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垣根帝督「はぁ? 俺はオタクじゃねえぞ」
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910 :
>>222暗部の仕事で常盤台に潜入する垣根「二日目・昼」
◆q7l9AKAoH.
[saga]:2017/05/05(金) 02:27:24.07 ID:TfGP8KVe0
[急にクラシックをかけて欲しいなんて言うからびっくりしちゃった]
『(ちょっとな)』
授業を終えて廊下を歩く亘木――いや、垣根は首元のスイッチで自分の声を消しながら返事をしていた。
イヤーピースから聞こえる本日の後方支援(話し相手)は心理定規だった。
さっきの音楽の時間。
垣根は楽譜を探しながら手本代わりになりそうな曲を流すよう心理定規に指示していた。
あの演奏のタネは、知っている曲を実際に聴きながらカラオケで歌うようなものだった。
ピアノなら垣根も触ったことくらいあった。
前に聞いたことのある曲を……なるべく構成がシンプルでわかりやすそうなものを選んだつもりだったが。
美琴のリアクションからすると、実際はそうでもなかったらしい。
おまけに原曲とピアノでは…当然だろうが同じ演奏ではない。
そこはちょっとした誤算だったが、曲の雰囲気をつかむだけの間でも演奏を聴いたのは役に立った。
垣根は譜面とそれにあわせた指の動きをその場で確認し、後はひたすら速度とタイミングを合わせてハンマーを叩き音符を取りこぼさないように追っていっただけだ。
知り合いの、バカで間抜けでオタクで音痴な構成員がシューティングじみたゴリ押しで音ゲーをやる時の手法に似ていると言えば近い。
なんだか両手の運指もめちゃくちゃで、あっちこっち無駄の多い演奏だったな、と振り返ってみれば思う。
あと。
美琴はアレンジ、と言ったがあれは耳元の曲と頭の中での音符の処理に困って逃がしただけのものだった。
楽譜にあわせてただ音を鳴らしたものは、演奏と言うにはレベルは低いだろう。
それでも、いちなり指名されて予行練習もなしに披露するにはじゅうぶんな出来だったはずだ。
危ないところもあったがひどいミスはなかったし、授業中にそれをつつかれはしなかった。
あの場をうまく切り抜けることが出来たのだから垣根もそんな風に思いたいところだ。
まあ、わざわざ指摘してご親切に指導するタイプの教員でなくてラッキーだったのかもしれない。
[少し意外だったわ。音楽のセンスもあったの? あなたも器用よね]
録音して貰えばよかったかしら、なんてからかって心理定規が笑う。
うるせえ、と返して垣根はこの後の予定に考えを向けた。
とりあえず腹ごしらえして……昼休みの後にもいくつか授業がある。
食蜂の根回しがあるとは言っても、こうして生徒として潜り込んでいる以上はそれらしく振舞うのが得策だろう。
生徒たちが学生生活を送っている間にあれこれ調べるのが目的なら生徒になる必要はなかった。
他の役割に垣根をあてはめればもっと自由に動けただろう、それをこんな格好まで……。
何とか納得させる言い分を頭の中で組み立てながら、常盤台二年の女子は自分のプライドと戦っていた。
「貴女」
「ちょっと、そこの貴女」
何だか背後から女子の声がしているが垣根は無視していた。
何しろここは石を投げればお嬢様に当たる常盤台、女だらけのこの場所で呼ばれているのが亘木とは限らない。
段々イラつき始めている声の主も知らない相手だろう。まあ昨日ここに足を踏み入れたばかりの亘木には知り合いの方が圧倒的に少ない。
「ちょっと! もう、貴女よ。二年に転入してきた…亘木さんでしたかしら」
名前を呼ばれてやっと振り返る。
後ろにいたのは予想外に、女子の一団だった。その中の一人、大声をだしてちょっと肩を震わせている女生徒はフン、と亘木をみつめた。
「貴女、能力は」
はあー、とため息。
いきなり何言ってんだコイツ、と吐き捨てたいのを我慢して亘木は首を傾げる。小さなムカつきを覆い隠す笑顔も忘れないよう気を付ける。
『なんでしょう。急にどうしてそんなことを?』
「いえ。新しく我が校にいらしたのがどんな方か、お聞きしてるだけですわ大したことではございませんわよね」
まあ、常盤台にいるような能力者は皆レベル3以上のはずだ。
一般的には強能力者はそれなりの実力者になるらしい。自慢してもおかしくないだろう。
お嬢様と言う生き物がそれをひけらかして歩く習慣があるかは知らないが。
しかしまぁ、亘木の場合は少し事情が違ってくる。
見た目は美少女でも中身は違う。
ありふれたその辺の能力者と違って、自分の能力だってホイホイ教えてやれない。
本当のことを言うとたちまち尻尾をつかまれてしまう。
二度目のうんざりした息と一緒に返事をしようとして。垣根は、ん? と眉を寄せる。
『(あれ。俺のここでの扱いってどうなってんだ』
[さあ……昨日の夜だったかな。誉望君が電話のあの人とキャラシートを作ってみようとか何とか言ってた気はするけど]
ふともれた呟きに心理定規がおかしな返事をする。
こんな時に頼りになるはずのサポーターじゃなかったのか、つっこみを入れる前に素早く質問する。
『(んな意味わかんねえ話じゃねえよ。書類上この女は何の能力ってことで話通してんだ?)』
[でもそこでは、貴方にはなるべく能力は使わせないって話になってるんでしょ? そんなことまでいちいち考えておくのかしら]
一応、偽造の身分でも『書庫』には一時的に登録されている可能性がある。
食蜂が伝え忘れたのか、単にそこまでは考えていなかったのか。
心理定規も知らないのではしょうがない。
ちっ、と短く舌打ち(これも心理定規以外には聞こえていない筈だった)して垣根は後で何とかしろよ、と言い捨てて首元のスイッチを操作する。
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