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朝潮「制裁」
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107 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/05(木) 00:29:21.89 ID:IIX27/X10
霞 「またあの女妊娠してたじゃない?!4回前に子宮全摘出したはずじゃないの?」
大潮 「そうでしたっけ?」
荒潮 「詳しいわね〜」ニコニコ
朝潮 「霞ちゃん、そういうの読むんだ・・・」ジト
霞 「ちっちがうわよ!しょしょじょ食堂で話す子がいたから!!!」
荒潮 「あらあら〜」ニコニコ
霞 「もうっ、そんなのどうでもいいのよ!荒潮と朝潮は轟沈したりしないでよね?」
荒潮 「大丈夫だと思うわ、朝潮ちゃんは〜?」
朝潮 「・・・問題ないと思う、多分」
朝潮を提督に対して人間性を除いた部分で尊敬するようになってきていた。
霞 「朝潮まであいつの肩持つの?」
霞 「あの事件もあったし、最近は報告書届けに執務室行ったらって話あったわよね」
朝潮 「そう、陸奥さんを・・・後ろから・・・ / / / 」プシュー
あれから提督の視線を感じても求められることはなかった。
ただ、提督は相変わらずやりたい艦娘を秘書艦にして指揮作戦艇か執務室でよろしくやっていた。
霞 「何これくらいで真っ赤になってんのよ」
大潮 「むっつりさん2号です」
霞 「・・・」 ←1号
荒潮 「あらあら・・・まぁ、人間性は別として指揮は優れてると思うわ」
朝潮 「そう・・・よね」
108 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/05(木) 00:31:11.00 ID:IIX27/X10
言葉に出来ない部分で気の利く提督だった。
人間関係を加味した連携のとれる艦隊の編成。
経験の浅い艦娘には、弱い艦種から弱いクラスからと少しずつ強い敵の経験を積ませる心遣い。
戦場でも広い視野で指揮を取り、女性関係は爛れていたのに信望は厚かった。
一部先輩は手篭めにされることを喜んでいるように朝潮は感じている。
朝潮の中の提督は分裂してきていた。
霞 「荒潮たちがどう言っても轟沈させるクズなのは事実よ!」
霞 「私が第一艦隊入りするまで死ぬんじゃないわよ!」
荒潮 「待ってるわ〜」
朝潮 「霞はこれからの艦種どうする積もりなの?」
霞 「希望は重巡よ」
駆逐艦から始まる鎮守府生活は、戦艦or空母or潜水艦orその他で四つの方向があった。
多くの艦娘が軽巡や重巡から花形の戦艦になるルートを目指した。
109 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/05(木) 00:32:18.25 ID:IIX27/X10
霞 「あくまで希望だから、適性試験が無理なら軽巡でも・・・」
霞 「どっちにしても最後は戦艦目指して行くわよ」
大潮 「お〜私もそれがいいなー」
荒潮 「私もそうかな〜、朝潮ちゃんはやっぱり空母?」
朝潮 「うーん・・・」
霞 「何を迷うことがあるのよ? 加賀の艤装と同調できるって凄い話じゃない」
荒潮 「個人的には本部で量産できるようになってる赤城もいいと思うわ〜」
大潮 「もしかして、朝潮ちゃん戦艦が好きなのに加賀先輩に勧められて引けなくなってどうしようとかです?」
霞 「うわっ、それ本当だったら確かに気まずいわね、どうなのよ?朝潮」
朝潮 「いや、まだ少しピンと来なくて・・・」
霞 「自分で聞いておいてそれ?!」
朝潮 「だから聞いてみたというか・・・」
大潮 「潜水艦はどうです?」
朝潮 「うーん・・・」
霞 「潜水艦が嫌ってのはわかるけどね。制服が水着ってのがねぇ・・・超激務って話も聞くし」
110 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/05(木) 00:33:31.11 ID:IIX27/X10
荒潮 「折角だから聞きたいけど、急ぐことはないわよね〜」
大潮 「朝潮ちゃんが空母になると荒潮ちゃん霞ちゃんと私の戦艦でバランスがいいので空母オススメです!」ビシッ
霞 「何よそれ」フ
大潮 「あー笑ったー霞ちゃんんのそういうところ嫌いだなー」プンスコ
荒潮 「あらあら〜」ニコニコ
朝潮 「ふふふ」
そんな騒がしい食堂と比較して執務室はいつもの活気がなく、
持ち主が離れていた部屋は無機物のくせに人を拒絶するようなすねた空気をまとっていた。
その空気を意に介せず、加賀は自分の机に座って執務を行う。
ふと、加賀が強化された聴力で提督の足音を捉え、何時もより早い戻りに驚きつつ暖房を入れた。
艦娘は紫外線だけでなく暑さや寒さにも強い。
111 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/05(木) 00:38:14.75 ID:IIX27/X10
加賀 「おかえりなさい、早いわね。提督」ダキ
提督 「あぁ、ただいま」ダキ
加賀 「どうしたの?」
提督 「加賀お前は満足したことがあるか?」
提督と加賀には身長の差があった。
そして、加賀の豊満な胸のふくらみのお陰で顔が丁度交差している。
お互いの体の熱を感じ、声はお互いをふるわせた。
加賀 「?」
提督 「おれはない」
提督 「金で贅沢をしても、女を抱いても、戦果で一等になっても、地本部や鎮守府でもてはやされても・・・」
提督 「唯一満たされる感覚のある深海棲艦狩りも今の規模じゃ満足にはほど遠い」
加賀 「・・・」
提督 「地方本部長官から、総本部の要職に就いて、総本部で上に行って・・・今はそれで満足できるかもしれないと思ってる」
加賀 「私は今でも十分幸せなのだけど」
提督 「そうか・・・」
語勢の落ちた提督に加賀が優しい言葉で続ける。
加賀 「けど、あなたが満足できればもっと幸せになれると思うわ」
提督 「そうか」
加賀 「えぇ」
抱き合っているので、お互いの顔は見えない。
だから、加賀も提督も会話の間お互いが終始仮面を被ったように無表情であったことを知る由もなかった。
112 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/05(木) 00:40:13.24 ID:IIX27/X10
抱き合ったまま提督は加賀の美しい黒髪を何度も手ですいた。
肩口まである真っ直ぐな黒髪は、ごつごつした男の指を滑らかに上下させ、提督を落ち着かせた。
暫くして、提督は加賀の肩を両手で持ち、静かに身を離した。
提督は加賀をそのままに自分の椅子に座った。
加賀は何かの予見が外れたのか不思議そうな顔をしつつ、自分の椅子に戻る。
加賀 「今日は本部の近くの町で贅沢してないんでしょ?」
加賀に濡れた目で見つめられ提督の体の芯に火花が飛ぶ。
提督 「何時もはもっと遅いが、そういうことしてると思われてたのか」
提督 「そんな金もないし、今日はそういう気分じゃない」
いつもは金があるので、地方本部から夜の街に消えていた。
加賀に気付かれていたことにはさして驚かない。
提督の渋い顔は何の不満か。体の芯の火花は消えていた。
加賀 「そう・・・どうしたの?」
提督 「地方本部長官になるために、明日から通常の出撃体勢に戻すことになった」
加賀 「だからね・・・」
加賀の顔も暗くなる。
113 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/05(木) 00:42:13.02 ID:IIX27/X10
加賀 「元々この轟沈しない出撃体勢は地方本部の命令だったわよね?」
提督 「あぁ」
加賀 「振り回してくれたことに文句は言ったの?」
提督 「言わないな、ころころ命令が変わるのは慣れてる」
加賀 「そう」
二人でため息を付く。
提督 「それに、上に文句を言っても評価が落ちるだけだ」
加賀 「そこまで愚鈍?」
提督 「老人は自身が正しいと思うもんだ」
提督 「自身の命令に従わないもの、自身の行っていた行動と違うことをするものは、彼らにとって排斥対象だ」
提督 「自身が築いてきたものを否定されたくないんだよ、奴らはな」
加賀 「そう・・・」
提督 「また・・・轟沈するな」ハァ
加賀 「轟沈しても海域の安全を守らないと人がもっと死ぬわ、私はそう思う」
提督 「そうだな」
気が重いことを加賀に伝え終わり、提督は椅子に深く体を預ける。
114 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/05(木) 00:43:44.45 ID:IIX27/X10
加賀 「・・・他の娘の話は大和から聞いた?」
提督 「あぁ」
提督 「第一艦隊の所属艦娘が俺が大破進軍しているんじゃないかと疑心暗鬼になっている問題か?」
加賀 「それもそうなんだけど・・・」
提督 「?」
加賀 「表面化していないけど、この頃の出撃で彼女達の士気が落ちているわ」
提督 「当然そうなるな、俺のような大破進軍してるかもしれない提督の下で戦いたくない」
提督は冗談めかした話し方を使う。
実際は艦娘達がそう思っていない確信が提督にはある。
轟沈しない限りには比叡の言葉通りこの鎮守府は給金と名誉が手に入る天国だ。
加賀 「彼女達も提督が大破進軍していないことはわかっています」
提督 「なら何で士気が落ちる?」
加賀 「轟沈への恐怖や悲しみの矛先を求めているのよ、無意識に」
加賀 「・・・そこにあなたがいた、それだけよ」
提督 「わからないことに理由付けしたがるのは人間のさがだな」
加賀 「そうね」
提督 「その士気低下で問題は出そうか?」
加賀 「殆どないと思うわ」
加賀 「今は轟沈が出るような熾烈な攻撃を行ってないせいで内省する余裕があるからこうなってるけど」
加賀 「これから制海戦闘を本格化させれば、その余裕がなくなるし・・・」
115 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/05(木) 00:47:49.66 ID:IIX27/X10
加賀 「喜ばしいことではないけど、轟沈する艦が出ればそれ自体が潔白の証明になるでしょ」
提督 「そうか」
加賀 「ただ・・・」
提督 「何だ?」
加賀 「いずれにしろ、今の内に潔白を証明する行動を起こした方がいいと思うわ」
加賀 「今は無意識に士気が下がる程度に済んでるけど、何が引き金に爆発するかわからないわよ」
提督 「それは考えてるがな」
加賀 「考えておいて・・・それと深海棲艦のコアの入出庫数が所々違うわ」
提督 「どこだ・・・」
加賀 「紙にまとめておいたわ、ココとココ・・・ココ・・・かしら、もっとあるかもしれないわ」
紙の上を動く人差し指は、紙の白さと比してなお泳ぐ白魚のように美しい。
116 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/05(木) 00:48:30.04 ID:IIX27/X10
提督 「それはコアが実は死んでたり傷付いていたり開発失敗したやつでな」
提督 「本部に出すのも面倒だから大和と捨てたんだ」
食品・リネン・日用品の管理担当は軽巡以上の艦娘が当番で行い。
軍需資材・深海棲艦のコア・制服、等の軍需品は、この鎮守府では信頼のできる大和型と長門型が管理を担当していた。
加賀 「そうなの? なら、ちゃんと修正しておいて」
提督 「あぁ、すまない・・・」
加賀は提督が冷静な顔を崩さないまま視線を少し右上に動かしたのを見逃さなかった。
―――――
―――
117 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/05(木) 00:49:48.31 ID:IIX27/X10
翌日から、戦闘を避けていた深海棲艦の制海圏へ出撃が始まる。
大会議室で朝一に行われる編成の発表で提督が最後に強く言葉を発した。
提督 「人類の海を取り戻すのは勿論・・・轟沈した艦娘達への手向けとなる戦いだ」
提督 「各員一層奮起せよ」
こう言われ部屋の第一艦隊所属の艦娘達は沸き立った。
轟沈の経験がない朝潮は周りの熱に浮かされることはなく、どこか冷静にその場を見ていた。
出撃が始まる。
118 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/05(木) 00:52:10.07 ID:IIX27/X10
朝潮と荒潮は朝一の出撃艦隊に組まれていた。
二人で指揮作戦艇に向かう。
朝潮 「頑張らなきゃね」
荒潮 「そうね・・・」
いつもふわふわとしている荒潮は、轟沈が絡むと朝潮にとって完全につかみどころのない何かになった。
指揮作戦艇に乗った後に、敵艦隊群の情報説明と作戦の指示が行われる。
荒潮は普通を装っていた。しかし、朝潮には荒潮が何も聞いていないことがわかった。
指示が終わり接敵までの時間は自由だ。集中力を高めるのに各々の時間を過ごす。
朝潮 「荒潮・・・荒潮・・・」
荒潮 「・・・ん、なぁに?」
朝潮 「朝の会議から顔色が悪いわよ」
荒潮 「心配かけたかしら」
朝潮 「これ、さっきの敵艦隊群の情報と作戦をまとめたから」
荒潮 「あ、ありがと〜」
朝潮には荒潮がそれでも集中力を欠いている気がした。
朝潮は横に付いて渡したメモを指差しながら説明する。
朝潮 「今日の敵艦隊群はフラグシップタ級を中心として潜水艦が混ざった編成で」
荒潮 「朝潮ちゃん」
朝潮 「ん?」
荒潮 「あのね」
朝潮 「うん・・・」
119 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/05(木) 00:55:21.13 ID:IIX27/X10
加賀 「朝潮、また艤装を貸すから同調しなさい」
加賀に話をさえぎられる。
荒潮は力なく手を振り、朝潮に加賀の元に行くよう促す。
後ろ髪を引かれる思いを感じるものの、加賀の命令は艦隊で絶対であった。
加賀 「今日からは同調して海面を走ってみましょうか」
朝潮 「・・・はい」
朝潮は深呼吸をして切り替える。
加賀 「同調が遅いわ」
朝潮 「はい!」
加賀 「海面の移動も駆逐艦と違うのよ、加賀を潜水艦にする積もり?」
朝潮 「すいません!」
朝潮の特訓はもう常態化し、危険を指摘する娘も賛辞を送る娘もいない。それでも朝潮は止めなかった。
加賀は朝潮に課す訓練を適度に難しくして行き、それをこなす度に起こる達成感は朝潮を酔わせた。
朝潮は加賀の艤装にのめりこみ、同調を上げるため空母加賀の戦歴等も調べ自分のものとしていた。
お陰で朝潮は初出撃の事件など忘れ自信を取り戻していた。
ただ、加賀の艤装との過度な同調は朝潮の艤装との同調に少しずつ影響を与え始めていた。
120 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/05(木) 00:57:00.22 ID:IIX27/X10
日向 「おーい、加賀そろそろ敵艦隊群が視認できるぞ」
加賀 「今日はここまでにします」
朝潮 「はい、有難うございます」
敵艦隊群に突っ込むともう訓練する余裕はない。
一つの敵艦隊を倒したらすぐ次の敵艦隊と、艦隊群を突きぬけボス艦隊を倒すか逃げるまで休めない。
だから、艤装の損傷を悠長に時間のかかる検査機器で調べず、制服の損傷で即断できるようにしていた。
提督 「総員戦闘準備、複縦陣」
掛け声を元に旗艦以外の艦娘は陣形の位置に移動する。陣形と配置は事前に伝えられている。
敵艦隊群を捕まえるために朝潮と荒潮は陣形の先頭で並列だ。
皆が指揮作戦艇から飛び降りる時に、
朝潮 「対潜攻撃は私達に一任されているから頑張ろうね」
確認の意味で朝潮が放った一言に荒潮は軽くうなづいた。
朝潮は荒潮の動きに力を感じることができなかった。
しかし、加賀の訓練後で朝潮の艤装との同調に集中力を保たねばならない朝潮は、それ以上の思考を止めた。
いざとなれば、かばってでも助ける。それだけだと思った。
121 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/05(木) 00:59:40.46 ID:IIX27/X10
旗艦以外の艦娘は以降の提督の命令を旗艦を通じてテレパシーのようなもので受け取る。
インカムで行っていたこともあるそうだが、すぐ吹き飛ぶか壊れてかえって混乱を招くので採用されなくなった。
提督 「またフラグシップとエリートばかりだな」
加賀 「そうね」
提督の覗く双眼鏡に黄や赤の光を放つ異形の深海棲艦が現れる。
提督 「まずは定跡通り雑魚掃除だ、先制の爆撃で派手に挨拶しろ」
加賀 「任せなさい」
言うが早いか構え放たれた矢は光を帯び艦載機を具現化し敵に攻撃を始める。
深海棲艦の軽空母も大きく口を開け、艦載機を放出し迎えうった。
艦隊と艦隊の空中で火花が爆ぜ、折れた矢や深海棲艦の艦載機のかけらが雨のように落ちる。
その間隙を縫った加賀の艦上爆撃機が、狙いをつける敵駆逐艦の直上から爆弾を投下した。
沈みこそしないものの、先頭の被弾と大破に敵艦隊の陣形は混乱をきたしていた。
122 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/05(木) 01:01:31.84 ID:IIX27/X10
提督 「よくやった加賀ぁ、順次砲撃を始めさせろ」
加賀 「了解」
すぐ日向の大口径主砲が大音響で砲撃を始め、敵の雷巡が火を噴き沈降する。
かばうことのできる深海棲艦を最初に落とす。これはセオリーだ。
かばわれるということは、当初狙っていた目標へ攻撃できないだけでなく、着弾がずらされ攻撃が十分な威力を発揮しなくなる。
追って、利根筑摩加賀朝潮荒潮、次々と有効射程に入り次第攻撃を開始する。
先頭の朝潮と荒潮から射程が短い順に複縦陣形で並んでいたため、
陣形のしんがりにいた日向の攻撃から間髪入れず艦娘の攻撃が雨あられに続き面白いように当たった。
随伴潜水艦は朝潮が一撃目で沈め、早々に朝潮と荒潮は爆雷投射を止め砲撃に移っていた。
深海棲艦は次々と火を噴き、一応の撃ち合いが続いていたものの優劣は明らかで消化試合の様相を呈していた。
123 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/05(木) 01:02:25.20 ID:IIX27/X10
艦娘が海面から具現化した武装を隆起させ攻撃するのに対し、
深海棲艦は自身に付いた砲塔からの攻撃が光を帯び威力を持っていた。
艦娘が深海棲艦を真似て武装を付けないで自身の艤装からの攻撃だけに頼ると威力は全くでない。
今の朝潮・荒潮は正にその状態であった。
対潜装備だけの朝潮たちは威力のない砲撃を、少しでも敵をかく乱させることを祈りつつ繰り返していた。
124 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/05(木) 01:03:49.28 ID:IIX27/X10
頬を優しくはたくようなその行為がひそかに生き残っていたフラグシップタ級の戦意を焚きつけた。
敵が武装を具現化しないことは、艦娘の攻撃が具現化を経ることで予想が付きやすいのと対照的に、
加賀 「荒潮、危ない!!!!!!」
敵の攻撃が読みにくいことを示していた。
フラグシップタ級の大口径主砲の砲撃は、消化試合で断続的砲撃が続くのみとなった戦場の静かな大気をつんざき響き渡った。
朝潮がタ級の砲撃に気付いた時には、背後の荒潮に着弾音と炸裂音がし悲鳴が響いた。
荒潮 「きゃあああああ!!!」
125 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/05(木) 01:05:13.08 ID:IIX27/X10
朝潮の体は勝手に動き荒潮の方向に向かった。ただただ心配だった。
爆煙の中から制服がぼろぼろで煤で黒くなった荒潮が何とか立っているのが見える。
朝潮 「荒潮!!!!大丈夫?!」
荒潮 「もう・・・ひどい格好ね」ケホケホ
荒潮は虚ろな目で自身を払いながら朝潮が目の前にいないかのように言葉を発した。
朝潮が支えようと近付くと朝潮に気付いたのか荒潮はなんでという顔で眼を見開いた。
瞬間荒潮の瞼が落ちかけ、海面に両手と膝をついた。朝潮が駆け寄る。
それを見た提督と加賀は青ざめた。陣形を乱されたからではない。
提督 「馬鹿・・・戦闘中だぞ」
加賀 「ちっ・・・朝潮!!離れなさい!!!」
126 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/05(木) 01:07:03.42 ID:IIX27/X10
矢を弓につがえタ級を狙う。
艦隊全員が、誰が当てたか噴煙を上げて沈没寸前と思っていたタ級は無傷であった。
大破し火と煙を上げる深海棲艦の軽空母を背負っていただけだったのだ。
深海棲艦は人型に近いほど、帯びる光が強いほど、強く賢くなった。
タ級はすぐ砲撃体勢に移る。同じ砲撃をすれば弾着補正も何もいらない。難なく朝潮に当たるのだ。
日向 「沈めえええええ!!!!」ドォン
日向の主砲がタ級に向かい火を噴いた。
加賀は日向の攻撃に期待するしかない。
空母の攻撃はタイムラグがあるため、タ級を止めるには遅すぎる。
弓でタ級を狙ったままとどまり、万が一のために備えた。
127 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/05(木) 01:08:09.27 ID:IIX27/X10
日向の砲撃を眺めながら提督は煙草に火をつけていた。
提督 (大破か想定以上に弱い弱すぎる・・・退却か)
提督 「あほくさ・・・」ボソ
提督が紫煙を風に乗せる。
提督 「加賀、風が変わった。日向の当たらんから撃て」
加賀 「間に合わないわよ」キリキリ
提督 「知ってる」ニコ
加賀 「あっそ」ヒュン
艦載機は艦娘の意思によって進行や爆撃地点を変えられるので風の影響は砲撃ほど強く受けない。
128 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/05(木) 01:10:28.84 ID:IIX27/X10
提督の予想通り日向の砲撃はタ級をかすって外れた。
加賀の艦載機は最短距離を飛んだものの予想通り間に合わず、タ級は砲撃体勢を解かずに最大威力で砲弾が発射された。
日向 「朝潮おおおおおお!!!!よおけろおおおおおお!!!!」
提督 「うるさいな、あいつ・・・」
加賀 「提督黙って!!」
加賀は艦載機の操作に集中する。
タ級の攻撃の着弾音とともに大きな水柱が上り、朝潮が荒潮を抱えたまま吹き飛んで海面を転がった。
加賀 「今!!」
その時、艦載機の決めた急降下爆撃は着弾音に隠れる形で敵に最接近していた。
誰がどう見てもベストタイミングな攻撃であった。
しかし、タ級はあらかじめそれを察していたかのように背負っていた仲間である深海棲艦の軽空母を放り投げ、爆撃を相殺した。
129 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/05(木) 01:21:07.81 ID:IIX27/X10
加賀 「くっ・・・」
提督 「このまま複縦陣形のまま艦隊行動、この指揮作戦艇で朝潮と荒潮を拾って退却するぞ」
加賀 「夜戦まで持ち込めばタ級を倒せますが・・・」
提督 「いい、皆に安全海域まで緊張を崩すなと言っておけ」
加賀 「了解しました」ハァ
夜戦は、艦隊同士の近距離殴り合いだ。何故か夜戦と言う。
誤爆の可能性で空母の攻撃は禁止、真下近くに来る潜水艦には攻撃が通りづらい。
遠ざかるタ級は笑っているように見えた。
―――――
―――
130 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/05(木) 01:22:41.98 ID:IIX27/X10
朝潮 「動ける?荒潮」
荒潮 「いえ、もう疲れちゃったぁ」
朝潮 「私も・・・」
荒潮 「心配かけてごめん」
朝潮 「うん・・・」
疲労と痛みで二人とも動けないで浮かんでいる。喋るのも億劫だ。
指揮作戦艇が近付き浮き輪を投げられ、順に拾われた。
朝潮が虚ろなまま甲板で横になっていると、安全海域まで来れたのか日向が指揮作戦艇に戻って来た。
131 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/05(木) 01:23:46.44 ID:IIX27/X10
突然、朝潮は加賀に髪を掴み引き摺り起こされる。何とか、甲板の端にある柵を支えに立つ。
加賀 「朝潮、中破なのに何寝転がってるの?!」ギロ
朝潮 「っつぅ・・・」
朝潮は何を言っているかわからない。この痛みと無力感は、初出撃で大破したときと同じ感覚の筈だ。
加賀は益々引き上げる手に力を入れ朝潮を睨んだ。
朝潮が柵を支えにしなくても立てそうなくらい入った加賀の力で朝潮の体は浮きかける。
朝潮 「えっ・・・中破??」
加賀 「被害妄想も大概にしなさい、制服見れば一目瞭然じゃない!!」
提督 「おい、一応中破でも損傷があるんだから、横にさせておけ」
提督が慌てて仲裁に入る。
132 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/05(木) 01:25:00.32 ID:IIX27/X10
日向 「そうだ、中破だって立派な損傷だぞ!!」
加賀 「一々五月蝿いわね、このぽんこつ戦艦」
日向 「なにぃ!」
朝潮 (どういうこと?!大破しているはず)
加賀 「提督も甘いわ!どれだけこの子が艦隊を危機に晒したかわかってるの?」
朝潮 「すいません・・・」ボロボロ
朝潮はことの重大さに気付いた。
実際に、先の敵艦隊群は先頭深海棲艦の大破で総崩れになっていた。
ここで指揮作戦艇に最後に上ってきた利根と筑摩は甲板の不穏な気配を察し、
二人でこそこそ話した後に気を失った荒潮を艇内のベッドに運ぶ振りをして逃げた。
133 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/05(木) 01:31:22.88 ID:IIX27/X10
日向 「それはそうかもしれないが謝ってるじゃないか」
加賀 「そうやって甘やかすから覚えないのよ!!」
パン
髪を放され体勢を崩した朝潮に加賀のビンタが飛んできた。
食らった朝潮は初日のことを思い出しながら甲板を転がり、柵の下から海に投げ出された。
ビンタはあの時と違って凄く痛かった。
海面に着水する一瞬間に水面に朝潮の姿が映る、制服の損傷具合は中破だった。
朝潮 (なんで・・・・・・・・・・)
海中に体が沈んだと同時に朝潮は意識を失った。
134 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/05(木) 01:32:43.68 ID:IIX27/X10
日向 「やりすぎだ!馬鹿!」
加賀 「!?」
日向 「おい、提督!作戦艇を止めろ!」
提督 「わかったっ」
提督が操舵室へ走り、日向は海に飛び込み朝潮を引き上げる。
それを加賀は何か考え込むように難しい顔をしながら眺めていた。
甲板に上った日向は加賀に馬鹿力と言い放ち、朝潮を背負ったままベッドのある艇内に消えた。
気まずいのか操舵室にこもる提督を確認した加賀は甲板に残った制服の切れ端を懐に収めた。
―――――
―――
135 :
◆oUFoaE/FvU
[sage]:2015/02/05(木) 01:33:41.79 ID:IIX27/X10
本日投下分終了です。
ご読了有難うございました。
136 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/02/05(木) 01:34:48.73 ID:ysq0uQp5O
乙
朝潮ちゃんペロペロ
137 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/02/05(木) 01:36:25.15 ID:vAJNqmC2o
おつ
138 :
◆oUFoaE/FvU
[sage]:2015/02/05(木) 01:42:19.29 ID:IIX27/X10
お米有難うございます。
大変申し訳ありません。
当初は今週金曜前後に終る予定でした。
しかし、色々設定を膨らました結果、終らないことが判明致しました。
完走は間違いなくしますので、何とか寛大なお心で引き続きお付き合い頂ければ幸いです。
139 :
◆oUFoaE/FvU
[sage]:2015/02/07(土) 01:02:51.18 ID:3hpmG62n0
作中の戦闘陣形が想像しにくいかと思うので、下記配置表置いておきます。
複縦陣
進行方向↑
朝潮 荒潮
加賀 利根
筑摩 日向
140 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/02/13(金) 20:34:23.40 ID:szhmfkwYO
言い訳はいい
待ってるんだからさっさと制裁まで進めてくれや
141 :
◆oUFoaE/FvU
[sage]:2015/02/14(土) 01:59:46.87 ID:226+bx0t0
お米ありがとうございます。期待されるのは嬉しいものです。本日23:00杉に投下再開します。
142 :
◆oUFoaE/FvU
[sage]:2015/02/14(土) 23:36:10.65 ID:226+bx0t0
投下再開します
143 :
◆oUFoaE/FvU
[sage]:2015/02/14(土) 23:39:19.54 ID:226+bx0t0
もし、今から読む方がいれば、投下ごとに分けて読んだ方がいいと思われます。
長くなっている上に、地の文多用を途中から解禁しているため疲れるかと存じます。
144 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/14(土) 23:39:55.31 ID:226+bx0t0
暫くして操舵室から出た提督は、甲板で風に吹かれ続ける加賀を認めた。
提督 「お前でも今艇内に入るのは気まずいか?」
加賀 「別に・・・」
風は刃物のように提督の顔を打った。顔はただ痛く、寒さは感じない。
提督 「うぅ・・・さむ」
加賀 「あなたは暖かい艇内で朝潮と荒潮でもなぐさめたら?」
提督 「なぐさめなきゃいけないほど締め上げたお前がそれを言うか?」
加賀の表情は動かない。
145 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/02/14(土) 23:40:58.67 ID:NwFBA5b7O
待ちに待った更新だー!
146 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/14(土) 23:43:15.67 ID:226+bx0t0
加賀 「怒る時に怒る、痛くないと覚えない」
提督 「男みたいだな、お前は」
加賀はすぐ手を出した。
そして、加賀は怒った後に決していびり続けるような女々しいことはしない。
ただ、加賀の乏しい表情に怒られた方はまだ怒っているのかと萎縮したり、ねちっこいと反感を持つことが大半だ。
だから、加賀は鎮守府の艦娘に嫌われていた。
提督 「もっと素直になれないのか」
加賀 「無理だとわかっているのでしょう?」
加賀が人と仲良くしようとするところを見たことがない提督はそれ以上何も言わない。
147 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/14(土) 23:48:31.73 ID:226+bx0t0
ふと気付いたように話を切り替える。
提督 「・・・なぁ」
加賀 「?」
提督 「加賀は・・・目は口ほどにものをいうって言葉を知っているか」
加賀 「何がいいたいの?」
提督 「人間の目は白目と黒目の部分があるだろう」
加賀 「他の生物もみんなそうでしょう?まぶたの裏に白目の部分があるだけで」
提督 「そうだ、よく知ってるな」ハハハ
提督 「白目と黒目がある眼球の構造はどの生物も不思議なことに殆ど同じだ」
加賀 「それがどうしたの?」
提督 「この白目部分が人間にあるのは進化の過程でできたと言われているのは知っているか?」
加賀 「今そんな情報が必要?」
提督 「まぁ、聞け。人間も昔は猿同様黒目か黒目勝ちだったといわれてる」
148 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/14(土) 23:56:46.74 ID:226+bx0t0
提督 「それが狩りなどで協力する時にアイコンタクトが発達して、人間の白目が大きく発達したらしい」
加賀 「なら三白眼の強面の人間が一番協調性があって」
加賀 「黒目勝ちな俗に可愛いといわれる子は協調性のない自己中心的な人物が多いの?」
提督 「そこまでいってないが、そうかもしれん」
提督 「ここで加賀に問題だ」
提督 「人間と違って黒目や黒目勝ちな生物の利点はなんだと思う?」
加賀 「さっき言った通り可愛い感じがするけど・・・利点ではないかしらね」
提督 「不正解。黒目や黒目勝ちの利点はアイコンタクトと逆で」
加賀 「相手に情報を伝えないこと・・・目は口ほどにものを言うの逆ですか」
提督 「遅いが正解だ。黒目は草食動物のような弱い生物に多い、ねずみ・馬・牛とかな」
提督 「そんな動物に白目があると黒目の動きが見えて体調から逃げる方向まで相手に伝えてしまい捕食される危険が増す」
加賀 「なるほど」
149 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/14(土) 23:58:08.35 ID:226+bx0t0
提督 「人間でも同じだ。目は情報を伝えすぎる」
提督 「古今東西あらゆる一流の剣豪や拳法家も相手の目を見れば繰り出す技を読めると言ってる」
提督 「だから要人護衛とか特殊部隊では色入り眼鏡を付けて視線を隠す」
提督 「ところで、深海棲艦の目は何色だ?加賀」
加賀 「色も何も眼球は全て同じ色で発光してるわよね、黒目とは言わないでしょうけど」
提督 「そうだな・・・なんで、荒潮への攻撃に気付いた?」
タ級の第一撃の砲撃寸前、タ級は背負っていた敵軽空母の噴煙で指揮作戦艇の付近からは姿は見えなかった。
見えていたのは、噴煙の中に微かに光るタ級の目だけだった。加賀も提督と同じ状態であったはずだ。
提督 「あの時加賀には何が見えていた?」
150 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/15(日) 00:00:39.70 ID:S4H4Lhn+0
加賀 「何も見えてはいなかったわ」
提督 「目もか?何も見えていなかったのか、ならどうやって気付いた?」
加賀 「どうやって気付いたと言われるとカンと言うほかないのだけれど・・・」
加賀 「艦娘の同調が他に影響を及ぼすのは知っているわよね」
提督 「あぁ」
加賀 「私は仲間の同調や具現化に敏感というか・・・おおよそなら察知できるわ」
加賀 「その感覚でおぼろげに深海棲艦の感情なのか攻撃する意思、殺意と言ってもいいかもしれない」
加賀 「それがわかるのよ」
提督 「そう・・・か」
加賀 「感覚だけじゃなくて実戦経験からのカンの部分もあるからそこまであてにならないけどね・・・」
加賀 「余り広めないでくれる?」
提督 「あぁ・・・しかし、本当か?」
加賀 「私の被弾率を見たらわかるでしょ」
こう言われると提督も認めざるを得ない。加賀は殆ど被弾しない。
151 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/15(日) 00:03:45.84 ID:S4H4Lhn+0
提督は諦めた風に首を振る。
提督 「そうだな」
加賀 「残念そうね」
提督 「あぁ、教えられることなら良かったと思う」
加賀 「そう都合よくいかないものよ、ところで・・・」
提督 「ん」
加賀 「朝潮の処分はどうするの?」
提督 「・・・」
提督は朝潮の才能を認めていた。
提督 「加賀・・・わざとか?」
加賀 「?・・・先ほどの命令違反に付いて聞いているだけなのだけど」
提督 「加賀、顔が怖いぞ」
加賀 「処分をどうするか聞いてるだけじゃない」
加賀 「それに朝潮はこの頃成績も振るわないわよね」
最近の朝潮の成績は至って普通だ。悪いわけではない。
ただ、最初の才能から提督が期待した伸びは一切なかった。
152 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/15(日) 00:05:05.18 ID:S4H4Lhn+0
加賀 「第一艦隊からおろしたら?」
提督 「第一艦隊所属の駆逐艦としてはまだ新入りなんだから大目に見ないといかんだろ」
加賀 「そうかしら」
加賀 「寧ろ他に改二持ちの高性能な駆逐艦がいるのだから、朝潮と荒潮はもういらないんじゃない?」
夕立時雨など他にも第一艦隊所属の駆逐艦は他にも存在する。
基本的に二隻一組で運用されていた。
提督 「加賀・・・おかしいぞ」
提督 「二隻轟沈したまま運用できていたのに、念のため駆逐艦を補充しようと言ったのは加賀だっただろ」
加賀 「そうだったかしら」
朝潮が着任した時に、加賀が提督に進言したことだ。
提督 「それに朝潮の成績が落ちているのは、少なからず加賀の訓練が影響しての部分があるだろ」
加賀 「・・・」
提督 「沈黙は肯定ととらえるぞ」
加賀 「くだらない」
153 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/15(日) 00:08:28.02 ID:S4H4Lhn+0
加賀は無表情で声は低く平坦に話している。
こういう時は不機嫌な時だと提督はわかる。
提督 (これだからプライドの高い女は・・・)
男が妥協するまで、こういう女は妥協点に気付いていても知らない演技をするか折れない。
こういう女の面倒な姿勢は提督を苛立たせもしたが、行為の時にその女を屈服させるのは提督を強烈に興奮させた。
この加賀の姿勢にイラつきより興奮を覚えた提督は、気付かないうちに加賀に調教されていたのだろうか。
提督自身もわからないまま苛立つ演技を続ける。
154 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/15(日) 00:10:02.76 ID:S4H4Lhn+0
提督 「少しずつ確実に加賀の艤装との同調を朝潮に上げさせているだろ」
提督 「常態化して誰も文句を言わんがな」
加賀 「あなたのせいで落ち込んだ朝潮に自信をつけようとしただけですよ」ニコ
提督 「ならもう止めろ」
提督 「呼応するように朝潮の同調が落ちている、成績にも出ているし傍目にもわかる」
加賀 「まぁ、私は止めてもいいのだけれど」
提督 「すぐ止めろ」
提督 「お前がいるから朝潮はここでは加賀になれん」
提督 「意味がないのに何故続けるだ?」
加賀 「この頃は朝潮から私に訓練をお願いしてくるんですよ」ニコニコ
提督 「同調に敏感な加賀なら尚更気付いてるだろ」
提督 「これ以上同調が落ちると危険だ」
加賀 「だから?」
提督 「朝潮を殺す気か」
加賀 「さぁ?・・・」ニッコリ
155 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/15(日) 00:12:26.04 ID:S4H4Lhn+0
加賀が提督に朝潮を殺す提案をしたことは何度かあった。冗談・・・と提督は思っていた。
それを本気のように感じさせる不気味な笑顔だった。
提督 「この出撃体制だといずれにしろ駆逐艦は足りん、旗艦にして練度を上げてでも使うからな」
提督は独り言のように言い放つ。
言葉は風と一緒に後方に流れ、加賀は素知らぬ顔だ。
もうそろそろ前方に陸が見えるはずだ。
―――――
―――
156 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/15(日) 00:14:52.89 ID:S4H4Lhn+0
港には第二陣の面々が待っていた。
提督 「ちょっと早くなったがすぐ出るぞ」
さっさと乗り換えを済まし指揮作戦艇はすぐ出発した。
加賀 「荒潮の回復を待ちたいので反省会は夕方にしましょう」
それだけ伝えると加賀は早歩きで執務室に向かい。
五月蝿い加賀のいなくなったのを待ち、利根と筑摩はすぐどこかへ消えた。
日向は荒潮を背負ったまま朝潮に話しかける。
日向 「荒潮を医務室に寝かせてくるから、艤装を入渠ドッグにお願いできるか?朝潮」
朝潮 「はい」
日向 「加賀の奴、少しは部下を・・・」ブツブツ トコトコ
157 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/15(日) 00:16:40.43 ID:S4H4Lhn+0
正直に言えば、朝潮もすぐ艤装と一緒に意識を投げ出したいほど疲れていた。
朝潮 (コンクリート・・・柔らかそう、横になりたい)
少し休もうと自分の艤装を降ろし腰掛ける。
すると一瞬だけ意識が飛んだ。
視界が暗くなり夜になったかとびっくりして意識を取り戻す。
目の前で大和が朝潮の顔を覗いていた。
暗くなったのは大和の傘の影に入ったからであった。
お気に入りの傘をさして微笑む大和は戦場を微塵も感じさせない優雅さがある。
大和 「どうしたの?」
朝潮 「?!」
朝潮 (どれだけ意識を失ってたのかしら?)
大和 「風邪引くわよ、怪我とかに強くても病気はかかるんだから」
中破してぼろぼろの制服はよく風を通した。
朝潮 「すいません、心配おかけして」
立ち上がるもふらつく。それでも何とか艤装二つを動かせるくらいには回復していた。
158 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/15(日) 00:18:28.36 ID:S4H4Lhn+0
大和 「加賀さんにしごかれたの? 随分お疲れだけど」
朝潮 「いえ、不注意で被弾しました」
大和 「そう? 中破の参り方じゃないけど」
朝潮 「・・・」
大和 「その様子だと色々あったようね。もし何かあったら言ってね」
朝潮 「はい・・・」
大和 「艤装運ぶの手伝いましょうか?」
朝潮 「いえ、大丈夫です。有難うございます、失礼します」タタッ
大和 「無理そうなら、そこらへんの娘捕まえてお願いしなさいね〜」フリフリ
大和 「さて・・・あの様子だと衣料室にすぐ来るかしら」トコトコ
加賀が嫌われていた分、大和は人気があった。
千歳の事件も大和がなだめたお陰で収束していた。
時間は朝潮が気を失ってそんなにたっていなかった。
朝潮 (早く入渠ドッグに艤装を預けて荒潮のお見舞に行こう)
入渠ドッグまで途中幾人かとすれ違ったが、皆が朝潮を他人のように気にかけなかった。
中破はこの鎮守府の出撃において当たり前すぎて気にするほうが可笑しかった。
159 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/15(日) 00:19:37.61 ID:S4H4Lhn+0
朝潮は何度か休んでやっと入渠ドッグにたどり着く。
入渠ドッグに建造ドッグが並ぶここは鼻が曲がりそうな異臭を放っている。
この異臭に安堵を覚える日がこようとは朝潮は今日まで思わなかった。
入渠ドッグで一番目に付くのは、見た目から危なそうな緑色の液体がみなぎる四つの巨大な試験管だ。
この試験管の中の液体に艤装を浸けることで修復される仕組みになっている。
中の液体は修復材と呼ばれ、海水と艤装の素材と軍事機密の怪物質を混ぜて作られていた。
試験管の上下左右は修復材の上記構成物質を供給する配管とタンクが大量に並びかなりごちゃごちゃしていた。
それらの供給を掌るモーターが絶えず駆動音を発し、
雑多な配管で反響したそれは心臓の鼓動のような重低音を施設内に満たした。
160 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/15(日) 00:21:07.38 ID:S4H4Lhn+0
入渠自体は、艦娘が試験管の前にあるクレーンに艤装をセットすると後は自動で行われた。
朝潮はチェーンで先に荒潮の艤装を固定すると、ボタンを押した。
すると、チェーンが巻き上げられ高いところにある試験管の口に艤装が移動する。
朝潮 (ユーフォーキャッチャーみたいだ・・・したことないけど)
破損でできた穴たちが液体を吸い込みつつ、ぼこぼこ音を立てながら荒潮の艤装が沈んでいく。
朝潮 (私をあの日から支えてくれた荒潮を・・・今度は私が・・・)
その決心を鈍らせないように朝潮は荒潮の艤装が完全に修復材に沈むまで見守った。
片手間でセットした自分の艤装は朝潮に想われるでもなく見られるでもなく寂しく沈んでいく。
その側面は荒潮同様に穴だらけであった。
―――――
―――
161 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/15(日) 00:25:14.97 ID:S4H4Lhn+0
艤装を浸けたら後はやることはない。
入渠ドッグから出た朝潮は荒潮の元に向かう。
医務室は、ベッドと薬品棚だけが並ぶ部屋だ。担当の艦娘が一人詰めている。
回復能力の高い艦娘は大破した時くらいしか使わない。
季節によっては、共同生活で感染拡大しやすい風邪などの病気にかかった娘を隔離するのに使われたりもする。
朝潮 「失礼します」ガラリ
静かに入室し荒潮を探す。
壁の側面に薬品棚が並んでいるのに目が行く。
ここから避妊薬をもらったことはつい最近のことなのに遠い過去のように思えた。
朝潮 (医務室担当の人いないのかしら・・・)
がらんとした部屋でカーテンの引かれたベッドは一つで荒潮の居場所はすぐわかった。
ベッドを囲む間仕切りりのカーテンをめくる。
中ではベッドで横になる荒潮の横で日向が椅子に座って本を読んでいた。
162 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/15(日) 00:27:06.55 ID:S4H4Lhn+0
日向 「お・・・朝潮来たか」パタン
朝潮 「日向さん」
日向 「荒潮ももう落ち着いてきたよ」
朝潮 「そうですか、良かった・・・」
朝潮 「今日はすいませんでした」
日向 「朝潮、そう気に病むな。仲間を思いやることは大切なことだよ」
日向 「伊勢の時・・・私も駆け寄れていればと思うことがあるよ」
朝潮 「・・・」
日向 「湿っぽくなったな、言ってることは無茶苦茶だしな」
日向 「仲間のために私たちができることは、より多くの深海棲艦を倒すことだけなのだから」
朝潮 「はい・・・」
日向 「もう行くよ、二人で話すこともあるだろう」
日向 「夕方の会議までに風呂に入ってさっぱりするといい」
朝潮 「はい、お疲れ様です」
日向は手を振りながらカーテンを割って出て行った。
日向が座っていた見舞い用の四脚丸いすに朝潮は腰を下ろす。
163 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/15(日) 00:32:12.26 ID:S4H4Lhn+0
荒潮を見ると時々苦しそうな顔をするものの呼吸も落ち着き穴だらけの制服から見える肌の傷は殆ど癒えていた。
荒潮 「朝潮ちゃん?」
朝潮 「!」
朝潮 「心配したのよ、大丈夫?」
荒潮 「えぇ」ニコ
朝潮 「体はどこも痛くない?」
荒潮が上半身を起こし体を軽く動かした。
荒潮 「えぇ、大丈夫」ゴソゴソ
朝潮 「じゃあ、お風呂でも行かない?」
荒潮 「いいわね〜、体の煤は日向先輩が軽くぬぐってくれたみたいだけど綺麗にしたいわ〜」
朝潮 「決まりね」
微笑むと荒潮は軽快にベッドから降りた。
一緒にベッドを軽く整えて、囲っているカーテンを開けると死角のベッドで加古が寝ていた。
朝潮 「もしかして・・・」
荒潮 「多分、今日の医務室当番ね」フフ
置かれている管理ノートに使用終了の旨を静かに記入する。
朝潮 「まず、制服を受け取りに行かなくちゃね」
荒潮 「そうね〜」
164 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/15(日) 00:37:36.66 ID:S4H4Lhn+0
大和のいる衣料室に向かい新品の制服をもらう。
入渠ドッグに行き艤装を預け、衣料室で新しい制服をもらうことは、第一艦隊所属の艦娘には手馴れた作業だ。
大和 「朝潮ちゃん待ってたわ、荒潮ちゃん大変だったわね」
荒潮 「いえいえ〜」
大和 「荒潮ちゃん朝潮ちゃん、今回も同じサイズで大丈夫?」
荒潮 朝潮 「はい」
大和 「はい、これね」
朝潮 「ありがとうございます」
荒潮 「ありがとうございます〜」
新品の制服は綺麗に袋詰めされている。
大和 「これからお風呂?」
朝潮 「はい」
大和 「破れた制服はいつもどおり、脱衣所の専用かごにお願いね」
朝潮 「了解しました」
荒潮 「失礼します〜」
大和 「いってらっしゃーい」フリフリ
部屋を出た朝潮と荒潮は大浴場へ向かう。
二人の抱える制服を包むビニール袋がぱりぱり小気味いい音をたてた。
―――――
―――
165 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/15(日) 00:43:13.45 ID:S4H4Lhn+0
カポーン
早い時間でも人がちらほらいる、ここはこの鎮守府に一つだけの大浴場。
一番大きな湯船には鉱泉を暖めたお湯が常時注がれ小さい滝のようになっていた。
小さな滝の音と鉱泉の臭いのにぎやかさが、入浴する艦娘たちに安らぎを与えていた。
美肌効果があるということで足しげく通う艦娘も多い。
朝潮と荒潮はお互いの髪を洗いっこするのが日課になっている。
風に流れる美しい長い髪は洋上から戻る時には塩気を吸い痛みべたついた。
166 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/15(日) 00:46:06.18 ID:S4H4Lhn+0
今は朝潮の髪を荒潮が洗っている。
荒潮 「朝潮ちゃんは綺麗な黒髪ね、お母さまもそうだったの〜?」クシクシ
朝潮 「うーん、お父さん似かもしれない」
災厄直後から父親は行方不明だ。
親が〜なんてことは鎮守府でよくあるのでタブーでもなんでもない。皆あけすけに聞いた。
死は私生活においても艦娘の生活においてもすぐそばにあった。
荒潮 「女の子は父親に似るって言うものね」
朝潮 「荒潮は?」
荒潮 「母親似かな〜くせっ毛とか。朝潮ちゃんの真っ直ぐの髪素敵ね〜」
朝潮 「ありがと」
朝潮 「そんなこと言うけど、私は荒潮のくせのある髪カールが可愛くて好きよ」
荒潮 「ふふふ、ありがとう〜」
荒潮が朝潮を洗髪してくれる間、朝潮は安心感に包まれる。
荒潮が頭皮に走らせる指、髪をすく指、終った時に背中をぽんと押す手の平の感触。
どれも心地よかった。
荒潮 「流すよ〜?」
朝潮 「うん」
ザバー
ポン
荒潮 「終わり!」
朝潮 「次は荒潮ね」
荒潮 「は〜い」
背中を押すのは荒潮流の終わりの合図だ。朝潮の母も同じことをしていた。
167 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/15(日) 00:55:37.78 ID:S4H4Lhn+0
朝潮 (姉と私でどちらが先にお母さんに髪を洗われるか喧嘩したっけ・・・)
荒潮 「どうしたの〜?朝潮ちゃんぼーっとして」
朝潮 「ごめん・・・荒潮がうまかったからどうしたら同じようにできるかなって」
荒潮 「ふふふ、私ほどの腕前になるのは難しいわよ〜」ニコニコ
朝潮は荒潮ほど髪を洗うのはうまくない。
水で流すまで目をつむらないでもいい朝潮と、終始目をつむる荒潮を見ても一目瞭然であった。
朝潮 「なんでそんなに上手なの?」
荒潮 「ん〜妹と弟が多かったからかな〜」
朝潮 「みんなの髪洗ってたの?」
荒潮 「洗えない子たちのだけよ〜」
朝潮 「たち・・・」
荒潮 「ふふふ、孤児院でもずっと一緒」
朝潮 「いいわね」
荒潮 「うん、けど・・・だから私寂しがりやなのかもしれないわ」
荒潮 「朝潮ちゃん・・・私」
急に荒潮の声が小さくなり、気になった朝潮が半身をずらし荒潮を写す鏡を見る。
荒潮 「第一艦隊から外してもらおうと思うの」
朝潮 「・・・そう」
荒潮の目はつむって見えないものの、表情はいつも通り微笑んだままだった。
168 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/02/15(日) 00:57:59.73 ID:S4H4Lhn+0
朝潮 「聞いてもいい? 理由」
荒潮 「このまま話したら寒いし、湯船でお話しましょ〜」
朝潮 「うん」
そこからは無言で髪を洗いタオルで巻き、それぞれ体を洗った。
いつもなら話しながらすることを無言でするのは寂しかった。
朝潮 (出撃も一人だと寂しいだろうな)
荒潮の覚悟が決まっていて今日の大破でそれが確定的となったことを朝潮は感じていた。
―――――
―――
169 :
◆oUFoaE/FvU
[sage]:2015/02/15(日) 00:59:35.46 ID:S4H4Lhn+0
本日投下分終了です。ご読了ありがとうございます。
170 :
◆oUFoaE/FvU
[sage]:2015/02/15(日) 01:13:08.92 ID:S4H4Lhn+0
>>145
様
お米ありがとうございます!
171 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/02/15(日) 01:14:15.47 ID:VhYi9IblO
乙でした
朝潮ちゃんprpr
172 :
◆oUFoaE/FvU
[sage]:2015/02/15(日) 20:59:38.28 ID:S4H4Lhn+0
>>171
様
お米ありがとうございます。
朝潮型は最高ですね。
こういうSSは初めてなんでお米ご指導ご感想いただけると嬉しいです。
173 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/02/18(水) 19:46:59.83 ID:kADNEEyv0
米も感想も書くから早く続きを書きやがれお願いします
174 :
◆oUFoaE/FvU
[sage]:2015/03/01(日) 00:56:44.90 ID:ntc75ope0
>>173
様
お米ありがとうございます。お待ちしています。
175 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/03/01(日) 01:18:34.95 ID:4lyz1iwOO
朝潮分が切れて禁断症状起こしちゃうからはよはよ
176 :
◆oUFoaE/FvU
[sage]:2015/03/01(日) 02:06:21.33 ID:ntc75ope0
>>175
様
お米ありがとうございます。
投下再開します。お風呂シーンからです。
177 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2015/03/01(日) 02:08:07.76 ID:ntc75ope0
少し高いところから注がれる鉱泉が落水音を絶えず放つ。
湯の表面は音と一緒に常に発生する波で海のようだ。
朝潮と荒潮は湯船でも注がれる場所の近くにいて、二人の話し声は殆ど漏れない。
朝潮と荒潮は二人並んで座っている。
朝潮はこんな時でも背筋を伸ばし荒潮はふちにもたれかかっている。
荒潮 「知ってる〜?昔の鎮守府のお風呂」
朝潮 「まぁ、こんなにしっかりしたお風呂ではなかったでしょうね」
荒潮 「艦娘も少ないし、運用に慣れてなかったから、自衛隊のお風呂そのまま作ったらしいわ」
朝潮 「自衛隊のお風呂?」
荒潮 「凄く浴槽が深かったらしいわ」
朝潮 「どれくらい?」
荒潮 「朝潮ちゃんの身長くらいかな」
朝潮 「なんで?」
荒潮 「立つことになるから長風呂にならないでしょ〜それに一緒に沢山入ることができるから〜」
朝潮 「おぼれそう・・・」
荒潮 「鎮守府の数少ない娯楽だから艦娘に不評ですぐ終ったらしいわ」
朝潮 「そうなんだ」
言葉少なに朝潮は返す。
朝潮はこの浴槽で色々なことを荒潮から聞いた。
荒潮は周囲への気配りの延長で色々な情報を持っている娘だった。
178 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2015/03/01(日) 02:10:53.39 ID:ntc75ope0
荒潮が両手でお湯をすくい、それを見つめる。
荒潮 「何で第一艦隊を外れたいかよね〜」
朝潮 「その前に聞いてもいい?」
荒潮 「な〜に〜?」
荒潮はすくったお湯が手から零れ落ち尽くしたらまたすくうを繰り返していた。
朝潮は荒潮を見たり周囲に視線を配ったりしている。
朝潮 「今日の出撃であんなに気が散ってたのは何で?」
荒潮 「このことを提督に言おうか迷ってて、そのまま戦闘になったから〜」
朝潮 「本当なの?」
荒潮 「えぇ」
小中破から轟沈させる深海棲艦のいる海域で気を散らすなんて異常だ。
深く考えなくても嘘とわかる。
朝潮 「そう・・・」
荒潮 「そんなに真面目だと疲れない?」
朝潮 「え?」
荒潮 「茶化す気はないわよ〜」
荒潮は手を止めていつもの微笑みをたたえた顔で朝潮を見る。
179 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2015/03/01(日) 02:12:19.43 ID:ntc75ope0
荒潮 「第一艦隊を外れたい理由を話すわね」
朝潮 「うん」
荒潮 「一言で言えば轟沈したくないからかな」
朝潮 「ん?」
荒潮 「不思議〜?」
朝潮 「うん」
出撃となれば轟沈の危険はあった。
朝潮 「これまでも戦って危険なことは何度もあったでしょ?」
荒潮 「今更?って思うわよね」
朝潮 「えぇ」
荒潮 「朝潮ちゃんにはわからないだろうけどね」
荒潮 「これからの出撃で仲間がどんどん轟沈するわ」
平時の語り口調で淡々と轟沈を口にする荒潮。
湯に温められいつもは健康的に朱が挿す少女の顔も肩も白い、朝潮もそうだった。
180 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2015/03/01(日) 02:13:58.62 ID:ntc75ope0
朝潮 「今日の会議で提督が言った通常の出撃体制に戻すって話?」
荒潮 「そうよ〜」
朝潮 「会議じゃそんな風には・・・」
荒潮 「普通怖いし動揺するわよね?」
ふと朝潮の頭に千歳のことが思い浮かぶ。
荒潮 「けど、ここは轟沈が多いから・・・今更怖がる娘はいないわ」
朝潮 「そんなことありえるの?」
荒潮 「怖がると同調が崩れて轟沈する危険は増すから」
朝潮 「そうなの?」
荒潮 「そうよ。だから、怖いと思ってもみんなその気持ちを抑え込んで戦ってる」
荒潮 「今朝も動揺してるように見えなかったでしょう」
朝潮が少し距離を置いて見てた限り、荒潮の言うとおりに思えた。
そこに動揺はなく轟沈のあった海域へ敵討ちに行く一体感があっただけだ。
181 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2015/03/01(日) 02:16:09.52 ID:ntc75ope0
荒潮 「それに・・・」
朝潮 「それに?」
荒潮 「さっき言ったとおり、精神の不安定は同調に影響するでしょ?」
朝潮 「そうね」
精神の不安定や疲労による集中力低下は同調に影響した。
同調の際は波打つ海上であろうと精神はコップの水のように静かでなければならなかった。
荒潮 「轟沈する娘は怖さに囚われて同調を乱したからとみんな思ってるわ」
朝潮 「そんなこと思い込みじゃ」
荒潮 「同室の子、轟沈した満潮ちゃんは・・・」
荒潮はすくったお湯に映る自分を見る。
荒潮 「そうだ、朝潮ちゃんは轟沈ってわかる?」
朝潮 「言葉は」
荒潮 「言ってみて」
朝潮 「戦闘中に同調が切れて絶命することよね」
荒潮 「教科書通りね〜、凄く正しい」
荒潮 「ところで、轟沈した艦娘がどう死ぬかわかる?」
朝潮 「・・・」
荒潮 「朝潮ちゃんは考えなかっただけでわかるはずよ〜・・・大破した時の痛みで、傷で」
荒潮 「同調が切れた瞬間に艦娘は死ぬそうよ」
朝潮 「そうなんだ」
荒潮の指摘通り朝潮はおおよそわかっていた。初出撃の大破のときから。
けど、今荒潮がその話をすることが朝潮にはわからない。
182 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2015/03/01(日) 02:17:07.21 ID:ntc75ope0
荒潮 「痛覚を抑える能力が落ちて絶命するほどの痛みを感じるからか」
荒潮 「防御壁が消えて生命維持が不可能なほど体がボロボロになるからか」
荒潮 「正確なことはわからないらしいわ」
荒潮 「けど、朝潮にもここまでは想像が付くでしょう?」
朝潮は無言でうなづく。
荒潮 「で、死体はどうなると思う?」
朝潮 「海上に浮翌遊する能力も消えるから・・・沈むんじゃない?」
荒潮 「正解よ」
荒潮 「轟沈した艦娘はね、沈むの」
荒潮 「艤装に海底へ引きずり込まれるとか言われているわ」
荒潮 「だから死体は出ないし、出ても千切れた部位だけ」
荒潮 「満潮ちゃんも・・・何も・・・帰ってこなかった」
荒潮のすくったお湯の波が強くなる。
手が震えていた。涙はぬれた頬に流れているかはわからない。
183 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2015/03/01(日) 02:18:53.12 ID:ntc75ope0
荒潮 「轟沈した艦娘に鎮守府がすることはないの」
荒潮 「葬式も何も・・・動揺するからってないわ」
荒潮 「千歳さんが言ってたように、緊急の戦力補強を名目に資材が少し多く配当されるだけ」
荒潮 「轟沈してすぐ満潮ちゃんは完全に消えたわ」
荒潮 「みんな忘れようとしてた」
荒潮 「泣いてる私に遠征が何度も指示されて・・・」
荒潮 「轟沈した時に同じ第一艦隊だった時雨ちゃんも何もないように・・・」
荒潮 「むしろ、満潮ちゃんの轟沈前より張り切って出撃していたわ」
朝潮 「だから、それは・・・それしか満潮ちゃんのためにできることがなかったからじゃないの?」
荒潮 「そうすることを満潮ちゃんが望むの?」
朝潮は答えられない。
荒潮 「みんな時雨ちゃんのように・・・提督の言葉に近い想いを持って出撃してるわ」
荒潮 「轟沈した仲間のために・・・いい言葉よね」
朝潮 「そうするしかないじゃない」
荒潮 「そうかもね、何があったって深海棲艦の侵攻は止まらないのだから」
朝潮 「そうよ、悲しみを抑え込んで必死に戦うしかない」
荒潮 「悲しみ?必死に戦う?最初だけなのよ」
少し話すトーンの変わった荒潮に朝潮が視線を向けると無表情な荒潮がこちらを見ている。
話し方は機械の様に平坦で、目に力はない。
184 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2015/03/01(日) 02:23:28.45 ID:ntc75ope0
荒潮 「本当に最初だけ」
朝潮 「最初だけ?」
荒潮 「無茶な出撃が益々出撃と轟沈に拍車をかける」
荒潮 「轟沈した艦娘の分まで出撃しなければならない疲労と精神的な重圧・・・」
荒潮 「私の涙が枯れた頃に満潮ちゃんの轟沈のせいで出撃が増えたと愚痴る時雨ちゃんを見たわ」
荒潮 「怖がって同調を乱して勝手に沈んでいい迷惑だよって」
前を見据える荒潮の声は震えてきていた。
朝潮 「時雨ちゃんも本心で言ったんじゃ・・・」
荒潮 「本心よ。それに別に時雨ちゃんだけじゃない」
鎮守府の事情に通じた荒潮がいい加減なことを話すことはなかった。
185 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2015/03/01(日) 02:24:32.90 ID:ntc75ope0
荒潮 「よくあることなのよ」
朝潮 「そんな・・・」
荒潮 「だから轟沈した娘のために出撃するのはほんの最初だけ」
朝潮 「人間そんなにすぐ忘れられないわよ」
荒潮 「いつも誰かが轟沈してるから一々深く悲しんだりしてられない」
朝潮 「そんな・・・異常よ」
荒潮 「異常なことも頻繁にあればそれが普通になるわ」
朝潮 「おかしいわよ」
荒潮 「信じられない?」
朝潮 「だってそんなに轟沈があるなら高い戦果と士気が説明できない」
荒潮 「いつも誰かが轟沈してるって言ったでしょ?」
朝潮 「えぇ」
荒潮 「毎日変わるのよ、轟沈した仲間のためにの”仲間”がね」
朝潮 「どういうこと?」
荒潮 「満潮ちゃんのために出撃があったのが三日と言えばわかる?」
朝潮 「次の轟沈が起こったってこと?」
荒潮 「そう」
轟沈は熟練提督なら年で一人出るか出ないかだ。
この頻度は異常と朝潮でもわかる。
186 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2015/03/01(日) 02:27:37.89 ID:ntc75ope0
荒潮 「満潮ちゃんは・・・仲間だって帰ってこない」
荒潮 「それなのに日々変わる轟沈した仲間のために出撃してまた轟沈する」
荒潮 「そうやってるから結果的に士気と戦果が高いだけよ。この鎮守府は」
荒潮がすくったお湯が指の隙間からこぼれる。
朝潮 「言い過ぎよ・・・」
荒潮 「満潮ちゃんは・・・いい子だったわ、朝潮ちゃんみたいに真面目で」
荒潮 「人を思いやって鎮守府のみんなが大好きで!」
朝潮 「荒潮だってそうじゃない」
荒潮 「私は違う!・・・違うのよ」
荒潮はすくったお湯で時々顔をぬぐった。
荒潮 「満潮ちゃんは」
荒潮 「この鎮守府の朝潮型で初の第一艦隊になった艦娘よ」
荒潮 「それでも私たちと気取ることな接してくれていたわ」
荒潮 「私と朝潮もそうだけど、こっちの方が異常なの。お給金も待遇も違うのだから」
荒潮 「他にも第一艦隊所属の駆逐艦がいるのに私たちに集まるのはそういう訳なのよ」
朝潮 「そう・・・」
187 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2015/03/01(日) 02:30:51.93 ID:ntc75ope0
荒潮 「満潮ちゃんは今の私たちみたいに色々話してくれたわ」
荒潮 「深海棲艦それも戦艦の強力な攻撃をかいくぐって砲撃して小破させたとか、色々ね」
荒潮 「私と霞と大潮の憧れだった、大切な友達だった」
荒潮 「轟沈する前日も二段ベッドの上下で明日も頑張ってねと話してたわ、私たちがするように」
荒潮 「変わらない日常だったのよ、何の前触れもなく満潮ちゃんは轟沈した」
荒潮 「誰も悲しんでいないから言われるまで轟沈に気付かなかったの、笑えるでしょ」
荒潮 「翌日満潮ちゃんに家族がいないから前いた孤児院に残った荷物を送ることになったわ」
荒潮 「同室だから私が作業に当たった」
荒潮 「荷物を整理していると読んだことのない満潮ちゃんが大事にしてた日記が出てきたの」
荒潮 「今でも読まなければと思うことがあるわ」
荒潮 「日記の方は殆ど私たちと一緒だった時のことばかり嬉しそうに書いてあった」
荒潮 「誇らしげに話してた出撃の日記の内容は危なかったとか怖い辞めたいばかりだった」
荒潮 「私たちは誰も何も満潮ちゃんの気持ちをわかってなかった」
荒潮 「今思えば轟沈への恐怖の中で私たちと話してたのが一番楽しい思い出だったのかもしれない」
荒潮 「私は同じ部屋にいる満潮ちゃんのことを自分の半身のように思ってた」
荒潮 「戦果を上げたことを自分のことのように喜んでたわ」
荒潮 「けど、それだけで・・・悲しさも恐怖も共有できていなかったのよ」
荒潮 「満潮ちゃんは寂しかったと思う」
荒潮 「それでも勇気を振り絞ってそれを見せないで出撃してた」
荒潮 「それなのに私・・・自分勝手よ」
朝潮 「そんなことない!!」
荒潮 「慰めなんていらない・・・」
188 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2015/03/01(日) 02:32:54.50 ID:ntc75ope0
荒潮 「満潮ちゃんの勇気を見てきたのに、もう第一艦隊から外れたいなんて」
荒潮 「けど怖いのよ、亡くなって数日で忘れられて、それどころか陰口を叩かれるのが」
荒潮 「寂しがりやだから嫌なのよ、何もなくなるのも。朝潮にも忘れられたくない、家族にも、みんなにも・・・」
荒潮 「そう思っちゃいけない?」
朝潮 「・・・」
こちらを見た荒潮の目の赤さが未だ白い肌に際立った。
荒潮 「死ぬのが怖いの」
荒潮 「こんなこと朝潮に話すことじゃないわよね、ごめんなさい」
朝潮 「じゃあ、今日の出撃は」
荒潮 「満潮ちゃんの日記で恐怖の部分だけが現実味を帯びて大きくなっていってるのよ」
荒潮 「この頃夢で見たことない満潮ちゃんの轟沈した場面を見るの」
荒潮 「自分が第一艦隊で出撃しているから日に日に内容が鮮明になるのよ」
荒潮 「さっきのは嘘、今日の出撃では平静を保つので精一杯だったのよ」
荒潮 「よくできてたでしょ?」
朝潮 「大破しちゃってたじゃない」
荒潮 「そうね」フフ
荒潮が自嘲気味に笑う。初めて荒潮がそう笑うのを朝潮は見た。
189 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2015/03/01(日) 02:35:17.05 ID:ntc75ope0
朝潮 「満潮の戦いも、残された第一艦隊の戦いも無駄じゃない」
朝潮 「誰かがやらないといけないことだから」
朝潮 「私たち艦娘が」
朝潮 「艦娘だけが戦って守ることができるのだから」
荒潮 「そうね」
荒潮 「勝手に適性を与えられて生死の狭間で戦わされるのは私たちにしかできないことよ」
荒潮 「それを誇らしいと思わないことはない、今も意味がないこととは思わない」
荒潮 「けど、私には無理なの、さっき言った気持ちの部分だけじゃないわ」
荒潮 「私は何より孤児院の家族が大切で見捨てられない」
朝潮 「見捨てる?」
荒潮 「満潮ちゃんのいた孤児院から手紙が来たの遺族補償じゃ足りないから献金が欲しいって」
荒潮 「日記を読んだんでしょうね、私の名前が一番多く書いてあったから」
荒潮 「駆逐艦が轟沈しても大して遺族補償なんて出ないのよ」
荒潮 「階級や仕官年数で遺族補償が変わるように入って間もない駆逐艦に大した額が支給される訳ない」
朝潮 「払ったの?」
荒潮 「払ったわ・・・少し」
朝潮 「・・・」
荒潮 「妹たち弟たちのためにも。私は[
ピーーー
]ないのよ・・・」
朝潮は何もなぐさめることができないのが悔しかった。
190 :
◆oUFoaE/FvU
[sage]:2015/03/01(日) 02:36:31.65 ID:ntc75ope0
>>189
訂正
次の私の米と入れ替えを
191 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/03/01(日) 02:38:01.42 ID:ntc75ope0
朝潮 「満潮の戦いも、残された第一艦隊の戦いも無駄じゃない」
朝潮 「誰かがやらないといけないことだから」
朝潮 「私たち艦娘が」
朝潮 「艦娘だけが戦って守ることができるのだから」
荒潮 「そうね」
荒潮 「勝手に適性を与えられて生死の狭間で戦わされるのは私たちにしかできないことよ」
荒潮 「それを誇らしいと思わないことはない、今も意味がないこととは思わない」
荒潮 「けど、私には無理なの、さっき言った気持ちの部分だけじゃないわ」
荒潮 「私は何より孤児院の家族が大切で見捨てられない」
朝潮 「見捨てる?」
荒潮 「満潮ちゃんのいた孤児院から手紙が来たの遺族補償じゃ足りないから献金が欲しいって」
荒潮 「日記を読んだんでしょうね、私の名前が一番多く書いてあったから」
荒潮 「駆逐艦が轟沈しても大して遺族補償なんて出ないのよ」
荒潮 「階級や仕官年数で遺族補償が変わるように入って間もない駆逐艦に大した額が支給される訳ない」
朝潮 「払ったの?」
荒潮 「払ったわ・・・少し」
朝潮 「・・・」
荒潮 「妹たち弟たちのためにも。私は死ねないのよ・・・」
朝潮に反論する気は元からなくても、何もなぐさめることもできないのが悔しい。
唇をかみ締める朝潮にいつもの顔の荒潮が話しかける。
192 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/03/01(日) 02:38:52.55 ID:ntc75ope0
荒潮 「話したらすっきりしちゃった」
朝潮 「・・・」
荒潮 「満潮ちゃんならこんな相手に何かを背負わせるような話はしなかったわ」
荒潮 「私は満潮ちゃんになりたかったけどなれなかった」
朝潮 「荒潮と満潮は違うのだから仕方ないわよ」
それ以上何も言えなかった。
荒潮 「あがる〜?」
朝潮 「うん」
ちゃぽん
浴室内の水滴が付いた時計は朝潮が思ったより時間が経過していないことを示していた。
大浴場にいるメンバーは余り変わっていない。
しかし、朝潮にとって脱衣所まで目に映る人間が全て当初より別人のように思えた。
―――――
―――
193 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/03/01(日) 02:40:29.82 ID:ntc75ope0
パリパリ
新しい制服を包むビニール袋を開ける。
新しい衣服のにおい、のりのにおい、それと・・・。
朝潮 クンクン
荒潮 「いつもしてるけど、何してるの〜?」
朝潮を覗きこむ荒潮。格好は二人とも下着のみ。
艦娘の制服は常在戦場を旨とする鎮守府内では着用必須だ。
ただ、女性ばかりの寮関係施設では、夏は下着のままうろつく艦娘さえいる。
朝潮 「引かないでね?」
荒潮 「うん?」
朝潮 「新しい制服のにおいをかいでいるの」
荒潮 「何かにおうかしら?」クンクン
朝潮 「潮とすっぱい?においかな・・・」クンクン
荒潮 「工場のにおいじゃないんだ、へ〜」クンクン
朝潮 「少し前までそうだったわ、今はこんなにおい」
荒潮 「なるほど、すえたにおいね・・・」クン
荒潮が難しそうな顔をする。
194 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/03/01(日) 02:41:08.68 ID:ntc75ope0
朝潮 「どうしたの?」
荒潮 「朝潮ちゃん、このこと余り話さない方がいいかもしれないわ〜」
朝潮 「ごめん、はしたないよね?」
荒潮 「違うわよ〜」フフ
朝潮 「な、なんで?」
荒潮 「 」ヒソヒソ
朝潮 「えっ」
荒潮 「今でも提督は大和さんと衣料室で仲良しみたいねー」ウフフ
朝潮 「ハハ・・・」
提督が艦むすと二人きりになることができる空間は割と少ない。
荒潮 「朝潮ちゃんは下着にこだわりあるのー?」
195 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/03/01(日) 02:42:40.19 ID:ntc75ope0
損傷がわかる高性能な制服は艦種で完全指定だ。
しかし、制服以外の部分はいくらか選ぶことができた。
(靴下タイツスパッツ手袋腕当てリボンネクタイ髪留めアクセサリー下着etcetc)
と言っても選択できるのは全て海軍の審査を受けたものだけだ。
当然、制服のように対衝撃耐熱対磨耗に優れていた。
時々、審査外の化繊下着やアクセサリーを付けた艦娘が、
戦闘の熱で皮膚にそれを癒着させてしまい自己回復能力が働かなくなる事故があった。
朝潮 「んー、ニーソックス?少しでも体を覆う布の面積があった方が安全かな・・・なんて」
荒潮 「なるほど、朝潮ちゃんらしいわね」フフ
朝潮は他にも色々想像していた。
足に艤装を付けるような艤装を緊急で任される時があるかもとか、色々だ。
朝潮 「荒潮はスパッツにこだわりがあるの?」
荒潮 「なんで〜」
朝潮 「朝潮型は足に艤装付けないから特にスパッツじゃなくてもいいわよね」
朝潮型が腕当てを付けるのは艤装を腕に付けるからで、
同様に足に艤装を付ける艦種はスパッツやタイツで艤装の触れる部分を覆う艦娘が多かった。
196 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/03/01(日) 02:44:09.64 ID:ntc75ope0
荒潮 「そうね〜・・・こだわりはないけど」
荒潮 「艦娘になる前に余りスカートってはかなかったから〜」
朝潮 「そうなんだ」
荒潮 「スカートって小さい子が引っ張るから」
朝潮 「そういえば私も小さい頃お姉ちゃんのひっぱってたかも・・・」
荒潮 「どこも同じね〜」フフ
朝潮 「けどそうやってはけなかったなら尚更スカートでおしゃれしたいとかは?」
荒潮 「私も同じこと考えてのたけど、いざ慣れないスカートだけだと」
朝潮 「?」
荒潮 「すーすーするのが」
朝潮 「なるほどね。ふふ、それにしても意外」
荒潮 「ん〜?」
朝潮 「荒潮はそういうのみんなに合わせるイメージがあるから」
艦隊や寮の割り振りは、指導や運用の都合から同じ艦種かつ〜型で一緒にされやすい。
当然、同じ艦種や〜型で仲良くなれば制服以外の格好を揃える娘も多かった。
荒潮 「同調するのに集中力を使うから慣れた格好を今から変えるのもね〜」
朝潮 「そういうこと荒潮も気を付けるのね」
荒潮 「私は人一倍気を付けてるわよ〜」
朝潮 「そう・・・」
197 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/03/01(日) 02:46:10.10 ID:ntc75ope0
着替えの終わった二人はお互いの髪を乾かす。
ここでも荒潮は上手だ。乾かし方より頭を走る指が気持ちいい。
してあげる妹や弟に静かにしてもらうためのテクニックなのだろう。
朝潮 「うーん・・・衣装を変えないって言うほど効果あるの?」
荒潮 「ないかな〜気休めとか験をかつぐために近い感じよ〜」
朝潮 「験をかつぐ?」
荒潮 「うん、そういえば他の人も同じようこと色々してるわ〜こういう鎮守府だから」
朝潮 「そうなんだ、気付かなかった・・・」
荒潮 「朝潮ちゃんはそういうの信じなさそうよね」
朝潮 「そうかも・・・」
荒潮 「そうだと気付かないわよね」
朝潮 「具体的にはどういうことやるものなの?」
荒潮 「人によるわよ〜、気付いてるだけでも沢山」
荒潮 「よくあるのが朝食を決めたものにしたり、指揮作戦艇に乗る足を限定したりね〜」
朝潮 「そんなにあるんだ、気付かなかった」
荒潮 「気にしていなければ気付かないわよ〜」
朝潮 「そうかな?」
荒潮 「そうよ、わざわざ人に言うことじゃないから〜」
198 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/03/01(日) 02:49:21.87 ID:ntc75ope0
朝潮 「荒潮は信じてるの?」
荒潮 「信じてると思うわ」
朝潮 「思う?」
荒潮 「それで少しでも気持ちが上向きになればいいなって、いいことしか信じないの」
朝潮 「荒潮らしい」フフ
朝潮 「荒潮の験担ぎって何か教えてもらえる?」
荒潮 「制服をまめに新しいのに変えたりかしら〜」
朝潮 「綺麗好きだなとは思ってたけど」
荒潮 「朝潮ちゃんは真面目すぎよ〜」
朝潮 「え?何が?」
荒潮 「少しの損傷なら制服変えないでしょ、制服も貴重な物資だからとか思ってる?」
朝潮 「そうかも・・・」
荒潮 「それは験担ぎ以前の問題よね〜」
朝潮 「うーん」
荒潮 「制服より朝潮ちゃんの方が大事なんだから〜」
朝潮 「ありがとう、けど孤児院のくせでものを捨てられないというか・・・」
荒潮 「気持ちはわかるけどね〜」
朝潮 「でしょ?」
荒潮 「でも、ものを大切にする朝潮ちゃんが危険な目にあうのをそのものは喜ぶかしらね〜」
朝潮 「うっ、ものさん心配かけてごめんなさい」
荒潮 「フフフ」
これまでも色々話してきた。
けど、このようなお互いを改めて確認するような話はしなかった。
それはそれが必要なかったからだ。今はこの時間が惜しい。
朝潮 「荒潮、ごめん」
荒潮 「な〜に〜?」
朝潮 「荒潮は、タイミングとか考えてると思うけど」
だから朝潮は、風呂から出てからこの話題には触れなかった。
朝潮 「今執務室にいる加賀さんにさっきのこと話した方がいいと思う」
それにいいようのない卑怯さを朝潮は感じていた。
199 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/03/01(日) 02:50:49.13 ID:ntc75ope0
荒潮 「提督に言った方が・・・」
朝潮 「そんなこと言ってたら出撃の時みたいになるかもしれないじゃない」
荒潮 「それはそうだけど」
朝潮 「一緒に行くから言いに行こう」
朝潮は荒潮の穴だらけの制服を自分の破れた制服と一緒に脱衣所すみの専用かごに投げ込むと、荒潮の手を引く。
荒潮 「うーん・・・」
何かいいたげに考え込む荒潮が気にかかった。
―――――
―――
200 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/03/01(日) 02:52:27.63 ID:ntc75ope0
〜執務室〜
加賀 「・・・無理よ」
加賀は視線をPCのモニターに向けたまま言い放つ。
加賀 「これ以上、用がないなら下がりなさい」
荒潮 「・・・」
朝潮 「何でですか?」
加賀 「この出撃体制が当分続くからよ」
加賀は目の前の機械より冷たく機械的に話した。
朝潮 「轟沈するからですか?」
荒潮 「朝潮ちゃん・・・」
加賀 「そうよ、だから減ると回らないの」
朝潮 「轟沈が前提なら尚更一人くらい抜けても大丈夫ではないでしょうか?」
荒潮 「朝潮ちゃん!!!」
朝潮 「」ビクッ
荒潮 「朝潮ちゃん、加賀さんじゃどうにもできないわ」
朝潮 「?」
荒潮が何か言いたそうにしてるのを、朝潮は決心が鈍らないよう無理やり引っ張って来ていた。
201 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/03/01(日) 02:53:50.40 ID:ntc75ope0
加賀 「その通りよ、わかったら帰って今朝の報告書を作りなさい」
荒潮 「ごめんなさい、朝潮ちゃん・・・わかってたの」
荒潮 「それなのに朝潮ちゃんが引っ張るのに抵抗しないで」
朝潮 「どういうこと?」
大和 「編成の決定権は司令官にあるのよ」
執務室のドアを開けて大和が入って来た。空気が変わる。
加賀 「何の用?」
加賀はようやく視線を上げる。
大和 「廊下まで聞こえる声で話してたから諌めに来ただけよ」
加賀 「・・・声を荒げた積もりはないけど」
加賀 「丁度いいから、そこの二人を連れて出て行ってくれるかしら?」
大和 「諌めに来たのはあなたよ」
加賀 「・・・」
202 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/03/01(日) 02:55:12.48 ID:ntc75ope0
大和 「話を聞いて提督に進言するくらいできるでしょう?」
加賀 「無意味よ」
加賀 「私は朝潮と荒潮を第一艦隊から除外するよう既に提督に進言したわ」
加賀 「成績が低い上に今日の大破もあったから」
大和 「提督は何とおっしゃって?」
加賀 「提督は朝潮と荒潮を第一艦隊で使い続けるお積もりよ」
大和 「加賀が口下手だから説得できなかったんじゃないかしら」
加賀 「提督は彼女達を一時旗艦にすえて鍛えてでも、第一艦隊から下げないと強くおっしゃったわ」
朝潮 荒潮 「!?」
加賀 「外れるなんて無理でしょうね」
大和 「士気の低い子を送り出して轟沈したらどうするの?」
大和 「加賀さんあなた・・・責任を取れるの?」
加賀 「あなたが秘書艦だった時も轟沈する艦娘がいたようだけど責任はどう取ったのかしら」
大和 「私は人員が不足するようなことがなければ無理やり戦闘に駆り出すことはしなかったわ!」
大和が加賀を睨む。朝潮と荒潮は蚊帳の外だ。
203 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/03/01(日) 02:58:44.68 ID:ntc75ope0
大和 「無理かどうかは別よ」
大和 「荒潮ちゃんの気持ちを汲んで提督をもう一度精一杯説得すべきなんじゃないの?」
加賀 「・・・そうね。そうやって子供を騙して気持ちよく出撃してもらうなんて方法、勉強になるわ」
大和 「・・・」キッ
大和に睨まれても加賀は何もないように執務を再開した。
当然放たれる加賀の言葉はまた温度を失った。
大和 「加賀さん、荒潮ちゃんに顔をちゃんと向けて説得することを約束してくれる?」
やっと顔を上げた加賀は、表情を一切動かさず荒潮に言った。
加賀 「あなたが第一艦隊から外れることで」
加賀 「練度の足りない仲間が出撃して轟沈しても・・・あなたは耐えられるのね?」
この言葉に朝潮と大和は一瞬硬直し、荒潮を見る。
荒潮 「・・・」
荒潮は少し固まった後に静かにうなずいた。
大和 「そんな言い方
加賀 「わかったわ。その覚悟があるなら大丈夫ね」
加賀は顔をPCに戻し執務を再開した。
204 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/03/01(日) 02:59:43.30 ID:ntc75ope0
大和 「・・・」イラ
荒潮 「ありがとうございます。失礼します」グイ
朝潮 「しっ失礼します」
加賀 「待って」
朝潮 荒潮 「!?」ドキ
加賀 「この件は朝潮と荒潮しか知らないわよね」
荒潮 「・・・はい」
加賀 「これからも口外しないことね、後提督の説得は期待しないことよ」
荒潮 「はっはい」
加賀 「下がっていいわ」
朝潮 荒潮 「失礼します」
朝潮の服を荒潮が強く引いた。
―――――
―――
205 :
◆oUFoaE/FvU
[sage]:2015/03/01(日) 03:00:32.10 ID:ntc75ope0
今回投下分終了です。
ご読了ありがとうございます。
206 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/03/01(日) 03:10:13.82 ID:n/ovY9Jfo
乙ゥ
轟沈させた責任言うなら相手が違いますぞ大和さん
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