朝潮「制裁」

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154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/02/15(日) 00:10:02.76 ID:S4H4Lhn+0

提督 「少しずつ確実に加賀の艤装との同調を朝潮に上げさせているだろ」

提督 「常態化して誰も文句を言わんがな」

加賀 「あなたのせいで落ち込んだ朝潮に自信をつけようとしただけですよ」ニコ

提督 「ならもう止めろ」

提督 「呼応するように朝潮の同調が落ちている、成績にも出ているし傍目にもわかる」

加賀 「まぁ、私は止めてもいいのだけれど」

提督 「すぐ止めろ」

提督 「お前がいるから朝潮はここでは加賀になれん」

提督 「意味がないのに何故続けるだ?」

加賀 「この頃は朝潮から私に訓練をお願いしてくるんですよ」ニコニコ

提督 「同調に敏感な加賀なら尚更気付いてるだろ」

提督 「これ以上同調が落ちると危険だ」

加賀 「だから?」

提督 「朝潮を殺す気か」

加賀 「さぁ?・・・」ニッコリ

155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/02/15(日) 00:12:26.04 ID:S4H4Lhn+0

 加賀が提督に朝潮を殺す提案をしたことは何度かあった。冗談・・・と提督は思っていた。

 それを本気のように感じさせる不気味な笑顔だった。


提督 「この出撃体制だといずれにしろ駆逐艦は足りん、旗艦にして練度を上げてでも使うからな」


 提督は独り言のように言い放つ。

 言葉は風と一緒に後方に流れ、加賀は素知らぬ顔だ。

 もうそろそろ前方に陸が見えるはずだ。



―――――
―――


156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/02/15(日) 00:14:52.89 ID:S4H4Lhn+0

 港には第二陣の面々が待っていた。


提督 「ちょっと早くなったがすぐ出るぞ」


 さっさと乗り換えを済まし指揮作戦艇はすぐ出発した。


加賀 「荒潮の回復を待ちたいので反省会は夕方にしましょう」


 それだけ伝えると加賀は早歩きで執務室に向かい。

 五月蝿い加賀のいなくなったのを待ち、利根と筑摩はすぐどこかへ消えた。

 日向は荒潮を背負ったまま朝潮に話しかける。


日向 「荒潮を医務室に寝かせてくるから、艤装を入渠ドッグにお願いできるか?朝潮」

朝潮 「はい」

日向 「加賀の奴、少しは部下を・・・」ブツブツ トコトコ

157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/02/15(日) 00:16:40.43 ID:S4H4Lhn+0

 正直に言えば、朝潮もすぐ艤装と一緒に意識を投げ出したいほど疲れていた。


朝潮 (コンクリート・・・柔らかそう、横になりたい)


 少し休もうと自分の艤装を降ろし腰掛ける。

 すると一瞬だけ意識が飛んだ。


 視界が暗くなり夜になったかとびっくりして意識を取り戻す。

 目の前で大和が朝潮の顔を覗いていた。

 暗くなったのは大和の傘の影に入ったからであった。

 お気に入りの傘をさして微笑む大和は戦場を微塵も感じさせない優雅さがある。


大和 「どうしたの?」

朝潮 「?!」

朝潮 (どれだけ意識を失ってたのかしら?)

大和 「風邪引くわよ、怪我とかに強くても病気はかかるんだから」


 中破してぼろぼろの制服はよく風を通した。


朝潮 「すいません、心配おかけして」


 立ち上がるもふらつく。それでも何とか艤装二つを動かせるくらいには回復していた。

158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/02/15(日) 00:18:28.36 ID:S4H4Lhn+0

大和 「加賀さんにしごかれたの? 随分お疲れだけど」

朝潮 「いえ、不注意で被弾しました」

大和 「そう? 中破の参り方じゃないけど」

朝潮 「・・・」

大和 「その様子だと色々あったようね。もし何かあったら言ってね」

朝潮 「はい・・・」

大和 「艤装運ぶの手伝いましょうか?」

朝潮 「いえ、大丈夫です。有難うございます、失礼します」タタッ

大和 「無理そうなら、そこらへんの娘捕まえてお願いしなさいね〜」フリフリ

大和 「さて・・・あの様子だと衣料室にすぐ来るかしら」トコトコ


 加賀が嫌われていた分、大和は人気があった。

 千歳の事件も大和がなだめたお陰で収束していた。


 時間は朝潮が気を失ってそんなにたっていなかった。


朝潮 (早く入渠ドッグに艤装を預けて荒潮のお見舞に行こう)


 入渠ドッグまで途中幾人かとすれ違ったが、皆が朝潮を他人のように気にかけなかった。

 中破はこの鎮守府の出撃において当たり前すぎて気にするほうが可笑しかった。

159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/02/15(日) 00:19:37.61 ID:S4H4Lhn+0

 朝潮は何度か休んでやっと入渠ドッグにたどり着く。

 入渠ドッグに建造ドッグが並ぶここは鼻が曲がりそうな異臭を放っている。

 この異臭に安堵を覚える日がこようとは朝潮は今日まで思わなかった。


 入渠ドッグで一番目に付くのは、見た目から危なそうな緑色の液体がみなぎる四つの巨大な試験管だ。

 この試験管の中の液体に艤装を浸けることで修復される仕組みになっている。

 中の液体は修復材と呼ばれ、海水と艤装の素材と軍事機密の怪物質を混ぜて作られていた。


 試験管の上下左右は修復材の上記構成物質を供給する配管とタンクが大量に並びかなりごちゃごちゃしていた。

 それらの供給を掌るモーターが絶えず駆動音を発し、

 雑多な配管で反響したそれは心臓の鼓動のような重低音を施設内に満たした。

160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/02/15(日) 00:21:07.38 ID:S4H4Lhn+0

 入渠自体は、艦娘が試験管の前にあるクレーンに艤装をセットすると後は自動で行われた。

 朝潮はチェーンで先に荒潮の艤装を固定すると、ボタンを押した。

 すると、チェーンが巻き上げられ高いところにある試験管の口に艤装が移動する。


朝潮 (ユーフォーキャッチャーみたいだ・・・したことないけど)


 破損でできた穴たちが液体を吸い込みつつ、ぼこぼこ音を立てながら荒潮の艤装が沈んでいく。


朝潮 (私をあの日から支えてくれた荒潮を・・・今度は私が・・・)


 その決心を鈍らせないように朝潮は荒潮の艤装が完全に修復材に沈むまで見守った。

 片手間でセットした自分の艤装は朝潮に想われるでもなく見られるでもなく寂しく沈んでいく。

 その側面は荒潮同様に穴だらけであった。



―――――
―――


161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/02/15(日) 00:25:14.97 ID:S4H4Lhn+0

 艤装を浸けたら後はやることはない。

 入渠ドッグから出た朝潮は荒潮の元に向かう。

 医務室は、ベッドと薬品棚だけが並ぶ部屋だ。担当の艦娘が一人詰めている。

 回復能力の高い艦娘は大破した時くらいしか使わない。

 季節によっては、共同生活で感染拡大しやすい風邪などの病気にかかった娘を隔離するのに使われたりもする。


朝潮 「失礼します」ガラリ


 静かに入室し荒潮を探す。


 壁の側面に薬品棚が並んでいるのに目が行く。

 ここから避妊薬をもらったことはつい最近のことなのに遠い過去のように思えた。


朝潮 (医務室担当の人いないのかしら・・・)


 がらんとした部屋でカーテンの引かれたベッドは一つで荒潮の居場所はすぐわかった。

 ベッドを囲む間仕切りりのカーテンをめくる。

 中ではベッドで横になる荒潮の横で日向が椅子に座って本を読んでいた。

162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/02/15(日) 00:27:06.55 ID:S4H4Lhn+0

日向 「お・・・朝潮来たか」パタン

朝潮 「日向さん」

日向 「荒潮ももう落ち着いてきたよ」

朝潮 「そうですか、良かった・・・」

朝潮 「今日はすいませんでした」

日向 「朝潮、そう気に病むな。仲間を思いやることは大切なことだよ」

日向 「伊勢の時・・・私も駆け寄れていればと思うことがあるよ」

朝潮 「・・・」

日向 「湿っぽくなったな、言ってることは無茶苦茶だしな」

日向 「仲間のために私たちができることは、より多くの深海棲艦を倒すことだけなのだから」

朝潮 「はい・・・」

日向 「もう行くよ、二人で話すこともあるだろう」

日向 「夕方の会議までに風呂に入ってさっぱりするといい」

朝潮 「はい、お疲れ様です」


 日向は手を振りながらカーテンを割って出て行った。

 日向が座っていた見舞い用の四脚丸いすに朝潮は腰を下ろす。

163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/02/15(日) 00:32:12.26 ID:S4H4Lhn+0

 荒潮を見ると時々苦しそうな顔をするものの呼吸も落ち着き穴だらけの制服から見える肌の傷は殆ど癒えていた。


荒潮 「朝潮ちゃん?」

朝潮 「!」

朝潮 「心配したのよ、大丈夫?」

荒潮 「えぇ」ニコ

朝潮 「体はどこも痛くない?」


 荒潮が上半身を起こし体を軽く動かした。


荒潮 「えぇ、大丈夫」ゴソゴソ

朝潮 「じゃあ、お風呂でも行かない?」

荒潮 「いいわね〜、体の煤は日向先輩が軽くぬぐってくれたみたいだけど綺麗にしたいわ〜」

朝潮 「決まりね」


 微笑むと荒潮は軽快にベッドから降りた。

 一緒にベッドを軽く整えて、囲っているカーテンを開けると死角のベッドで加古が寝ていた。


朝潮 「もしかして・・・」

荒潮 「多分、今日の医務室当番ね」フフ


 置かれている管理ノートに使用終了の旨を静かに記入する。


朝潮 「まず、制服を受け取りに行かなくちゃね」

荒潮 「そうね〜」

164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/02/15(日) 00:37:36.66 ID:S4H4Lhn+0

 大和のいる衣料室に向かい新品の制服をもらう。

 入渠ドッグに行き艤装を預け、衣料室で新しい制服をもらうことは、第一艦隊所属の艦娘には手馴れた作業だ。


大和 「朝潮ちゃん待ってたわ、荒潮ちゃん大変だったわね」

荒潮 「いえいえ〜」

大和 「荒潮ちゃん朝潮ちゃん、今回も同じサイズで大丈夫?」

荒潮 朝潮 「はい」

大和 「はい、これね」

朝潮 「ありがとうございます」

荒潮 「ありがとうございます〜」


 新品の制服は綺麗に袋詰めされている。


大和 「これからお風呂?」

朝潮 「はい」

大和 「破れた制服はいつもどおり、脱衣所の専用かごにお願いね」

朝潮 「了解しました」

荒潮 「失礼します〜」

大和 「いってらっしゃーい」フリフリ


 部屋を出た朝潮と荒潮は大浴場へ向かう。

 二人の抱える制服を包むビニール袋がぱりぱり小気味いい音をたてた。



―――――
―――

165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/02/15(日) 00:43:13.45 ID:S4H4Lhn+0


カポーン


 早い時間でも人がちらほらいる、ここはこの鎮守府に一つだけの大浴場。

 一番大きな湯船には鉱泉を暖めたお湯が常時注がれ小さい滝のようになっていた。

 小さな滝の音と鉱泉の臭いのにぎやかさが、入浴する艦娘たちに安らぎを与えていた。

 美肌効果があるということで足しげく通う艦娘も多い。


 朝潮と荒潮はお互いの髪を洗いっこするのが日課になっている。

 風に流れる美しい長い髪は洋上から戻る時には塩気を吸い痛みべたついた。

166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/02/15(日) 00:46:06.18 ID:S4H4Lhn+0


 今は朝潮の髪を荒潮が洗っている。


荒潮 「朝潮ちゃんは綺麗な黒髪ね、お母さまもそうだったの〜?」クシクシ

朝潮 「うーん、お父さん似かもしれない」


 災厄直後から父親は行方不明だ。

 親が〜なんてことは鎮守府でよくあるのでタブーでもなんでもない。皆あけすけに聞いた。

 死は私生活においても艦娘の生活においてもすぐそばにあった。


荒潮 「女の子は父親に似るって言うものね」

朝潮 「荒潮は?」

荒潮 「母親似かな〜くせっ毛とか。朝潮ちゃんの真っ直ぐの髪素敵ね〜」

朝潮 「ありがと」

朝潮 「そんなこと言うけど、私は荒潮のくせのある髪カールが可愛くて好きよ」

荒潮 「ふふふ、ありがとう〜」


 荒潮が朝潮を洗髪してくれる間、朝潮は安心感に包まれる。

 荒潮が頭皮に走らせる指、髪をすく指、終った時に背中をぽんと押す手の平の感触。

 どれも心地よかった。


荒潮 「流すよ〜?」

朝潮 「うん」


ザバー


ポン

荒潮 「終わり!」

朝潮 「次は荒潮ね」

荒潮 「は〜い」


 背中を押すのは荒潮流の終わりの合図だ。朝潮の母も同じことをしていた。

167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/02/15(日) 00:55:37.78 ID:S4H4Lhn+0

朝潮 (姉と私でどちらが先にお母さんに髪を洗われるか喧嘩したっけ・・・)

荒潮 「どうしたの〜?朝潮ちゃんぼーっとして」

朝潮 「ごめん・・・荒潮がうまかったからどうしたら同じようにできるかなって」

荒潮 「ふふふ、私ほどの腕前になるのは難しいわよ〜」ニコニコ


 朝潮は荒潮ほど髪を洗うのはうまくない。

 水で流すまで目をつむらないでもいい朝潮と、終始目をつむる荒潮を見ても一目瞭然であった。


朝潮 「なんでそんなに上手なの?」

荒潮 「ん〜妹と弟が多かったからかな〜」

朝潮 「みんなの髪洗ってたの?」

荒潮 「洗えない子たちのだけよ〜」

朝潮 「たち・・・」

荒潮 「ふふふ、孤児院でもずっと一緒」

朝潮 「いいわね」

荒潮 「うん、けど・・・だから私寂しがりやなのかもしれないわ」

荒潮 「朝潮ちゃん・・・私」


 急に荒潮の声が小さくなり、気になった朝潮が半身をずらし荒潮を写す鏡を見る。


荒潮 「第一艦隊から外してもらおうと思うの」

朝潮 「・・・そう」


 荒潮の目はつむって見えないものの、表情はいつも通り微笑んだままだった。

168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/02/15(日) 00:57:59.73 ID:S4H4Lhn+0


朝潮 「聞いてもいい? 理由」

荒潮 「このまま話したら寒いし、湯船でお話しましょ〜」

朝潮 「うん」


 そこからは無言で髪を洗いタオルで巻き、それぞれ体を洗った。

 いつもなら話しながらすることを無言でするのは寂しかった。


朝潮 (出撃も一人だと寂しいだろうな)


 荒潮の覚悟が決まっていて今日の大破でそれが確定的となったことを朝潮は感じていた。



―――――
―――


169 : ◆oUFoaE/FvU [sage]:2015/02/15(日) 00:59:35.46 ID:S4H4Lhn+0
本日投下分終了です。ご読了ありがとうございます。
170 : ◆oUFoaE/FvU [sage]:2015/02/15(日) 01:13:08.92 ID:S4H4Lhn+0
>>145
お米ありがとうございます!
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/02/15(日) 01:14:15.47 ID:VhYi9IblO
乙でした
朝潮ちゃんprpr
172 : ◆oUFoaE/FvU [sage]:2015/02/15(日) 20:59:38.28 ID:S4H4Lhn+0
>>171
お米ありがとうございます。
朝潮型は最高ですね。
こういうSSは初めてなんでお米ご指導ご感想いただけると嬉しいです。
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/02/18(水) 19:46:59.83 ID:kADNEEyv0
米も感想も書くから早く続きを書きやがれお願いします
174 : ◆oUFoaE/FvU [sage]:2015/03/01(日) 00:56:44.90 ID:ntc75ope0
>>173
お米ありがとうございます。お待ちしています。
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/01(日) 01:18:34.95 ID:4lyz1iwOO
朝潮分が切れて禁断症状起こしちゃうからはよはよ
176 : ◆oUFoaE/FvU [sage]:2015/03/01(日) 02:06:21.33 ID:ntc75ope0
>>175
お米ありがとうございます。

投下再開します。お風呂シーンからです。
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/03/01(日) 02:08:07.76 ID:ntc75ope0



 少し高いところから注がれる鉱泉が落水音を絶えず放つ。

 湯の表面は音と一緒に常に発生する波で海のようだ。

 朝潮と荒潮は湯船でも注がれる場所の近くにいて、二人の話し声は殆ど漏れない。


 朝潮と荒潮は二人並んで座っている。

 朝潮はこんな時でも背筋を伸ばし荒潮はふちにもたれかかっている。


荒潮 「知ってる〜?昔の鎮守府のお風呂」

朝潮 「まぁ、こんなにしっかりしたお風呂ではなかったでしょうね」

荒潮 「艦娘も少ないし、運用に慣れてなかったから、自衛隊のお風呂そのまま作ったらしいわ」

朝潮 「自衛隊のお風呂?」

荒潮 「凄く浴槽が深かったらしいわ」

朝潮 「どれくらい?」

荒潮 「朝潮ちゃんの身長くらいかな」

朝潮 「なんで?」

荒潮 「立つことになるから長風呂にならないでしょ〜それに一緒に沢山入ることができるから〜」

朝潮 「おぼれそう・・・」

荒潮 「鎮守府の数少ない娯楽だから艦娘に不評ですぐ終ったらしいわ」

朝潮 「そうなんだ」


 言葉少なに朝潮は返す。


 朝潮はこの浴槽で色々なことを荒潮から聞いた。

 荒潮は周囲への気配りの延長で色々な情報を持っている娘だった。

178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/03/01(日) 02:10:53.39 ID:ntc75ope0

 荒潮が両手でお湯をすくい、それを見つめる。


荒潮 「何で第一艦隊を外れたいかよね〜」

朝潮 「その前に聞いてもいい?」

荒潮 「な〜に〜?」


 荒潮はすくったお湯が手から零れ落ち尽くしたらまたすくうを繰り返していた。

 朝潮は荒潮を見たり周囲に視線を配ったりしている。


朝潮 「今日の出撃であんなに気が散ってたのは何で?」

荒潮 「このことを提督に言おうか迷ってて、そのまま戦闘になったから〜」

朝潮 「本当なの?」

荒潮 「えぇ」


 小中破から轟沈させる深海棲艦のいる海域で気を散らすなんて異常だ。

 深く考えなくても嘘とわかる。


朝潮 「そう・・・」

荒潮 「そんなに真面目だと疲れない?」

朝潮 「え?」

荒潮 「茶化す気はないわよ〜」


 荒潮は手を止めていつもの微笑みをたたえた顔で朝潮を見る。

179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/03/01(日) 02:12:19.43 ID:ntc75ope0

荒潮 「第一艦隊を外れたい理由を話すわね」

朝潮 「うん」

荒潮 「一言で言えば轟沈したくないからかな」

朝潮 「ん?」

荒潮 「不思議〜?」

朝潮 「うん」


 出撃となれば轟沈の危険はあった。


朝潮 「これまでも戦って危険なことは何度もあったでしょ?」

荒潮 「今更?って思うわよね」

朝潮 「えぇ」

荒潮 「朝潮ちゃんにはわからないだろうけどね」

荒潮 「これからの出撃で仲間がどんどん轟沈するわ」


 平時の語り口調で淡々と轟沈を口にする荒潮。

 湯に温められいつもは健康的に朱が挿す少女の顔も肩も白い、朝潮もそうだった。

180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/03/01(日) 02:13:58.62 ID:ntc75ope0

朝潮 「今日の会議で提督が言った通常の出撃体制に戻すって話?」

荒潮 「そうよ〜」

朝潮 「会議じゃそんな風には・・・」

荒潮 「普通怖いし動揺するわよね?」


 ふと朝潮の頭に千歳のことが思い浮かぶ。


荒潮 「けど、ここは轟沈が多いから・・・今更怖がる娘はいないわ」

朝潮 「そんなことありえるの?」

荒潮 「怖がると同調が崩れて轟沈する危険は増すから」

朝潮 「そうなの?」

荒潮 「そうよ。だから、怖いと思ってもみんなその気持ちを抑え込んで戦ってる」

荒潮 「今朝も動揺してるように見えなかったでしょう」


 朝潮が少し距離を置いて見てた限り、荒潮の言うとおりに思えた。

 そこに動揺はなく轟沈のあった海域へ敵討ちに行く一体感があっただけだ。

181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/03/01(日) 02:16:09.52 ID:ntc75ope0

荒潮 「それに・・・」

朝潮 「それに?」

荒潮 「さっき言ったとおり、精神の不安定は同調に影響するでしょ?」

朝潮 「そうね」


 精神の不安定や疲労による集中力低下は同調に影響した。

 同調の際は波打つ海上であろうと精神はコップの水のように静かでなければならなかった。


荒潮 「轟沈する娘は怖さに囚われて同調を乱したからとみんな思ってるわ」

朝潮 「そんなこと思い込みじゃ」

荒潮 「同室の子、轟沈した満潮ちゃんは・・・」


 荒潮はすくったお湯に映る自分を見る。


荒潮 「そうだ、朝潮ちゃんは轟沈ってわかる?」

朝潮 「言葉は」

荒潮 「言ってみて」

朝潮 「戦闘中に同調が切れて絶命することよね」

荒潮 「教科書通りね〜、凄く正しい」

荒潮 「ところで、轟沈した艦娘がどう死ぬかわかる?」

朝潮 「・・・」

荒潮 「朝潮ちゃんは考えなかっただけでわかるはずよ〜・・・大破した時の痛みで、傷で」

荒潮 「同調が切れた瞬間に艦娘は死ぬそうよ」

朝潮 「そうなんだ」


 荒潮の指摘通り朝潮はおおよそわかっていた。初出撃の大破のときから。

 けど、今荒潮がその話をすることが朝潮にはわからない。

182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/03/01(日) 02:17:07.21 ID:ntc75ope0

荒潮 「痛覚を抑える能力が落ちて絶命するほどの痛みを感じるからか」

荒潮 「防御壁が消えて生命維持が不可能なほど体がボロボロになるからか」

荒潮 「正確なことはわからないらしいわ」

荒潮 「けど、朝潮にもここまでは想像が付くでしょう?」


 朝潮は無言でうなづく。


荒潮 「で、死体はどうなると思う?」

朝潮 「海上に浮翌遊する能力も消えるから・・・沈むんじゃない?」

荒潮 「正解よ」

荒潮 「轟沈した艦娘はね、沈むの」

荒潮 「艤装に海底へ引きずり込まれるとか言われているわ」

荒潮 「だから死体は出ないし、出ても千切れた部位だけ」

荒潮 「満潮ちゃんも・・・何も・・・帰ってこなかった」


 荒潮のすくったお湯の波が強くなる。

 手が震えていた。涙はぬれた頬に流れているかはわからない。

183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/03/01(日) 02:18:53.12 ID:ntc75ope0

荒潮 「轟沈した艦娘に鎮守府がすることはないの」

荒潮 「葬式も何も・・・動揺するからってないわ」

荒潮 「千歳さんが言ってたように、緊急の戦力補強を名目に資材が少し多く配当されるだけ」

荒潮 「轟沈してすぐ満潮ちゃんは完全に消えたわ」

荒潮 「みんな忘れようとしてた」

荒潮 「泣いてる私に遠征が何度も指示されて・・・」

荒潮 「轟沈した時に同じ第一艦隊だった時雨ちゃんも何もないように・・・」

荒潮 「むしろ、満潮ちゃんの轟沈前より張り切って出撃していたわ」

朝潮 「だから、それは・・・それしか満潮ちゃんのためにできることがなかったからじゃないの?」

荒潮 「そうすることを満潮ちゃんが望むの?」


 朝潮は答えられない。


荒潮 「みんな時雨ちゃんのように・・・提督の言葉に近い想いを持って出撃してるわ」

荒潮 「轟沈した仲間のために・・・いい言葉よね」

朝潮 「そうするしかないじゃない」

荒潮 「そうかもね、何があったって深海棲艦の侵攻は止まらないのだから」

朝潮 「そうよ、悲しみを抑え込んで必死に戦うしかない」

荒潮 「悲しみ?必死に戦う?最初だけなのよ」


 少し話すトーンの変わった荒潮に朝潮が視線を向けると無表情な荒潮がこちらを見ている。

 話し方は機械の様に平坦で、目に力はない。

184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/03/01(日) 02:23:28.45 ID:ntc75ope0

荒潮 「本当に最初だけ」

朝潮 「最初だけ?」

荒潮 「無茶な出撃が益々出撃と轟沈に拍車をかける」

荒潮 「轟沈した艦娘の分まで出撃しなければならない疲労と精神的な重圧・・・」

荒潮 「私の涙が枯れた頃に満潮ちゃんの轟沈のせいで出撃が増えたと愚痴る時雨ちゃんを見たわ」

荒潮 「怖がって同調を乱して勝手に沈んでいい迷惑だよって」


 前を見据える荒潮の声は震えてきていた。


朝潮 「時雨ちゃんも本心で言ったんじゃ・・・」

荒潮 「本心よ。それに別に時雨ちゃんだけじゃない」


 鎮守府の事情に通じた荒潮がいい加減なことを話すことはなかった。

185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/03/01(日) 02:24:32.90 ID:ntc75ope0

荒潮 「よくあることなのよ」

朝潮 「そんな・・・」

荒潮 「だから轟沈した娘のために出撃するのはほんの最初だけ」

朝潮 「人間そんなにすぐ忘れられないわよ」

荒潮 「いつも誰かが轟沈してるから一々深く悲しんだりしてられない」

朝潮 「そんな・・・異常よ」

荒潮 「異常なことも頻繁にあればそれが普通になるわ」

朝潮 「おかしいわよ」

荒潮 「信じられない?」

朝潮 「だってそんなに轟沈があるなら高い戦果と士気が説明できない」

荒潮 「いつも誰かが轟沈してるって言ったでしょ?」

朝潮 「えぇ」

荒潮 「毎日変わるのよ、轟沈した仲間のためにの”仲間”がね」

朝潮 「どういうこと?」

荒潮 「満潮ちゃんのために出撃があったのが三日と言えばわかる?」

朝潮 「次の轟沈が起こったってこと?」

荒潮 「そう」


 轟沈は熟練提督なら年で一人出るか出ないかだ。

 この頻度は異常と朝潮でもわかる。

186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/03/01(日) 02:27:37.89 ID:ntc75ope0

荒潮 「満潮ちゃんは・・・仲間だって帰ってこない」

荒潮 「それなのに日々変わる轟沈した仲間のために出撃してまた轟沈する」

荒潮 「そうやってるから結果的に士気と戦果が高いだけよ。この鎮守府は」


 荒潮がすくったお湯が指の隙間からこぼれる。


朝潮 「言い過ぎよ・・・」

荒潮 「満潮ちゃんは・・・いい子だったわ、朝潮ちゃんみたいに真面目で」

荒潮 「人を思いやって鎮守府のみんなが大好きで!」

朝潮 「荒潮だってそうじゃない」

荒潮 「私は違う!・・・違うのよ」


 荒潮はすくったお湯で時々顔をぬぐった。


荒潮 「満潮ちゃんは」

荒潮 「この鎮守府の朝潮型で初の第一艦隊になった艦娘よ」

荒潮 「それでも私たちと気取ることな接してくれていたわ」

荒潮 「私と朝潮もそうだけど、こっちの方が異常なの。お給金も待遇も違うのだから」

荒潮 「他にも第一艦隊所属の駆逐艦がいるのに私たちに集まるのはそういう訳なのよ」

朝潮 「そう・・・」

187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/03/01(日) 02:30:51.93 ID:ntc75ope0

荒潮 「満潮ちゃんは今の私たちみたいに色々話してくれたわ」

荒潮 「深海棲艦それも戦艦の強力な攻撃をかいくぐって砲撃して小破させたとか、色々ね」

荒潮 「私と霞と大潮の憧れだった、大切な友達だった」

荒潮 「轟沈する前日も二段ベッドの上下で明日も頑張ってねと話してたわ、私たちがするように」

荒潮 「変わらない日常だったのよ、何の前触れもなく満潮ちゃんは轟沈した」

荒潮 「誰も悲しんでいないから言われるまで轟沈に気付かなかったの、笑えるでしょ」

荒潮 「翌日満潮ちゃんに家族がいないから前いた孤児院に残った荷物を送ることになったわ」

荒潮 「同室だから私が作業に当たった」

荒潮 「荷物を整理していると読んだことのない満潮ちゃんが大事にしてた日記が出てきたの」

荒潮 「今でも読まなければと思うことがあるわ」

荒潮 「日記の方は殆ど私たちと一緒だった時のことばかり嬉しそうに書いてあった」

荒潮 「誇らしげに話してた出撃の日記の内容は危なかったとか怖い辞めたいばかりだった」

荒潮 「私たちは誰も何も満潮ちゃんの気持ちをわかってなかった」

荒潮 「今思えば轟沈への恐怖の中で私たちと話してたのが一番楽しい思い出だったのかもしれない」

荒潮 「私は同じ部屋にいる満潮ちゃんのことを自分の半身のように思ってた」

荒潮 「戦果を上げたことを自分のことのように喜んでたわ」

荒潮 「けど、それだけで・・・悲しさも恐怖も共有できていなかったのよ」

荒潮 「満潮ちゃんは寂しかったと思う」

荒潮 「それでも勇気を振り絞ってそれを見せないで出撃してた」

荒潮 「それなのに私・・・自分勝手よ」

朝潮 「そんなことない!!」

荒潮 「慰めなんていらない・・・」

188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/03/01(日) 02:32:54.50 ID:ntc75ope0

荒潮 「満潮ちゃんの勇気を見てきたのに、もう第一艦隊から外れたいなんて」

荒潮 「けど怖いのよ、亡くなって数日で忘れられて、それどころか陰口を叩かれるのが」

荒潮 「寂しがりやだから嫌なのよ、何もなくなるのも。朝潮にも忘れられたくない、家族にも、みんなにも・・・」

荒潮 「そう思っちゃいけない?」

朝潮 「・・・」


 こちらを見た荒潮の目の赤さが未だ白い肌に際立った。


荒潮 「死ぬのが怖いの」

荒潮 「こんなこと朝潮に話すことじゃないわよね、ごめんなさい」

朝潮 「じゃあ、今日の出撃は」

荒潮 「満潮ちゃんの日記で恐怖の部分だけが現実味を帯びて大きくなっていってるのよ」

荒潮 「この頃夢で見たことない満潮ちゃんの轟沈した場面を見るの」

荒潮 「自分が第一艦隊で出撃しているから日に日に内容が鮮明になるのよ」

荒潮 「さっきのは嘘、今日の出撃では平静を保つので精一杯だったのよ」

荒潮 「よくできてたでしょ?」

朝潮 「大破しちゃってたじゃない」

荒潮 「そうね」フフ


 荒潮が自嘲気味に笑う。初めて荒潮がそう笑うのを朝潮は見た。

189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/03/01(日) 02:35:17.05 ID:ntc75ope0

朝潮 「満潮の戦いも、残された第一艦隊の戦いも無駄じゃない」

朝潮 「誰かがやらないといけないことだから」

朝潮 「私たち艦娘が」

朝潮 「艦娘だけが戦って守ることができるのだから」

荒潮 「そうね」

荒潮 「勝手に適性を与えられて生死の狭間で戦わされるのは私たちにしかできないことよ」

荒潮 「それを誇らしいと思わないことはない、今も意味がないこととは思わない」

荒潮 「けど、私には無理なの、さっき言った気持ちの部分だけじゃないわ」

荒潮 「私は何より孤児院の家族が大切で見捨てられない」

朝潮 「見捨てる?」

荒潮 「満潮ちゃんのいた孤児院から手紙が来たの遺族補償じゃ足りないから献金が欲しいって」

荒潮 「日記を読んだんでしょうね、私の名前が一番多く書いてあったから」

荒潮 「駆逐艦が轟沈しても大して遺族補償なんて出ないのよ」

荒潮 「階級や仕官年数で遺族補償が変わるように入って間もない駆逐艦に大した額が支給される訳ない」

朝潮 「払ったの?」

荒潮 「払ったわ・・・少し」

朝潮 「・・・」

荒潮 「妹たち弟たちのためにも。私は[ピーーー]ないのよ・・・」


 朝潮は何もなぐさめることができないのが悔しかった。

190 : ◆oUFoaE/FvU [sage]:2015/03/01(日) 02:36:31.65 ID:ntc75ope0
>>189  訂正
次の私の米と入れ替えを
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/01(日) 02:38:01.42 ID:ntc75ope0

朝潮 「満潮の戦いも、残された第一艦隊の戦いも無駄じゃない」

朝潮 「誰かがやらないといけないことだから」

朝潮 「私たち艦娘が」

朝潮 「艦娘だけが戦って守ることができるのだから」

荒潮 「そうね」

荒潮 「勝手に適性を与えられて生死の狭間で戦わされるのは私たちにしかできないことよ」

荒潮 「それを誇らしいと思わないことはない、今も意味がないこととは思わない」

荒潮 「けど、私には無理なの、さっき言った気持ちの部分だけじゃないわ」

荒潮 「私は何より孤児院の家族が大切で見捨てられない」

朝潮 「見捨てる?」

荒潮 「満潮ちゃんのいた孤児院から手紙が来たの遺族補償じゃ足りないから献金が欲しいって」

荒潮 「日記を読んだんでしょうね、私の名前が一番多く書いてあったから」

荒潮 「駆逐艦が轟沈しても大して遺族補償なんて出ないのよ」

荒潮 「階級や仕官年数で遺族補償が変わるように入って間もない駆逐艦に大した額が支給される訳ない」

朝潮 「払ったの?」

荒潮 「払ったわ・・・少し」

朝潮 「・・・」

荒潮 「妹たち弟たちのためにも。私は死ねないのよ・・・」


 朝潮に反論する気は元からなくても、何もなぐさめることもできないのが悔しい。

 唇をかみ締める朝潮にいつもの顔の荒潮が話しかける。

192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/01(日) 02:38:52.55 ID:ntc75ope0

荒潮 「話したらすっきりしちゃった」

朝潮 「・・・」

荒潮 「満潮ちゃんならこんな相手に何かを背負わせるような話はしなかったわ」

荒潮 「私は満潮ちゃんになりたかったけどなれなかった」

朝潮 「荒潮と満潮は違うのだから仕方ないわよ」


 それ以上何も言えなかった。


荒潮 「あがる〜?」

朝潮 「うん」



ちゃぽん


 浴室内の水滴が付いた時計は朝潮が思ったより時間が経過していないことを示していた。

 大浴場にいるメンバーは余り変わっていない。

 しかし、朝潮にとって脱衣所まで目に映る人間が全て当初より別人のように思えた。



―――――
―――


193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/01(日) 02:40:29.82 ID:ntc75ope0


パリパリ


 新しい制服を包むビニール袋を開ける。

 新しい衣服のにおい、のりのにおい、それと・・・。


朝潮 クンクン

荒潮 「いつもしてるけど、何してるの〜?」


 朝潮を覗きこむ荒潮。格好は二人とも下着のみ。

 艦娘の制服は常在戦場を旨とする鎮守府内では着用必須だ。

 ただ、女性ばかりの寮関係施設では、夏は下着のままうろつく艦娘さえいる。


朝潮 「引かないでね?」

荒潮 「うん?」

朝潮 「新しい制服のにおいをかいでいるの」

荒潮 「何かにおうかしら?」クンクン

朝潮 「潮とすっぱい?においかな・・・」クンクン

荒潮 「工場のにおいじゃないんだ、へ〜」クンクン

朝潮 「少し前までそうだったわ、今はこんなにおい」

荒潮 「なるほど、すえたにおいね・・・」クン


 荒潮が難しそうな顔をする。

194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/01(日) 02:41:08.68 ID:ntc75ope0

朝潮 「どうしたの?」

荒潮 「朝潮ちゃん、このこと余り話さない方がいいかもしれないわ〜」

朝潮 「ごめん、はしたないよね?」

荒潮 「違うわよ〜」フフ

朝潮 「な、なんで?」

荒潮 「   」ヒソヒソ

朝潮 「えっ」

荒潮 「今でも提督は大和さんと衣料室で仲良しみたいねー」ウフフ

朝潮 「ハハ・・・」


 提督が艦むすと二人きりになることができる空間は割と少ない。


荒潮 「朝潮ちゃんは下着にこだわりあるのー?」

195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/01(日) 02:42:40.19 ID:ntc75ope0

 損傷がわかる高性能な制服は艦種で完全指定だ。

 しかし、制服以外の部分はいくらか選ぶことができた。

 (靴下タイツスパッツ手袋腕当てリボンネクタイ髪留めアクセサリー下着etcetc)

 と言っても選択できるのは全て海軍の審査を受けたものだけだ。

 当然、制服のように対衝撃耐熱対磨耗に優れていた。

 時々、審査外の化繊下着やアクセサリーを付けた艦娘が、

 戦闘の熱で皮膚にそれを癒着させてしまい自己回復能力が働かなくなる事故があった。


朝潮 「んー、ニーソックス?少しでも体を覆う布の面積があった方が安全かな・・・なんて」

荒潮 「なるほど、朝潮ちゃんらしいわね」フフ


 朝潮は他にも色々想像していた。

 足に艤装を付けるような艤装を緊急で任される時があるかもとか、色々だ。


朝潮 「荒潮はスパッツにこだわりがあるの?」

荒潮 「なんで〜」

朝潮 「朝潮型は足に艤装付けないから特にスパッツじゃなくてもいいわよね」


 朝潮型が腕当てを付けるのは艤装を腕に付けるからで、

 同様に足に艤装を付ける艦種はスパッツやタイツで艤装の触れる部分を覆う艦娘が多かった。

196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/01(日) 02:44:09.64 ID:ntc75ope0

荒潮 「そうね〜・・・こだわりはないけど」

荒潮 「艦娘になる前に余りスカートってはかなかったから〜」

朝潮 「そうなんだ」

荒潮 「スカートって小さい子が引っ張るから」

朝潮 「そういえば私も小さい頃お姉ちゃんのひっぱってたかも・・・」

荒潮 「どこも同じね〜」フフ

朝潮 「けどそうやってはけなかったなら尚更スカートでおしゃれしたいとかは?」

荒潮 「私も同じこと考えてのたけど、いざ慣れないスカートだけだと」

朝潮 「?」

荒潮 「すーすーするのが」

朝潮 「なるほどね。ふふ、それにしても意外」

荒潮 「ん〜?」

朝潮 「荒潮はそういうのみんなに合わせるイメージがあるから」


 艦隊や寮の割り振りは、指導や運用の都合から同じ艦種かつ〜型で一緒にされやすい。

 当然、同じ艦種や〜型で仲良くなれば制服以外の格好を揃える娘も多かった。


荒潮 「同調するのに集中力を使うから慣れた格好を今から変えるのもね〜」

朝潮 「そういうこと荒潮も気を付けるのね」

荒潮 「私は人一倍気を付けてるわよ〜」

朝潮 「そう・・・」

197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/01(日) 02:46:10.10 ID:ntc75ope0

 着替えの終わった二人はお互いの髪を乾かす。

 ここでも荒潮は上手だ。乾かし方より頭を走る指が気持ちいい。

 してあげる妹や弟に静かにしてもらうためのテクニックなのだろう。


朝潮 「うーん・・・衣装を変えないって言うほど効果あるの?」

荒潮 「ないかな〜気休めとか験をかつぐために近い感じよ〜」

朝潮 「験をかつぐ?」

荒潮 「うん、そういえば他の人も同じようこと色々してるわ〜こういう鎮守府だから」

朝潮 「そうなんだ、気付かなかった・・・」

荒潮 「朝潮ちゃんはそういうの信じなさそうよね」

朝潮 「そうかも・・・」

荒潮 「そうだと気付かないわよね」

朝潮 「具体的にはどういうことやるものなの?」

荒潮 「人によるわよ〜、気付いてるだけでも沢山」

荒潮 「よくあるのが朝食を決めたものにしたり、指揮作戦艇に乗る足を限定したりね〜」

朝潮 「そんなにあるんだ、気付かなかった」

荒潮 「気にしていなければ気付かないわよ〜」

朝潮 「そうかな?」

荒潮 「そうよ、わざわざ人に言うことじゃないから〜」

198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/01(日) 02:49:21.87 ID:ntc75ope0

朝潮 「荒潮は信じてるの?」

荒潮 「信じてると思うわ」

朝潮 「思う?」

荒潮 「それで少しでも気持ちが上向きになればいいなって、いいことしか信じないの」

朝潮 「荒潮らしい」フフ

朝潮 「荒潮の験担ぎって何か教えてもらえる?」

荒潮 「制服をまめに新しいのに変えたりかしら〜」

朝潮 「綺麗好きだなとは思ってたけど」

荒潮 「朝潮ちゃんは真面目すぎよ〜」

朝潮 「え?何が?」

荒潮 「少しの損傷なら制服変えないでしょ、制服も貴重な物資だからとか思ってる?」

朝潮 「そうかも・・・」

荒潮 「それは験担ぎ以前の問題よね〜」

朝潮 「うーん」

荒潮 「制服より朝潮ちゃんの方が大事なんだから〜」

朝潮 「ありがとう、けど孤児院のくせでものを捨てられないというか・・・」

荒潮 「気持ちはわかるけどね〜」

朝潮 「でしょ?」

荒潮 「でも、ものを大切にする朝潮ちゃんが危険な目にあうのをそのものは喜ぶかしらね〜」

朝潮 「うっ、ものさん心配かけてごめんなさい」

荒潮 「フフフ」


 これまでも色々話してきた。

 けど、このようなお互いを改めて確認するような話はしなかった。

 それはそれが必要なかったからだ。今はこの時間が惜しい。


朝潮 「荒潮、ごめん」

荒潮 「な〜に〜?」

朝潮 「荒潮は、タイミングとか考えてると思うけど」


 だから朝潮は、風呂から出てからこの話題には触れなかった。


朝潮 「今執務室にいる加賀さんにさっきのこと話した方がいいと思う」


 それにいいようのない卑怯さを朝潮は感じていた。

199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/01(日) 02:50:49.13 ID:ntc75ope0

荒潮 「提督に言った方が・・・」

朝潮 「そんなこと言ってたら出撃の時みたいになるかもしれないじゃない」

荒潮 「それはそうだけど」

朝潮 「一緒に行くから言いに行こう」


 朝潮は荒潮の穴だらけの制服を自分の破れた制服と一緒に脱衣所すみの専用かごに投げ込むと、荒潮の手を引く。


荒潮 「うーん・・・」


 何かいいたげに考え込む荒潮が気にかかった。


―――――
―――


200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/01(日) 02:52:27.63 ID:ntc75ope0


〜執務室〜



加賀 「・・・無理よ」


 加賀は視線をPCのモニターに向けたまま言い放つ。


加賀 「これ以上、用がないなら下がりなさい」

荒潮 「・・・」

朝潮 「何でですか?」

加賀 「この出撃体制が当分続くからよ」


 加賀は目の前の機械より冷たく機械的に話した。


朝潮 「轟沈するからですか?」

荒潮 「朝潮ちゃん・・・」

加賀 「そうよ、だから減ると回らないの」

朝潮 「轟沈が前提なら尚更一人くらい抜けても大丈夫ではないでしょうか?」

荒潮 「朝潮ちゃん!!!」

朝潮 「」ビクッ

荒潮 「朝潮ちゃん、加賀さんじゃどうにもできないわ」

朝潮 「?」


 荒潮が何か言いたそうにしてるのを、朝潮は決心が鈍らないよう無理やり引っ張って来ていた。

201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/01(日) 02:53:50.40 ID:ntc75ope0

加賀 「その通りよ、わかったら帰って今朝の報告書を作りなさい」

荒潮 「ごめんなさい、朝潮ちゃん・・・わかってたの」

荒潮 「それなのに朝潮ちゃんが引っ張るのに抵抗しないで」

朝潮 「どういうこと?」

大和 「編成の決定権は司令官にあるのよ」


 執務室のドアを開けて大和が入って来た。空気が変わる。


加賀 「何の用?」


 加賀はようやく視線を上げる。


大和 「廊下まで聞こえる声で話してたから諌めに来ただけよ」

加賀 「・・・声を荒げた積もりはないけど」

加賀 「丁度いいから、そこの二人を連れて出て行ってくれるかしら?」

大和 「諌めに来たのはあなたよ」

加賀 「・・・」

202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/01(日) 02:55:12.48 ID:ntc75ope0

大和 「話を聞いて提督に進言するくらいできるでしょう?」

加賀 「無意味よ」

加賀 「私は朝潮と荒潮を第一艦隊から除外するよう既に提督に進言したわ」

加賀 「成績が低い上に今日の大破もあったから」

大和 「提督は何とおっしゃって?」

加賀 「提督は朝潮と荒潮を第一艦隊で使い続けるお積もりよ」

大和 「加賀が口下手だから説得できなかったんじゃないかしら」

加賀 「提督は彼女達を一時旗艦にすえて鍛えてでも、第一艦隊から下げないと強くおっしゃったわ」

朝潮 荒潮 「!?」

加賀 「外れるなんて無理でしょうね」

大和 「士気の低い子を送り出して轟沈したらどうするの?」

大和 「加賀さんあなた・・・責任を取れるの?」

加賀 「あなたが秘書艦だった時も轟沈する艦娘がいたようだけど責任はどう取ったのかしら」

大和 「私は人員が不足するようなことがなければ無理やり戦闘に駆り出すことはしなかったわ!」


 大和が加賀を睨む。朝潮と荒潮は蚊帳の外だ。

203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/01(日) 02:58:44.68 ID:ntc75ope0

大和 「無理かどうかは別よ」

大和 「荒潮ちゃんの気持ちを汲んで提督をもう一度精一杯説得すべきなんじゃないの?」

加賀 「・・・そうね。そうやって子供を騙して気持ちよく出撃してもらうなんて方法、勉強になるわ」

大和 「・・・」キッ


 大和に睨まれても加賀は何もないように執務を再開した。

 当然放たれる加賀の言葉はまた温度を失った。


大和 「加賀さん、荒潮ちゃんに顔をちゃんと向けて説得することを約束してくれる?」


 やっと顔を上げた加賀は、表情を一切動かさず荒潮に言った。


加賀 「あなたが第一艦隊から外れることで」

加賀 「練度の足りない仲間が出撃して轟沈しても・・・あなたは耐えられるのね?」


 この言葉に朝潮と大和は一瞬硬直し、荒潮を見る。


荒潮 「・・・」


 荒潮は少し固まった後に静かにうなずいた。


大和 「そんな言い方

加賀 「わかったわ。その覚悟があるなら大丈夫ね」


 加賀は顔をPCに戻し執務を再開した。

204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/01(日) 02:59:43.30 ID:ntc75ope0

大和 「・・・」イラ

荒潮 「ありがとうございます。失礼します」グイ

朝潮 「しっ失礼します」

加賀 「待って」

朝潮 荒潮 「!?」ドキ

加賀 「この件は朝潮と荒潮しか知らないわよね」

荒潮 「・・・はい」

加賀 「これからも口外しないことね、後提督の説得は期待しないことよ」

荒潮 「はっはい」

加賀 「下がっていいわ」

朝潮 荒潮 「失礼します」


 朝潮の服を荒潮が強く引いた。


―――――
―――


205 : ◆oUFoaE/FvU [sage]:2015/03/01(日) 03:00:32.10 ID:ntc75ope0
今回投下分終了です。
ご読了ありがとうございます。
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/01(日) 03:10:13.82 ID:n/ovY9Jfo
乙ゥ
轟沈させた責任言うなら相手が違いますぞ大和さん
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/01(日) 05:37:01.01 ID:uZtHTVJSO
大和と提督が何やってるかも気になるし、スレタイにどう持っていくのかも気になるねぇ。
208 : ◆oUFoaE/FvU [sage]:2015/03/01(日) 21:56:49.29 ID:ntc75ope0
>>206
お米ありがとうございます。アニメの大和さん可愛かったですね。

>>207
お米ありがとうございます。菱餅掘ってるんじゃないですかね。
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/02(月) 17:21:07.49 ID:zsrpK5/q0
乙です〜。200レスとは思えない文章量と濃い内容に大満足。
正妻と脳内誤変換したのが、読んだキッカケ "orz
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/02(月) 23:48:22.60 ID:GScU4FX6o
制裁の内容に期待がかかる
このフラストレーションのカタルシスでどんだけ感じさせてくれるのか

轟沈を当たり前と考える提督は許しがたいね
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/03(火) 09:06:33.16 ID:GxFtxs0P0
面白い、続きが気になります

熟練提督は滅多に轟沈無しか、結構ヌルヌルなのねこの世界
212 : ◆oUFoaE/FvU [sage]:2015/03/07(土) 12:23:16.97 ID:4nzYYJ1H0
>>209
お米ありがとうございます。
お楽しみいただき幸いです。
お米が少ないから濃厚なのは仕方ないね。
文章量はもっとスマートにしたいと個人的には思っています。
題名は209様のお米通りの『朝潮「正妻」』が元祖でありました。
内容はラブコメです。ここの朝潮と違って真面目馬鹿で私生活でも敬語使うような娘でした。
気付いたらこんな内容になってしまい投下前に迷った末、今の題名になりました。

>>210
お米ありがとうございます。
さぁ、どうなるでしょうか。そもそもこれで終ったのでしょうか。

>>211
お米ありがとうございます。
ゲームに近い世界観で作ったつもりです。
十分に注意すれば轟沈しない優しい世界です。表面は。
213 : ◆oUFoaE/FvU [sage]:2015/03/11(水) 01:09:58.88 ID:JUVxH4nq0
投下再開します
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/11(水) 01:11:41.74 ID:JUVxH4nq0


〜朝潮と荒潮の部屋〜


荒潮 「最低だと思った?」


 先に部屋に入った朝潮の背中に、荒潮はドアを閉めながら話しかける。


朝潮 「ううん」

荒潮 「嘘でも嬉しいわ」

朝潮 「嘘じゃない」


 万が一代わりに艦娘が出たとき一番苦しいのは満潮の死に誠実に向き合った荒潮だろうと朝潮は思った。


荒潮 「編成権は提督が持ってるから、私からできるのはお願いだけ」

荒潮 「元から無理だとわかっていたのよ」

朝潮 「そう」

荒潮 「ごめんなさい、朝潮ちゃんにこんなに気持ちを背負わせて」

朝潮 「そんなことない」


 ドアの前で涙ぐむ荒潮を朝潮は抱きしめた。

 今の荒潮に朝潮型のお姉さんとしてみんなをまとめていた包容力はない。

 強く抱きしめると折れてしまいそうだった。

215 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/11(水) 01:12:36.76 ID:JUVxH4nq0

荒潮 「大丈夫、ありがとう」

朝潮 「・・・」


 そっと朝潮から離れた荒潮は席につき報告書の作成を始める。

 朝潮はその背中を見つめる。


朝潮 「荒潮は」

朝潮 「荒潮は艦娘になれたことを後悔してる?」

荒潮 「・・・してないわ」

荒潮 「朝潮にも会えた」

朝潮 「うん」


 こういう時に満潮という子はどうなぐさめたり話したりしたのだろうか。

 朝潮はこの部屋が荒潮と自分を乗せたまま沈降していくかのような気がした。


―――――
―――


216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/11(水) 01:13:34.23 ID:JUVxH4nq0


〜埠頭〜


 今日最後の出撃からの帰港。時間は夕暮れ。

 緊張を解かれた艦娘たちが安堵の表情で桟橋をカタカタ踏み下船する。

 その桟橋の近くで無表情な加賀が立っている。

 提督が艇内から現れ桟橋を渡る。


加賀 「お疲れ様」

提督 「どうした」

加賀 「お話が」

提督 「珍しいな」


 提督は加賀に構わず執務室の方向に向かうと加賀も並んで歩き出した。


加賀 「戦果は?」

提督 「ぼちぼちだ」

加賀 「そう」

提督 「加賀の艦隊と同じだ、全員浮き足立ってる」

加賀 「私の艦隊が浮き足立ってる・・・ね」

217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/11(水) 01:14:38.49 ID:JUVxH4nq0

提督 「心当たりがあるか?」

加賀 「反省会でもそういう話になったわ」

提督 「ふむ」

加賀 「提督の所見を聞かせてもらえる?」

提督 「いいぞ」

提督 「まず荒潮と朝潮の大破だ」

提督 「あれは単に練度の低いあいつらが原因じゃない」

提督 「朝潮や荒潮は最初対潜メインで攻撃してるから敵戦艦の動きまで把握できん」

提督 「加賀も同様だ、制空権争いがあるからな」

加賀 「そうね」

提督 「あれは索敵値の高いほかの艦で敵の状況を確認し合うべきだった」

提督 「落ち度があるなら艦隊の目なのにそれをおろそかにした・・・利根や筑摩になるだろうな」

加賀 「彼女達にしては初歩的なミスよね」

提督 「実際の反省会ではどういう話になった?」

加賀 「提督が今言った通りの内容で会議が進んだわ」

提督 「そうなるだろうな」

提督 「他の艦隊も同じだ、冷静さがないからくだらんミスが多い」

提督 「クズどもが・・・」

加賀 「なるほどね」

提督 「初日とは言え酷い」

提督 「この戦果が続くようなことがあれば地方本部長官の椅子が遠のく・・・」


 イラついた様子で歩きが少し速くなる。

218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/11(水) 01:15:51.40 ID:JUVxH4nq0

加賀 「ところで、轟沈防止の件覚えてる?」

提督 「覚えてる」

加賀 「今日のような状況の建て直しもしないといけないから急いだ方がいいと思うの」

提督 「何か考え付いたか?」

加賀 「出撃中の損傷確認を提督だけでなく旗艦も行うというのはどうかしら?」

提督 「私と旗艦でダブルチェックするのか」

加賀 「えぇ」

提督 「いいんじゃないか、それで浮ついた奴らも落ち着くだろう」

加賀 「・・・」

提督 「どうした?」

加賀 「いえ、それと荒潮が第一艦隊から外れたいと言ってるわ」

提督 「そんな話を上げるな」チッ

加賀 「そう思って断ったのだけど」

加賀 「大和さんが秘書艦なんだからどうにかしろと嫌味を言うものだから」

提督 「大和には後で言っておく」

提督 「轟沈より士気に影響するぞ、第一艦隊から外れることを許したら」

加賀 「荒潮が希望していたことが漏れなければ文句はないでしょう?」

提督 「それはな」

提督 「低成績で外すという体裁が整うからな」

加賀 「口止めしたから知っているのは恐らく朝潮と大和だけよ」

219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/11(水) 01:16:46.50 ID:JUVxH4nq0

提督 「外せと言うのか、加賀は」

加賀 「判断の材料を用意しただけ」

提督 「加賀の意見は?」

加賀 「外さない方がいいと思うわ」

提督 「そう言うだろうな」

加賀 「編成に艦娘が口出しするなんてご法度よ」

提督 「建前は別として、荒潮の士気は艦隊に影響しそうか?」

加賀 「荒潮はかしこいから無理だってわかってるわ」

提督 「だから?」

加賀 「第一艦隊に大きな影響はないでしょうね」

提督 「今日の大破を加味してもか?加賀」

加賀 「そうよ」

提督 「ふむ」

加賀 「ただ、朝潮に影響するかもしれないわ」

提督 「ありそうな話だな」

加賀 「どうする積もり?」

提督 「旗艦で運用して決める」

加賀 「使えるなら第一艦隊継続ね」

提督 「あぁ、荒潮の後継を考えておけ」

220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/11(水) 01:19:26.33 ID:JUVxH4nq0

加賀 「現時点での荒潮の評価は?」

提督 「いいよ」

加賀 「意外ね」

提督 「おれ好みかと言われればNOだ、才能がない」

提督 「艦娘の保有人員上限がなくなるくらい溢れて選べる事態になればすぐ解体という名の解雇だ」

加賀 「でしょうね」

提督 「ただ、孤児院育ちの艦娘に多いが、周囲の顔色をうかがう癖が強いだろ、荒潮は」

加賀 「そうね」

提督 「あの若さで珍しく視野が広い、戦況と艦隊の状況を加味して動けてる」

提督 「今は交代させる気は一切ない」

加賀 「そう・・・」


 提督が執務室の厚いドアを開け息を吐きながら椅子につく。加賀も自分の椅子に。

221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/11(水) 01:20:14.48 ID:JUVxH4nq0

提督 「ダブルチェックの話に戻そうか」

加賀 「はい」

提督 「戦闘に影響を出さずに簡単に実行できると思うか」

加賀 「問題ないと思うわ」

加賀 「面倒なのは旗艦になる艦娘は損傷資料の暗記が必要なことくらいね」

加賀 「提督は気になることはあるかしら?」

提督 「ないと言えば嘘になるか、元々何で提督だけで確認するかという話だ」

加賀 「それもそうだけど」

提督 「気にしなくていい。そんなやわなのはおらんだろ」

加賀 「どうかしらね」

提督 「構わん、ダブルチェックは採用だ」

提督 「専用のマニュアルと報告書の策定を頼めるか?」

加賀 「はい」

提督 「上にも提出できるように丁寧にな」

加賀 「そうね」

提督 「第一艦隊の士気と集中力を最盛期まで戻すのが第一義だ」

提督 「一緒に地方本部の疑いも晴れるなら尚いい」

222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/11(水) 01:23:13.62 ID:JUVxH4nq0

加賀 「そうそう、よく旗艦になる娘なら損傷具合は元からわかるでしょうけど朝潮は

提督 「朝潮は明日から旗艦にするぞ」

加賀 「は?」

提督 「決断は早い方がいいからな」

提督 「荒潮もそうだが、朝潮も結果を出せなければ一緒に第一艦隊から下ろす」

加賀 「時間がなさ過ぎるわ」

提督 「そうでもないだろ、艦隊の一人は荒潮にするから覚える必要があるのは四人だ」

提督 「加賀も入れれば、加賀の損傷は覚えなくていいから三人だな」

加賀 「数字の上ではね」

加賀 「旗艦ならやることがそれだけじゃないことはわかるでしょ?」

提督 「問題ない」

提督 「損傷はおれも確認するし、旗艦といっても駆逐艦だからいつもより多めにおれがフォローする」

加賀 「無茶よ」

提督 「御託はいい」

提督 「朝潮を呼べ、明日の出撃を打ち合わせる」

加賀 「・・・」


 旗艦は提督と執務室で調整に当たる。


 加賀は無言で執務室を出て行く。

 加賀のこういう時は不満を感じている時と提督にはわかっている。


加賀 「また悪い癖・・・」



―――――
―――


223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/11(水) 01:25:07.38 ID:JUVxH4nq0


〜朝潮と荒潮の部屋〜

 提督が執務室に戻る少し前。


 朝潮は命令違反以上に出撃後の反省会議で責められることはなかった。

 むしろ、敵を見失った日向と利根と筑摩が責められた。

 合理的且つ冷静に戦局が見直された。

 それはそれで朝潮にはこたえた。


 荒潮はあれから諦めからか表面はいつも通りにもどっている。


荒潮 「加賀さんたち予想以上に私たちを責めなかったわね〜」

朝潮 「そうね」

荒潮 「何かご不満〜?」

朝潮 「いえ・・・」

荒潮 「責められた方がスッキリするのにとか思ってる?」

朝潮 「そんなこと・・・」

224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/11(水) 01:25:54.65 ID:JUVxH4nq0

荒潮 「引き摺らないことよ、精神状態って同調に影響するから」

朝潮 「・・・そんなことできる?」

荒潮 「私はできなかった」

荒潮 「けど、この鎮守府の第一艦隊にいればいずれはそうなるわ〜」

荒潮 「精神的不感症にならないと辛すぎるの」

朝潮 「みんなそうなるもの?」

荒潮 「日向さんみたいな人もいるけど少数派よ」

荒潮 「利根さん筑摩さん加賀さんみたいに余り他の人と交流を持たない方が気楽よ」

朝潮 「そうかもしれないけど・・・」


 飄々と荒潮が話す内容は実際の荒潮と乖離していた。


コンコン

225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/11(水) 01:27:02.83 ID:JUVxH4nq0

朝潮 荒潮 「はい」

加賀 「私よ、いいかしら?」

荒潮 「・・・」

朝潮 「今あけま


ガチャン


 朝潮の言葉を無視して加賀が部屋に入りドアを閉める。

 荒潮は加賀に椅子をすすめる。


荒潮 「どうぞ」

加賀 「ありがとう」

荒潮 「どうされました?」

加賀 「荒潮、あなたの第一艦隊からの離脱は却下されました」

荒潮 「はい」

朝潮 (そんな・・・)

加賀 「提督は朝潮と荒潮に期待しています」

加賀 「付いては旗艦にして鍛える話を進めるそうです」

朝潮 荒潮 「はい」


 旗艦としての成績次第とは加賀は言わない。

 それは加賀の配慮だったものの朝潮と荒潮を絶望させた。

 加賀に椅子を譲り立っていた荒潮は近くにある二段ベッドの柱を強く握っている。

226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/11(水) 01:27:57.58 ID:JUVxH4nq0

加賀 「先に旗艦になるのは朝潮、あなたよ」

朝潮 「了解しました」

加賀 「旗艦になるのは急だけど明日からよ」

加賀 「説明と打ち合わせがあるからすぐ執務室に来るように」

朝潮 「すぐですか?」

加賀 「二回も言わせないで」

朝潮 「はい、すぐに!」


 手早く準備を済ませると加賀を見つめる朝潮。


加賀 「行くのはあなただけよ」

朝潮 「え?」


 加賀はそう言うと唖然とする朝潮を置いて次に旗艦となる荒潮を連れてどこかに行った。


―――――
―――


227 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/11(水) 01:29:20.15 ID:JUVxH4nq0


〜執務室〜



提督 「待ってたぞ、朝潮」

朝潮 「遅れて申し訳ありません司令官」


 朝潮は執務机の前に立って敬礼する。


提督 「加賀の椅子に座るといい」

朝潮 「はい」


 秘書艦用のキャスター付きの一般的な事務椅子は誰でも使えるように高さが調整できた。

 机が使えるように加賀が使ってた時より椅子の高さを上げる。

 朝潮は足が床から離れ少しふらふらする。

228 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/11(水) 01:30:32.92 ID:JUVxH4nq0

提督 「旗艦になることは加賀が伝えたな、何をするかわかるか」

朝潮 「教科書上の知識は一通り」

提督 「よろしい」

提督 「教科書と違う点がある」

提督 「旗艦にはなってもらうだけで秘書艦は変わらず加賀だから書類仕事は殆どしなくていい」

提督 「だから朝潮がやることは戦闘海域での指揮と戦闘の総報告書をまとめることだけだ」

朝潮 「なるほど」メモメモ

提督 「実際の戦闘はおれが殆ど指示をするし、総報告書も加賀が手伝う」

提督 「難しいことはないから安心しろ」

朝潮 「はい」

提督 「後はこれを覚えろ」


 書類が投げられる。


朝潮 「これは?」

提督 「明日の出撃で朝潮が指揮する艦隊のメンバーの損傷表だ」

朝潮 「???」

提督 「明日からより安全な進軍のため損傷をダブルチェックすることになった」

朝潮 「ダブルチェック?ですか?」

提督 「おれがする損傷の確認を旗艦の朝潮にもしてもらう」

朝潮 「なるほど二重に確認ですか、責任重大ですね」

提督 「これも安心しろ、おれが間違うことはない」

229 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/11(水) 01:32:11.51 ID:JUVxH4nq0

 朝潮は損傷表を眺める。

 写真には特徴的な損傷にマークがされていてわかりやすくなっていた。


朝潮 「このマークは提督が?」

提督 「そうだ」

朝潮 「覚えやすくて助かります」

提督 「自分のためだ、礼はいい」

朝潮 「他に覚える方法等はありますでしょうか?」

提督 「ない」

朝潮 「提督は苦労しなかったんですか?」


 200人超の損傷を覚える提督に対する純粋な好奇心だった。


提督 「轟沈が多くて人の出入りが多いから大変かってことか?」

朝潮 「いえ、そんな積もりは・・・」

提督 「朝潮がどういう積もりでも気にはせん」

提督 「おれは苦労しなかったよ」

提督 「特徴的な損傷は艤装の元である艦の轟沈時の損傷に符合する」

提督 「それさえ覚えておけば応用がきく、後は個人個人の特徴を覚えるだけだからな」

朝潮 「なるほど」

提督 「今回は急だしおれもチェックする、だから気負うことはない」

朝潮 「ありがとうございます」


 暫くボードの出撃表と損傷表を見比べていると自分の写真が目に入った。

 あの場面がフラッシュバックする。吐き気がした。

 朝潮が逃げるように顔を上げると提督は何食わぬ顔で各艦隊の報告書を確認している。

230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/11(水) 01:33:12.92 ID:JUVxH4nq0

 朝潮の提督への憎しみはそのまま不信に繋がり、

 荒潮を平気で沈める提督の様子が頭でぐるぐるする。


朝潮 「質問いいですか?」

提督 「なんだ?」

朝潮 「荒潮を第一艦隊から外すことは絶対にできないのでしょうか?」

提督 「・・・その話か」

朝潮 「・・・」

提督 「加賀にも言ったが、今回の旗艦出撃の成績次第だ」

朝潮 「成績次第?」

提督 「あぁ、悪ければ荒潮の意思と関係なく外す」

提督 「ただ、現時点で経験のある荒潮を抜くことは考えていない」

朝潮 「なら旗艦のときに失敗をすれば」

提督 「朝潮が荒潮ならできるか?そんなこと」

朝潮 「・・・」


 小中破から轟沈させるような深海棲艦がいる海域だ。

 自分の命は勿論、仲間の安全を考えても不可能だ。

231 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/11(水) 01:35:38.96 ID:JUVxH4nq0

提督 「その様子だとこのことは加賀が伝えなかったようだな」

提督 「いたずらに動揺させるよりはいい、荒潮には話すな」

朝潮 「はい」

朝潮 「成績次第とのことですが、現時点で提督の荒潮に対する評価はどうなのでしょうか」

提督 「加賀にも同じことを聞かれたな」

提督 「おれの荒潮への評価は低くない」

提督 「朝潮お前はそこそこ才能あるよ、荒潮にはそれさえない」

提督 「が、周囲の状況に対応して動ける賢さがあるから大きな失敗をしない」

提督 「そこを評価してる」

朝潮 「じゃあこのまま問題がなければ・・・」

提督 「下げない」

朝潮 「どうにかならなりませんか」

提督 「朝潮は外して欲しいのか、何でだ?」

朝潮 「荒潮は限界です、満潮の轟沈に今日の大破だって

提督 「荒潮だけと思うなよ」

提督 「金剛型は金剛と榛名が轟沈しても比叡と霧島は第一艦隊で活躍してる」

朝潮 「大破して轟沈しかけたんですよ!」

提督 「大袈裟だ、馬鹿らしい」

提督 「駆逐艦ならよくあることだ」

提督 「朝潮は初めての仲間だからと気にしすぎじゃないか」

朝潮 「そんなこと・・・ありません」

提督 「初めてというだけで特別になるからな」


 初めてという言葉が朝潮の耳に嫌に響く。

 鎮守府初めての友達荒潮。朝潮の初めてを奪った提督。

 提督のにやついた顔はそれを同列に語るような下劣な感を朝潮に与えた。

 違う。

232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/11(水) 01:36:34.15 ID:JUVxH4nq0

朝潮 「第一艦隊になりたい駆逐艦なら他にいます」

朝潮 「やる気のある艦娘が第一艦隊の方がいいのではないでしょうか」

提督 「編成権に口出しとはお前何様の積もりだ、朝潮」

朝潮 「っ・・・、すいません」


 無茶を言っているのは朝潮にもわかっているのだ。


 編成権は提督の牙城だ。

 力関係が逆転した鎮守府世界で唯一の提督の艦娘への強権だ。

 そして、国を守る鎮守府で最重要の機能だ。

 鎮守府を統制し、深海棲艦に勝利するために。


 それでも。

233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/11(水) 01:38:28.92 ID:JUVxH4nq0

提督 「不満そうな顔だな」

提督 「これで荒潮を第一艦隊から外して代わりの練度が低い艦娘が轟沈したらどうなる?」

提督 「おれが上からどやされるぞ、ただでさえ轟沈が多くて目をつけられているんだ」

朝潮 「・・・」

提督 「上からどやされるからじゃない」

提督 「こういう危険な海域を任されているから少しでも轟沈をなくしたい、わかるか?」

朝潮 「はい・・・」

提督 「そもそも何で荒潮は外れたがってる?」

朝潮 「加賀さんから聞いてないんですか?」

提督 「加賀には言わないよう命じた、聞いても仕方ないからな」

朝潮 「・・・」

提督 「加賀にあたるなよ」

提督 「で、何だ?」

朝潮 「荒潮は轟沈が怖いそうです」

提督 「そうか」

提督 「そのままの気持ちで出撃したら本当に轟沈するな」

朝潮 「・・・」キッ

提督 「にらむな、事実を言っただけだろ」ハァ

朝潮 「荒潮が轟沈してもいいとお考えですか?」

提督 「いついいって言った?!」

朝潮 「いえ・・・」ビク

234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/11(水) 01:39:18.55 ID:JUVxH4nq0

提督 「轟沈を減らすため合理的に考えた結果だ」

提督 「やる気のある娘より練度が高い荒潮の方が生存可能性は高い」

朝潮 「そうかもしれませんけど、今の荒潮は!!」

提督 「轟沈が怖ければ注意するだろ」

朝潮 「そんな」

提督 「さっきから外せ外せと偉くなったなもんだな」

提督 「荒潮が轟沈するのは嫌、やる気がある娘だったら轟沈してもいいってことか?」

朝潮 「そんなことは・・・」

提督 「そう言ってるのと変わらん」

朝潮 「・・・」


 朝潮は提督に口で勝つのが難しいと自覚する。

 何か言わないとという思いだけ走り提督を見つめるも言葉は出ない。

 提督が口を開く。

235 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/11(水) 01:49:10.91 ID:JUVxH4nq0

提督 「朝潮、お前にとって正義とは何だ」

朝潮 「正義ですか?」

提督 「そうだ」

朝潮 「正義・・・」

提督 「命令違反をして荒潮を守ることか?」

提督 「おれの編成に文句をたれることか?」

朝潮 「・・・」

提督 「迷うことはない、お前の大好きな教科書には何て書いてある」

朝潮 「国と一般市民を守るため、ですか」

提督 「そうだ」

朝潮 「何で今

提督 「黙っておれの質問に答えろ」

提督 「そのために荒潮を外すことは必要か?」

朝潮 「・・・」

提督 「速く答えろ、朝潮」

朝潮 「必要ではないです・・・」

提督 「だったら必要なことは何だ」

朝潮 「・・・」

提督 「答えられないなら教えてやる」

提督 「必要なことは深海棲艦をより多く殺すことだ」

提督 「未だ深海棲艦が跋扈する国土を回復し、沿岸の市民を守り、海運を守って経済を守る」

提督 「通常兵器で傷付けられない深海棲艦を傷付けられるのは艦娘だけなんだ」

提督 「艦娘が守らなくて誰が守る」

提督 「海にのさばる深海棲艦を、その艦隊群の中枢を、より多く叩け」

提督 「黙って迷う暇があったら深海棲艦を皆殺しにすることを考えろ」

提督 「違うか?」

236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/11(水) 01:50:58.19 ID:JUVxH4nq0

朝潮 「その通りかもしれませんが・・・けど、今の荒潮は精神的に不安定で・・・」

朝潮 「轟沈の危険もあるし戦果だって期待できません」

朝潮 「艦娘の所属上限がある理由が艦娘適合者の不足である現状」

朝潮 「荒潮に轟沈の危険が見えるなら避けるべきできはないでしょうか」

提督 「偉そうにわかりきった講釈をおれにたれるな」

朝潮 「そんな積もりは」

提督 「そう相手に聞こえたらそうなんだよ」

提督 「ここは軍隊でおれはお前より偉い、逆らうな」

提督 「お前は艦娘をクラブ活動とでも間違えてるのか?」

朝潮 「違います」

提督 「艦娘には責任があるんだ」

提督 「力を持っているから力のないものを守る責任がな」

朝潮 「・・・」

提督 「お前は深海棲艦を狩ることだけ考えればいい」

提督 「でないと荒潮と一緒に轟沈するぞ」

237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/11(水) 01:52:05.03 ID:JUVxH4nq0

朝潮 「荒潮の轟沈を軽々しく口にしないでください」

提督 「少しでも朝潮の迷いがなくなればという優しさだったが無駄だったようだな」ハッ

提督 「まだ荒潮を第一艦隊から外して欲しいのか?」

朝潮 「はい?」

提督 「どうなんだ?」

朝潮 「外してほしいです」

朝潮 「このままではいずれ荒潮は轟沈します、しなくても心が・・・」

提督 「そのために何でもできるか?」

朝潮 「?」

提督 「おれなら外せる、編成権を使ってな」


 突然の甘い言葉に警戒する朝潮は提督を見て言葉を発しない。

 そんな朝潮に痺れを切らしたように提督は机の引き出しを漁る。

 その引き出しから保湿クリームのような小振りのチューブが取り出された。

238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/11(水) 01:55:40.40 ID:JUVxH4nq0

提督 「あったあった」

朝潮 「何ですか?それは」

提督 「ほれ」


 提督から投げられたチューブを朝潮が受け取る。

 チューブの表面にある名前や成分表示は英語のようなもので書かれている。


提督 「わかるか?」

朝潮 「・・・」ジー

提督 「当てられたら荒潮を第一艦隊から外してやる」

朝潮 「?」

朝潮 「本当ですか!」

提督 「荒潮の旗艦が終ってからになるがな」

朝潮 「あ、ありがとうございます」

提督 「回答できる回数は3回まで、どうだやるか?」

朝潮 「やらせてください!」

提督 「じゃ、始めだ」


 上下左右に持ち替えて眺める。

 チューブの薬品となると朝潮にはそんなに思い浮かばない。

 そんな甘い話があるわけがないことも。

239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/11(水) 01:56:45.28 ID:JUVxH4nq0

朝潮 「保湿クリームですか?」

提督 「違う、一回目だ」

提督 「塗って湿度を保つってのはあってるけどな」

朝潮 「ピンクだから消炎剤ではないでしょうし・・・う〜ん」

朝潮 「美容クリームでしょうか?」

提督 「違う、二回目」

提督 「悪くない推理だ、女性を魅力的に見せるという点は間違ってない」

朝潮 「???af・・・di・・・?」


 表面に書かれた英語はわからない。

 可愛い容器、半分以上使われ潰れたチューブ、提督が持っていること、推理材料は殆どない。

 チューブの上下左右を触る朝潮の白魚のような指に提督の視線が絡みついていた。


朝潮 「艦娘からの没収品?」

朝潮 「麻薬ですか・・・?」

提督 「お前はおれを何だと思ってるんだ」

提督 「中毒性はあるかもしれんが、ヨーロッパじゃゴールデンタイムにCMしてる合法な商品だぞ」

朝潮 (中毒性・・・?)

提督 「今ので三回目だ、残念だったな」

朝潮 「そんな」

提督 「冗談だよ、こんなクイズで編成をどうこうするわけないだろ」ハッハッハ

朝潮 「そ、そうですよね」


 編成権をおもちゃにしなかった提督への安堵と、荒潮への申し訳なさで朝潮は少し戸惑う。

240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/11(水) 01:58:36.44 ID:JUVxH4nq0

朝潮 「これ・・・消炎剤だったんでしょうか?」

提督 「違う」

朝潮 「肩こりを解消するCMのやつですか?」

提督 「知ってるか?肩こりするのは日本人だけなんだそうだ」

朝潮 「んん・・・」

提督 「そうだな。どうだ、ここからはいくらでも回答していいぞ」

提督 「景品はないけどな」


 CMをうつような商品なら触れたことはありそうなのに、いくら見てもぴんと来ない。

 純粋な興味がわいてこの製品が何なのか当てたいと朝潮は思った。


朝潮 「開けてにおいをかいでも?」

提督 「いいぞ」


 首をかしげる朝潮を見る提督の目はあからさまに火を帯び口の端が吊りあがっている。

 朝潮は不振そうに提督を見ながら好奇心のままチューブのキャップを外してかいだ。


朝潮 「くどいにおいですね」


 南国の花のような、おりもののような臭いがした。


提督 「媚薬だからなぁ」ハッハッハ


 朝潮はあらん限り目を見開き提督を見た。

 提督は愉快そうに笑っている。



―――――
―――


241 : ◆oUFoaE/FvU [sage saga]:2015/03/11(水) 01:59:22.00 ID:JUVxH4nq0
本日投下分終了です。
ご読了ありがとうございます。
242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/11(水) 03:14:21.88 ID:lN+PFd+WO

次回は朝潮ちゃんと媚薬セックスかな?
股間が熱くなるな
243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/03/11(水) 18:00:24.41 ID:xF9sU2v3O

朝潮ちゃん可愛いよ朝潮ちゃん
244 : ◆oUFoaE/FvU [sage saga]:2015/03/11(水) 23:59:02.29 ID:JUVxH4nq0
>>242
お米ありがとうございます。
ヨーロッパのゴールデンタイムにCMやってることで有名な媚薬は
実際はチューブ型でなくタブレットの経口型だったりします。

>>243
お米ありがとうございます。
私生活でも敬語を使う馬鹿かわいい朝潮もいいですが、
曲げられない自分を持って不器用に生きる朝潮も可愛いですよね。
245 : ◆oUFoaE/FvU [sage saga]:2015/03/12(木) 00:01:40.44 ID:/fPKOeOS0
投下再開します
246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/12(木) 00:07:23.34 ID:/fPKOeOS0


提督 「それをつけて30分言うこと聞いたら荒潮を第一艦隊から外してやる」

提督 「どうする?」


 提督の顔は満足そうに笑っている。さも予定調和だと言わんばかりに。

 先ほどの会話で何でもすると朝潮が言っても同じことになっていたのだろう。


 今の朝潮を支えるにはキャスター付きの椅子では不安定すぎる。


提督 「お前の考えなら荒潮はこのまま出撃を続けると轟沈しそうなんだよな?」

提督 「余程お前はおれを無能だと思っているようだな」

提督 「おれはそうは思ってはないんだがなぁ、どうする?」

提督 「もう初めてじゃないんだ、失うものはない」

提督 「30分言うことを聞くだけだ」

提督 「荒潮の命とどっちをとるんだ?」


 朝潮は迷い頭では自分の貞操より荒潮の命が大事だと考えていても言葉が出なかった。

 提督に刻まれた恐怖と恨みが混ざり合ったどろどろしたものが心に渦巻き動けない。

247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/12(木) 00:09:44.22 ID:/fPKOeOS0

提督 「ならこの話はなしにするか」

朝潮 「え?」

提督 「何だ?」


 脅しをすぐ取り下げた提督の気持ちが朝潮にはわからなかった。

 良心か気紛れか。

 提督が指で机をコツコツ叩く。


朝潮 「待ってください」

朝潮 「他の条件になりませんか」

提督 「おれが折角出してやった条件が気に食わないのか」

朝潮 「お願いします」

提督 「別におれはしたくなかったんだ」

提督 「けど、朝潮がどうしてもというから親切で提案してやっただけだ」ハッ

提督 「この条件がダメならこの話はなしだ」

朝潮 「そんな・・・」

提督 「明日からの荒潮の出撃が楽しみだな」ニコ

朝潮 「っ・・・」


 「荒潮を轟沈させかねない無能提督と侮るおれに服従しろ」と提督の目が朝潮にささやきかける。


朝潮 (最初に襲われた事件からこの男は何も変わってなんかない)


 朝潮は見たくもない提督の本質を垣間見た気がした。

 その本質は異質で朝潮には理解できなかった。

 朝潮に今わかるのは提督に従えば荒潮の命が助かるということだけであった。

248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/12(木) 00:11:16.38 ID:/fPKOeOS0

朝潮 「しますから」

提督 「何か言ったか、声が小さくて聞こえなかったな」

朝潮 「しますから!!」

提督 「あぁ?何か勘違いしてないか?!」バン

朝潮 「」ビク


 提督が執務机を叩く。

 一瞬浮いた灰皿がカラカラ音を立てながら着地する。


提督 「しますぅ?じゃねぇよ!!!」

朝潮 「すっすいません」ビク

提督 「すいませんじぇねぇ!!お願いなら、頼み方があんだろうが!!」ブン

朝潮 「ヒッ」


 提督が瞬間灰皿を朝潮に投げつけた。

 灰皿は灰を撒き散らしながら飛び朝潮の近くをかすめ壁にぶつかった。


カーン


 金属の衝突による高音は若い朝潮の耳に痛いほど響き脳を揺らす。

 少し前までの朝潮が提督の気紛れに感じていた不安が見事に恐怖にすり替わった。

249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/12(木) 00:13:33.36 ID:/fPKOeOS0

朝潮 「」ケホ

朝潮 「や・・・やらせてください・・お願いします」

提督 「誠意が感じられんな」


 提督が上げた手に朝潮がびくりと体を揺らすと提督は人差し指で床を指す。


提督 「土下座してお願いしろ」

朝潮 「え?」

提督 「土・下・座」


 朝潮は怯えていた。

 突きつけられた理解できない提督の命令に、その人格に。


朝潮 「します。します・・・から。。」


 朝潮は何のためらいもなく椅子から離れる。

 提督は満足そうにその様子を眺めている。


朝潮 「第一艦隊から荒潮をちゃんと外すことを約束していただけますか?」

提督 「おれがぐだぐだ先延ばしするような男に見えるのか」イラ

朝潮 「すいません」

提督 「さっき言ったとおり荒潮を旗艦にした後に外す、約束する」

提督 「後お前は言わないが外した後いつまで外すかも約束しよう」

提督 「艦種が変わるか荒潮の自信が付くまでは第一艦隊にしない」

提督 「これでいいか?」

朝潮 「あ・ありがとう・・・ござい・・ます」


 提督が朝潮を手懐けるためにやった一瞬の優しさに飛びつく形で朝潮は了承した。

 その条件はそこまで好条件であったか。

250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/12(木) 00:14:36.83 ID:/fPKOeOS0

提督 「これ以上生意気ならその時点で止めるからな」

朝潮 「はい」

提督 「やるんなら早く土下座しろ!!」ドン

朝潮 「ひっ」ビク


 朝潮は提督の座る椅子の横に近付き無言で床に膝をつく。

 両手を付き頭を下げると視界がふさがり安心できた。


提督 「額を床につけてお願いしろ」

朝潮 「はい」


 額にひんやりした床のタイルの感触がつたわる。

 少し冷えた頭は朝潮の情けなさを容赦なく自身に突きつける。


提督 「お願いをしろと言ったんだ。日本語がわからないのか?!」

朝潮 「」ビク

朝潮 「30分提督の言うことを聞きます!荒潮を助けてください!!」

提督 「いいぞ」


 見上げると提督がこの様子を携帯で撮影していた。

 今その映像の使い道は考えたくなかった。

251 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/12(木) 00:17:26.28 ID:/fPKOeOS0

提督 「ほら、その媚薬をあそこに塗れ」


 朝潮が気付くと何時の間にか媚薬のチューブを握り締めていた。

 開いた朝潮の手のひらには半透明のジェルがべっとりとはみ出ていた。


提督 「そんなに塗りたいのか」

朝潮 「全部、ですか?」

提督 「全部だ」

提督 「ヨーロッパルートの貴重品だ、喜べ」


 得体の知れない物を大事なところに塗るのは誰でも躊躇う。


提督 「奥までな、まず下を脱ぐか」ニヤニヤ


 べっとりと媚薬が付いた左手がふさがれた形となり、片手で脱ぐしかない。

 その動きは自然ぎこちないものになった。

 まず朝潮は肩ひもをずらして落とす。すると、支えていたスカートがぱさりと落ちる。

 スカートを拾う朝潮のブラウスのすそからショーツとそれに付く小さなリボンがちらちらのぞく。

 下に伸びる足は日本人にしては長く普段見えない太ももまで露出した足は理想的な曲線を描いている。

 豊かな肉感のあるそれは黒いニーソックスも相まってサラブレッドの後ろ脚のように力強く美しい。


提督 (あぁ・・・)

朝潮 「何ですか?」

提督 「何でもない続けろ」

252 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/12(木) 00:19:25.21 ID:/fPKOeOS0

 ショーツを下ろし片手で取ると産毛のような細い毛も生えそろわない割れ目があらわになる。

 好きな人間でもないのに羞恥心でどきどきが治まらないのが朝潮は嫌だった。


 朝潮の指がニーソックスに伸びると提督は制止する。


提督 「それはいい」

朝潮 「?」

提督 「上も脱がないでいい、もう塗れ」


 提督の趣味など朝潮にはどうでも良かった。

 少しでも提督を落胆させて終らせたい、それだけが今の朝潮にできる抵抗だった。


 朝潮が改めて手のひらを見つめる。

 はみ出たジェルは朝潮の手の汗を吸って益々光沢をましていた。


提督 「30分は塗ってからだぞ」

朝潮 「・・・」

提督 「塗ってやろうか」ニタ

朝潮 「やっやります!」


 立ち上がろうとする提督を静止するように目をつむって左手をあそこへ押し付ける。

 朝潮は塗った。言葉のまま。不器用に上下に動かした。

253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/03/12(木) 00:21:05.29 ID:/fPKOeOS0

提督 「自慰しないのか?朝潮」

朝潮 「じいですか?」

提督 「オナニーだ」

朝潮 「おなにー?」

提督 「まぁいい、しっかり塗れないと始めないからな」

朝潮 「はい・・・」


 産毛が絡みとったジェルを指で塗り広げる。


提督 「指で割れ目とその奥まで念入りに塗るんだ」

朝潮 「はい・・・」


 膣穴の入り口を満遍なく塗る。

 人差し指を穴にいれて、出し入れする。

 提督に初めて襲われた時の気分と違う少し浮揚するような不思議な気分に朝潮はなってくる。


提督 「そんな塗り方じゃ、30分がいつまでも始まらんぞ」


 提督が呆れたようにため息をはきながら朝潮の動く指を見つめる。

 提督を焦らせていることに朝潮の溜飲が下がる。

 焦らしたことの後の反動などこの少女が知る由もない。

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