確なのか?」
朝潮 「提督も見ていらっしゃいましたよね?」
朝潮 「私は敵の動きを掴んで攻撃ができていました!!!」
朝潮 「私の知覚は・・・正確です」
朝潮 (そう荒潮の時も・・・)
朝潮の語気が荒くなる。
それを気にも留めずに提督は子供をあやすようにゆっくり言葉をつなげる。
455 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 03:12:56.06 ID:G6MEXvOk0
提督 「たまたま運良く予想が当たっただけじゃないのか?」
提督 「一戦だけだぞ?それだけの成功で何でそんなに自信が持てる?」
朝潮 「そ、それは・・・」
提督 「朝潮、戦果の誤認が第二次大戦で日常茶飯事だったのは知ってるか?」
朝潮 「よくあることだから問題ないと仰りたいのですか?」
提督 「違う」
提督 「誤認したのは熟練した兵士が多かったんだ」
提督 「戦場で興奮状態、加えてその作戦で命を落とした仲間もいる」
提督 「歴戦の経験があった彼らが目で耳で直に確認できていても」
提督 「冷静な確認や判断ができなくなる」
提督 「お前は経験がないどころか実際に見たわけでもないのだろう?」
提督 「知覚というあやふやなもので感じただけに過ぎない」
提督 「それなのにヲ級とタ級が撃沈できていないと何で断言できる?」
朝潮 「断言は・・・」
苛立たしさを感じる。
朝潮の新知覚への自信が提督の言葉に溶かされる。
確信や自信を持つには朝潮の経験は浅く、
この新しい知覚のことは朝潮が拠り所とする教科書に書かれていない。
456 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 03:14:13.58 ID:G6MEXvOk0
朝潮 (本当に私はヲ級やタ級を捉えられていたの)
朝潮 (集中力が高まって時間を遅く感じたのは荒潮の死の直前から)
朝潮 (あの時の現実逃避が続いて都合のいい幻影を見続けていただけ?)
既に提督からの圧力で潰されそうな朝潮の自我が、唯一縋っていた知覚への信頼が揺らぐ。
朝潮 (司令官の前だと、私が壊されてゆく)
提督 「お前も火が収まったあの場所に大量に落ちていた深海棲艦の艤装片を見ただろ?」
朝潮 「見ました」
提督 「そういうことだ」
朝潮 「しかし、コアが・・・」
提督 「戦果の確認まで時間を明ければコアが見つからないこともある」
提督 「ヲ級とタ級の撃沈は・・・戦果の虚偽報告ではない、客観的事実だ」
提督 「そうだな?」
朝潮 「・・・はい」
提督 「安心しろ」
提督 「事実はどうあれ、虚偽報告をしてもばれるどころか疑われすらしない」
提督 「命懸けで戦う者を疑うのは卑しい・・・美しい日本の美徳だな」
朝潮 「はい・・・」
提督 「もういい、下がれ」
朝潮 「了解・・・しました」
457 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 03:15:15.63 ID:G6MEXvOk0
ドアノブに手をかける朝潮の背中に提督が更に言葉を投げる。
提督 「待て」
朝潮 「何でしょう?」
提督 「それとな」
提督 「お前が最終戦闘で得たという新しい能力」
提督 「その知覚に付いては許すまで今後一切口に出すな」
提督 「おれが言った通り運がいいだけという可能性も残ってる」
提督 「また何かあれば・・・おれにだけ報告しろ」
朝潮 「はい・・・」
提督 「そうだ、今日からお前は英雄だったな」
提督 「亡き親友の仇、ヲ級とタ級を勇敢に討ち果たした・・・な」
提督 「命令違反がばれたくなければ胸をはれ、辛気臭い顔は止めろ」
朝潮 「・・・はい」
提督 「これも命令だ」
朝潮 「はい・・・失礼します」ガチャ
朝潮は敬礼して退室した。
ドアを閉める音が静かな室内に響く。
458 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 03:18:09.63 ID:G6MEXvOk0
提督 「・・・加賀、どう思った?」
無言で横に立っていた加賀が口を開く。
加賀 「命乞いなんて可愛いところもあるのね」
提督 「・・・違う、朝潮の知覚のことだ」
加賀 「そちらね・・・はっきりとは言えないけれど」
加賀 「以前話した私の能力と同質のものかと」
提督 「そうか、今はそれだけわかればいい」
加賀 「それだけ・・・ですか」
提督 「当然まだ聞きたいことはある・・・が後は鎮守府で聞こう」
加賀 「そうですか」
提督が立ち上がり加賀に目をやると、
損傷で破れ煤けた衣服の隙間から美しい白い肌が全身にちらちらと見える。
提督の手が吸い寄せられるように、加賀のはだけた首元に触れる。
左の肩は、肩紐以外の衣服ははだけ肌が完全に露出していた。
提督 「もう傷は治っているのか?」
首元から左の肩に向けて提督のごつごつした手がなでる。
加賀の白磁のように白くきめ細かい肌は程よい弾力で提督の手を押し返し、
その手を女性らしい丸みを帯びた肩の稜線にそいって首元鎖骨肩先へ氷上にあるかのように滑らせる。
加賀 「えぇ」
加賀 「体の傷だけは・・・殆ど治っています」
加賀 「同調は艤装を直さないとどうにもならないから大破した今、戦闘は無理ね」
提督 「そうか」
459 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 03:19:33.71 ID:G6MEXvOk0
提督がなでたことで袖を絞る肩紐が少しずれ、
そこに白い皮膚に真っ直ぐ薄紅を引いたような跡をのぞかせた。
死にかけた故の生殖本能か、加賀の艶めかしい色気か、
湧き上がる情欲に提督は体の芯に熱を感じていた。
視線を感じた加賀が肩紐を直し、知ってか知らずか提督から離れ部屋の出口に向かう。
加賀 「鎮守府が見える前に口裏合わせが必要でしょう?」
提督 「ふ・・・そうだな」
加賀が開けたドアを出て提督は甲板に上がる。
そこで以下二つの指示が提督から艦隊全員に下された。
・最終戦闘は全て提督の指揮で行われたことにする
・現場海域の漂流物からフラグシップタ級とフラグシップヲ級は撃沈したこととする
敵艦隊全滅で戦闘評価が通常Sのところ、荒潮轟沈による減点でBとなることも告げられた。
―――――
―――
460 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 03:21:39.97 ID:G6MEXvOk0
指揮作戦艇が鎮守府の港に着岸するときには、
鎮守府所属艦娘全員が荒潮の沈没した海域に向けて整列していた。
作戦に参加していた朝潮たち第一艦隊所属の艦娘たちもすぐ列に加わる。
簡単な葬儀が行われた。
提督の弔辞、全員による黙祷が捧げられ、大和の弔砲が澄んだ空を震わせた。
何かぎこちなさを朝潮は感じた。
最後に提督から荒潮の勇敢な死と深海棲艦を許さないとの演説がされた。
場にあった死の悲しみは、朝潮がそうであったように恨みや戦意へと容易に転換したようだった。
ぶつけどころのない悲しみよりそうした方が救われることを鎮守府全員が知っていた。
解散の号令で散っていく艦娘たちをかきわけ朝潮は加賀の元に向かっていた。
朝潮 (私の知覚は本当に正しかったの?)
知っているのは加賀だけだった。
朝潮 (知りたい・・・)
朝潮 「加賀さ
大和 「加賀さん」
朝潮より先に大和が加賀に話しかけていた。
朝潮の声は風音とともに掻き消された。
加賀の肩に大和が背後から手をかける。
461 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 03:23:07.32 ID:G6MEXvOk0
大和 「あなたが付いていながら荒潮が轟沈するとはどういうことですか?」
加賀 「どうもこうも駆逐艦が一人轟沈しただけじゃない?」
朝潮 「・・・」ズキ
加賀が振り返りながら大和の手を払う。
大和 「良くもそんな不謹慎なことが言えますね」
加賀 「事実でしょう?」
加賀 「それに大和さん・・・」
加賀 「あなたが秘書艦をしていた時は轟沈が私の時より遥かに多かったわよね」
加賀 「慣れてるんでしょ?私より・・・轟沈に」フフ
大和 「発言を撤回してください!!」
大和の艤装砲塔が静かに揺れる。
大和 「確かに大和が秘書艦をしていた時はあの海域の敵艦隊群と接触したばかりでしたし」
大和 「轟沈が多かったのは認めます!!」
大和 「けれど、一つ一つの轟沈の悲しみと経験を糧に轟沈を減らしていったんです」
大和 「轟沈を気にもかけない、あなたとは違うんです」
加賀 「違う?秘書艦が私に変わっても轟沈数の減少は変わらず続いているじゃない?」
加賀 「悲しみを糧にしてやっと私と同等なの?」
加賀 「・・・笑わせるわ」
大和 「大和が今も秘書艦ならあなたよりもっと轟沈を減らせています!」
大和 「惰性で減ってるに過ぎない現状に満足しているあなたに言われたくありません!!」
加賀 「言われたくない?あなたがふっかけてきたんでしょう」
加賀が特大のため息をつく。
462 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 03:25:26.79 ID:G6MEXvOk0
大和 「加賀さん、今日は随分ご機嫌が優れないようですね」
大和が加賀の損傷を服から艤装、上から下まで眺める。
大和 「珍しく被弾なさったみたいですね」
大和 「そのせいですか?」
大和 「慣れてないんでしょうけど・・・」
大和 「艦娘が大破如きで動揺するなんで敵の攻撃に当たらな過ぎるのも考えものですね」
大和 「ふふ・・・」
加賀 「・・・」
大和 「ご自慢の回避能力は?僚艦が庇ってくれなかったんですか?」
大和 「あっ、そうだ」
大和 「今日は旗艦じゃないんでしたね」
大和 「庇ってくれる僚艦がいないと加賀さんもこんなものなんですね」フフフ
加賀 「大和さん、嬉しそうね」
加賀 「一対一僚艦なしの模擬演習で私に手も足も出なかったからって」
加賀 「深海棲艦の活躍を喜ぶなんて轟沈した仲間達もさぞ浮かばれるでしょうね」
加賀 「今度爪の垢でも貰いに行ったらどうかしら」
大和 「・・・」
463 :
◆oUFoaE/FvU
[saga sage]:2016/02/20(土) 03:26:57.53 ID:G6MEXvOk0
>>462
誤字訂正次レス
464 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga sage]:2016/02/20(土) 03:27:54.80 ID:G6MEXvOk0
大和 「加賀さん、今日は随分ご機嫌が優れないようですね」
大和が加賀の損傷を服から艤装、上から下まで眺める。
大和 「珍しく随分被弾なさったみたいですね」
大和 「そのせいですか?」
大和 「慣れてないんでしょうけど・・・」
大和 「艦娘が大破如きで動揺するなんて敵の攻撃に当たらな過ぎるのも考えものですね」
大和 「ふふ・・・」
加賀 「・・・」
大和 「ご自慢の回避能力は?僚艦が庇ってくれなかったんですか?」
大和 「あっ、そうだ」
大和 「今日は旗艦じゃないんでしたね」
大和 「庇ってくれる僚艦がいないと加賀さんもこんなものなんですね」フフフ
加賀 「大和さん、嬉しそうね」
加賀 「一対一の模擬演習で私に手も足も出なかったからって」
加賀 「深海棲艦の活躍を喜ぶなんて轟沈した仲間達もさぞ浮かばれるでしょうね」
加賀 「今度爪の垢でも貰いに行ったらどうかしら」
大和 「・・・」
465 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 03:29:21.18 ID:G6MEXvOk0
長門 「止めないか、お前たち」
長門と陸奥が歩み寄る。
長門 「鎮守府の多くが聞いてるぞ」
朝潮が振り返ると朝潮から更に遠巻きに、
解散したと思っていた艦娘たちがぞろぞろと集まり加賀と大和を見つめていた。
長門 「加賀、大和の方が鎮守府では古株なんだから立てたらどうなんだ?」
加賀 「今の秘書艦は私よ」
陸奥 「まぁまぁ〜」
陸奥 「もう寒いし解散しましょ、ね?」
誰ともなく大和からその場を離れ他の艦娘たちも散った。
朝潮の前を加賀が通り過ぎる。
その時には加賀への失望で話しかける気は消えていた。
―――――
―――
466 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 03:31:17.27 ID:G6MEXvOk0
艤装を入渠させ、新しい制服を大和に支給してもらい、お風呂に入る。
今日の新しい制服は普通にノリの臭いがした。
清潔な体で新しい制服に袖を通す。
自室まで色々な艦娘に賞賛や慰めの言葉をかけられた。
言葉少なに応じても荒潮の轟沈に気を落としていると思われるのか
提督が心配したように命令違反を疑われることはない。
自室に入りベッドへ手に持っていた畳まれたダンボールを投げる。
大和から新しい制服と一緒に支給されていた。
椅子へ座りため息を吐く。
コンコン
朝潮 「はい」
霞 「入るわよ」
朝潮 「どうぞ」
大潮 「朝潮ちゃん?」
朝潮 「いらっしゃい」
霞と大潮の大きい目は赤くなっていた。
467 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 03:33:03.33 ID:G6MEXvOk0
霞 「もうダンボールがあるなら話は早いわね」
霞 「手伝うわ」
大潮 「いつまでなんですー?」
朝潮 「できればと言われてるけど」
朝潮 「大和さんに夕方の周回トラックに載せるよう言われているわ」
霞 「早いわね、ならとっとと始めましょう」
言葉少なに作業が始められる。
荒潮のような轟沈した艦娘の私物は遺族へ送られる。
当然その作業は同室の朝潮に命令されていた。
霞 「まず、荒潮の私物を全て並べてからね」
霞 「種類を分けて綺麗にダンボールに入れるわよ」
霞 「その方が隙間が減って物同士で傷付け合うことないし」
霞 「それに、一つの箱に沢山入って節約にもなるわ」
大潮 「おー」
霞が朝潮を気遣って陣頭指揮を執る。
荒潮の私物は少なく、並べるのはすぐ終わった。
朝潮 「これ・・・全部どうするのかしら」
荒潮らしい少し大人びて落ち着いた私物が多かった。
文具や本、日用品や私服は持ち主を喪ったせいか、どこか寂しげに並んでいる。
霞 「孤児院で他の子に使うか・・・」
霞 「艦娘の適正は遺伝みたいなところもあるって言うから」
霞 「荒潮の妹に適正があればそのまま使うんじゃないの」
大潮 「妹ちゃんたちはなりたいと思いますかね?」
霞・朝潮 「・・・」
霞 「ばっかねぇ、なりたいって思うわよ」
大潮 「そうですよね」
朝潮 「・・・」
朝潮 (荒潮は勇敢だったとだけ伝えられる)
朝潮 (けど、その活躍のために乗り越えてきたものは伝えられない)
468 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 03:34:33.92 ID:G6MEXvOk0
並べられた私物に目を落とす。
朝潮の目にふと一つのノートが飛び込む。
朝潮 「このノート・・・」
霞 「あっ!」
ノートはキャラクターものや可愛い動物のシールが貼られた実に少女趣味なものだった。
ただ、荒潮の私物たちからは浮いていた。
大潮 「満潮ちゃんのノート・・・」
霞 「とってたのね・・・」
朝潮 「満潮?・・・以前轟沈した満潮?」
大潮 「そうです・・・」
霞 「・・・」
朝潮 「これが?・・・荒潮が昨日お風呂で言ってた満潮の日記?」
大潮 「朝潮ちゃんに話してたんですね」
霞 「知ってるなら、止めないけど・・・読む気?」
朝潮 「うん、読んでおきたい」
朝潮はノートを開く。
ノートの前半は荒潮が昨日風呂で語っていた満潮の日記となっていた。
パラパラめくると日々の思いや出撃の苦悩がそれに合わない可愛い字で綴られている。
内容は荒潮が話した通りだった。
469 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 03:36:57.20 ID:G6MEXvOk0
朝潮 「あれ・・・日記の後半から文字が変わってる?」
朝潮 「これ、荒潮の字だ・・・」
霞 「えっほんと?!」ズイ
大潮 「見せてくださいー」ヒョコ
霞 「文字が変わってる日、満潮が轟沈した日付と同じ・・・」
大潮 「満潮ちゃんの日記の後ろに荒潮ちゃんの日記が続いてますね」
朝潮は日記を三人の真ん中に広げ読み進める。
大潮 「凄く・・・報告書に似てますね」
朝潮 「あぁ・・・」
霞 「そうね・・・」
日記にしては病的なほど思いも感情もない報告書のような文体は、
満潮のそれと対照的で自身の感情を殺そうとする荒潮の苦悩が感じられた。
霞 「「〜だと思いました」「頑張ります」を連発する大潮の報告書よりよっぽどしっかりしてるわ」
霞 「本当に日記なの?これ」
大潮 「さり気なくバカにされた気がします」
客観的過ぎる荒潮の日記は一見わかりくいものだった。
しかし、一緒に出撃していた朝潮にとってその全てが目新しいものではなかった。
朝潮 「間違いなく荒潮の日記よ・・・一緒に出撃してたからわかる」
大潮 「そうですかー」
しかし、一部わからないものがあった。
470 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 03:38:59.95 ID:G6MEXvOk0
朝潮 「これ・・・霞交換、大潮交換って何かわかる?」
最後数日の日記末尾に付く、暗号のような文字。
ページを見せながら霞と大潮に尋ねる。
大潮 「んー・・・」
霞 「あ・・・知らないわね」
朝潮 「?」
大潮 「あっ思い出したそれ、制服交換 モガモガ
霞 「もうっ!!・・・」
朝潮 「制服交換?」
霞がためいきを吐きながら、大潮の口から手を外す。
霞 「はー・・・そうよ」
朝潮 「荒潮と?」
大潮 「そうです!」
霞 「もう・・・」
朝潮 「???」
霞 「この前、遠征艦隊だと制服の交換が基本的に認められないって話したでしょ?」
朝潮 「あぁ・・・あの話」
少し前の食堂で、荒潮を含めた四人で話していた時の話題だ。
あの時、霞が古い制服を着続るのは辛いと愚痴っていたのを朝潮は思い出す。
471 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 03:40:14.30 ID:G6MEXvOk0
朝潮 「そういえば、あの時は霞と大潮の制服によれと汚れがあったけど・・・」
朝潮 「今はなくなってるわね」
朝潮 「荒潮と交換してもらってたのね」
霞 「余り驚かないのね」
朝潮 「荒潮だから」
大潮 「・・・」
朝潮 「私も言ってくれたら交換したのに・・・」
霞 「あきれた、ばれたら懲罰ものよ」
朝潮 「けど、ばれないでしょ?」
朝潮 「廃棄される制服はぼろぼろでチェックされないじゃない?」
霞 「確かに足はつかないかもしれないけど、イコールばれないじゃないのよ?」
大潮 「そうです、朝潮ちゃんみたいに制服の変化に気付く人もいるかもしれませんし」
朝潮 「それはそうかもしれないけど・・・」
朝潮 「言ってくれたら何時でも交換するわよ」
大潮 「大潮はもう交換しなくて大丈夫ですー」
大潮 「余り綺麗な制服を遠征艦隊で着てるとばれないかと気が気じゃないですし!」
霞 「私もパス」
霞 「孤児院出身なんて、ものは壊れてからが本番でしょ?」
霞 「新品の制服なんて着慣れてないからむず痒くなっちゃうわ」
霞 「それに、荒潮もあなたを巻き込みたくなくて言わなかったんじゃないの?」
朝潮 (荒潮・・・)
目を落とすと一番新しいと思われる交換のしるしが目に入った。
472 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 03:44:09.90 ID:G6MEXvOk0
朝潮 「最後のしるしは・・・一昨日で霞が交換でいいの?」
霞 「そうよ」
朝潮 「一昨日はあの危険海域でなく通常海域への出撃だったわね」
朝潮 「私と荒潮二人で小破したの、覚えているわ」
霞 「その時支給されたピッカピカの制服を荒潮と交換したのよ」
霞 「交換?って言うより追い剥ぎされたというか」
朝潮 「?」
大潮 「あー・・・」
霞 「一昨日急に荒潮が部屋に入ってきてね」
大潮 「ありましたねー」
霞 「新品の制服を着てきて「交換しましょ」って言ってきたのよ」
朝潮 「じゃあ、霞は一昨日に荒潮が手に入れた新しい制服を着てるのね」
霞 「そうなるわね、私最初は断ったんだけど・・・」
霞 「荒潮は妹や弟いるじゃない?」
霞 「それで慣れてるせいか良いように脱がされちゃって・・・」
大潮 「騙されてばんざいして一瞬でしたねー」
霞 「何すんのよって言って取り返そうとすると既に私の制服を奪って着た荒潮がね」
霞 「「脱がす気?!やだ〜ウフフ」って茶化してきてね」
大潮 「あの時の霞ちゃん可愛かったですねー」
霞 「・・・何言ってんのよ、そんなことないわよ」
朝潮 「そうよ、霞は何時も可愛いじゃない」
霞 「あのねー・・・」
朝潮は霞の視線を躱し最後の数ページへ進む。
―――――
―――
473 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 03:46:34.84 ID:G6MEXvOk0
朝潮 「『朝潮が執務室に呼ばれたまま、戻らない』」
朝潮 (昨日の日記・・・)
荒潮の第一艦隊所属を止めてもらうよう提督に身を捧げ交渉していた、昨日。
朝潮には力がなく、そうすることでしか荒潮を守ることができないと思った。
同じ決意で挑んだ今日の戦闘で荒潮を喪い艦隊を危険に晒した。
朝潮 (もっと早く知覚を手に入れてれば・・・)
朝潮 (いや、知覚を知っている提督の発言、加賀の無言)
朝潮 (私の知覚は本物?)
大潮 「この時、朝潮ちゃんは執務室で何してたんですー?」
霞 「今日は朝潮が旗艦で活躍したって提督が言ってたでしょ?」
大潮 「凄いですよねー」
朝潮 (最終戦闘・・・)
朝潮 (覚醒する前の弱い知覚で戦闘中に荒潮の同調の大きな変化は感じなかった)
朝潮 (だから最後の砲撃まで全くと言っていいほど荒潮に被弾はなかったと思う)
朝潮 (同調は変わらないまま、気付いた時には轟沈前の弱い同調だった)
霞 「だから、旗艦として執務室であのクズと作戦とか打ち合わせしてたんでしょ?ね?朝潮」
朝潮 「あぁ・・・うん」
大潮 「打ち合わせって何するんです?」
大潮 「・・・朝潮ちゃん?」
474 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 03:47:43.45 ID:G6MEXvOk0
朝潮 (最終戦闘の最初から・・・最初から荒潮は・・・大破してた?)
大潮 「朝潮ちゃん?」オズ
朝潮 「ん!何?!」
霞 「あんた大丈夫?」
朝潮 「あっごめん!・・・執務室のことね」
朝潮 「今日から制服の損耗判定を提督だけでなく旗艦もすることになってね」
朝潮 「その打ち合わせと他の第一艦隊の先輩たちの損耗表を覚えるのが長引いちゃって・・・」
大潮 「あー、だぶるチェック?ってやつですか」
霞 「あのクズも必死よねー」
朝潮 (そうだ、私だけじゃない・・・提督も制服の損耗判定をしたんだ)
朝潮 (大破進軍なんてあるわけない)
朝潮 (なら、私の知覚がやっぱり間違ってたの?・・・)
大潮 「慎重なのは良いことだって龍田さんいつも言ってます!」
霞 「まぁ、そうよ」
霞 「特に轟沈の危険がある第一艦隊にはね」
朝潮 (確かなのは荒潮が轟沈したことと艦隊を危険に晒してしまったことだけ・・・)
許されることではなかった。
その責任を差し置いて知覚について思い悩むことが、
生真面目な朝潮にとって責任から逃げているように感じられ、知覚への思考を鈍らせた。
475 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 03:49:54.51 ID:G6MEXvOk0
霞 「ね、朝潮!・・・朝潮?」
霞 「あんたさっきから顔色悪いわよ・・・大丈夫?」
大潮 「後は大潮たちに任せて休んでもいいですよ?」
朝潮 「いや、大丈夫。ごめん、心配かけて・・・」
霞 「馬鹿ねぇ、気にせず頼りなさいよ、仲間でしょ?」
大潮 「何かあったら大潮も力になります!」
朝潮 「ありがとう」
止まっていた手でページをめくる。
朝潮 「『朝潮の代わりに自分と朝潮の艤装を入渠ドッグに取りに行く』」
朝潮 「『入渠ドッグに着いた時、艤装の入渠はバケツが使われたのか両方終わっていた』」
朝潮 「『艤装倉庫に二つとも収める』」
朝潮 「あぁ、そうか」
朝潮 「昨日は艤装を入渠ドッグへ引き取りに行けなかったんだ」
霞 「そうそう、あんた執務から部屋帰ったらすぐ寝て今日の出撃まで起きなかったんでしょ」
霞 「修復液まみれの艤装は流石にこの時期つらいわよ」
朝潮 「そうね、荒潮にはお世話になりっぱなし・・・」
朝潮 「それにしても入渠時間の短い駆逐艦に高速修復材を使うものかしら?」
朝潮 「大破の荒潮はまだしも私は中破よ」
霞 「昨日はあの後も出撃繰り返していたでしょ」
霞 「そういう時は状況が変わって途中から高速修復材なんてザラよザラ」
霞 「別に珍しいことじゃないわ」
朝潮 「そうなんだ」
476 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 03:52:45.01 ID:G6MEXvOk0
朝潮 (中破と大破・・・)
昨日の中破で帰港した時を思い出そうにも、虚ろだったことで記憶や感覚がはっきりしない。
朝潮 (虚ろだった?虚ろだったのは・・・?)
考えがまとまらない。
―――――
―――
固まった朝潮を置いて、大潮が荒潮の最後の日記を読み上げる。
大潮 「『朝潮が深夜まで帰ってこない』」
霞 「あんたが執務室に殴り込みした日と同じで荒潮心配してたわよ」
大潮 「私は部屋で待機してました」
霞 「一応また探したのよ」
朝潮 「また夜遅くまで探してくれてたんだ」
朝潮 「ごめん・・・」
朝潮の脳裏に今朝の体調が悪そうな荒潮の顔が浮かぶ。
霞 「気にすることないわ」
霞 「悪いのはあの海域よ」
霞 「朝潮は悪くない」
知らず朝潮の顔に浮かんでいた苦悩の表情に霞が慰めの言葉をかける。
477 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 03:54:51.02 ID:G6MEXvOk0
大潮も朝潮の気分を転換させるため、頭を捻って話題を絞り出す。
大潮 「そう言えば、葬儀がされたのは荒潮が初めてですね」
霞 「そうね、荒潮はあれで寂しがりやだったから良かったじゃない」
朝潮 「初めて?」
大潮 「いつもは葬儀しないんです」
朝潮 「あ」
荒潮が昨日お風呂で話していたことを思い出す。
霞 「いつもは葬儀しないどころか、轟沈を報告するだけで次の部隊で出撃してるのよね」
霞 「あいつ艦娘を何だと思ってるのかしら」
大潮 「深海棲艦がいる限り戦争が続いて轟沈がなくならないなら、大潮は仕方ない気もします」
霞 「まぁね、出撃するしかないのもわかるけど・・・」
大潮 「その御蔭か、あの海域の轟沈って減ってたんですね!」
大潮 「大和さんと加賀さんの話を聞いて初めて知りました」
朝潮 「私も・・・」
霞 「はぁ・・・それくらい知っておきなさいよ」
大潮 「霞ちゃんは
霞 「物知りさんですー?」
霞 「大潮、あんた私を褒めとけば便利とか黒いこと考えてないでしょうね?」
大潮 「黒い?」
霞 「まぁいいわ」
478 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 03:59:44.20 ID:G6MEXvOk0
霞 「あの海域の轟沈は減ってるのよ」
霞 「本当に少しずつだけどね」
朝潮 「ふーん」
大潮 「いつか轟沈はなくなるんですかねー」
霞 「このペースだと十数年かかりそうよ」
大潮 「うえぇぇ」
大潮 「そんな少しの減少で大きい小さいって加賀さんと大和さんはやってたんですかー」
霞 「あんた言い難いこと割と容赦なく言うのここだけにしなさいね」
朝潮 「轟沈の話もそうだけど、加賀さんと大和さんは仲が良くないの?」
霞 「見てたらわかるでしょ?」
霞 「険悪ってレベルじゃないわよ」
朝潮 「何かあるの?」
大潮 「あります、恋のライバルです!」
霞 「そんな綺麗事じゃなくてもっと根深いわよ!」
朝潮 「そうなの?」
霞 「あの危険海域って元々出撃禁止が検討されてたの知ってる?」
朝潮 「え?!」
479 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 04:01:45.72 ID:G6MEXvOk0
霞 「少中破からの轟沈が多発するんで異常だって、当然よね」
霞 「それで何度も大本営から査察、不正を疑われて憲兵から臨検とか色々あったらしいわ」
霞 「そういう面倒事や疑惑を晴らして、あの海域攻略のレールを引いたのが大和さんなのよ」
霞 「それをぽっと出の加賀さんにとられたようなもんだから・・・誰だって面白くないでしょ?」
朝潮 「とられた?」
大潮 「加賀さんが大和さんから秘書艦をとった話ですー?」
霞 「そう、それ」
霞 「正確には大和さんが秘書艦としてさっき言ったレールを引き終わった後ね」
霞 「加賀さんが配属になってすぐ模擬演習で大和さんを倒して提督のお気に入り」
霞 「で、すぐ大和さんに代わって新しい秘書艦になったってわけ」
朝潮 「あの司令官ならやりそうね」
霞 「まぁ、そういうわけよ」
大潮 「大潮は大和さんは秘書艦とあの危険海域に思い入れがあるって聞いてますねー」
霞 「ふーん」
朝潮 「思い入れって・・・あの海域攻略のレールを引いた以外に?」
大潮 「ですですー」
霞 「何それ話してみなさいよ」
大潮 「大和さんは加賀さんと違って、前任の秘書艦が轟沈して秘書艦になったらしいんです」
霞 「あー聞いたことあった」
大潮 「大和さんが継いだ・・・轟沈した前任の秘書艦が仲の良かった武蔵さんで」
大潮 「その武蔵さんが轟沈したのがあの海域らしいですー」
480 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 04:03:15.12 ID:G6MEXvOk0
霞 「そりゃ、あの危険海域で秘書艦として暴れて敵討ちしたいでしょうね」
朝潮 「え?!武蔵があの海域で轟沈してるの?!」
大潮 「そうです、間違いなく大和型二番艦の武蔵さんですよ」
霞 「別に驚くことじゃないわ」
霞 「殆どの艦種で轟沈は起こってるし、戦艦が例外ってこともないわ」
朝潮 「殆ど?」
霞 「って、こんなんじゃ作業終わらないじゃない」
時計を見上げれば、周回トラックの来る刻限が迫っていた。
霞の号令の元、三人でダンボールに荒潮の私物を積めて行く。
荒潮が朝潮に言った通り、轟沈した荒潮の体は骨も何も一切残らなかった。
その荒潮の全てとなった私物が一つずつ、ダンボールに埋葬される。
それぞれの私物に三人それぞれ荒潮との思い出が詰まっていた。
大潮がまん丸い目玉に今にも溢れんばかりに水を貯める。霞も上を向く。
この時、朝潮は気付く、霞と大潮は涙が枯れたのでなく朝潮の前で泣かまいとしていることに。
それが優しさからの心遣いだと思うと朝潮は素直に泣けなかった。
無理やり涙を止めすぎて大潮は涙を止めたまま引きつけを起こしたかのように震えた。
霞はぼそぼそと馬鹿とつぶやきながら作業を続ける。
積め終わる頃には三人の目から涙が止めどなく溢れ声を出して泣いていた。
―――――
―――
481 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 04:04:20.42 ID:G6MEXvOk0
加賀が執務室をノックすると、入れ違いで大和が出てくる。
大和 「・・・」キッ
加賀 「・・・こんにちは」
大和はひと睨みすると挨拶もせず廊下へ消えた。
加賀は執務室に入る。
提督 「遅かったな」
加賀 「そういう割にはぎりぎりまで大和さんとよろしくやっていたようね」
提督 「離してくれなくてな」
加賀 「座っても?」
提督 「許可する」
加賀は秘書艦用の机に着く。
執務室は何時もより煙たい。
提督の机の灰皿は一杯になろうとしていた。
482 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 04:05:18.71 ID:G6MEXvOk0
提督 「さてと・・・どこから話してもらおうか」スパー
提督 「まずは荒潮の救助作戦だ」
提督 「何故おれの命令を無視して荒潮を助けようとした?」
加賀 「提督が朝潮に言っていた通り・・・提督の安全のためよ」
提督 「・・・他に方法はなかったのか?」
加賀 「朝潮と旗艦を交代するとか他にも方法はあったでしょうね」
加賀 「けれど、どの方法も朝潮の暴走の可能性を考えると・・・無理ね」
加賀 「指揮作戦艇の防御に隙を生まないためにはあの方法しかなかった、断言できるわ」
提督 「そうか」
提督 「しかし、制空圏を抑えなければいずれ負けることもわかっていただろ?」
加賀 「あの時、私が何より優先したのは朝潮を指揮作戦艇の側にいさせることよ」
加賀 「負けることや、それで荒潮が轟沈しようがどうでも良かったわ」
提督 「その割には荒潮を守るのに必死だったように見えたが」
加賀 「必死?」
加賀 「本気で言ってるの?」
提督 「・・・」
483 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 04:06:26.53 ID:G6MEXvOk0
加賀 「いつもなら・・・いつもなら荒潮が轟沈しようがどうでも良かった、けれどね」
加賀 「新地方本部長官の選考中で轟沈を控えるように言われて出撃を止めていた危険海域」
加賀 「そこへの出撃を再開した途端に轟沈となれば・・・どうなると思う?」
加賀 「当て付けと思われるか、能力不足と思われるか」
加賀 「どちらにしろ上の心証は最悪よ」
提督 「それでお前らしくもなく駆逐艦如きを命懸けで守りました、と」
加賀 「茶化さないで」
加賀 「私の進退にも関わるのよ、本気にもなるわ」
提督 「ふふ、悪いな」
加賀 「聞いていい?」
提督 「何だ?」
加賀 「何でいまさら小規模とは言え荒潮の葬儀をしようと思ったの?」
加賀 「それに何時もなら轟沈に構わず連続出撃してたわよね?」
提督 「お前にくらい話しておくか」
提督 「出撃再開してすぐの轟沈、おれも目が付けられるとわかってる」
提督 「だから、反省している振りをするためというのが一つ」
提督 「後は単純に出撃頻度を減らして轟沈数を減らしたいという理由からだ」
加賀 「本当に新地方長官になるつもり?」
提督 「・・・」
加賀 「なら何で荒潮を殺したの?」
―――――
―――
484 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 04:07:32.98 ID:G6MEXvOk0
提督 「ごほっごほっっ・・・・はぁ?!」
むせた提督が灰皿の残った狭いスペースに煙草を押し付け加賀を睨む。
提督 「冗談がきついぞ」
加賀 「私の知覚が確かなら、荒潮は最終戦闘開始時には大破していたわ」
提督 「なんだと?!」
加賀 「昨日荒潮が大破したばかりで、その同調の乱れを私が覚えていたこと」
加賀 「最終戦の前に陣形を乱した荒潮が同調を感じられる距離まで私に近づいてきたこと」
加賀 「この2つでおぼろげながら知覚することができたの」
提督 「なら何で進言しなかった」
加賀 「おぼろげながらと言ったでしょ」
加賀 「この知覚について他言無用と言った時に・・・言ったはずよね」
提督 「不安定で実戦の勘も絡むから精度は低いというやつか?」
加賀 「そうよ、不正確なことはわざわざ進言できないわ」
加賀 「それに、さっきも言ったけどこの時期に轟沈があると思わないでしょ?」
提督 「はぁ?!」
提督 「何でおれの都合が悪い時に轟沈が起こらないと思っているんだ?」
加賀 「どう取ってくれても結構よ」
加賀 「けどね」
加賀 「これまでの轟沈では、沈む娘を、囮にしたり、煙幕代わりにして奇襲したり」
加賀 「轟沈がわかっていたかのようにそれを利用して勝利してきたわよね?」
提督 「今日は敗走しようとしてただろ」
加賀 「何かイレギュラーなことが起こったんじゃないの?違う?」
提督は新たな煙草に火を付け吸って吐くという作業を繰り返すだけだ。
485 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 04:08:37.62 ID:G6MEXvOk0
加賀 「まぁ、いいわ」
加賀 「私だって深く知りたくない」
提督 「なぁ」
加賀 「何かしら?」
提督 「お前らの知覚はそうポンポン手に入るものなのか?」
加賀 「ないわ、地方本部に一人いるかいないかじゃないかしら?」
提督 「この鎮守府に二人いるぞ」
加賀 「今まで見たことある?」
提督 「ない」
色々な鎮守府と交流する提督の立場から聞いたことさえない能力だった。
提督 「できることは、損傷度の把握・敵の行動の予知、の2つだけか」
加賀 「多分・・・」
提督 「多分?」
加賀 「私も我流でやっているのよ」
加賀 「提督が言った2つだけと断言はできないということよ」
提督 「ほぅ」
486 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 04:11:34.30 ID:G6MEXvOk0
加賀 「それに朝潮・・・」
提督 「朝潮がどうした?」
加賀 「蝙蝠は人間より広い可聴域によって耳を音を聞くだけでなくレーダー代わりに使っているわ」
提督 「お前より知覚が優れているから使い方も増えるということか」
加賀 「可能性の話よ」
提督 「朝潮はその可能性を加賀に感じさせるほどには優れているわけだ」
加賀 「・・・」
提督 「言うほど朝潮は優れているのか、信じられんな」
加賀 「私が覚醒したのは朝潮よりもっと後よ」
加賀 「加えて、荒潮の損傷度に対する感度ね」
加賀 「私は近距離でやっとわかるのに、朝潮は集中すれば距離があっても問題なかった」
提督 「加賀がべた褒めか、これなら明日からの出撃が楽しみだ」
加賀 「果たしてそう上手く行くからしらね・・・」
提督 「問題でもあるのか?」
加賀 「明日、朝潮は満足に動けないまますぐ大破すると思うわよ」
提督 「今日の最終戦闘ではそのような素振りはなかったが・・・」
加賀 「朝潮に対してヲ級とタ級からの攻撃はあった?」
提督 「・・・」
加賀 「なかったでしょ?」
加賀 「知覚に慣れるまでは、新たな感覚に脳みそをかき回されてる状態よ」
加賀 「避けるとか、撹乱するとか、動きが伴うとボロが出るわよ」
487 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 04:17:06.14 ID:G6MEXvOk0
提督 「慣れるまでどれくらいかかる?」
加賀 「さぁ?不確定要素が多過ぎるわ」
加賀 「このまま駄目になる可能性もあるわ」
加賀 「確かなのは、朝潮の知覚を提督が否定したから慣れるまでの期間が延びてるだろうことだけよ」
提督 「嫌味か?」
加賀 「・・・」
提督 「まぁ、いい」
提督 「一応、明日の出撃は朝潮を旗艦に据え、挙動が怪しければすぐ撤退するよう配慮しよう」
加賀 「お優しいことね」
提督 「貴重な能力だからな」
提督 「ところで、この能力は大和みたいな強力な艦娘なら習得できたりしないのか」
加賀 「不可能ね」
提督 「お前に艦種の相性で負けても大和が弱いわけではないだろう」
提督 「あいつに何が足りない?」
加賀 「砲艦はこの知覚に対して適正がないのよ」
提督 「どういうことだ」
加賀 「この知覚というのは、端的に言えば同調に対する感覚よ」
加賀 「必要なのは、繊細な同調といかなる時も冷静でいられる心の強さ」
提督 「同調ねぇ・・・」
488 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 04:20:09.70 ID:G6MEXvOk0
加賀 「艤装だけでなく艦載機とも繊細な同調を求められる空母はまだしも砲艦にはとても無理よ」
提督 「そこまで違うのか」
加賀 「砲艦は・・・感情の爆発を同調に乗せることで砲撃の威力を出すのでしょ?」
提督 「同調に感情という異物が入るというのか」
加賀 「どちらかと言うと、感情を出すから冷静でいられないことが問題ね」
提督 「大和も、轟沈した金剛も、戦艦で強いのは確かに直情的かもな」
提督 「だからこそ強かったとも見ることができるが・・・」
提督 「それに比べて確かに空母には冷静な落ち着いた奴が多いな」
加賀 「五航戦のような例外もいるけどね」
提督 「余りいじめるなよ」
加賀 「ふん」
提督 「だから、加賀の艤装に適性のある朝潮が覚醒できたのか」
提督 「そうなると・・・益々大和の考えがわからんな」
加賀 「どうしたの?」
提督 「お前と模擬演習をさせてくれとさっきまでゴネられててな」
加賀 「ふーん・・・」
提督 「あれだけ加賀に惨敗して挑むには勝算があってだろ」
加賀 「ふふ、どんな奥の手を用意しているのかしらね」
提督 「挑むだけなら可愛い、けどなぁ秘書艦を賭けろと言うんだ」
加賀 「じゃあ、明日の舟遊びの同伴も」
提督 「当然そうだ」
提督 「大和に損はなく加賀に何の利益もない」
提督 「だから、加賀の回答次第だと言ってあ
加賀 「良いわよ、大和と遊んであげても」
提督は、驚きを隠さず加賀を見つめる。
―――――
―――
489 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 04:21:19.40 ID:G6MEXvOk0
提督 「お前に何の意味がある?」
加賀 「意味?格の違いを教えてあげるくらいかしら」
提督 「・・・大和に同情するよ」
加賀 「さて、そうなるかしらね」
提督 「ん?」
提督 「まぁ、大和に知らせておくか」
提督は電話へ手を伸ばし、受話器を取り内戦のボタンを押す。
瞬間、電話がけたたましく鳴り提督の手が止まる。
加賀 「外線よ」
提督 「わかってる」
受話器を耳にかけたまま、フックを押す。
提督 「はい、こちら鎮守・・・これは地方長官」
提督 「お孫さんが生まれまし・・・はぁ・・・え?・・・存じ上げませんが」
提督 「はい・・・・いえ、全く身に覚えが・・・・・・・・はい、その通りです」
提督 「いえ・・・そうです、はぁ・・・承知しました」
提督 「恐らく、新地方長官レースの対抗馬からでしょう・・・・そうです・・・デマですよデマ」
提督 「・・・はい、勿論です」
提督 「ありがとうございます・・・では失礼します」
提督は受話器を置きため息を付く。
490 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/02/20(土) 04:28:22.44 ID:G6MEXvOk0
加賀 「どうしたの?」
提督 「今日の命令違反をチクったのがいる」
加賀 「はぁ?!」
加賀 「ありえない・・・」
加賀 「命令違反を密告させないように艦隊全員に対して朝潮同様きつく脅しをかけたじゃない?!」
加賀 「本当なの?」
提督 「・・・憲兵隊から地方長官に、おれの身元について照会があったらしい」
提督 「反乱、命令違反の疑いがあるから戦績や人柄などの情報を出すよう言われたそうだ」
加賀 「チっ・・・」ギリ
提督 「犯人探しはいい」
加賀 「しかし・・・」
提督 「リンチでもする気か?それをすれば本当に問題になるぞ」
加賀 「はぁ・・・そうね」
加賀 「けど、安全を考えて明日の舟遊びはなしね」
提督 「ふふ・・・」
加賀 「何が可笑しいの?」
提督 「この件のもみ消しでもっと金がいる・・・舟遊びはやる」
提督 「楽しみだな、そうだろ?」
加賀 「・・・」
舟遊びという名のコアの密売への同行へ加賀は不安な表情を見せる。
提督 「不安か?」
加賀 「普通はそうよ・・・」
提督からは髪に隠れて見えない加賀の右耳にはめられた受信機が微音を発していた。
受信機 「ガガ・・・ガチャ・・・朝潮・さん」
―――――
―――
491 :
◆oUFoaE/FvU
[saga sage]:2016/02/20(土) 04:31:26.08 ID:G6MEXvOk0
本日投下分はこれまで。
ご読了まことにありがとうございます。
恐らく後二回前後の投下で終わる見込みです。
何卒最後までお付き合いをよろしくお願い申し上げます。
492 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/02/20(土) 09:12:40.01 ID:K8QirrXWO
乙
493 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/02/20(土) 12:01:37.34 ID:Vdp/3fUF0
おつ
494 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/02/20(土) 12:12:56.59 ID:tfUEtnIEO
乙
生きてて良かった
495 :
◆oUFoaE/FvU
[saga sage]:2016/02/21(日) 22:35:39.29 ID:lL/VzVf70
>>492
様
>>493
様
>>494
様
乙お米ありがとうございます
これからも頑張って生き残りSS書きます
587.43 KB
Speed:0.2
[ Aramaki★
クオリティの高いサービスを貴方に
VIPService!]
↑
VIP Service
SS速報VIP
更新
専用ブラウザ
検索
全部
前100
次100
最新50
続きを読む
名前:
E-mail
(省略可)
:
書き込み後にスレをトップに移動しません
特殊変換を無効
本文を赤くします
本文を蒼くします
本文をピンクにします
本文を緑にします
本文を紫にします
256ビットSSL暗号化送信っぽいです
最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!
(http://fsmから始まる
ひらめアップローダ
からの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)
スポンサードリンク
Check
Tweet
荒巻@中の人 ★
VIP(Powered By VIP Service)
read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By
http://www.toshinari.net/
@Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)