朝潮「制裁」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/01/24(土) 01:36:03.66 ID:mht4cBHC0

〜夕暮れの鎮守府〜


比叡 「知ってる?」ヒソヒソ

霧島 「今日着任の子でしょ」ヒソヒソ

比叡 「そうそう、提督に怪我させたんだって〜」ヒエー

霧島 「あっ・・・い、行きましょう、比叡姉さん」ソソクサ


 廊下を歩く朝潮の顔色は優れない。


加賀 「朝潮、止まりなさい」


 呼び止めた加賀の表情は険しい。


朝潮 「はい、加賀さん」


 立ち止まった朝潮は何を言われるか予期したのか、その暗い顔に一層影が差した。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1422030963
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/01/24(土) 01:39:07.12 ID:mht4cBHC0

加賀 「提督に怪我をさせたそうね」

朝潮 「・・・はい・・・そうです」

加賀 「提督が上に訴えればあなた危険分子として処罰されるのよ、わかってるの?」

朝潮 「提督が」

加賀 「言い訳なんて聞きたくないわ」

朝潮 「・・・」

加賀 「処罰がどういうものかわかってるんでしょうね?」

朝潮 「はい」

加賀 「あなたが処罰されるのは構わないけど」

加賀 「お世話になった孤児院はあなたからの補助金が打ち切られたらどうなるでしょうね?」

朝潮 「・・・」

加賀 「その日の食べ物にさえ困るでしょうけど可愛そうとか思わないのかしら・・・」

朝潮 「・・・」

加賀 「あなたちゃんと聞いてるの? 聞いてるなら睨んでないで返事をして」

朝潮 「・・・はい」


バン

 加賀から放たれた平手打ちは、朝潮の右頬を真っ赤に染めた。

3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/01/24(土) 01:40:38.42 ID:mht4cBHC0

加賀 「返事が遅い・・・」

朝潮 「・・・」

加賀 「・・・」イラッ


バン

 痛みは余り感じない。


加賀 「悪いと思うならすぐ謝りなさい」

朝潮 「すいません」


 赤くなった頬に手を当てる。


加賀 「人の痛みはわからないのに、一人前に自分の痛みは感じるのね」

加賀 「次席卒業か何か知らないけど、ここは訓練学校じゃないの」

加賀 「調子に乗るなら実力を伴ってからにするのね」

朝潮 「はい」

加賀 「追って懲罰を言い渡すわ」

朝潮 「はい」


 加賀は朝潮を睨みつけると、振り返り執務室に戻って行った。

 朝潮の右頬の内出血は消え、痛みもひいていた。



―――――
―――

4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/01/24(土) 01:45:13.91 ID:mht4cBHC0

〜執務室〜


 提督と秘書官の加賀は机に向かい軍支給のパソコンで報告書と格闘している。


加賀 「駆逐艦の子にブラインドタッチの講習でも開こうかしら」

提督 「報告書の誤字脱字はそのままでいい」

加賀 「?」

提督 「どうせ上はその誤字脱字だらけの報告書に対して俺たちが作る総評しか見ん」

加賀 「なるほど」

提督 「上も報告書を全部見ることなんてとてもできんからな、見るのは総評とかの要点だけだ」

提督 「まぁ・・・かと言ってさぼったり戦果を偽装することには上官は目敏いからな、注意しろよ」

加賀 「そんなに監視が好きなら全艦娘に小型カメラでも付ければいいんじゃないかしら」

提督 「本部に何人用意して何時間かければそれを確認できる? 非効率的だ」

加賀 「比較的安全な本部に人手と時間をかけさせるのは」

加賀 「現場の艦娘に負担をかけるのとは話が違うと思わない?」

提督 「面白い話だな」

提督 「あくまで予算がもっとあればの話だが・・・」


 提督は机の引き出しから煙草を取り出し火をつける。

5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/24(土) 01:49:05.36 ID:mht4cBHC0

提督 「報告書が面倒そうな割りに読むのは好きなんだな」

加賀 「違う艦種の動きや所属艦娘の個性もわかるからためになるわ」

提督 「なるほど」


 加賀がモニターから紫煙をくゆらせる提督に視線を移す。


加賀 「余裕がおありのようなのでいいでしょうか」

提督 「なんだ」

加賀 「書類整頓中に提督を押し倒してしまった朝潮ですが」

提督 「んー」スパー

加賀 「注意も行いましたし夕飯抜きの懲罰くらいでいいでしょうか」


 提督は吸いかけの煙草を灰皿に押し付ける。


提督 「出撃禁止や自室謹慎、反省文さえない・・・子供のおしおきか?え?」


加賀 「軍組織とは言え、朝潮はまだまだ子供です!!」

加賀 「違いますか!?」

6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/24(土) 01:51:32.87 ID:mht4cBHC0

提督 「加賀にしては甘いな」

加賀 「仰る通りもっと重くしましょうか、後に残るような反省文も書かせて・・・」

加賀 「それでコトが外に漏れたら提督が困るんじゃないかしら」

加賀 「心配しているのよ、私は」


提督 「・・・何か勘違いをしていないか」

提督 「それぞれ作業をしていた時に不注意で朝潮がぶつかってきただけだ」

加賀 「不注意の事故か知りませんけど」

加賀 「新任の艦娘が一向に使われてないなんて異常は・・・」

加賀 「提督の言う目敏い上官は見逃さないでしょうね」


提督 「・・・ふん、わかった・・・出撃禁止も反省文もなしだ。夕飯抜きもいい」

加賀 「賢明な判断かと」

提督 「ただ、お前が考えるようなことはない」

加賀 「私が考えることって、提督が朝潮を襲ったと思ってることかしら」

7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/24(土) 01:54:04.93 ID:mht4cBHC0

提督 「何度も言わせるな、そんなことはない」

提督 「愛してるのはお前だけだ」

加賀 「あなたの愛してるという言葉は浅薄ね、龍驤の胸の方がまだ厚みがあるわ」

提督 「女は胸の大きさだけじゃない」

加賀 「あなたの選定基準に関係ないのは胸だけかしら」

加賀 「今度から年齢も付け加えたらどうかしら」

提督 「くだらん言葉遊びを止めろ」

加賀 「遊びじゃなくて本気で言ってるの、わかる?」

提督 「俺が誰に手を出そうと自由だろ?口を出すな!!」

加賀 「自由ね、主力の娘達ほぼ全員に手を出して」

提督 「それで加賀は今まで文句を言ったことがなかったろ」

加賀 「えぇ、そうね」


加賀 「主力の分別ある娘があなたにいくら股を開こうがどうでもいいわ」

加賀 「あなたの病気を看病してるくらいにしか思わない」

加賀 「けど、今回は違うわよね」

8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/24(土) 01:58:06.78 ID:mht4cBHC0

提督 「なんだ?」

提督 「体は小さい、世界も狭い少女をたぶらかすことに罪悪感はないかとか」

提督 「人並みなことでも言いたいのか?」


加賀 「・・・」

提督 「罪悪感、一切ないよ」

提督 「加賀はおれをロリコンと間違えてるだろ」

加賀 「違うのかしら?」

提督 「別に朝潮が好きという訳ではない」

提督 「だから、ロリコンがやるように無知につけこんで意のままにするつもりもない」

提督 「俺との経験で朝潮の狭い世界を広くしてやろうというのだ、何が悪い」

加賀 「軍事法廷でそれが通じると思ってるの? 朝潮のために襲いましたとでも?」

提督 「くだらん」

提督 「最前線の鎮守府を死に物狂いで守ってる俺を」

提督 「安全な内地にいるあいつらが裁く権利なんてない!!」

加賀 「どういう理屈よ・・・」

提督 「ふん、俺のお陰で広がった制海圏に地方本部を建てる時には長官にという話もある」

提督 「どうせ海軍の人間は手を出せんさ」

加賀 「海軍は見逃しても、憲兵が来るわよ」

提督 「主力の艦娘とは仲良くやってる積もりだ、丁重にお帰り願うだけだ」

提督 「加賀も守ってくれるだろう?」

加賀 「呆れた、追い返す積もりなの?」

9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/24(土) 02:04:19.58 ID:mht4cBHC0

提督 「あぁ、強引なのが売りでな」

加賀 「そうやって強引に制海圏を広げて戦果を稼いだのは事実でしょうけど」

加賀 「他の鎮守府より轟沈する娘が多い問題があるのに長官候補?寝言なら寝て言って欲しいわ」

提督 「激戦区だから轟沈は仕方ない、俺の落ち度じゃない」

加賀 「・・・そうかもね」

提督 「それに長官候補は今の地方本部で営業して得た情報だから確度は高い」

加賀 「営業?」

提督 「俗に言う社内営業だ」

加賀 「わからないから説明してくれるかしら」

提督 「大雑把に言うと、戦果を稼ぐのが通常の営業活動なら」

提督 「部下の艦娘と親交を深めることと地方本部で上官に媚びを売るのが社内営業だ」

加賀 「なるほどね」

加賀 「あなたでも媚びを売ることがあるのね」

提督 「意外か?」

提督 「それで昇進に繋がったり失敗をお目こぼししてもらうことを考えれば安い」

加賀 「媚びってどうやって売るの?」

提督 「高級なお店で接待したりだ」

加賀 「そんなお金どこから出るの?」

提督 「企業秘密だ」

加賀 「そう・・・」

提督 「そんなに不安な顔をするな」

提督 「俺が地方本部長官になったら鎮守府の全員本部付きに昇格させてやる」

10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/24(土) 02:07:05.37 ID:mht4cBHC0

加賀 「その前に二階級特進しないことを祈るわ」

加賀 「次に朝潮を襲って本気で抵抗されたら骨一本二本じゃ済まないわよ」

提督 「はっ、そんなことあると思ってるのか?」

提督 「提督や一般人に暴行したら反乱予備で重罪だ」

提督 「それに、これを見ろ」パラ


 提督が執務机を滑らして一束の書類を加賀の前へよこす。


加賀 「これは?」

提督 「訓練学校での朝潮の資料だ」

加賀 「・・・」ペラペラ

加賀 「艤装との同調・武装の具現化、ともに甲。天性の素質があるわね」

加賀 「加えて戦闘訓練の成績も優秀、これ以上ない人材ね」

提督 「こういう優秀な人材が送り込まれるのは上からおれが認められてるってことな訳だが」

提督 「今はそういう能力じゃなくて人物評を見ろ」

加賀 「どの教官からもべた褒めの優等生ね」

加賀 「けどこれ戦闘じゃ意味ないわよ」

提督 「相変わらず戦闘マシーンだな、お前は」

加賀 「あら、私が興味あるのが戦闘だけだと思ってるの?」


 加賀の射抜くような視線は提督を貫いた。


11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/24(土) 02:08:24.33 ID:mht4cBHC0

提督 「・・・思ってない」

加賀 「ふふ、話を人物評に戻して続けてくれるかしら」

提督 「あぁ」

提督 「どの教官からも高評価というのは成績だけでどうにもならん」

提督 「後、新任で今日来た時に朝潮はこちらを伺うような目で見ていただろ」

加賀 「そうだったかしら、よく見ているわね」

提督 「艦娘の状況把握も仕事の一つだからな」

提督 「事前に朝潮の書類を見てどんな娘かと思っていたよ」

提督 「それで確信できた」

加賀 「何を?」

提督 「空っぽなんだろ、中身が」

加賀 「若い子なんて少なからずみんなそうでしょ」

提督 「朝潮はその空洞にその時の相手の好むものを入れようとしてる」

加賀 「・・・」

提督 「どう思う?」

12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/24(土) 02:10:48.37 ID:mht4cBHC0

加賀 「優等生たろうとしてる感じは受けるわ」

加賀 「ただ、何で今日拒絶されたかの説明になってないわ」

提督 「誰でも初めては怖い、反射的なものだろ? たまたまだ」

加賀 「偶然とかは信じないの・・・一応手は打っておくわ」

提督 「?」

加賀 「それにしても、付き合ってる私の前でよくもそんな話ができるわね」

提督 「本当に愛しているのはお前だけだと言ったろ?」

加賀 「えぇ・・・提督殿」


 提督が椅子から手招きをする。

 それを待っていたかのように加賀の体が滑り出す。

 何度繰り返したかもわからないくらいその動きに迷いも無駄もなく。

 椅子に座る提督に対面する形で座った加賀の唇は提督のそれと絡み合う。



―――――
―――

13 : ◆oUFoaE/FvU [sage]:2015/01/24(土) 02:15:21.40 ID:mht4cBHC0
ご読了有難うございます。
続きは追って書き込みます。
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/24(土) 02:16:01.48 ID:AqTxDas3o
おつ
期待
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/24(土) 05:23:12.81 ID:DSej3ru8O
昼ドラかな
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/24(土) 11:56:36.96 ID:L6toVGv40
ここの提督がサメの餌になりますように
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/01/24(土) 13:52:06.82 ID:XKW7oWyf0
権力を盾に女の子を襲おうとするとは
なんて提督だ!
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/24(土) 19:45:29.97 ID:Bo8shdVc0
この提督は公文書を舐めてるんじゃないか?
死ぬほど誤字脱字構文にうるさいんだからな
19 : ◆oUFoaE/FvU [sage]:2015/01/24(土) 22:07:28.59 ID:mht4cBHC0
米有難うございます。

誤字がありました。
>>2 を次米に脳内変換お願いします。変更内容は朝潮の台詞「提督」→「司令官」です。

ストーリーに関係しない質問ありましたら全て答えます。
尚、ストーリーと関係すると私が思ったものはスルーします。申し訳ございません。

本日投下分はできていますので、推敲後投下再開します。
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/24(土) 22:09:02.93 ID:mht4cBHC0

加賀 「提督に怪我をさせたそうね」

朝潮 「・・・はい・・・そうです」

加賀 「提督が上に訴えればあなた危険分子として処罰されるのよ、わかってるの?」

朝潮 「司令官が」

加賀 「言い訳なんて聞きたくないわ」

朝潮 「・・・」

加賀 「処罰がどういうものかわかってるんでしょうね?」

朝潮 「はい」

加賀 「あなたが処罰されるのは構わないけど」

加賀 「お世話になった孤児院はあなたからの補助金が打ち切られたらどうなるでしょうね?」

朝潮 「・・・」

加賀 「その日の食べ物にさえ困るでしょうけど可愛そうとか思わないのかしら・・・」

朝潮 「・・・」

加賀 「あなたちゃんと聞いてるの? 聞いてるなら睨んでないで返事をして」

朝潮 「・・・はい」


バン

 加賀から放たれた平手打ちは、朝潮の右頬を真っ赤に染めた。

21 : ◆oUFoaE/FvU [sage]:2015/01/25(日) 01:10:28.64 ID:o7WLDhQY0
再開します
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/25(日) 01:13:14.01 ID:o7WLDhQY0

〜朝潮と荒潮の部屋〜


 この鎮守府では駆逐艦の娘は、2−4人部屋だ。このように自分の部屋があればいい方で、

 予算の割けない鎮守府は隣接する港町から家をいくつかお借りして使わせてもらうそうだ。

 荒潮は支給の学習机で本日の遠征の報告書。

 朝潮は二段ベッドの一段目で枕に顔を埋め伏せる形で横になっている。


荒潮 「あらあらそうなの」ウフフ

朝潮 「あらあらそうなのって・・・」モゾモゾ


 枕から顔を離し、顔だけ横に向ける。


荒潮 「私なら喜んで応じてたわ、司令官の秘密を握れるなんて素敵じゃなぁい」


 孤児院育ちという同じ境遇で着任も数ヶ月しか差がない荒潮とは、

 朝に荷物を部屋に運び込む時には仲良くなっていた。

 朝から事件まで、朝潮に鎮守府を案内してくれたのも彼女だ。


朝潮 「あなたねぇ」

荒潮 「それにね、私なんてまだ襲われてないのよ〜」

朝潮 「良いじゃない・・・」

荒潮 「それだけ、朝潮ちゃんが魅力的ってことよね」ウフフ

23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/25(日) 01:14:56.62 ID:o7WLDhQY0


 気付くと荒潮が学習机から、朝潮のいるベッドに腰掛けてきていた。

 そのまま荒潮は興奮したような怯えたような朝潮の背中をさする様に手を乗せた。


朝潮 「っ・・・!!!」ビクッ


 今日襲われたことがフラッシュバックする。


朝潮 「な、何するのよ!!!」



  訓練校では数々の素晴らしい司令官の話を聞き、

  着任初日の仕事が、書類整理という瑣末なものでも司令官と一緒というだけで嬉しかった。

  その司令官が背後から抱き付いてきた感触

  理想から奈落にそのまま引きずり込まれるような感覚、嫌悪感で吐き気がした。

  気付いた時には、司令官を突き飛ばしてしまっていた。



 無意識に突き飛ばしてしまっていた荒潮が床から心配そうな目で見ている。


荒潮 「ごめんなさい、気が利かなくて」アタフタ

朝潮 「わっ私こそごっごめんなさい!!」シドロモドロ

24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/25(日) 01:17:51.44 ID:o7WLDhQY0


 ベッドから飛び降り、立ち上がる荒潮に手を貸す。

 荒潮の服から埃を落とすため、朝潮が服を軽くはたく。

 終ると朝潮はベッドに腰掛け、荒潮は自分の学習机に戻った。


荒潮 「朝潮ちゃんはこういうこと初めて」

朝潮 「こういうこと?・・・えぇ・・・荒潮もそうでしょ?」


 正確に言うと初めてではない。


荒潮 「私は・・・初めてじゃないわ」


 今も夢に見る。


荒潮 「艦娘になる前よ。昔のことだし気にしなくていいわ〜」フフ


 沿岸部の都市が灰燼となり日本の人口が二分の一となった開戦。

 そこで大量に生まれた戦災孤児の一人である朝潮には姉がいた。

 荒潮が当時の姉の姿に重なる。


朝潮 「あなたは絶対に守るわ」

荒潮 「へ?」

朝潮 「いや、なっ何でもないわ」


 振り返った荒潮は何時もの飄々とした顔に淡い朱が注していた。


荒潮 「うふふ、まだ出撃もしてない朝潮に私が守れるかしらねぇ〜?」フフフ

朝潮 「同い年だし訓練校でだって次席だったのよ、すぐ追いついて見せるわ!」フンス

荒潮 「期待しているわぁ」フフフ


 お互いに微笑む。


 朝潮は荒潮の飄々とした態度のお陰で少し落ち着きを取り戻しつつあった。

25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/25(日) 01:19:30.78 ID:o7WLDhQY0

電話 「トゥルルル」

朝潮 荒潮 「!」


 朝潮が取る。懲罰についてのものだと思っている。


朝潮 「はい、朝潮です」

加賀 「加賀です。懲罰の内容が決まりました」

朝潮 「はい」

加賀 「初日ということと、私の注意を持って今回の事件はなかったこととします、以上」

朝潮 「え?」

加賀 「返事は?」

朝潮 「りょ、了解しました」

加賀 「後・・・提督とのやりとりは誤解を生むので他言しないように」

朝潮 (もう一部で広まってるわよ・・・)

加賀 「最後に・・・艦娘が人に暴力を振るうのは夕方に言ったけど重罪よ」

加賀 「今後は絶対に同じことがないようにね」

朝潮 「はい」

加賀 「あなたの働きには期待しているわ、今回の温情処分をばねに一層奮迅なさい」

朝潮 「了解しました」

朝潮 (なんで、非が司令官にあるのに温情処分を有難がらなきゃならないのよ・・・)


 その後2,3語挨拶を交わし電話を置く。

 振り返ると荒潮が微笑んでいる。

 2人用の狭い部屋では電話の内容も筒抜けだ。

26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/25(日) 01:21:27.79 ID:o7WLDhQY0

荒潮 「お咎めなしでよかったわね〜」ニコニコ

朝潮 「当然よ」ブス

荒潮 「抵抗はいいけど・・・暴力を振るうのはやっぱりいけないと思うわ〜」

朝潮 「・・・」

荒潮 「艦娘はか弱い女性じゃないのよ〜」

朝潮 「確かに司令官より力も強いけど・・・」

荒潮 「そう!だから今度からは逃げるといいと思うわ〜」

朝潮 (何か・・・ちゃかされているような)クビカシゲー?

朝潮 「・・・それにしても、加賀さんってどういう人なの? 本当に信じられない!」

荒潮 「この鎮守府最強の艦娘よ〜」

朝潮 「え!この鎮守府大和さんいるのに加賀さんが最強なの?!」

朝潮 「って、そういうことじゃなくて・・・」

荒潮 「司令官のいい人よ〜」

朝潮 「え?」

荒潮 「艦娘と司令官なら司令官の側に立つ人よ、あの人は」

荒潮 「聞きたいことはそういうことでしょ?」

朝潮 「そっそうだけど・・・」

朝潮 (あの態度にそういう理由が・・・)

荒潮 「強い女が好きなんですって〜、司令官」

朝潮 「・・・へ?」

荒潮 「色々関係を持っているそうだけど、今は鎮守府最強の加賀さんが彼女で〜」

荒潮 「加賀が来るまでは、その時最強だった大和さんが彼女だったわ〜」

朝潮 「それ鎮守府で好き放題するために利用してるだけじゃ?・・・」

荒潮 「そうだと思うわ〜」

朝潮 「そうだと思うって・・・」

荒潮 「ギブアンドテイクらしいわ〜」

朝潮 「?」

荒潮 「あ、夕飯の時間。早く行かないと〜」

27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/25(日) 01:25:47.37 ID:o7WLDhQY0

 荒潮の言動はふわふわしている。

 朝潮は自分と180度違う荒潮に引っ張られることに嫌な感じどころか心地よさを感じていた。


 荒潮について部屋を出ると、廊下は食堂に向かう艦娘でごったがえしていた。


大潮 「あ! 荒潮さんとうとう同室の子が来たんですね!良かったですね!」

荒潮 「そうなのよ〜ウフフ」

朝潮 「は、はじめまして」

霞 「霞よ、よろしく」

大潮 「大潮です、よろしくですー」

龍田 「あら〜、新しい子かしら〜」

荒潮 「そうなんです〜、同室なんで同じ龍田先輩の艦隊で遠征になると思うので宜しくお願いします〜」

龍田 「そうなのぉ、よろしくね〜」

朝潮 「よ、宜しくお願いします!」(に、似てる・・・)


 そこからは話をしていたら食堂にすぐあっと言う間に着いた。


朝潮 「食堂に軽巡と駆逐艦だけしかいませんね」

荒潮 「艦種でご飯とか入浴は時間がずらしてあるのよ〜」

大潮 「大きい鎮守府だからしかたないですよ」

龍田 「朝潮ちゃん、折角だから一緒にみんなに挨拶してまわろっか?」

朝潮 「一緒にしていただけるんですか?」

龍田 「同じ艦隊になるでしょうし、気にしなくてもいいわよ〜」

龍田 「大きな鎮守府だから出入りも激しいしこういうときじゃないと自己紹介できないわよ〜」

朝潮 「はい!有難うございます!」


―――――
―――

28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/25(日) 01:27:59.71 ID:o7WLDhQY0

龍田 「こんな感じね〜」

朝潮 「やっぱり多いですね」

龍田 「えぇ、一般的な鎮守府よりかなり大きいわ・・・」

龍田 「ドッグとかの増築も優先してもらってるし、保有艦娘の数も他より多いわ」

龍田 「総力戦だから全鎮守府に増築とか増員の話はあるけど〜」

龍田 「ここまでうちのように優先して優遇されてる鎮守府は少ないわよ〜」

龍田 「噂だと・・・提督が上に賄賂を流してるとか〜体を売ってるとか〜」

天龍 「こら龍田!何変なこと吹き込んでんだよ!」フフコワ

荒潮 「朝潮ちゃん本気にしないでね〜」フフ

朝潮 「ははは・・・」

朝潮 (荒潮もみんなもいい人ばかりだ)


 その夜、朝潮は遠征艦隊で活躍する夢を見た。

 みんなも司令官も笑っていた。

 司令官の事件は自分が過剰反応しただけかもしれない。

 そう信じたいだけだとはわかっていた。


―――――
―――

29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/25(日) 01:33:09.79 ID:o7WLDhQY0

―――――
―――



 翌朝、ドッグで艤装と初顔合わせ。何の苦労もなく同調し装着する。

 今日は艦隊の配置と任務が告げられるということで、

 艤装を背負ったまま、昨日の楽しい気分のまま、執務室に向かう。



朝潮 「失礼します、おはようございます」バタン

提督 「おはよう、待ってたぞ」

加賀 「おはようございます、朝潮」

提督 「さて、加賀説明を」

加賀 「朝潮の所属は第一艦隊に決まりました」

加賀 「ついては本日鎮守府周辺海域へ初出撃をしてもらいます」

朝潮 「?!」(えっ・・・)

加賀 「何か?」

朝潮 「しっ質問よろしいでしょうか?」

提督 「許可する」

朝潮 「一般的に駆逐艦は主に遠征任務で練度を上げてから実戦部隊に入ると習いました」

提督 「一般論だな」

提督 「まず、実戦部隊が敵艦隊に取り付くのに駆逐艦が重要な役割をするのは知っているな」

朝潮 「はい」

提督 「先日その駆逐艦が二隻轟沈した」

朝潮 (?!)

提督 「その補充を誰にするか選考した結果、朝潮と荒潮が選ばれた」

30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/25(日) 01:37:07.72 ID:o7WLDhQY0

朝潮 「先日来たばかりで・・・実戦も初めてでご期待に添えるかわかりません」

提督 「謙遜はいい」

提督 「遠征組も練度が高いと言っても実戦経験がないのは変わらない」

提督 「なら、訓練学校で戦闘成績の良い朝潮のようなものを使おうと考えるのは間違っていると思うか?」

朝潮 「いえ・・・」

提督 「加賀、任務の説明に戻れ」

加賀 「朝潮は初出撃ということで・・・わかっているわね?」

朝潮 「はい」


 初出撃は通過儀礼として、中破以上の損傷を受けた状態で写真等の記録が必要になる。

 艦娘に支給される制服は、言うまでもなくかなり頑丈になっている。

 それだけなく、燃え落ち易いその繊維は、見た目で損傷率がわかるようになっていた。

 ただ、損傷に各人むらがある。同調した際の船形防御壁の強度が艤装と人により異なるからだ。

 それを視認できるようにするのが、この通過儀礼の意味である。

31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/25(日) 01:38:52.35 ID:o7WLDhQY0

加賀 「出撃は私も行きたいけど他に仕事があるので提督と二人で行ってもらうわ」

朝潮 「えっ!?」

加賀 「引率が欲しいなら訓練学校に戻るのね、どうするの?」

朝潮 「す、すいません、出撃させてください」

朝潮 (どういう積もり・・・)

提督 「という訳で行こうか」

加賀 「朝潮は昨日みたいな粗相のないようにしなさいね」

朝潮 「はい・・・」(司令官に言いなさいよ)




―――――
―――

32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/01/25(日) 01:42:03.29 ID:o7WLDhQY0


 指揮作戦艇は提督と艦娘が乗り込む足だ。敵艦隊群と接触した際には降りて戦う。

 艦隊の旗艦は自分だけでなく指揮作戦艇もかばいながら戦わねばならない。


 指揮作戦艇は素晴らしい速度で走り危険海域まで朝潮と提督を運んでいた。

 艇内は、艦娘が艤装を付けたまま6人と提督が入るスペースに、深海棲艦のコアを収容する格納庫も備わっている。

 決して狭くはない艇内であったが、司令官と二人で密室にいるのが耐えられない朝潮は甲板で風に吹かれている。



提督 「朝潮、艤装との同調の具合はどうだ?」


 提督が操舵席から声をかける。


朝潮 「好調です、いい艤装ですね」

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