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垣根帝督「はぁ? 俺はオタクじゃねえぞ」

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75 : ◆q7l9AKAoH. [saga ]:2014/09/21(日) 22:42:03.44 ID:sCgSYa+Z0

「ああ。別に意識してねえ。能力開発されてるヤツにしたらそう言うのって工夫で何とかなるんじゃねえの」

『能力開発』も表向きは記憶術や脳科学のジャンルだ。
育脳なんて呼ばれることもあるが実質的には量子力学に基づいた『観測』がメインだ。
育てる前に捉えることが必要で、ある程度の演算能力がないと扱えない。
そんな能力者の頭脳にはその為に欠かせない訓練や開発もされていた。
もちろん個人差はある。
複雑な演算をしなければいけない高レベルの能力者の方がその辺の処理能力は高いはずだが、能力が使えてもお馬鹿さんなやつもいる。

「にしても、ああ言うのはテクニックと効率重視で実が少ないんス。かさましの専門書ならともかく小説や漫画にディッピングとかあり得ねえっスよ。様は他を読み飛ばしてるようなもんスから」

「そんなもんか」

「ファンは些細な描写も大事にしたいんスよ。アニメだって、作画で一喜一憂するし。キャラの公式プロフィールがあれば好きなものとか押さえときたいんス」

「そりゃ随分と暇だな。いや、忙しいのか?」

口と手を忙しく動かしながらモニタをにらみ続けるゴーグルに、垣根はキャスター付きの椅子を引きずりながらやる気なさそうに答えた。
読み終えた本をそばに積まれた山に戻しているらしい。
76 : ◆q7l9AKAoH. [saga ]:2014/09/21(日) 22:42:52.94 ID:sCgSYa+Z0

「あれば……それもあればの話なんスけどね。いくら脇扱いでも誕生日や身長体重くらいもったいぶらなくていいと思うんスよ……」

「なぁ、これ続きねえの」

ゴーグルのマイナーな独り言は今や当然の様に流される。

アニメやゲームの話題に垣根や心理定規がいちいちなんだそりゃ、と聞いてくることはほとんどなかった。
下部組織の下っ端くん達は、愛想笑いでたまに頷く。

「あー、借りてんのはそこまでっスね。それは『外』の作品なんで買おうにもこっちでの流通少ないんスよ。確か既刊はまだあるんスけど。気に入りました?」

「読むと続きは気になんだろ」

「じゃあ後借りたらまた持ってきます」

「っつうかここはお前の家じゃねえからな」

『スクール』の中で恐らく一番身軽な垣根から釘をさされて、ゴーグルはペコっと頭を下げた。
ここは『スクール』の隠れ家として使っている部屋だが、ゴーグル個人の荷物も多い。
物理的な重量なら心理定規もいい勝負かもしれなかった。
室内のパソコンのうち1台もゴーグルの私物だった。
一体型のオシャレなやつの隣に置かれた、今使っているミニタワーがそうだ。
ネットサーフィンにはまるで必要なさそうな機能が充実している。

77 : ◆q7l9AKAoH. [saga ]:2014/09/21(日) 22:44:29.23 ID:sCgSYa+Z0

「今日は合間に読もうと思って持ってきただけなんで。置いてきませんから大丈夫っス」

そうか、と返事すると垣根は別の漫画を手にとって読みはじめた。

78 : ◆q7l9AKAoH. [saga ]:2014/09/21(日) 22:45:13.77 ID:sCgSYa+Z0

「垣根さんは……カリスマ性ばっちしなんで特質っスよね。操作系ってか具現化よりで中身は多系統の複合能力っぽいっスけど」

「そんなのここの能力者なんて操作か放出のどっちかってのがほとんどだろ」

ついさっき、
「休憩! 俺は今から絶賛休憩タイムに入ります!!」とハイテンションに叫んで作業を中断したゴーグルは漫画を片手に垣根とだべっていた。

「でも例外っぽいのもたまにいるみたいっスよね。レアな能力者とか。後は何でしたっけ『外』でたまーに自然発生するって言う『原石』とか。あ、このマンガじゃないスけど、磨けば光るっていいっスねえ。うらやましーっス」

「まぁ、学園都市の能力開発なんざ……たとえば必要な機材と材料を全部揃えた上で、適当な手順で人工ダイヤでも作ってる様なもんじゃねえの。発現する能力もやってみるまでわかんねえんだから。そうやって作ったもんも、それなりのカットを施せる出来かさえ怪しいレベルだろ? 磨いても光るかわからねえってのはひどい話だよな」

そうやって試行錯誤、失敗の繰り返しの中でたまたま見つけ出されたのが、この垣根の様な超能力者、と言う事になるんだろうか。
開発を受けている本人たちでさえ、この街で行われていることについてろくに知らなかったりする。


79 : ◆q7l9AKAoH. [saga ]:2014/09/21(日) 22:46:00.31 ID:sCgSYa+Z0

「垣根さんは手元から離しても能力使えますよね。羽根飛ばしたりしないんスか」

「羽伸ばしたりはするけど」

何だよ、と言いたげに顔を上げた垣根の表情を確認するとゴーグルは身を乗り出した。
この流れなら大丈夫! と判断して、思い切って『未元物質』の話題を振ってみた。

「バラして飛び道具にするのカッコよくないっスか? 『フェザーショット』的な。流石に敵を操るのは別能力っぽいから難しいかもっスけど」

「カッコいいのかよ。それ」

垣根は内心複雑そうに眉を寄せた。
だがゴーグルは首を縦に振る。
『未元物質』はすごい能力だ。
単純に戦闘面だけみても高い防御性能と攻撃力、そこにオールレンジ攻撃も可能そうな飛び道具なんてプラスされたら。
もしも何かのゲームキャラならよっぽどの弱点を設けるか他のパラメータを調整しないとバランスブレイカー過ぎて禁止キャラ扱いになりそうだった。
そう思いつくとぜひ一度試してもらいたくなる。

「やってみて下さいっス。すげーカッコいいですって」

広げた六枚の翼から『未元物質』を掃射する痩身の少年……は想像するとやっぱり絵面がシュールすぎるかもしれない。
そう思ったがゴーグルは黙っておいた。
垣根は満更でもない顔をしていた。

80 : ◆q7l9AKAoH. [saga ]:2014/09/21(日) 22:47:47.60 ID:sCgSYa+Z0

「やっぱり、四六時中『未元物質』で遊んでるうちに能力が使える様になってたりしたんスか」

「別に。俺の場合は多分……他の奴らとはやり方がちょっと違ったかもな」

垣根が自分の能力の話をするのは珍しい。
ゴーグルは期待して聞き返した。

「違うって。どんな風にスか」

「俺についた開発官どもがやったのなんざ、俺が発現出来るようになった『未元物質』ってのが何なのか、理論的にこじつけた様なもんだ。既にあった何かの理論から上手いやり方を見つけてくるんじゃなく、その為に一から積み上げなきゃならなかった訳」

垣根はそう言うと組んでいた腕をつまらなそうに伸ばした。
開いた右手の周りにはパキパキと音を立てて『未元物質』が展開されていた。
室内照明からの光を不自然にねじ曲げ、反射しながら能力の産物はトゲだらけの螺旋を描いて伸びていく。
眺めていくうちにその形が歪み、滑らかになり、最後はチリ一つ残さずにきれいさっぱり消えてしまった。


「それでも、これが何なのか誰もわからなかった。この俺だって、こいつで何が出来るのか隅から隅まで理解してる訳じゃねえ。演算式もまだ未完成って所だし」

ぷらぷらと右手を振って、垣根は息を吐いた。
飽き飽きした様に吐き捨てる超能力者だが。
それを見ていたゴーグルの声は正反対なくらい興奮していた。

「それでも超能力者って……垣根さんがマジになったらどうなるんスかね。『未元物質』完全掌握! とかしちゃったらヤバいっスね!!」

「……いいな、それ」

垣根は驚いた様に目を丸くすると、ふっと微笑んだ。


81 : ◆q7l9AKAoH. [saga ]:2014/09/21(日) 22:48:28.78 ID:sCgSYa+Z0

「まぁ、最初から情報が足りてねえのは自覚してるけど。無い物ねだってもどうにかなる訳じゃねえし」

垣根は頭の後ろで腕を組むとそのまま深く椅子に体を沈めた。
ギィィ、と背もたれが音を立てた。
不自由はしていない、しかし現状に満足もしていない。
そんな態度がみて取れた。

「能力者の法則って言えば、垣根さんが前に調べてた事例ってのはどうだったんスか?」

「暴走能力者か? ああ、ありゃダメだ。中身も参考にはならねえ。何より使われてんのが色々と悪趣味過ぎる」

そう言うと垣根は近くの収納を漁りはじめた。
少しして、分厚い何冊かの資料と共に小さなケースを取り出した。

「……なんスか。これ」

プリントアウトされた書類の方はぱっと見て「大脳生物学」とかの難しそうなものらしいこと以外よくわからない。
そしてケースの中から出てきたのは薬局にでもありそうな小さなビニールのパウチ。
中には白い粉末がごく少量だけ封入されていた。



82 : ◆q7l9AKAoH. [saga ]:2014/09/21(日) 22:49:36.22 ID:sCgSYa+Z0

「『能力体結晶』。試すか? トベるかもよ」

垣根はつまんだ袋を指で叩くと底に溜まった粉末をならしてそう言った。
封を切ったスナック菓子でもすすめる様な気軽さだった。

「いいッ?! 『体晶』ってこれっスか? 能力者何人も潰したって薬っスよね。俺いいっス、遠慮しときます」

ゴーグルは思わずのけぞって首を振った。
適性があれば、極一部の能力者には大幅な能力の上昇効果があると言われる薬品だ。
だが、暴走状態を起こす強烈な副作用の方が有名で、その名前だけならゴーグルも聞いたことがあった。

「垣根さんまさか……試しました?」

「はぁ? んな無駄なことする訳ねえだろ、俺が」

おそるおそる聞いたゴーグルは苛立った目を向けられて慌てて謝る。
ゴーグルは、この人が暴走状態になったらどうやって止めるんだろう、とか怖い想像をしてしまったのだが不要な考えだったらしい。
超能力者、現在学園都市でも最高峰に位置する能力者がわざわざ危険な賭けに手を出す理由がなかった。


83 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/22(月) 02:32:40.75 ID:p1jngrY10

「これって何で出来てるんスか」

「暴走能力者の脳内には独自の伝達回路があるらしい。そこで異常分泌される神経伝達物質なんかを集めて精製したのがそれだ。物としちゃあ、暴走時の脳内を再現しちまうのか、それとも他の能力者の伝達回路ってのに使用者が拒否反応でも起こすんじゃねえかと思うんだけど」

「あれ。拒否反応って初耳っス。どうしてそう思うんスか?」

「『多重能力(デュアルスキル)』の研究は知ってるか。俺達能力者は、まるで違う二つの能力を使う事が出来ねえ。一つの能力の幅を広げる事は出来ても、開発で開いた脳回路を元から増やすなんざ負担がデカすぎるって立証済みだろ。そこに他人のおかしなモンをブチ込んでみろ、どうなるか……っつうか拒否反応以前に気持ち悪いだろ。それ、元は他の能力者の一部だぞ」

うげっ、と舌を出すと垣根は嫌そうに顔を顰めた。
劇薬で引き起こされる危険な暴走よりも、そちらの方が余程不快だったらしい。

「複数の能力使おうとするのはやっぱ無理なんスかね……能力使用に必要な、例えばOSみたいなもんの入ったドライブのパーテーションはいじれなくても、外付けとか他ドライブ経由なら何とかならないスかね? パソコンだって、既存のOS維持したままの切り替え方法くらい幾つもあるんスから」

学園都市に居る数多くの研究者の中には、愉快でイカレた仮説を立てたり実験してみたりする人間もいる。
今のはゴーグルがほんのちょっと思いついただけの事だが、探せばどこかにそんな「実例」もありそうだった。
84 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/22(月) 02:33:48.52 ID:p1jngrY10

「必要なもんを外から丸ごと持ってくるってことか? 今の段階じゃそれも難しいだろ、何しろ『自分だけの現実』や『AIM拡散力場』でさえ研究途中の分野だからな。たとえ脳を移植したって、能力は変わらないなんて話もあるし。開発してない人間に既存の能力者の機能だけあてがうとかするんなら、暴走はひとまず防げるかもしれないけど」

「あー。でもそれやると、能力開発そのものがいらなくなっちゃいますね。俺たちもお払い箱、とか」

いや、と垣根は少し何か考えてから首を振った。
いつの間にか真剣な顔をしていた。
雑談には変わりないが、つまらない内容が思わぬ方向に向かっていた。

「狙った能力者が手に入らねえうちは、『絶対能力(レベル6)』の可能性に当たるまで数をこなしたいってのも恐らくは学園都市の本音だろ。気軽にそんな真似したんじゃ本末転倒だろうけど、別に互いに潰し合う様な条件じゃねえ。まぁ、そんな技術が使えるかどうかは別として、今まで無駄に開発させられた下位能力者連中にはそれなりに同情するけどな」

現段階で、学園都市に暮らす180万の学生のほとんどは強能力者以下に振り分けられる。
日常生活で便利だと思える程度の異能さえ、手に入れられていないものが数多くいる。
85 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/22(月) 02:34:47.03 ID:p1jngrY10

「やっぱり超能力者から上ってのを作るのが学園都市の目的なんスかね」

能力開発を受ける為に希望を胸にやってくる子どもや、行き場のない子どもたちの為にただの親切や善意でこの街が開かれていないことは、垣根もゴーグルも嫌と言うほどわかっていた。
なんの為の能力開発か、なんてところに焦点があたった。

「さあな。だが、それだけだと思うか? だとしたら、第一位が確立した後の能力開発なんざそもそも意味なくなるだろ」

「うーん……たとえば約0.00000056%の確率のガチャを回したとして。一つでもマシなの引いたら、俺ならとりあえずそれを全力強化っスかね。次同じだけ回しても、いいのが出るとは思えないんで」

180万分の1の確率で見つかった金の卵。
それを、それこそ文字通りにレベルアップさせるなら、現在使えるベースで済ます方が早いに決まっている。
その後使うかもわからない素材を数万単位、数を揃える方が、余程手間がかかりそうだ。

「だが下は五歳から、ガキの能力者は今だって生産され続けてんだ。そんなに保険をかけたいのか、別に思惑があるのか。どっちにしろ学園都市の目的ってのがそこで止まるとはどうにも思えねえ」

学園都市は膨大なロスを抱え込んででも次の候補の発見に賭けたいのか。
それともその余剰すら必要だとでも言うのか。
たった二人の思いつきでは答えが出そうもなかった。

86 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/22(月) 02:35:40.55 ID:p1jngrY10

「そう言えば最近出回ってるって言う……それ何だっけ?」

「『幻想御手』、まだ調査中っス。薬なのか特別な開発方法の資料なのか……それがどんなもんかもはっきりしないし、噂されてる能力増強の話もなにがなんだか」

今日は朝からインターネットの掲示板を中心に眺めていたゴーグルは椅子の上で伸びをしながら返事をした。
思い出したようにモニタに向かうと、いくつかのウェブページを開いた。

「ただ……効果はあったって話はよく聞くんスよねえ。で――これは使えそうなんスか」

コピーしたログを作業中のテキストファイルに貼り付けてゴーグルは垣根を仰いだ。

「いや。目についたもんは当たっておきたいだけだ。何が『直接交渉権』への突破口になるかわからねえからな。だが」

垣根はコキコキと首を鳴らすと眉を寄せた。
椅子から立ち上がると、ゴーグルの背後からモニタを覗いた。
マウスを取ると次々にウィンドウを開いてゴーグルがまとめていたファイルに目を通し始める。
87 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/22(月) 02:36:35.39 ID:p1jngrY10

「どうも、話が広がり過ぎてねえか? 知られちゃマズいもんならさっさと情報が潰されてると思うんだがその様子もねえ。デマにしては息が長いだろ」

「そうっスね。『神様の頭脳』系の噂は山ほどありますけど、これは珍しいやつっス。噂の盛り上がりと探す書き込み、使用者の実体験報告がこの一週間で明らかに増えてます。燃料、何らかの裏付けがないと普通この手の話はあっと言う間に飽きられて消えちゃうんスけど」

「はぁ? 待て。そんなのわざわざ知らせてんのかよ。馬鹿じゃねえの」

呆れた様に垣根は聞いたがあるものはあるんだから仕方ない。

「ほら。ここに元無能力者の書き込みとか、こっちは動画とかあります。みんな自分の能力に変化があれば自慢したいんスよ。あーあ。現物があると色々わかりそうなんスけど」

「美味いだけの話なんざ、どうせ存在しねえ。馬鹿なやつらはろくに考えもせずに引っかかるんだな」

どう見てもチンピラな大男が、何もないところから火を起こして大はしゃぎする。
そんなある意味微笑ましい動画を横目に。
垣根はさっき出した資料と『体晶』を元の様にしまった。

「でも、調子にのり過ぎて騒ぎを起こすやつがいるなんて話もあるんスよね。そっちが大事になると……いよいよ俺らに話が回ってきますかね」

にしし、と愉快そうにゴーグルが笑う。
だが垣根は冷め切った目を細めただけだ。
あまり期待はしていない様だった。
88 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/22(月) 02:37:30.61 ID:p1jngrY10


「下手に騒ぎになって警備員や風紀委員が絡む様だとかえって俺たちの出る幕は無くなっちまう。話の裏を取る前に、表向きそれらしい体裁が整えられちまうこともあるだろうし。そしたら余計な詮索なんざした所でこっちが怪しまれるだけだ」

痛くもない腹を探られるのは誰だって嫌だろう。
でも、人間痛いところをつかれるのも癪なものだ。
ただでさえ『暗部』の首輪が付いている様な状況で、牙を剥いたのではないかと今認識されるのは『スクール』としても望ましくない。

「引き続き様子はみとけ。だが、タイミングを見誤らない様気をつけねえとな。いいカードがあっても、それを引く前にこっちがバーストしたんじゃ意味がねえ」

はーい、と少年は軽い調子で答えると机の上に置いてあった輪の様なゴーグルを頭に付けた。
同時に、それまで暗かった近くのモニタも電源が入り室内からは立ち上がったハードディスクのシーク音が幾つもしはじめた。

89 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/22(月) 02:38:42.46 ID:p1jngrY10

「まー、俺らみたいのが多少つつき回しても、次々わいてくるんスよね。この手の話。ネタに困らないのはいいんスけど今更そんなもんどうした、ってあっちも開き直りそうでムカつきません?」

「必要なのは、中核に食らいつける程の重みのあるもんだ。上辺だけ掬い取って掻き集めた所で、これっぽっちも役に立たねえだろうし」

繋いだケーブルをいじりながらゴーグルは愚痴っていた。
休憩時間は終わったらしい。

「もしも……もし、俺が……はじめっから」

「垣根さん? 何か言いました?」

垣根の呟きは、再びキーボードに指を走らせカタカタと作業を再開したゴーグルに拾われたらしい。

「別に。少しばかり面倒だってだけだ。何でもねえ」

肩をすくめると垣根はまた椅子に座った。
頬杖をつくと窓の外を睨む様に眺める。
学生で賑わう街は日が暮れようとしていた。
90 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/22(月) 02:39:59.43 ID:p1jngrY10
ドーモ

『未元物質』のはなしする真面目ルヘンに挑戦
学園都市に知られ過ぎてたって言う『スクール』の動向が気になる
このあとはビリビリ大惨事になるから多分ゴーグルは泣くことになると思う。がんばれ
91 : ◆q7l9AKAoH. [saga sage]:2014/09/22(月) 02:41:27.19 ID:p1jngrY10

って投下しようとしてたらまさか我が家がビリビリ大惨事だった
煙でたり色々修羅場になった

垣根「ブレーカー上がんねえしお湯出ねえぞコラぁ!!」
ゴーグル「俺のせいじゃありません!!!!」
みたいな小ネタ足そうとしたからか
その呪いか、いや能力か
魔術師の仕業か

間あいたけど、たぶん抜けはないはず
とりあえずおやすみ
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/09/22(月) 03:30:07.02 ID:e5Zwx6bp0

おのれ魔術師!
未元物質って何がどこまでできるのかよくわからんよね

>脇扱いでも誕生日や身長体重くらい〜
名前すらないゴーグル君が言うと涙を禁じえない
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/09/22(月) 04:05:21.68 ID:F4WqGn75O
乙ぅ
ゴーグル君の名前はいつ知ることが出来るの

未元物質がどこから出てきたか分かっただけで垣根が世界の全てに勝てると思うあたり
垣根の中の世界から出てきたとでも思うのが妥当なのかもしれない
現実との差異の演算次第でなんでも出来るかもね
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/09/22(月) 04:40:14.76 ID:zFV1W3KlO
禁書はキャラ多いわりには正確な名前わからないキャラが多いんだよね
モブとメインキャラの中間みたいな
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage]:2014/09/22(月) 18:23:40.03 ID:pE0HBHw70
未元物質って禁書SSのどらえもん的な感じあるよね
物質を生成できるってのがとても便利、一方通行よりチートに思えてならない
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage]:2014/09/22(月) 21:59:43.75 ID:TWMzwHTT0
新約6の未元体の垣根の発言から未元物質は垣根の自分だけの現実から生成されてるって言ってたから未元物質はAIM系の能力で確定だね
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage]:2014/09/24(水) 17:26:25.20 ID:sdgT9vT/O

能力者は大なり小なり物理法則を突破してるが、垣根のはその中でも「無から有を引き出す」という質量保存の法則ガン無視の超異能だからな……
未元物質自体の性質も合わせて、どうも魔術寄りな能力に思えてならない
98 : ◆q7l9AKAoH. [sage]:2014/10/06(月) 00:47:35.97 ID:iz+wV3nL0

一位が来る前に二位がカンストしそうだぞちくせう

前回ので一巻久しぶりに読んだ
能力開発って「もしかしたらあり得るかもしれないけど自然の状態ではまずあり得ない未来の現象の可能性」を
「それを観測した個人の頭の中から現実にひっぱり出す」みたいなことしてんだっけ

それを説教やワンパンで問答無用にブチ[ピーーー]上条はすげーなあと思うんだ

どうやら好きでやってるわけじゃないらしいのにそのおかげでメルヘンな羽しょっちゃう羽目になった垣根ってきっと頭おかしいんだろうなあと思うんだ

他にも周りを反射するやつとか、ものすごいビーム打っちゃうとか、他人をおもちゃにしてみるとか、前髪から放電するとか色々あれだけど。そんなのが自分の可能性って確かにみんな隠しきれない人格破綻者っぽいけど


>>92
それな。ゴーグルくんなんかモブの中でも名もなきモブだからな。『ブロック』のやつすら名前と過去とおかしな口調とキャラ設定あったからな

>>93
超電磁砲の外人研究者もアニメ化したら確か名前があった。つまり何らかの形で映像化されればワンチャン。それでも「ゴーグルの少年」のままかもしれないけど

>>94
あえて名前を出していないタイプがインなんとかさん、一方通行、冥土帰しあたりだとして……残りはなー期待しちゃダメなやつだよな

>>95
未元物質食べたりする話あったしね
きっとその気になれば衣食住完備出来る。なんでもありだ夢が広がる

>>96
「AIM系の能力はとりあえずなんかチートっぽい」イメージ。AIM拡散力場がよくわかんねー
あと超電磁砲SでフェブリのAIMを物質化する能力うんぬんかんぬんって出てきたときに「なんでそこで未元物質は触れられないしでてこないんだよ!」
と思った人は一人くらいいると思うんだ。なんとなく系統は近そうだよね

>>97
ほんとなんなんだ未元物質
科学発の能力のくせに天使に似た六翼なんてモロ魔術的な象徴を背負ってるあたり怪しいよな
一方通行のも風斬のも翼って作中で呼ばれてるがあっちは輪っかついてるけど形全然違うし
色々怪しんでるけどいつかかまちーが教えてくれんだと信じてる
99 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/10/06(月) 00:51:27.74 ID:iz+wV3nL0

「はぁあああ……マジ雷空気読んでほしいっスわーありえねえっスわー」

しょげながらキーボードを叩くゴーグルの少年の口からはやる気のない愚痴がだらだらともれていた。
ソファに転がっていた垣根がその頭を狙って本を投げつけた。

「お前それ何回言い続ける気なんだよ。聞き飽きた」

「この前の落雷で最終回の予約がパーになったんスよ……円盤になるまで悔みきれねえっス。作業途中でふっとんだデータはなんとかなるからいいんスけど」

ぶつかる直前で急に下に落ちた本を拾うと、ゴーグルは次の巻を机の横から探して投げ返した。
ゴーグルの少年は先日に引き続き『幻想御手』に関する話をネットから拾い集めていた。
垣根はたまに顔を出してダラダラしながらゴーグルが借りてきた漫画を読んでいた。
ゴーグルを追い越してすっかり先まで読んでしまったらしく、そのうちレンタルの催促とかをされそうだった。
100 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/10/06(月) 00:52:43.54 ID:iz+wV3nL0

「ああ、あん時はシャワーが水になったから焦ったけどすぐに戻ったな」

「こっちは突然全落ちっス。レンジもダメでした。この辺だけじゃなくて、やっぱそこそこの範囲に影響あったんスね。雷なんて予報になかった筈なんスけど」

「どっかの研究所がなんかやらかしたって話も聞かねえしな」

「人為的な落雷をあの規模で起こすのなんてどんな無茶っスか。それこそ超能力者でも呼んでこないと」

おかしな出来事、をそんな風に笑い飛ばそうとしたゴーグルだったが、はっと顔を上げると大声でしゃべり始めた。

「そう言えば。なんなんすかねー今朝! 朝の五時っスよ? 警備会社からすげー電話来たんスよ。あんまうるさいんで起きて出たら警報装置がどうの、もう用事済んでますーとか言ってなあなあで切られたんス。結局『スクール』で使ってるマンションからだったんスけど。あれもなんだったんだか。迷惑っスよね」

101 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/10/06(月) 00:54:12.59 ID:iz+wV3nL0

「ああ。俺」

「へ?」

椅子のキャスターを転がしてゴーグルは思わず後ろを振り返ったが。
「私が犯人です」とあっさり自白した超能力者は呑気にコミック本のページをめくっていた。

「それ俺。そっか、お前んとこにも連絡いったのか」

大したことなさそうな垣根だが、ゴーグルはそうはいかなかった。
この超能力者がトラブルを起こしたと聞いてしまうと前例がいくつか浮かぶだけに嫌な方に考えてしまう。

「垣根さん? あそこって確かこの前借りたばっかっスよね? まさかもう何か壊しちゃったんスか!?」

「壊してねえよ。ったく、一々うるせえんだよな。ちょっと窓開けただけだっつうの」
102 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/10/06(月) 00:55:53.21 ID:iz+wV3nL0
「なんでそれで警報鳴るんスか」

そこで垣根は黙ってしまった。
ソファに本を置くと、おもむろに座りなおした。
両膝の上にそれぞれ腕を乗せて下を向いてしまう。

「……外から」

そしてぼそっと呟いた。

「はい?」

「ああもう! 外から窓開けて中に入ったんだよ! 悪いかよ!」

下を向いていた垣根は顔を上げると同時に、そりゃあ見事に逆ギレした。
外ってなんですか何してるんですかおかしいし悪いでしょう! とツッコミたくなるのを我慢してゴーグルは息をはいた。
103 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/10/06(月) 01:04:49.52 ID:iz+wV3nL0

「いや、そりゃ警報バッチリ作動しますよ。無人の部屋の、あのでっかい窓が玄関より先に外から開くなんて空き巣か何かに決まってるじゃないっスか。泥棒でもそんな無茶すんのはアクション映画の主役くらいっス」

『スクール』で使っている中には第三学区の某タワーマンションもあった。
それも上層階だ。
そんな所にワイヤーアクションとかで侵入を試みる命知らずがいるなら、拍手喝さいと共にブタ箱送りだろう。
そもそも窓はどうやって開けるんだ、と思ったが『未元物質』ならそれもなんかやれそうだったのでゴーグルの少年はあえてそこに触れなかった。

「言っとくけど靴は脱いだぞ。っつうか警備会社のヤツとおんなじ様なこと言ってんじゃねえよ。俺は疲れてたんだよ。エレベーター待つより直のが早いだろ」

「垣根さん……それでもせめてドアからちゃんと帰ってください。そこは常識的に」
104 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/10/06(月) 01:09:55.96 ID:iz+wV3nL0

ゴーグルはちょっとがっかりしながらそう忠告した。
しかし、ほんのちょっと前までむくれていた垣根はもう悪びれた感じもなく腕組みすると不敵に笑った。

「この俺にその常識は通用しねえ。まぁ、次からは心配いらねえよ。外からも電子ロックと認証を解除出来るようにさせたから」

「そんなの誰も出来ないっス。垣根さん専用じゃないスか……てか勝手にしちゃっていいんスか? オーナーに話通しました?」

「何かあったら後で言やいいだろ」

自分が折れると言うのはとことん垣根の中ではあり得ない事らしい。
おまけに反省もしていないし、次もあるつもりの様だった。
心理定規がびっくりしなくていいように、今度それとなく『垣根さん専用口』の話をしておこう、とゴーグルは心のメモに書いておいた。
それと。
もしかしたら大笑いするかもしれないから垣根さんのいない時にしておこう、と書き足した。
105 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/10/06(月) 01:12:25.44 ID:iz+wV3nL0

「ああ、なんかまたお前宛に荷物来てたぞ『PC部品』だっけ。お前の棚んとこに置いといたけど。本当パソコン好きだな。全部で何台あるんだよ」

「寮の部屋の抜いても三台はありますけど……って、まさか開けました?」

「その辺は常識的だ」

垣根の言葉に一瞬肝を冷やしたゴーグルだが、慌てず騒がず落ち着いて聞き返した。

「ですよね……いや、その、中見てないんならいいんスけどね万一あると俺の信用とか社会的な生死に関わるんで困るんですよねははははは」

ゴーグルは内心必死になって脳をフル稼働させていたが、最近その手の商品は注文していなかった気がする。
多分。
だからセーフだ、もし何かあってもきっと。
多分。

学園都市は『外』以上に年齢規制のレーティングが厳しいところがあってちょっとした買い物にも苦労する。
アニメが好きなやつだと認知されているのはいいが、流石にゲームオタクの方だと『スクール』内での評価とか色んなものがガクッと下がりそうだった。
106 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/10/06(月) 01:13:47.57 ID:iz+wV3nL0


「ああ……お前もおかしな名前で注文するんだ? この前心理定規のやつに『メルヘン・ファンシーグッズ』とか届いてたから開ける所見てたんだけどよ、期待裏切って小分けのプラスチック爆弾だったわ」

「これっぽっちもファンシーでもメルヘンでもないじゃないっスか。まるで対極っスよ」

「だよな。しかも『ぬいぐるみか何かだと思った?』とか言って鼻で笑いやがったぞあいつ。かわいくねーよな」

今いない心理定規のがっかりなニュースに二人は息を吐いた。
『スクール』の紅一点は時に変化球を放ってくる。
いや、案外自分の部屋はかわいいものだらけとかそんな感じなのかもしれない。
男子としてはそんな幻想を抱きたかった。

「顔は結構かわいいんスけどね」

「な。っつうかお前アニメ以外の女に興味あったんだ」

「そりゃま普通に」

「そう言えばあいつ、今度知り合いに頼んで大型免許の教習受けるとか言ってたな」
107 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/10/06(月) 01:16:57.03 ID:iz+wV3nL0

ギャップありすぎな二球目にゴーグルはずっこけた。
心理定規と車。
それもかわいいバスガイドさんとかタクシーの運転手のお姉さんとか言うレベルじゃない。
大型車両でイメージされるのはトラックとかダンプ、ショベル、クレーン車。
まるでかわいくない、十代の女の子とは無縁そうなものばかりだ。

「いや、普通に年齢でひっかかりません?」

「技術教習だけでカード取るわけじゃねえからいいらしい。それも動けばいいってレベルで充分とか言ってやがったな。何かあっても、その辺の車やなんか使えれば確かに足には困らないだろうけど」

「ああー、前に普通車なら動かせるって言ってたかも。言ってたなあぁ。動かすってなんだろって思ったんスけど」

ちょっぴり残念な記憶を思い出してしまったゴーグルは頭を抱えた。
もしかしてピッキングとかも出来るんだろうか、なんて想像をたくましくすると心理定規が段々とマルチスキルなトンデモ少女になってしまいそうだった。
『スクール』に常識的な人はいないのだろうか誰かに聞きたくなる。
108 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/10/06(月) 01:22:38.92 ID:iz+wV3nL0

まさかの特技にゴーグルはそれなりに驚いたのだが。
ある意味なんでもアリな超能力者はあまりその辺りは気にならなかったのか。
なんてことない調子で続けた。

「攻撃も防御も出来ねえ、その上逃げるのにも使えねえ能力だといざって時に苦労するらしいぜ。あいつも、テメェしか信じてねえ様なタイプだしな」

「いやーしたたかっスねー。でも幾ら緊急事態でもあのカッコでトラックとか乗ってほしくない様な……」

困った時誰かに助けてもらう、と言う女の子の王道がイメージできない心理定規だった。
何かあっても、能力で相手を誘導して結局は自分の力で助かってしまいそうだ。

「垣根さんは乗らないんスか? バイクとか似合いそうっスけど」

「車なんざテメェで乗るもんじゃねえ。用意させるもんだ」

今ここで口に出しては言えないが、能力で飛べてしまう人間に乗り物の必要性はあまりないかもしれない。
おまけにものすごーく上から目線な、リーダーらしいお言葉を頂戴してしまった。
109 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/10/06(月) 01:26:49.48 ID:iz+wV3nL0

駄弁っているうちにゴーグルの机の上の携帯電話が鳴った。

「もしもーし。え? スコア? ああ、マジかー。じゃあ今度更新しとくから――」

なんだかやたらハイテンションな相手と話すと、ゴーグルはすぐに通話を切ってしまった。

「ダチか」

「ええまあちょっとゲーセンで知り合ったんスよ。あえば遊ぶ顔見知りっス」

「そいつもオタク?」

「んー、まあリアル寄りっスけどね。面白いヤツですよ。ストライクゾーン激広くって」

「そこは否定しねえのか」

呆れた顔で笑うと垣根はまた漫画の続きを読み始めた。
モニタの前に戻ると、ゴーグルはなんとなしに口を開いた。
話のタネになりそうな知り合いの愉快で馬鹿な話はちらっと聞いたことがあった。
110 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/10/06(月) 01:34:12.00 ID:iz+wV3nL0

「なんかこの前は……『JSの希望の星になるんやー!』って言って遠足シーズンの小学生にてるてる坊主を山ほど作って配ったとか配らないとか」

「JSって何だ」

「女子(J)小学生(S)の略、っスかね」

「それただの変態じゃねえか」

眉をひそめると垣根はズバっと言い切った。
件の知り合いなら自分は紳士だとか言いかえしそうだった。
女の子に言われるなら大喜びしそうだからやっぱり変態だろうとゴーグルも思う。

「光源氏計画なのか、単にお礼が聞きたかったのかわかんねえっスけどね」

「礼? なんでわざわざんなもん聞きてえんだ」

「さあ……なんでなんスかね」

ゴーグルもなんでそんなことをしたのか何て詳しくは知らない。
一緒にいたそいつの知り合いによると、不審者として風紀委員にしょっぴかれたらしいからうまくいったのかもあやしい。

「うーん。ちょっとしたことでいいんスけど誰かに、感謝されたい時ってありません? でも悲しいもんで、小さい子は何かあっても『ありがとうございます』って素直に言ってくれるんスけど、特に女子は年齢上がると途端に態度が辛辣になるんスよ。まぁ最近は小さい子相手だと親切も『事案』扱いになっちゃうんスけど」

「そう?」

さっきからこの話題にまるっきり共感できないらしく、垣根は首をひねっている。

「ああー……垣根さんには関係ない話っスよね。そうっスよね。垣根さんの場合、もし人とぶつかっても相手の方からお詫びしたいって連絡先とかプレゼントとか貰いそうっスよね。すいません俺が間違ってました」

「お前……どっかで人のこと見張ってんのか」

「マジスか」

冗談で言ったつもりが垣根には真剣な顔をされてしまった。
111 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/10/06(月) 01:39:16.78 ID:iz+wV3nL0

「この前、カウンター席で近くの女に水ひっかけられてさ。どうせ汚れもしねえしいいって言ったんだけどよ」

ポケットをごそごそしていた垣根は取り出したものを放り投げた。
女物のハンカチだった。
シルクか何かの高そうな、なんか刺繍とかしてある。
その間に小さな紙がはさんであった。

「まさかっ、『きゃーごめんなさーい手が滑っちゃった☆』ノリの超古典的な逆ナン……ッ?!」

今時ドラマや漫画でもみないような手法なのかと、メモを手にしたゴーグルは戦慄した。
焦って書いたのか斜めに走る文字で電話番号とメアドが書いてあった。
いや。
もしかしたら、本当に心優しい女の子が何かしたくて勇気を振り絞ったのかもしれない。
学園都市だってそんな純粋な子が一人くらいいるかもしれない。

「やるよ。いらねえし」

「お、俺がもらっても何にもならないじゃないスか、いいです!!」

そんな自覚も興味すらなさそうな垣根の前では彼女のフラグは立つ前に消滅しまった様だ。
成就させたり回収するどころか構築するのにはきっと苦労するんだろう。

112 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/10/06(月) 01:40:18.05 ID:iz+wV3nL0

ドーモ
冷蔵庫とクレーン女に比べるとゴーグルのインパクトのなさが際立つ
かわいそうに
クレーンはプラス大型特殊免許がいるんだってね
定規ちゃんがんばれ
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/10/06(月) 03:49:27.01 ID:j2WEEcyX0

専用口wwww
青ピ名無し繋がりかぁーとか反射的に思ってしまったのが少し悲しい

定規ちゃんは教習を受ける時もドレスなんだろうか
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage]:2014/10/06(月) 09:18:46.45 ID:EzNvtc0ZO
マジな話、垣根は恋愛に興味無さそうだもんなー
彼女いないだろって突っ込まれても「それがどうした?」って返しそうだ
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/10/06(月) 23:19:12.19 ID:tn4JfjjXO
どうしよう垣根がモテるビジョンが浮かばない
なんかサドっぽい女に股間踏まれてるところしか浮かばない
あの中学生みたいな精神の虫マニアが数々の女性に愛されてたという過去が暴露されたら
鬱要因にしかならなかったオティヌスからの虐待シーンも魔神様もっとやっちまいなって見方にすり替わりそう

あと俺も垣根進化させた上でランクマしました
一方通行出なさすぎてもうどうでもいいの心境
男しかいないホモパ作りたかったのにィ!!
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage]:2014/10/12(日) 16:39:54.87 ID:1ufmQ7Be0
艦コレで初春って見ると、提督+初春で帝春を連想してしまい
同時にこのスレも思い出す今日この頃
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/10/13(月) 14:06:19.29 ID:qLFAkSQp0
レベル5の男共は女に縁がない運命なんだよ
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/10/31(金) 12:59:17.14 ID:njB5VnQ4O
待機
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/11/15(土) 01:05:51.79 ID:rO11E524O
戻ってきてよ>>1さん
パズデックスで垣根が弱体化されたショックで死にそうなんだ
助けてよ
僕を助けてよぉ!
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/11/17(月) 16:11:18.93 ID:c+q43Nep0
スクールのスピンオフとかでねぇかなぁ…
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/11/17(月) 23:29:33.81 ID:s3Hx9eX3o
ていとくんについてどこかで見かけた、「禁書SS界の渚カヲル」って表現は至言だと思った
122 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/12/03(水) 02:53:07.59 ID:wPRqB3Qw0

微かな音を立ててエアコンが室内の空気を整えている。
適当な手つきでリモコンをいじっていた少年は少ししてそれをソファの上に放り投げた。
真夏だというのに長袖のワイシャツに袖を通した少年は続いてテレビのリモコンに手を伸ばす。
昼すぎのバラエティ番組で若い女性リポーターがにこにこしながら、
「おいしーい」
「かわいーい」
「すごーい」
を繰り返すのを数パターン眺めてからチャンネルをあちこち変える。
しばらくそんなことをしてから、電源を切るとため息と共に肩を落とした。
そんな時、玄関の方から物音がした。

「ちース。やっぱ垣根さんスか」

ドアを開けるなりゴーグルの少年はそう口にした。
垣根が眉を寄せると、彼は鍵が開いていたから居ると思ったと答えた。

「最近心理定規は見てないし。夏休みっスからねえ」

「そう言うお前は? わざわざこっちに何しにきてんの」

ついこの前まで調べていた『幻想御手』にまつわる話は結局これと言って『スクール』に役立ちそうな情報は掴めないままだった。
騒ぎと、ちょっとした事件がほんの数日であっと言う間に収束したかと思うと、後には嘘か本当かわからないような噂話ばかりが残っていた。
『スクール』での目立った活動もないので、彼も特にここに来る用事はないはずだった。

「隠れ家のパソコンならセキュリティその他が『ランクB』以上で使えるんで。何かと便利なんスよ。なんか今日は、日付変わったへんからっスかね? ネットとか回線がやけに重いんス」

なんて言いながら少年は背負っていたリュックサックを降ろすが。
そんなことを言っていた癖に中から出てきたのは数台の携帯ゲーム機だった。

「はぁ。しっかし今日もつまんねえな」

ソウデスネーと返事をしながら後ろを通ろうとしていたゴーグルの少年は、ちょっと引き返すとスマホをいじっていた垣根の手元を覗きこんできた。

「あ。スコアアタックっスか? 『キャンディ☆スラッシャー』、けっこうハマりますよね」

「ああ。クエストの方はだいぶ埋まったから」

「あれ。垣根さん、チョコフォンデュのブラインドってアイテムで消せますよ?」

123 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/12/03(水) 02:56:33.90 ID:wPRqB3Qw0

パズルアプリの中でも、好き勝手にキャンディを操作して時間いっぱいひたすらポイントを稼ぐモードで遊んでいた。
ちょうど、画面の上に出てくる敵キャラが数ターンおきに邪魔をしてくるステージだった。
ボウルに入ったチョコをぶつけられると画面に並んだキャンディが少しずつ見えなくなってしまう。
チョコレートをなぞると一瞬だけ下のキャンディは見えるようになるが、それで移動してしまえばあまり意味はない。
面倒なオジャマ効果をなくすには、同じところを三回以上こするか専用のアイテムでまとめて取り除くしかない、と言うのが一般的な攻略法だった。

「いいんだよ。こういうプレイだ」

「でもキャンディ全然見えないじゃないスか。どんな縛りプレイっスか」

首をひねるゴーグルの前で、垣根は画面の上を一筆書きで素早くスワイプしてみせた。
すると。
面白い様に少年は目を丸くする。

「え? なんでそれで15も連鎖するんスか?」

「開始直後、一番最初の並びは見えるだろ。動かせば確認も出来るし」

「あー、でもまたチョコが……って、更に18? どうなってるんスかこれ」

再び塗り潰されたなんてお構いなしに、垣根が指を動かすと次々にキャンディが消えていく。
画面に浮かび上がるコンボ数にゴーグルは信じられないと言いたそうな声をあげた。

「こいつの配置と落ち方のパターンな。やってるうちに大体読めてきた。あー、二つ連鎖が足りねえってことは……ここ、丸い緑じゃなくて紫のがきやがったな」

「……本当だ」

キャンディの色も形も見えない所で垣根が指を動かすとなぞられた場所だけ一瞬キャンディが浮かび上がる。
繋げられた緑のキャンディが消えていく。
ずれたキャンディも消えて2COMBと文字が光る。
上から落ちてきたキャンディも更に増えたが、おかげで半分近く目隠しされた所が今どう並んでいるかは横から見ていてもほとんどわからない。

「見てろ。この配置なら次は後五……いや、四ヶ所落とせばもっと消えるから」

ろくに見えないゲーム画面を頭の中でシミュレートしてしまったらしく、垣根は得意そうに笑った。
すごいのだが、何かもうケタも違うレベルですご過ぎてゴーグルの少年はぼんやり口を開けて頷くしかなかった。

124 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/12/03(水) 02:59:28.34 ID:wPRqB3Qw0

「いやー、すごいっスけど。垣根さん何と勝負してるんですか。ランク上位とかんなレベルじゃないですよね」

「ハイスコアとかボーナスとか。やりはじめでどうなるか見えてくるとそんなに面白くねえんだよな。落ちてくるのに合わせて配置すりゃ残りも消える。点とかその通りやりゃ出るし」

ゴーグルはためいき混じりに称賛するが、垣根は面白くなさそうだった。
これも飽きてきたな、と呟くとポケットにスマホをしまってしまう。

「あんま狙っても出ないんスけどね。うーん、じゃあパズル以外のアプリにしたらどうっスか。箱庭ものとか、それか携帯機のゲームにします? アクション系とか」

リュックからポーチを取り出すとゴーグルの少年はゲームソフトを探し始めた。

「アクションものっつうとあれだろ。敵狙ってポイント稼ぐとか、潜入して情報収集とか銃撃戦とかだろ? そう言うゲームって普段しねえようなことして遊ぶんだよな、普通は」

気乗りしないらしい垣根の言葉にゴーグルは苦笑いした。

「あー。リアルっスね。俺らたまにしますねそう言うの。気分転換には向かないかもっスね」

「な」

「でも面白いのもあるんスよ。実は最近やってる奴みつけたんで、『スクール』系の組織メンバーでパーティ組んでるのがあって――」

近くのテーブルの上に数種のゲーム機とソフトを並べて小さな見本市を展開していたゴーグルがカバンの底の方を漁る横で。
垣根は一台だけ起動している機体に目を向けた。
テーブルの端、ちょっと手の届きづらそうなところにそれだけ押しのけられていた。

「お前はいっつも、ながらで何かしてるだろ。これは何してんの?」

垣根が勝手に動いているゲーム機を手に取った瞬間。
ガキン! とおかしな音が立った。
それに慌ててゴーグルが顔をあげた。

「うわ! 垣根さん、ちょっ何してんスか? ケガとかしてねえっスか」

「別にこれくらいなんともねえけど」

「あー、びっくりした。『未元物質』スか。でも俺が動かしてる物にいきなり手ぇ出さないでください。見てない時に何か巻き込んだら怖いじゃないスか」

「あれ。これ能力っつってもお前がやってるわけじゃねえのか」

垣根は携帯ゲーム機の画面を覗いて首をかしげた。
今は止まっているそれをポーズモードにするとゴーグルは他のものと同じように並べた。

「そっス。それは範囲と対象――そのゲームなら押すボタン決めてそこにぶつけてるんで、セミオートってかそれ以外のものに触ったら止めるとか器用な設定は出来ないんス。判断は今SE聞いて俺の耳でしてたんで。いやーだからっスかね、心理定規なんて俺が能力使ってるってわかるときは近寄ってきませんよ」

「使ってる時『は』? 『も』じゃなくてか」

「え。俺そんな嫌われてます?」

125 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/12/03(水) 03:04:24.67 ID:wPRqB3Qw0

結局。
おすすめをいくつか教えたものの。
今はゲームとかいいや、と言われてしまいゴーグルはテーブルの上を片付けていた。
ちょっとさびしそうだった。

「お前って普段からよく能力使ってるよな。『念動力』ってそんな便利か」

「そっスね。ちょっと物取ったりとか出来るんで便利っスよ。ちゃんと制御するならこれっスけど」

少年は定位置のパソコンの前に座ると、リュックから取り出した「ゴーグル」を横に置いた。

「それって結局、何の意味があんだっけ」

垣根も、彼が能力使用の時に機材を使っていることは知っているが、つけている時といない時の差までは気にしていなかったらしい。
必要な時に十分な成果が出せれば特に考えることでもないかもしれない。

「こいつっスか? そっスねー、ここに紙があるじゃないスか」

ゴーグルの少年の言葉にテーブルの隅にまとめられていたチラシが持ち上がった。
目の前までふわふわ浮かんできた紙切れを垣根が睨みつけると、ゴーグルはうんうんと頭を下げる。

「これを……こうっス」

バチ、バチ、バツッ。
横に一直線、少年が自分の体の前で手を動かすと紙の上にはほぼ等間隔にいくつも穴が開いていった。

「で。今度はこれと…こいつを」

少年は頭にゴーグルをはめてケーブルを腰の機械に繋ぐ。
調子でも確かめる様にウエストポーチみたく括り付けられた機材をチェックすると。
ポケットからボールの様なものを取り出した。
大きめのスーパーボールほどで、小さなレンズが付いていた。
床に置かれたボールが二つ、紙の下まで転がっていく。
そしてもう一度手を横に動かすと。

ダダダッ、とミシンでも掛けたような音と共に紙が揺れた。
さっきの倍、それ以上の速さと数で穴が空いていく。
くしゃくしゃになりながら丁度切り取り線の様に細かく穴の打たれた紙は。
最後にバリッと下に引きちぎられた。

「こうっス」

切断されたと言うには不恰好な。
強引にねじ切られた様な紙をそのまま床に落とすとゴーグルの少年は手をはたいた。

「ゴーグルの効果ってこんな感じっス。俺が一度に能力を使える規模ってそんな大したことないんスけど、視点を増やせば手数がちょっと稼げるんスよ」

126 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/12/03(水) 03:07:13.66 ID:wPRqB3Qw0

そのあとの話を簡単にまとめると。

能力者個人が見ているもの、一定の範囲のものを動かすのが得意な能力を何とか今以上に伸ばすために彼の『開発官』が編み出したやり方が「能力を分散して処理させること」だったらしい。
桁の多い計算を、コンピュータは莫大な演算能力にものを言わせて単純に1+1を繰り返すだけでも一瞬で解くことが出来るが。
そうはいかない人間は、効率的なやり方を模索して、たとえば掛け算を使うことで同じ問題をクリアする。
一つの画面を分割して二種類の映像を同時に流しても、慣れれば人間意外とみれてしまうものらしい。
能力のベースに大きく関わっていた「能力を使う、目の前の世界」を少しくらい増やしても彼の念動力に問題はなかった。
ケーブルだらけの土星の輪の様な機械は。
下の機材で受信する映像を切り替えて、ゴーグルに内蔵された電極から送られる信号で、外部からの情報を自身の感覚に近付けて捉える為の装置と言うことらしい。

「たとえば十二のターゲットをまとめて撃ち落とすのが難しくても、四つずつ×3なら焦らずいけるって感じっス。まあカメラ位置で被ったりするし、条件は他にもあるんスけどね」

「ふーん。お前、狙撃手の代わりする気はねえの。出来そうだよな」

「そういうのはFPSで充分っス。それに幾ら映像があっても、それで距離や正確さを稼げる様な仕組みじゃないんで。遠距離から頭や心臓に致命傷ってのは厳しいっスね」

そんな話をしばらく黙って聞いていたリーダーからの提案を、少年は申し訳なさそうに笑って断った。

「まあ俺も学校じゃ成績はそこそこっスよ。こう言うプラスαは『身体検査』の結果に反映されないんで」

拳で頭に着けた「ゴーグル」を小突くと少年は苦笑いした。

127 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/12/03(水) 03:12:32.24 ID:wPRqB3Qw0

「メジャーで、そこそこ幅のきく能力の代表みたいなとこあるよなそれ。他に何が出来んの」

「単純に物動かすのは得意っスよ。細かいものからそこそこ重いのもいけるんスけど、俺は能力での複雑な操作になるとあんまり」

意外と、他人の能力の話に興味がわいたらしい。
そう振られたゴーグルの少年は、思い出したようにパソコンで動画サイトを表示すると出てきたものを垣根に見せた。

「何これ」

「念動力の練習動画、っスかね。複雑な方が得意なやつはこんなのもいけます。やってるのは強能力者なんスけど。あーあー、俺もこれくらい小器用な使い方出来たらいいんスけど。同じ系統でもジャンル違うんスよねえ」

フレーム内の粘土がぐにゃぐにゃと伸びたり丸まったりしながら形を変えていた。
ゆっくりと、小さな子どもが遊んでいる様な動きだったが段々と形がはっきりしていく。
細部、たてがみまで作りこまれたライオンの頭がぐるりと映って再生は終了した。

「そうか? こんなん手でやった方が早いんじゃねえの」

「いやあ、ただ動かすより意外とムズい……って! そうだ、垣根さん!!」

はっとした顔をすると。
少年は急に垣根に振り返った。
そのままつかみかかりそうな勢いで話はじめた。

「罰音メクちゃんて知ってますか?!」

「あ? なんだそりゃ」

「罰音メクちゃんス。メクちゃんは『外』で生まれたソフトウェア発のヴァーチャルアイドルで十五歳の女の子っス。公式のプロフの生年月日は十月十日、なんでかって言うとローマ数字の10が――」

「いや。そこ聞いてねえしうるせえよ」

がーっとまくしたてていたところを垣根に止められたゴーグルの少年は、床に正座をしてちょっと落ち着かされた。
そして頭を勢いよく伏せながら持っていたタブレットを頭上に掲げた。

「垣根さん、これ出来ますよね? フィギュア! 作れますよね!!」

画面いっぱいに表示された画像は少女のイラストだった。
それと、さっき見せられた動画を交互に見比べながら垣根は眉を寄せた。
テンションのおかしいゴーグルの言葉を補完するなら。
垣根には『未元物質』で粘土遊びが出来るか、アニメフィギュアの様な細かいものが作れるかやって見せてくれと言いたいらしい。

「はぁ? そんなの……楽勝だ」

「そうですよね! 垣根さんは超能力者っスもんね。強能力に出来る様なのは楽勝の朝飯前っスよね!! この、初期の公式イラストってほとんどグッズにされてないんスよ。多分一生三次元でお目にかかれないと思ってたんスよ!!」

ゴーグルは、普段の態度はどうしたのかと言うくらいのものすごい勢いと食いつきだった。
おまけにまだ落ち着きが足りない上にこりてないらしい。
垣根が迷惑そうに一にらみしても、まったく効果がなかった。

128 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/12/03(水) 03:13:27.35 ID:wPRqB3Qw0
「お前さ、俺がそう言われたからって、はいそうですかってただやるとは思ってねえだろうな」

「そりゃもちろんっス。でも俺もー『未元物質』のすごさを目の当たりにしたいって言うかー垣根さんの偉大さはもう常々ひっしひし感じまくりなんスけどー……恥も無礼も承知で何とかお願いできませんでしょうか」

よっぽどそのなんとかちゃんがお気に入りなのか、ゴーグルは暴走気味なテンションでそう続けた。
今にもごりごりと床に頭をすりつけそうだった。
それに。
心底呆れきった目をすると垣根はため息をついた。
かわいそうなものを見る顔をしていた。

「仕方ねえ。見学料込みで今後のギャラ五本分な。キッチリ働けよ」

その条件だと当分ゴーグルは『スクール』での仕事がタダ働きになるのだが。

「やったああああ! 俺、俺、墓の下まで持っていくっス!」


本人はものすごく嬉しそうにバンザイまでしていた。

「あ。多分燃えねえからな、一応『未元物質』だし」

学園都市内の埋葬システムに含まれる火葬設備がDNAマップの一片すら残さない超高性能といっても、『未元物質』まで葬り去れるかは不明だ。
もちろん垣根は冗談のつもりで返したのだが。

「じゃあ、完成したメクちゃんはもしかしてこの先数百年残るって事も……」

ゴーグルは何故か真剣な声でそう聞いた。
早速目の前のモニタに勝手に開かれたウェブページにやる気なく目を通しながら垣根はうなづいた。

「かもな。一日か数十年か。まぁ俺の気が変わらなきゃだけど」

「やばい。ずーっと先の世界のどこかでもし俺のフィギュアが発見されたら、メクちゃんの愛らしさと素晴らしさと完璧さが伝わって後世も讃えられてしまう感じになっちゃいますよ。メクちゃんマジ電子の女神」

「まじもんの偶像崇拝(アイドル)かよ」

がっくりしながらツッコんだ垣根の一言もなんだかスルーされてしまった。

129 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/12/03(水) 03:14:16.24 ID:wPRqB3Qw0

「で。これってどう言う仕組みなんだ。具体的なイメージがピンとこねえんだけど」

ゴーグルが浮かれながら見せてきた個人製作だと言うCGアニメの動画とその中のグラフィックデータの、プログラムコードが表示されたモニタを前に。
垣根は首を鳴らした。
暇つぶし程度にはなると思ったのか、それともさっさと済ませてしまいたいのか。
やる気はそれなりにあるようだった。

「えっと…俺もフィギュアはそんな持って無いんスけど、どれか参考にします?」

「いらねえ」

「3Dモデルのグラフィックっスか? 俺も作る方は詳しくないんスけど。確か……初心者向けのページが」

なにやら自分の作業をしていたゴーグルがぶつぶつ言っている間に、垣根の前のパソコンが勝手に操作されていく。
テーブルの上に置かれたボールカメラがレンズの向きを調整していた。
共有ソフトでも入れて操作をリンクさせればいい、と思いつきそうだがゴーグル的にはこっちの方が楽らしい。
文字通りの遠隔操作で何も触れていない様に見えるキーボードはカチャカチャと叩かれていった。
モニタ上にはパラメータ編集に必要なコードの読み書きの解説、作成ソフトに関するページが表示された。

「ふーん。この辺の反映とかどうなってんだろうと思ったんだけど。このファイルの数値をベースにして立体化してやればいいんだよな。よし、あとこっちのソフトと他、まとめて寄越せ」

そうしてダウンロードされたファイルを幾つもいくつも開きながら垣根は独りごとの様に口を開く。


「髪って他の人形みたく塊でいいのか。それともバラかした方がいいのか」

「質感髪の毛っぽくしてあの髪型再現できるんスか」

「俺の『未元物質』に常識は通用しねえ」

「えー見てみたいっスお願いします!!」

「それと、こう言うのってどこまでしていいもんなんだ。別にリアルなのが欲しい訳じゃねえんだろ」

「顔とか体のバランスはなるべく資料の方に寄せてほしいっス」

互いにパソコンの前に向かったまま、二人はそんなことを話した。

「あ?」

「どうしたんスか」

ウィンドウを埋める文字列を眺めていた垣根は急に。
不満そうな声を上げた。

「これさ……服の下までわざわざ作り込んでんの? 見えねえのに?」

「何がっスか」

そう言われて席を立って見にきても、ゴーグルには画面に表示されたコマンドのどの列の辺りがそれなのかがよくわからないらしい。
垣根が渋い顔でキーボードを叩くと。
すぐ横のグラフィック制作ソフトのウィンドウ内の衣装とアクセサリが取り除かれベースに髪と顔のパーツ、インナーをのせた状態のモデルが現れた。

「あー。パンツくらい普通のフィギュアも履いてるっスよ。メクちゃんのパンツはピンクの水玉なんです。ほら」

ゴーグルは自分用の棚からケースを取ると1/8スケールのフィギュアを出した。
こちらはさっき垣根に見せた画像とは髪型も服装も違う。
公式発のイベント限定モノで、わざわざ『外』から苦労して取り寄せたお宝とだと言った。
付属パーツでの衣装変更に対応したスカートを外してみせる。
それを見た垣根はものすごく。
そりゃあもう今までで一番かもしれないくらい軽蔑した目をゴーグルに向けていた。

「あっ! いや、そんな酷い目で見ないで下さいっス! どんなものにもディテールにはこだわりがあるんスよ」

「……こう言うのって安請け合いしていいもんじゃねえな」

今更ながら、縁のないオタク趣味に関わってみたことを後悔しているらしい暗部組織のリーダーは。
ため息と共にモニタを眺め続けていた目元をこすっていた。

130 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/12/03(水) 03:15:16.57 ID:wPRqB3Qw0

「なぁ。こんな感じでいいか」

ちょっとうんざりした様に。
コキコキ首を鳴らすと、垣根はゴーグルを呼んだ。
ゴーグルが振り向くと目の前のテーブルの上に白い水たまりの様なものが広がる。
15センチほどになるとその中から真っ白な女の子のシルエットが生えてきた。

「はやっ……ってすごいっスね。わあ! ちゃんと衣装やパーツの質感が違う!!」

瞬きする暇もないくらい、あっという間に伸びた『未元物質』はゴーグルのよく知っている形に変わっていく。
花びらの様に髪が、スカートがふわっと広がり真っ白だった全身は一瞬で鮮やかに色付いた。

「えっと。こんなだったっけ」

「うわー! うわー!!」

ゴーグルがさっき見せた動画と同じ振り付けで、テーブルの上でフィギュアが踊りはじめた。
垣根が動きを思い出しながら操作しているからか。
ぎこちない動きが照れたように見えて、また可愛らしかった。

「こんなのも出来る。ラジオ体操第二」

続いて、規則正しく体操をはじめるフィギュアにゴーグルは腹を抱えて笑った。


「いやぁ。『未元物質』ほんっとハンパないっスね。夢みたいな能力っス。垣根さんこれで食ってけるレベルっスよ。原型師とかやったらマニアが大金と菓子折りと五体投地の三点セットで押し寄せますよ。3Dプリンターなんかには真似出来ない鮮やかな仕事っぷりっス」

ますますテンションの上がったゴーグルは早口で褒めまくった。
ミクロ単位の精巧さにあらゆるキャラクターやポーズにも対応出来るだろう幅広さ。おまけに早い。
そしてそのクオリティはものづくりの素人だとはとても思えない域だ。
『未元物質』そのものを素体にせず、枠組みだけみても充分通用しそうだった。
正直、頭の中のイマジネーションを三次元に落とし込める能力がここまでとはゴーグルも思っていなかったらしい。
そんな口ぶりだった。
物体操作が出来る能力は数あれど、ここまで正確に緻密にイメージを形にし、それを自在に使いこなすのは超能力者ならではなのかもしれない。
131 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/12/03(水) 03:16:48.10 ID:wPRqB3Qw0

「まあこいつで色々出来そうなのはわかったから、今回は俺にもそこまで悪い話じゃなかったかもな」

すごいすごいと手放しで褒められて悪い気もしないのか、気を取り直したらしい垣根はなんとも複雑そうに言った。
だがその呟きにゴーグルの少年は首を傾げる。

「垣根さん、今まで能力で遊んだ事ないんスか?」

「んー、別に。何が出来るかなんざあれこれ考える必要もなかったし」

「もったいないっスよ。こんなにすごい能力なのに」

惜しむ様な言葉に、垣根は片手をぞんざいに振った。

「煽てたって、もう出さねえぞ。これからはお前のお気に入りをフィギュアになんてしねえからな」

「ええっそんな! 立体でみたい子がまだ居るんスよ」

ふざけたノリで返された垣根は。
にやりと笑って足を組んだ。

「ばーか。これからキリキリ働いてもらうんだからよ。忘れんな」

「はいっス!! 何でもお申し付けくださいっス!」

最後に垣根に操作してもらい、元のイラストとそっくりなポーズを決めたフィギュアを受け取ったゴーグルは、急に不安そうにうつむいた。

「えっと……俺調子乗っていろいろしましたけど。これ本当にもらっちゃっていいんスか? 垣根さんいつも『未元物質』はすぐ処分してませんでしたっけ」

最新の科学技術をふるっても学園都市どころか恐らく世界中でも垣根帝督にしか作り出せない『未元物質』。
そんなもの欲しがる奴は山程いそうだった。
垣根がそれを勝手気ままに扱いながらも、管理はきちんとしていた様にゴーグルは見ていたらしい。
まあ、誰もこんな美少女フィギュアの材料が何かなんて気にかけないだろうが。

「返されたって、俺こんなもんいらねえし。俺にあそこまでさせたんだ。あの下らねえ時間を無駄にしやがったら許さねえからな」

「はい。一生大事にします」


132 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/12/03(水) 03:19:04.94 ID:wPRqB3Qw0

「なあ」

うきうきしながらフィギュアを捧げ持って眺めていたゴーグルだが、垣根に呼ばれて振り返った。

「アロサウルスとティラノの殴り合いって見たくねえか」

いつの間にか、テーブルの上には菓子箱サイズの小さな恐竜が二頭並んでいた。
意地の悪いにやにや笑いをはじめた垣根の前のモニタには、化石や骨格標本のWebページが映っていた。
どうやら外観の参考にしたらしい。
爬虫類を模した真っ白なものはテーブルの上を太い尻尾で叩いている。
牙のずらっと並んだ顎を見せつける様に頭を振っていた。

わーちっちゃい恐竜さんだーかわいー
とかどっかの展示物だったらのん気にながめていられそうだったが。
垣根の意味ありげな顔をみていたゴーグルはなんだか嫌そうに頬をひきつらせていた。

「えーっと、暴君フルボッコならやめてくださいっス。男子の夢を壊さないでください。どうこう言われたってティラノサウルスは知名度は間違いなくトップクラスなんスから」

「王者、暴君、ナンバーワン。御大層な名前が並んだところで、スペックは圧倒的に負けてるけどな!」

「ああああ! 酷いっス! やっぱ前脚短い!!」

小さな二頭は同時に動いた。
しかし。
ほんの一歩の差で初手を奪われ頭を押さえつけられる古代の覇者のミニチュアにゴーグルが嘆いた。
その後はなんかもう、蹂躙っていうか一方的なティラノサウルス公開処刑のフルボッコだった。
その指揮をする垣根はなんだかとってもご機嫌だった。

133 : ◆q7l9AKAoH. [sage]:2014/12/03(水) 03:20:57.15 ID:wPRqB3Qw0
『未元物質』のクソ無駄使い(時価)
未元物質での再現はレコードの溝に針を落として再生って感じらしいけど、加工も設計図やベースになるデータがないとやりづらいとかあるんだろうか
索敵用に作ってたトンボは小さい方が小回りきいていいと思うんだけどでっかいのは趣味か?あと垣根って実はネッシーとか好きですか?それともありゃ病理さんの趣味でーす?

ゴーグルくんのは勝手な妄想と適当なこじつけ。ゴーグルってのは基本目に掛けるものだけど頭に着けてるものをわざわざそう呼ぶのは視覚補助目的だからかなとかなんとかでどうでしょ
ほんとはもうちょっと能力関連の話あったけどそんなに面白くなかったからカット

ほんっとお久しぶりですドーモ
ギリですんませんおやすみなさい
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/03(水) 04:59:51.24 ID:U+KrcUm6o
乙!
やっぱ面白い
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage]:2014/12/03(水) 08:44:21.25 ID:AAn2rJHkO

垣根が死んだら垣根が展開していた未元物質はどうなるのかね
やっぱ消滅するのか?
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/03(水) 12:44:52.85 ID:PFV3WBFCO
戻ってきてくれてありがとう
今回も面白い
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) :2014/12/04(木) 00:14:04.51 ID:MVxqCv6g0
おおーきてた!乙!落ちたかとおもったよ
ゴーグルがヲタ化とか個性ついてるのはあんまないよな
暴走しすぎだけどwwwwSSはやりすぎくらいがおもしろいよ
なんか死亡フラグめちゃ立ってる気するけど今話はまだ夏なんだよね
秋になるとやっぱ死ぬの?
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage]:2014/12/04(木) 06:40:34.39 ID:eeejg6d40
フィギュアから主神の槍まで作れてしまう未元物質マジ万能。
一家に一台ていとくん。
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage]:2014/12/04(木) 23:06:18.30 ID:IMAH6BoU0
やってる事は物質成形系能力と大差はないんだろうけど、能力の錬度が高すぎるのと、未元物質自体馬鹿げた応用性を持ってるから、実質「万物を創造、操作する能力」といっても過言じゃないんだよな
だから無限の創造性なんて作中でも明言されてるんだし
ただ15巻垣根はその領域に至って無さそう
140 : ◆q7l9AKAoH. [saga sage]:2014/12/07(日) 02:11:38.29 ID:1aepIGjE0
うっかり頂点一日ログインしてなかったっぽ。ログボずれてたかも
なんか悔しい
パズデックスもすすまないからちょっとネタ投下しますね
いいですか、どうもありがとう
また台本。sageます
たぶん10もいかないと思うよ
141 : ◆q7l9AKAoH. [saga sage]:2014/12/07(日) 02:16:09.91 ID:1aepIGjE0


※SSの内容とは関係ない一発ネタです※
今開催中のパズデックスのあれ関係だと思ってください
メタ気味なのは仕様です



ゴーグル「垣根さん」

垣根「……」

ゴーグル「かーきーねーさん」

心理定規「それじゃダメよ。今は委員長って呼ばないと」

ゴーグル「い、委員長? 垣根…委員長?」

垣根「何だよ」

ゴーグル「俺たちのこの格好はなんなんスか」

垣根「見てわかんねえのか。制服だよ」

ゴーグル「はぁ。それでもシャツの下はいつものセーターなんスね。それで何でみんな眼鏡なんでしょうか」

垣根「……イメチェン?」

ゴーグル「そこ分かってないんスか?!」

垣根「文句あんのか」

ゴーグル「いいえいいえ」

142 : ◆q7l9AKAoH. [saga sage]:2014/12/07(日) 02:17:56.48 ID:1aepIGjE0

ゴーグル「でも委員長眼鏡良く似合いますね。クールで知的っスね」

垣根「だろ」

心理定規「君はあんまり馴染んでないね」

ゴーグル「そうなんスよ。これ外してもいいっスか? モブモブしさに拍車がかかるって言うか、目の前にあると逆に違和感がっスね」

垣根「そうなのか」

ゴーグル「そうなんスよ」

心理定規「……だからって頭に乗せるのはありなの?」

ゴーグル「あ。ちょっと落ち着くっス」

垣根「そうなのか」

ゴーグル「そうなんスよ」

心理定規「……ちょっと。彼に変なこと教えないで」

ゴーグル「もしかしてちょっと気にいったんスか?」

垣根「……そうなんだよ」

ゴーグル「そうなんスか」

心理定規「ねえ。やめてくれる?」

143 : ◆q7l9AKAoH. [saga sage]:2014/12/07(日) 02:19:44.21 ID:1aepIGjE0

心理定規「もう。話がちっとも進まないじゃない」

垣根「そうなのか」

心理定規「や・め・て」

ゴーグル「ほら、委員長。副委員長が怒っちゃいましたよ」

心理定規「次やったらほんとに怒るよ?」

ゴーグル「さて。ところで委員長」

垣根「どうした」

ゴーグル「俺たちはどこの委員会所属なんスか」

垣根「なんだ。お前まだ気付いてなかったのか。ほら」

ゴーグル「それって……腕章っスか。あれ。四本線に、盾って」

垣根「風紀委員に決まってんだろ」

ゴーグル「え、ええ?!」

144 : ◆q7l9AKAoH. [saga sage]:2014/12/07(日) 02:28:22.94 ID:1aepIGjE0

ゴーグル「なんで風紀委員なんスか? え、まるっきり『スクール』と立ち位置逆っスよね!」

垣根「やってることはどっちも治安維持活動含まれてんだろ。一応な。んなこと言ったらあいつらの方があり得ねえだろ」

心理定規「生徒会実行委員ね」

垣根「あの第一位が会長だぞ? リーダーシップも協調性もクソもねえような、他人なんざ寄せ付けねえ孤高の悪党みたいなツラしたあれが会長だぞ。学年主席で会長だぞ?」

心理定規「彼は次席で委員長だけどね。第一位だけど選挙戦のポスターには確か『ここから先は一方通行だァ! 進入は禁止ってなァ!!』ってあったんだけど。蓋を開けたら本当に、ぶっちぎりで当選よ。他の候補に九九六九票の大差を付けてね」

ゴーグル「まじスか。ってかこの学校生徒何人いるんスか」

心理定規「書記の彼が会長の候補者だったら、全校生徒の過半数どころか八割ががそこに投じたって噂もあるんだけど。そっちは辞退しちゃったから」

垣根「そこで。お前、生徒会実行委員に並ぶ勢力って何だと思う」

ゴーグル「え。きょ、教師っスか?」

垣根「風紀委員だろ」

ゴーグル「まさか……そんな理由っスか。それで風紀委員長?」

垣根「何だよ」

ゴーグル「すいません今は呼んでません。ええーそこなんスか」

心理定規「理由なんてそんなものよ」

145 : ◆q7l9AKAoH. [saga sage]:2014/12/07(日) 02:33:49.85 ID:1aepIGjE0

心理定規「でも。それだけじゃこの仕事は務まらないわ。実際、やってみたら彼にはピッタリだったのよ」

ゴーグル「はぁ。そうなんスか」

垣根「考えるまでもねえだろ。他の能力者どもを制圧してルールに従わせる、教師共ともそれなりに折り合いが付けられて学校外への牽制やアピールも出来るなんて器用な真似が、俺以外に出来んのか?」

ゴーグル「そう言われれば、確かにそんな気もするような」

心理定規「彼、実力だけじゃなく結構顔も利くし。副会長について生徒会役員になった元風紀委員の穴もあったしね。何か校内で問題があったからっていちいち会長以下役員のみなさまに動いて貰う訳にはいかないでしょ? あ。こんな話してるうちに、もう昼休みね」

ゴーグル「それがどうかしたんスか?」

心理定規「見てればわかるよ。彼がこの仕事のトップを任されてる理由もね」


削板「   根  性   ! !  飯だ飯っ!!」ドバン!!

垣根「削板ぁぁぁあああああ! テメェまた備品を見境なく吹き飛ばしやがって!! 毎度毎度尻拭いするこっちの身になってみやがれクソがぁぁぁあああ! 廊下ッッッ走ってんじゃねぇよ!!」バサァァァ!!

ゴーグル「え」

心理定規「委員長の大仕事。いえ、もういつものことね」

146 : ◆q7l9AKAoH. [saga sage]:2014/12/07(日) 02:38:59.91 ID:1aepIGjE0

ゴーグル「今のって」

心理定規「この学校一の問題児、削板軍覇。彼は特別悪い子じゃないんだけど、加減を知らないのよ。彼を鎮圧出来るのは、生徒会会長か書記。それとうちの委員長だけよ。書記の彼だとがんばっても十分くらいしかもたないのよね」

ゴーグル「原石相手に十分もたせる無能力者ってなんなんスか。いや、あのそれだけじゃなくて……委員長、飛んでましたよね?」

心理定規「そうよ。初速でF1並みのスピードの相手に、走って追いついたらいくらなんでも怖いでしょ?」

ゴーグル「いや、廊下走るのはダメで飛ぶのはありなんスか」

心理定規「……君ねえ、そんなんじゃ帰ってきてから委員長に怒られちゃうよ? 校則ちゃんと目を通してないの?」

ゴーグル「えー、と。『授業及び休み時間、教室移動の際、廊下を走ってはならない。学校行事、第二級以上の警報発動時他、特例を除く』」

心理定規「『校舎内を飛んではいけない』ってきまりは、無いのよ。あれで彼も真面目なところがあるから、ちゃんとここのルールには従ってるの」

ゴーグル「ええ?! いいんスか? そんな一休さんのとんちみたいなので」

心理定規「ちなみに、彼の機動力もこの学校で二番目よ」

ゴーグル「……会長も?」

心理定規「飛ぶの」

ゴーグル「まじスか」
147 : ◆q7l9AKAoH. [saga sage]:2014/12/07(日) 02:44:35.82 ID:1aepIGjE0

垣根「はぁ……今日の被害は西校舎一階の窓十二枚と校庭脇の木が三本。それといつもの食堂裏の自販機。っつたく、昼まるまる潰して愉快な鬼ごっこじゃねえんだぞあの野郎。いい加減御坂にもあれ止めさせてやるからな」

心理定規「お疲れさま」

ゴーグル「……そっスか。風紀委員。俺も頑張らなきゃっスね! で、俺のポジションって」

風紀委員長「G」

ゴーグル「え?」

副委員長「君ね、風紀委員Gだよ」

ゴーグル「……それ、は。ゴーグル、の?」

風紀委員長「ABCDEFG、のG。お前下っ端だぞ」

風紀委員G「そう……なんスか」

副委員長「そうなのよね。がんばって」





会長ちっとも出てこないし、初日サボりやがるとかナメてやがりますかそうですか
あのイラストの女子制服かわいいよね
心理定規ちゃんも着ませんか、ついでに眼鏡もかけませんか

あの生徒会イラストからのネタ。中高一貫の学校でイメージしたけど生徒会役員が全校合同ってあるのかなまあがくねんとかなんとかつっこんだらだめだね?

あとの超能力者はあれだ、近所にあるお嬢様校にまとまってればいいよ。たまに学校間交流会とかそんなあれで顔合わせするような
初等部から大学までがっつりエスカレーターみたいな女子校で面子は常盤台と一部の女子。会長みさきちか、替え玉の縦ロールちゃん。
麦野はスケバン。
女生徒にきゃーきゃー言われて「沈利お姉様!! 素敵ですわ!」とか呼ばれてるのみてみたい

禁書は一応学園ものジャンルな筈だけどたまに学パロをみたくなるのはなんででしょうね

ドーモ
お目汚し失礼っした


148 : ◆q7l9AKAoH. [saga ]:2014/12/07(日) 02:51:14.73 ID:1aepIGjE0

いちお前のれすもしとくねありがとうね

>>113
部屋でくつろいでる時とかに突然窓から入ってくるけどそこで笑ったら愉快な死体の恐れがある。絶対に笑ってはいけない『スクール』24時てきな
流石に定規ちゃん女子だから暗部休みの時は私服だと思うw

>>114
「んなもん必要ねえ」って言いそう
興味ないことにはとことんドライそうだし
何を目的として何に興味があったか気になるから『直接交渉権』を得て何しようとしてたかちょっとでいいから教えてほしい鎌池先生頼む

>>115
パズデックスはドロップ率キツいから大変だよな
書き下ろしはよかった
色々根つめない方がいいよ深呼吸すると楽になるよ
って返そうと思ってたんだけど。色々あったな息してるか。こっちはまだしてる。なんとか。あいかわらず本体出ない

>>116
垣根提督(公式)
名前で呼んでくれとか言ってんのに作者に間違われるとかおいしい。誤字ほんと
帝春もいいよなー

>>117
ナンバーセブンはどこかでフラグ立ててそうな気もする基本いいひとっぽそうだし
第一位は既に……おっと誰か来たようだこんな時間に一体

>>118,119
おひさしぶりです

>>120
スピンオフとか書き下ろしイラストとか贅沢言わない。SSの初春みたいな出方でうれしいからさー
禁書超電磁砲のどっちかにコマ端のガヤでもいいからまたでないかな

>>121
なんとなくわかるようなカヲル君。原作で出番ろくにないけどおいしいネタもっててSSではネタ扱いorスルーとか?
イケメン天使でダミーなスペアで最期は愉快にぐしゃっとされるとかそっくりかな?
カブトムシ化してから自己再生するし増えるし量産型で共通点は意外とあんのかもしや

149 : ◆q7l9AKAoH. [saga ]:2014/12/07(日) 02:54:53.51 ID:1aepIGjE0
>>134,136
おつありですの

>>135
どうなんだろ。垣根は自分の死んだあととかそんな先のことは考えてなさそうだから疑問すらないかもしれない。個人的には垣根が処理してなければただの残骸として残りそうな気がする。消去も能力操作の一部みたいな。『一掃』の金ピカ粗大ごみみたいな
原作で冷蔵庫ついたのは生産、加工、操作を垣根に依存してるから延命したのかどうか
カブトムシはもうどうやって始末していいかわからない状態だけどね。メイン以下の個体も垣根化分裂オーケーならマジG並み。一人みかけると三十人はいる第二位

>>137
ゴーグル?垣根?
ゴーグルならセミみたいにいわないでやって。垣根ならカブトムシはひと夏どころか冬越えるらしいよ。なんて
ゴーグルが死ぬ意味はこのSSであんまりなさそうだからどうしようかとおもってるけど。んな先はともかく九月に入るくらいまでかけたらいいなって思ってる。もやっと話は考えてるからがんばりたい

あと実はゴーグルの扱いをどうしようか考えた時に「ゴーグル付けてないと『スクール』以下暗部組織のメンバーにろくに認識してもらえない」ってネタを仕込もうかと最初の頃思ってたんだけどやめてよかった。持たざるものからあまりに多くを奪い過ぎるところだった
でも最初は「垣根のしらないゲーム(艦っち)の話を解説する」だけで別にオタクではなかったんだけど
どうしてこうなった

>>138
一家に一台帝凍庫くん。うちにも羽根つき冷蔵庫ほしい。きっと親切に食品の期限とか聞いてなくてもべらべら教えてくれる
『この肉三日前に入れたろ。下の野菜室にキャベツがあっからそれと炒めてだな。調味料はここのポケットと、こっちの……』
そう言う話じゃないか

>>139
『回折』みたいな副産物的な効果以外だと精々形を変えるくらいだと思う。
第一位は血流操作やプラズマを作ってみようなんて実験やるまで思いつきもしなかった
第二位は自分の体を直してみるまで未元物質にそんな応用性があるなんてきっと考えもしなかった
ちょっと能力使えば即終了なら工夫することもないだろうし
15巻垣根もよくわからないことしてるけどね。ベクトルを偽装ってなんだと。向きをどうすんのと
黄砂「きなこです。通っていいですか」ってことなんだろうけど難しいよ禁書


最近1は話が長すぎて改行多すぎって怒られる。長文控えるべきか


ドーモ
ではまた
150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/08(月) 11:50:45.68 ID:99drIPG40
おお、しばらく速報来てなかったら更新されてた、ありがたや…
相性が良いのか知らんが、なんか個人的に>>1の文章は読みやすく感じられて好き

ゴーグルと未元物質の掘り下げ面白い
ていうか、なんだかんだ言ってゴーグルに対してちょっとデレてる…?(他の人間への対応の差を想像すると)
きっと冷蔵庫化した後にメクちゃんは垣根の仮の体として頑張ってくれるに違いない
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/12/08(月) 15:12:48.94 ID:uPsDtnAnO
乙乙
あの生徒会の垣根のバージョンあったらまた垣根のためだけにパズデックス課金するんですがねえ
さもなくば二度と課金しません
生徒会のやつで穏やかな美少年がごとくピアノを弾く垣根のカードなんて出ようものなら笑いすぎて死ぬと思います
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) :2014/12/08(月) 15:30:20.43 ID:/Wby0Wv8O
しゃべってる中身はとにかくキャラの感じがぶれてないのがすごいと思う
垣根とか出番全然ないけどそんな感じするもん
禁書の他のキャラもみたい
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage]:2014/12/10(水) 15:18:59.32 ID:1kyPsa+mO
なぜていとくんは苦労人というか他人の尻拭い役がこうも似合うのか
乙ですの
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2014/12/28(日) 08:41:21.50 ID:o2mpIdZAO
更新待ってます
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/22(木) 23:52:07.28 ID:iTdN/c1F0
まだかしら
156 : ◆q7l9AKAoH. [sage saga]:2015/01/28(水) 07:28:36.35 ID:h9xNdBB40

垣根の顔を見飽きてくるなんて想像もしなかったよ
フランベルジェの消費数が増えてきたよ投下するね

>>150
このSSのリーダーはわりとメンバーにデレている。心配するな自覚は無い
ちょいちょい残念な自爆があるから実はゴーグルの印象は下方修正されていく一方だと思うけど
あとさすがに美少女フィギュアになるならカブトムシのがいいと思う。もしそんときゴーグルが元気だとかわいそうだわ
読みやすいすか。ありがとうまたがんばる

>>151
ピアノ弾けるんかなw
パズデックスはクリスマスイベントがなかったことだけが残念。もうやる機会ないじゃんな

>>152
垣根はカブトムシに抜かれそうだもんね。ページ数とか
ブレるってかハズれてる気はしてんだけどだいじょうぶかな
禁書のキャラは話し方が目立つの多いのは見てて楽しいけど大変な
妹達はラクでいいな

>>153
原作での扱いから、相手の事情をあれこれ超解説する役になってしまったのが超原因じゃないかと思います。敵ともみんなよくしゃべるけどさ

>>154
大変ありがたくおもっとります

>>155
たいっへんお待たせしています
157 : ◆q7l9AKAoH. [sage saga]:2015/01/28(水) 07:30:37.97 ID:h9xNdBB40

「あれ垣根さんじゃないスか。今日こっちなんスね……おはようございますっス」

「もう昼だぞ」

ふかぶかーと頭を下げたゴーグルの少年に首をかしげると。
垣根は時計を見上げた。

「なんかいつもと違いますね。どうしたんスか」

「ああ。昨日着てたのはクリーニングに出したから代わりにな。わざわざ着替えなんざ持ってこなかったからよ」

いつもとは違う垣根の服装にゴーグルの少年は目を丸くしていた。
『スクール』での活動があるときは垣根は大体同じ様な服装だったからTシャツにジーンズなんて珍しがられてもしょうがないかもしれない。
けど垣根の発言にゴーグルの少年はますますびっくりしたようだった。

「え。ここに泊まったんスか?」

無駄に広いリビングルームだけではない。
第五学区内にあるマンションのこの部屋は、それらしく豪華な家具が並んでいてちょっとしたホテル並みの設備と雰囲気があった。

「まぁ、ベッドもあるし。一応手入れはされてるからたまには使ってやらねえとな。昨日どっかの奴が掃除に来てさ。笑えるくらいビビってたぞ。あんな奴らでも俺のこと知ってんだな」

「『スクール』下部組織の構成員スかね。ひゃー、組織トップの前で片付けって考えただけで胃が痛くなりそうっス」

垣根は意外そうに言ったけどゴーグルはなんとなく納得しているようだ。
新入りや下っ端がささいなことで取り返しのつかない結果を生まなくて済むように、リーダーである超能力者のことは話が伝わっているのだろうか。
正規構成員の知らないところでもしかしたら最低限の新人研修的なことがされているのかもしれない。

「それにしても垣根さん、こことかよく使ってるんスね」

冷房のしっかり効いた部屋の中をゴーグルの少年は不思議そうに見回した。

「お前は人のこと言えんのかよ」

「いやあ居心地よくって。テレビもデカイし。おまけに学生寮なんかとは回線速度も環境も全然違うんで。ええと……こういうのも職権濫用になっちゃうんスかね。後あの、お邪魔なら言ってくださいっス」

「ここだって『スクール』で勝手に押さえてる部屋だし。どう使おうが別にいいんじゃねえの」

リュックを降ろすとゴーグルの少年は少し考えてから申し訳なさそうに答えたが。
垣根は何ともやる気のない返事をよこした。
スニーカーのまま足を組んだ少年は、すっかり自分の部屋のように寛いでいた。

158 : ◆q7l9AKAoH. [sage saga]:2015/01/28(水) 07:33:33.15 ID:h9xNdBB40

「へえー。垣根さんがジャージとかスウェット着てるとこが想像つかないんスけど」

「俺だって楽な格好くらいするぞ。流石にそれでは外に出ないけどな」

ゴーグルの
「カッコイイっスねー、どこで買うんスかそう言うの」
からはじまった普段、何着てる?トークは意外と盛り上がった。
垣根は、その辺は常識的だぞ、と返したがゴーグルは何がツボだったのか面白そうに聞いていた。

「あれ。待ってください。これ確か有名どころの……ちょっと写メ失礼します。そこのプリントんとこだけです」

スマートフォンのレンズを向けられて不快そうな目をした垣根に、慌ててゴーグルは付け足した。
はい、チーズ なんて間抜けな音声の後で少しの間何やら操作していたかと思うと。
ゴーグルの少年は垣根の服と画面を交互に眺めて大声を上げた。

「やっぱ! 最新作のシャツじゃないスか! 一枚三万以上する! 部屋着? これが?! セレブだー!!」

わざわざ画像検索して商品を特定したらしいゴーグルはなんだかとってもショックを受けていた。

「ならいつ着るんだよ。これでわざわざ出掛けんのか? こんなんでんなこと言ってお前、普段何に金使ってんの。わざわざ『スクール』にいるんだし、まるっきり金がねえ何てこともないだろ」

騒ぐゴーグルとは対照的に垣根は、おかしなものを見たように首をひねっていた。
学園都市の生きるレアアース鉱脈みたいな能力者の金銭感覚は一般学生とはずいぶん違うのかもしれない。
それでなくても超能力者だ。
どこかの研究機関とちょっと真面目な話をするだけでそれがそのまま大金に変わる、なーんてのはオーバーかもしれないけどそんなイメージがある。
そう考えれば、垣根にとって暗部での活動での成果なんてバイトどころか子どものおつかいみたいな感覚なのかもしれない。


「実は……学園都市に家族がいるんス。親は当てになんないし将来とかあるし、俺が何とか稼がないと面倒見切れないんで金が要るんス……って話だったらいい感じなんスけど――すんませんっス」

「何度も言わせんな?」

深刻そうな顔をしたかと思うと、次に笑って茶化そうとしたゴーグルの少年は。
垣根の顔を見て最終的に頭を下げた。
159 : ◆q7l9AKAoH. [ saga]:2015/01/28(水) 07:35:14.05 ID:h9xNdBB40

「いや大したことじゃ、アニメのディスクとかグッズとか後はえっとゲーム機とか……」

「同じのを何台も買うから悪いんじゃねえのか」

「特典付きのやつなんですよ。ソフトと本体同梱とか多くて。それにいいんス。俺これがあればゲーム一度に何個も遊べるんで便利なんス」

ぱんぱかぱーん! とか言いながら少年は取り出したゴーグルを掲げた。
それに能力の無駄遣いだとでも言いたげな顔で垣根が尋ねた。

「そんなにして楽しいのか」

「そっスねー。乱数調整とか個体値にこだわりはじめた頃はすげー便利だったんス。あとは神おま堀りながら努力値振れるしレベルも上がるしダンジョンも潜れるし下校リロードも全部まとめて出来ます。パソコンも使えば遠征やドックの待ち時間使えるしクッキーも焼き放題っスよ。作業時間の短縮にはいいっス」

ゴーグルが口を開くたびに垣根は頭上に一個ずつクエスチョンマークが増えていく様な。
そんな顔をしていた。


「後ケータイも。幾つ持ってんだ」

「こっちはタブレットっス。これとスマホと『スクール』の連絡用のガラケーと……基本料金はちょっとプラスなんスけど、おかげで堂々アカウント複数持ちっス」

「ガラケーは何かわかるけど、スマホはお前の能力で動くのか」

「じゃじゃーん。ここにタッチペンがあります」

今度はタブレット端末のケースからカラフルなペンが出てきた。
それも何本も。

「俺がその気になれば、個人戦だけじゃなくユニオンイベントでも複垢四つは同イベ上位に入れられますよ! 手動で!!」

自慢げに、熱く語るゴーグルの少年に向けられた視線はなんとも冷やかだった。
聞いたけど。聞かなきゃよかった。
そんな様子で垣根は頭の後ろで腕を組んでいた。

「よくわかんねえけど幸せだなお前。これっぽっちも羨ましかねえけど」

「ゲームの仕様もずいぶん変わったし、そこまでしないっスけどね。報酬全部まとめられる訳じゃないし戦力分散するし。なによりフェアじゃないんで。最近はそれより別のやってるっス」

ゴーグルの少年はリュックサックから荷物を並べ始めた。
いつものパソコンの前に置かれるのはペットボトル、スナック菓子、ゲーム機と映画のディスク数枚。
そして代名詞のゴーグルがモニタの横に置かれた。
それを横目にみていた垣根は立ち上がると、一応、といった感じで声をかけた。

「俺メシ行くけど」

「はい。えーっと? 戸締りっスか留守番スか? 何かご用っスか」

玄関、垣根、大きな窓、垣根、今出したばかりのパスケースとあちこち見てからゴーグルの少年はもう一度垣根を見た。
待機中、と顔に書いてありそうな部下に対して、すでに背中を向けたリーダーは上着に袖を通していた。

「ついて来たいんなら好きにすれば」

そう言われたゴーグルは動画を逆再生したみたいに荷物を詰め直しはじめた。
160 : ◆q7l9AKAoH. [ saga]:2015/01/28(水) 07:36:15.32 ID:h9xNdBB40

そのあと。
適当な店に入って腹も膨れたところで、

「次どうすんの?」

と垣根に振られてゴーグルは焦っていた。
もうちょっと詳しく話をすると。
垣根は今日は予定もないしノープランで何となく出てきたが、どうせなら外で暇を潰したい。
と言うことらしい。
いきなりそれをただついて来ただけのゴーグルの少年に言われても困ってしまう。
残念ながら『読心能力』や空気をよく読むスキルは搭載されていない。
更に、

「っつうか飯だけならデリバリーでよかったじゃねえか」

なんて言葉が出るあたりが何と言うか垣根帝督だった。


そういうの先に言えよ、なんて顔を垣根はしていたがゴーグルにそこまでの発言権はないと思う。

「じゃあ……そっスね。俺がよく行くところでいいっスか」

無言でうなづく垣根の態度には、なんだか期待より圧力が込められていそうで。
ゴーグルはいっぱいになったばかりの胃をそっと押さえた。
161 : ◆q7l9AKAoH. [ saga]:2015/01/28(水) 07:38:38.42 ID:h9xNdBB40

「この辺って、こんなに人通りあったか」

前を進んでいた垣根は首を鳴らした。
第七学区まで移動した後、二人はひと気のなさそうな路地裏を通っていたのだが。
ずいぶんとすれ違う相手が多いことに垣根は疑問をもったらしい。

「やけに人多いっスね。もしかしてあの噂は本当なんスかね」

無言で振り返る垣根にゴーグルは続きを話した。

「建物の裏とか、あっちこっちにマネーカードが最近よく落ちてるらしくて。垣根さんいつもマネーカードっスけどもしかして…それともどっかで落としませんでした?」

「ばーか。違えよ。んなもん探すほど暇じゃねえし配るほどお人よしでもねえ。下手に口座から金を動かしたりカードで落とすより、あっちの方が金の流れは追いづらい。だからある程度まとめて用意してんの。それだけだ」

「かえって面倒なんじゃ……って! なにしてるんです?!」

ゴーグルは大声でつっこんだ。いや、叫んだ。
垣根は話しながら、近くのビルに近寄ったかと思うと壁に手を突っ込んでいた。
壁の隙間にとかヒビにってことじゃなく。
白い外壁のど真ん中に垣根の腕が突き刺さっていた。

突然そんなおかしな真似をされて叫ばずにいれようか。いや無理です。
出てきた手の中には数枚のマネーカードが握られていた。
慌てて駆け寄ったゴーグルはおそるおそる壁を叩いてみたが当然のように固かった。
目の前で手品でも見せられたような反応に、垣根は自慢げに種明かしを聞かせはじめた。

「これ『未元物質』だからな。俺にしか出せねえし、中身も劣化しねえ。暗部なんて真似してるし、もし俺に目を付けられても手元のもんを下手に押さえられない様にしてんだよ」

「そりゃあ、貸金庫なんかよりよっぽど、いや世界一安全でしょうけど」

ゴーグルがよく見ると、もともと壁ではなく建物の隙間が埋められているみたいだった。
あと、あちこちの壁や塀に落書きが目立つのにその近くはあまり汚れていなかった。
『未元物質』相手に市販のスプレーや塗料が勝てるわけもない。
勝手に加工されていることに建物の持ち主が気付いても取り除くことも出来なさそうだ。

「他にも幾つかこうやって置いてんだ。ATMもいらねえし結構使えるぞ」

「そっ、そう……っスかあ」

自慢げに語る垣根に、冬眠前にあちこちにドングリを隠しておくリスの話を思い出してしまったがゴーグルは必死に口を閉ざしていた。
そんなファンシーなものと一緒にしても喜ばないことはわかりきっていた。
オチとしてはリスは自分で隠した所を忘れてしまうんだけど、垣根ならきちんと管理しているだろう。
最近はちょっと、ほんのちょっぴり当たりが柔らかくなった様な気もするけど。
それはやっぱり超能力者で暗部のリーダーな垣根が相手なので。
うっかりや都合のいい勘違いの招いた甘さで、周囲数メートル単位の自分の墓穴を掘ったりしない様にゴーグルは気をつけていた。
能力者相手だとこれがたとえ話じゃなくガチになったりするのだからおっかなかった。

162 : ◆q7l9AKAoH. [ saga]:2015/01/28(水) 07:40:34.51 ID:h9xNdBB40

さすが夏休み。
やってきたゲームセンターはそこそこのにぎわいだった。
でも店内は騒がしいくらいで。
こういった店にありがちな工事現場クラスの騒音は響いていなかった。
この店では主な音源である「音ゲー」にはそれぞれ専用のヘッドフォンが用意されていて、音の問題だけではなく客同士のトラブルなんかも防いでいるらしい。

両手に荷物を持って店内を歩く少年におーい! と後ろから声がかけられた。
振り返ると、格闘ゲームコーナーのそばにいた大柄な男子が手をぶんぶん振りながら近寄ってきた。

「ああっ、やっぱりGセンセやないのちょっとぶりやねー」

野太い関西弁で話しかけてきたのはゴーグルの少年の知り合い、青髪ピアスだった。
親のセンスがひどいのではなくもちろんあだ名だ。
名前どころか、高校生という情報以外ろくに相手のことは知らないがそのへんはお互いさまだったりする。

「あ。青ピ君ちース。なあGはやめてって」

「ありゃ、略さない方が良かったん? 名無しの権兵衛センセ」

「……AAA(ノーネーム)ってつけたのは自分でもちょっとどうかと思うから。人の過去の心の傷をつつかないで欲しいっス。今は反省してるから」

ゴーグルの少年はゲームのプレイヤーカードにあえて「AAA」なんてベタな名前を登録していた。
事前にユーザー情報をいろいろ登録しておけるのに、ランキングにそんな単純な名前が並ぶことは少なかった。
逆に目立ったのかあちこちの上位にいる「ハイスコアの名無しさん」はちょっとしたネタにされていた。
そのおかげで青ピと知り合ってからも未だにそれをいじられていた。

「よお。最近俺のスコアも伸びてるんだぜい。この調子だと次はもらったにゃー」

「ええと、つっちー君だっけ。ちーっス」

青ピに遅れて寄ってきたのは青髪ピアスの友だち。
こいつも派手だった。
髪は金髪、何故か金のネックレス、そしてグラサン。
クラスメイトらしいのだが、なんだか怪しいバイトでもしていそうな雰囲気だった。
ゴーグルの少年も最初は見た目にちょっと驚いたが話してみると明るくて愉快な奴だった。

163 : ◆q7l9AKAoH. [ saga]:2015/01/28(水) 07:42:53.31 ID:h9xNdBB40

「そぉ言えばセンセは平気だったん? 休みに入ってすぐ『幻想御手』なんてあやしい開発ツールの健康被害が噂になったやんか」

「あー。俺は使わなかったけど、同じクラスでぶっ倒れたのいたってメール回ってた。退院してからそれ使っても、何にもならないって悔しがってたらしいってのもセットで」

「病院送りになったのにまた使おうとしたのか? そりゃまたなんでだにゃー」

「そいつ、それ使う前はレベル1の『透視能力』だったみたいでさ。あれって効果それなりにあったんスね」

「そりゃ……」

「にゃー……」

苦笑いをするゴーグルに無言で二人は頷いた。
何故そんな無茶をしたのか、なんて説明も言葉もいらない。
聞いていた二人はそんな様子だった。
もし自分がその学生だったらどうしたか、それも考えるまでもない。

限りなくそれがゼロでも諦めたりしない。
だって、それは。

男子の夢の一つだろう。

「ああああ! カミサマってざんこくやね! ボクだってレベルが上がればウフフなことに能力が使えるかもしれないやんかー!!」

「はははー俺らにはあんまり関係ない話だにゃー」

体をグネグネさせながらうなる青髪ピアスはものすごく悔しそうだった。
他の能力者とは違い、ちょっとしたプラスαで能力が上がるゴーグルの少年自身はあまり幻想御手に魅力は感じなかった。

「うーん。売値が二十万代の時に一つくらいうちで買っとけば良かったんスかね。今じゃあれは音楽ファイルだった、って以外の話聞かないしなー」

だが、物があったらリスクがあろうとなかろうと、どっかの学生の下っ端とかが実験台にされていたかもしれない。
入手しなくてよかったのか悪かったのか。ゴーグルの少年は今更すぎる考えに首を振った。

164 : ◆q7l9AKAoH. [ saga]:2015/01/28(水) 07:48:19.85 ID:h9xNdBB40

「さーて。またいつものいきますのん? 毎度勝ち逃げなんて許しまへんよーボク」

つっかまーえたー、なんてテノールで歌う青髪ピアスに肩をつかまれた。
更に反対側には金髪グラサンが寄ってきて。
暑苦しい感じに挟まれてしまったゴーグルの少年はふっと目をそらした。

「いや……今日はちょっと人と来てるんだ。ごめん」

「おやおや? そのビミョーに嫌そうな反応は、さては女子かにゃー」

「なにぃっ!? センセまさかいつの間に抜けがけを」

二人は勝手な想像で盛り上がっていたが。
他人に不用意に会わせたくない、と言う理由なら非実在のガールフレンド(仮)より暗部の上司の方がきっと上だ。

「いやいや男だって。先輩、みたいなさー。俺にもし女子の友達がいてもこんなとこには連れてきません。彼女はここだけど」

ゴーグルのウエストバッグにぶら下がったケースの中には携帯ゲーム機がのぞいていた。
ボディにはゲームのタイトルとキャラクタのシルエットが刻印されている。

「それ確か前に流行ってたやつだにゃー。なんていったっけ」

「『0−(ラブマイナス)』。好感度マイナスからはじまる超リアル恋愛シミュレーションってのが売りでさ。この間最新版が出たんだよ」

ゲーム機を嬉しそうに取り出したゴーグルの少年を囲む様にして二人は覗き込んできた。
揃って背の高い、なんとなく派手な野郎共に並ばれるとダサ男を自覚するゴーグルでは場所的にもきっとカツアゲ寸前のカモに見えるだろう。
実際はもてない男子がたまーに会えば駄弁ったりゲームする、そんな仲だ。

「センセこれクリア出来たん? 前のもそうやけど、ゲームなのに女子が冷たくない?」

「それがいいんじゃないスか。でも一周目は三年間まるまる意識外のモブで過ごして難易度がすげー上がって、BADエンドまっしぐらだった」

「うわー悲惨なやつやん。ちなみに誰が好みなん」


「俺はやっぱレンコちゃんスかねー。ちょい病み中二でツンて良くないスか」

「ボクはノノちゃんがえーなー。ロリ巨乳で後輩でドジっ子ついでにツインテやけどキャラ盛りすぎてないのが。でも、もなかちゃんもええよねえ」

「気の強い先輩キャラかと思ってると、見た目と違って天然お嬢様なんスよねえもなかちゃん。前作のスチルイベの下校のやつ」

「ケーキのやつな! あれはぐっときたわ」

「ただなあ。初期が黒髪ショートなのが惜しいんスよね」

いきなりマニアックなゲームの萌え語りを繰り広げる二人の横で、金髪が咳き込みはじめた。

「つっちーどしたん? なんやムセるとこあった?」

「いや。俺の知ってる最中ちゃんを思い出してちょっとにゃー」

165 : ◆q7l9AKAoH. [ saga]:2015/01/28(水) 07:58:54.06 ID:h9xNdBB40

なにやら肩を震わせていた金髪だったが、すぐ回復した。

「それにしても噂のトップランカー名無しさんが、がっつりオタだったとはびっくりだぜい。青ピと話が合うわけだにゃー。だが、こいつみたくヤバイことはあんまりしないほうがいいぜよ」

風紀委員のお世話になるぜい、とからかわれて。
ゴーグルの少年は静かに首を振った。

「逆っスから。オタクは三次元では無害でおとなしい種族だから。特に女子にはそうあるのが本来の生態なんで。青ピ君みたいな希少種と一緒にして欲しくないっスね」

「センセが冷たい! なんやもー、ボクらも信頼と実績の負け犬組仲間やない?」

「俺は非リアなんでそう言うのいーんス。二次ライフは充実してるんで」

仲間を増やそうと通行人を引きずり込もうとする妖怪かなにかの様にすがりつく青髪ピアスだったが。
ゴーグルの少年は淡々と相手をしていた。

「ほんっとに薄い女の子好きやね。ボクもそう言うん好きやけどそこまで愛は注げへんっちゅうかーやっぱリアルな子ときゃっきゃしてみたいやん。なー」

「いや、ほらタッチ出来るし。それとも俺たち三次元女子となら触れ合えるって言うんスか。あははは…そんな馬鹿な」

「はっはっは、現実は厳しいんやで。でもなセンセ、目を背けたらアカンのや! チャンスはあるっ!」

拳を握って熱く語る青髪ピアスは、そのチャンスを狙いすぎて年中風紀委員から職務質問を受けているらしいから何とも言えない。
ついでにまだ女子風紀委員とのフラグも立たないらしかった。

「でもなあギャルゲ最近やってなかったし、ボクも最新のやってみよーかなあ」

「たのしーっスよ。一家に一台一彼女。ほら」

「なんか色違いでもう一台出てきたんやけど?! どうなってるん、え。なにこれ青狸のポケットか何か?」

「限定版三人分揃えたから」

「レンタル彼女…ってなんかエッチやね」

「よーし。じゃあ俺はぬいぐるみを落とそうとしてる女子をキャッチ出来ないかあっちを見てくるぜい。今日はカミやんがいないから、フラグの回収日じゃない筈だ」

青ピが不思議そうにカバンの中をのぞきだした横で。
こう言うことには積極的らしい金髪グラサンはにゃーにゃー鳴きながら店内をうろつきはじめた。

166 : ◆q7l9AKAoH. [ saga]:2015/01/28(水) 08:02:07.33 ID:h9xNdBB40

「さっきから気になってたんやけど、その小銭そんなにどうしたん?」

「あー。先輩のなんだ。あっちのコーナーにあるレトロゲー、『外』のゲームって電子マネーとか使えないのばっかだから。両替してきたとこ」

メダル用のプラスチックトレーに硬貨を盛ったゴーグルの少年はそう言って苦笑いした。
あえて一昔前のゲームに挑戦している「先輩」は、やっぱり余分な小銭なんて持ち歩いていなかったらしい。

「はあー。なんかセンセがそう言うん意外やね」

「いや、あの人はさーなんかもうレベルってか生き物としても格が違い過ぎて。従うのがデフォってか、己の矮小さに自然とこっちの頭が下がっていくみたいなのがっスね」

「先輩さんどんだけー」

青ピは茶化したけど。
何しろ相手は超能力者。
能力者の格付け的な意味でも、自然界の弱肉強食的な意味でもピラミッドの頂点側に振り分けられるタイプだ。
下の方に位置するゴーグルの少年の態度も自然とそうなる。
そういう風に世の中出来ている。

「ありとあらゆる次元で半端ないよ。本当に」

「おい」

「はいッ?! あ、か」

突然肩にかかった重さにゴーグルの少年がびっくりして横を見ると、そこには肘がのっていた。
そのまま視線を段々上げていくと。
ゴーグルが向こうで待たせていたはずの垣根の顔がそこにあった。
そこで我にかえったゴーグルの少年が何も言えずに顔をひきつらせていると。
垣根はそのまま肩の上に腕を伸ばして、軽く叩いてきた。

「遅えよ」

言い終わった口元は上がっていた。
口調も表情も怒っていない様にみえるのがかえって恐ろしい。
わかってんだろうなテメェいい度胸だ、的な副音声がゴーグルの少年には聞こえてきそうだった。悪い方に考え過ぎかもしれないが無いとは言い切れない。

「えーっ! 先輩さん? イケメン! 俺らレベルじゃ100人集まっても勝てる気しまへんけどぉ」

「まあ実際やりあってもそうだろうな。それでも桁が足りないと思うぜ」

「あの……やってたのはどうしたんスか。終わったんスか? これ、足りました?」

ゴーグルは足元を見ながら手に持ったトレーを示した。
実際の何百倍もの重さが肩を中心に全身にかかったかのように、少年は身動きがとれなかった。
垣根の能力なら本当に出来そうだが、そんなことをされたらゴーグルなんてあっという間にぺしゃんこだろう。

167 : ◆q7l9AKAoH. [ saga]:2015/01/28(水) 08:06:57.32 ID:h9xNdBB40

「いいや。足りなかったからな、近くのヤツに借りた」

それにますます身をこわばらせるゴーグルの少年だったが特にお叱りは受けなかった。
ふーん、とつぶやくと垣根は青髪ピアスを物珍しそうに眺めていた。

「これか? 例のダチ」

「あー、えっと青髪ピアス、青ピ君っス。えーっと、こっちは……」

「こいつのセンパイさんです。どうも」

垣根のことを何と言えばいいのか、そもそも名前は教えていいんだろうか。
そんな風にゴーグルの少年がまごついている間に。
垣根はにっこり笑顔を浮かべると青ピに軽く頭を下げた。
明らかにどうみても純度100パーセントの作り笑顔だった。
青ピはめっちゃイケメンやん! などと騒いでいたが、ゴーグルは気が気ではなかった。
なんでのんきに立ち話をしていたのかちょっと前の自分を恨みたくなる、そんな気分だった。

「君は青ピ君と遊んでる? 俺ちょっと向こう見て回るけど」

「いえ、あの……ご一緒しますっス」

「じゃあセンセまたー、先輩さんもー」


垣根の後ろをおっかなびっくりついて行くゴーグルの少年と入れ替わるように、反対側の通路から金髪グラサンがもどってきた。

「いやあ最近の女子はガード固いぜい……ってそんなとこで凹んでどうしたんですたい」

ひとり残った青髪ピアスは店の壁にぐでーんともたれていた。
すっかりやる気や生気のぬけた顔をしていた。

「ははは……圧倒的な差ってのをガッツリ見せつけられた気分やでつっちー。高ランクのイケメンって……あれはもう人生勝ち組イージーモードですやん。逆立ちしたってもう無理無理無理無理」

「そう言う話ならまだ俺にだってチャンスはあるんだにゃー。メガネキャラには素顔公開と言う禁じ手があるんだぜい」

メガネもといグラサン装備な土御門が得意げに腕を組む。
あら不思議! 外した途端美形がコンニチハなんてベタな展開があるんだろうか。
ギラギラ光る青いサングラスは正直、イケメンがつけていても好みが分かれそうだった。

「ボクかてなぁ! 細目糸目は本気出したらイケメンっちゅうお約束があるんや!!」

「あ。あんなところを露出過多な金髪幼女が歩いてるにゃー」

「どこに?!」

「青ピ。瞼が開いてるようには見えないぜい」

「まだや、まだボクは本気出してへんだけですー!」

デルタフォースの一角を欠いた馬鹿コンビは寂しい掛け合い漫才をまだしばらく続けていそうだった。

168 : ◆q7l9AKAoH. [ saga]:2015/01/28(水) 08:09:55.26 ID:h9xNdBB40

「でもさっきやってたのは無事クリアできたんスよね。よかったっス」

「ああ。コツがわかればあんなもん。軽いぜ」

どうやら、ゲームが無事クリア出来たことで垣根の機嫌はそこそこいいらしい。
これでもしコンティニューに失敗したり、途中でうんざりして止められていたら今頃ゴーグルはどうなっていたかわからない。
そんな嫌な想像をついしてしまってから、ゴーグルの少年はほっと胸をなでおろした。
店の中をうろうろしているとクレーンゲームのコーナーにやってきた。
ぬいぐるみの横に怪しい能力開発キットとかまで並んで、ごちゃごちゃしていた。

「お前の能力ってこう言うの取り放題なんじゃねえの」

「いやあ最近のゲーセンは能力者対策してあるからダメっス。前にちょっとやってみたら警報なって係員に注意されました」

「俺がやっても感知されると思うか」

「多分AIM拡散力場の変化とかを検出する仕組みになってるから難しいと思いますよ」

「ふーん」

実際に垣根がそんなことをやるとは思えないが、本人はただ気になったから聞いてみただけらしい。
ゴーグルが箱入りのヒーローもののフィギュアをみていると、横からのぞいていた垣根が口を挟んだ。

「そっちのはうまくやっても5回はかかるぞ。それにこう言うのってアームの強さも変えてるんだろ」

「うーん。それでもとれるかもしれないって思うとつい連コインしちゃうんスよね」

「ああ。まんまと乗せられてるヤツがいるな」

垣根がそう言ってガラスをつついた先には。
景品同士の間に埋まりそうになっているぬいぐるみがあった。
中ではカエルのキャラクターが小さな山を作っていた。
このクレーンゲームで遊ぶやつはどうやらそのてっぺんにある、他より数倍おおきなサイズの一匹を狙うらしい。
あちこち動かしているうちに余計取りにくくなってしまったようだ。

169 : ◆q7l9AKAoH. [ saga]:2015/01/28(水) 08:11:41.55 ID:h9xNdBB40

「相当やってそうな割に思い切りが足りねえのかな。そうだな、まず取れる位置まで動かさねえとだろ」

緑色の目立つカエルの群れをしばらく眺めまわしてから。
垣根はクレーンを操作する。
上から隙間に押し込まれかけていたぬいぐるみを、周りの景品をずらすことで移動させた。
ゴーグルの少年あたりなら、硬貨を入れる前に店員を呼んで配置を直してもらう所だが垣根は呼びたくなかったのか。
それともそんなことをするなんて考えもしなかったのか。
横で立っているゴーグルのトレーに手を伸ばすと二枚、三枚と機械に次々硬貨を飲ませていた。

「で。胴をこうしてから、頭を狙う。うわーブッサイク」

容赦無く顔面を押しつぶされたカエルはかわいそうなことになっていた。
垣根は愉快そうに笑ったが小さい子がみていたら泣きそうだ。
そうやってアームで顔をぐにぐにされるうちに。
頭の重さにひっくり返る様にして一番大きなぬいぐるみが出口に向かって落ちた。

「ほら。落ちたろ」

「おおーっ! って、こいつ結構デカいっスね」

歓声を上げるとゴーグルの少年はしゃがんで景品を取り出そうと引っ張りはじめた。
取った本人の垣根はただそれを見ているだけだ。

二人がそんなことをしていると、ジャラジャラ音を立てながら女の子が走ってきた。
音源は彼女の持っているビニール袋だ。
少なく見ても福沢諭吉とチェンジしたくらいの量の小銭を握りしめているのは、グレーのスカートにブラウス、サマーセーター。
夏休みだと言うのに上から下まできっちり制服姿の女の子。
見た目は中学生くらい、ちょうど心理定規と同じくらいだった。


170 : ◆q7l9AKAoH. [ saga]:2015/01/28(水) 08:12:16.10 ID:h9xNdBB40

「あ。さっきの……ねえもしかしてっお兄さんもゲコラー?!」

ゲーム機の前まで走ってくるなり、女子学生はいきなり意味の分からないことを言い始めた。

「はあ? なんだって?」

不審そうな目をする垣根の前で彼女はコンコンとガラスを叩く。
その顔は得意げ、と言うかなぜか嬉しそうだ。

「ゲコ太よゲコ太。もしかして知らない? 知らない男の人でも……こういうの興味あったりするの?」

このキャラの名前はゲコ太と言うらしい。
見た目はヒゲを生やして服を着たカエルのおっさんだ。
中には服を着てないやつや、リボンか何かをつけているのもいるが。
もちろんそんなものを知らない垣根には個体差がピンとこない。
無言で視線を向けられたゴーグルの少年も首を横に振っていた。

「全然。っつうかさっきのガキじゃねえか。おいゴーグル、財布」

「あっいいのよあれくらい。ああいうのって、クリア直前でやめるの悔しいじゃない? はぁー、しっかしそれよく取れたわね。私もやってみたけど全然駄目だったわ」

ぱっと手を広げると女子学生は、財布もといゴーグルの少年を呼びつけようとした垣根を止めた。
何だかゲーセン慣れした少女は小銭を貸したことなんて気にもしていないらしい。
それよりも。
中身の減ったクレーンゲーム機を見て残念そうに肩をすくめていた。
背中の後ろに回した手の下でビニールにつまった小銭が小さく音を立てた。

171 : ◆q7l9AKAoH. [ saga]:2015/01/28(水) 08:13:20.01 ID:h9xNdBB40

「いや。別に欲しくて取った訳じゃねえし」

「そっ、そうなの? じゃあなんでやったのよ」

「強いて言やあ…ノリか? こんなのどこがいいんだか」

それを聞いて女子中学生は今度こそがっくりと肩を落とした。
膝から崩れおちてもおかしくなさそうなへこみっぷりだった。

「うっそぉ……油断してたわ。まさか他にもBIGゲコ太を取ろうって人がいるなんて全然思わなかったから、って言っててちょっと悲しいけど」

クレーンゲームコーナー内に用意されている「挑戦中」の札を横目にため息までついた。
隣で黙って様子を伺っていたゴーグルからカエルのぬいぐるみを受け取ると、垣根は眉を寄せた。
デフォルメされた両生類は確かに実物より愛らしい見た目だが、きゃあきゃあ騒がれそうな人気者には見えない。
おまけにデカい。

座らせてもタテ50センチはありそうなカエルはその名に恥じずBIGサイズだった。
しかし、それを見た女子学生は途端に落ち着きがなくなった。
おもちゃを目の前でゆらゆら〜っとされている猫みたいにそわそわしはじめた。
たいして可愛くもないカエルを見ては首を振り、また見ては頭を振っていた。
それをしばらく眺めると。
垣根はぬいぐるみの足を掴むと無造作に放り投げた。

「ゲコ太ーっ?!」

ものすごい勢いですっ飛んでいくぬいぐるみを追いかけて。
女子学生はスカートばきとは思えない、気合の入ったダッシュとスライディングを披露していた。
おかげで哀れなカエルは床に落ちる前に無事にキャッチされた。

172 : ◆q7l9AKAoH. [ saga]:2015/01/28(水) 08:16:44.97 ID:h9xNdBB40

「さっき借りたの、これでチャラな。こいつもちょっとつついたら落ちたしよ」

床に座り込んだままの女子学生の近くまで歩いてくると、垣根は空いた手をポケットに入れた。

「えっ、でも……あの、ううん。貰えないわよ」

「うるせえな。だから俺には必要ねえんだ。テメェもいらねえんならそれ捨てんぞ。バラしてドラム缶の餌にする」

「だっ、ダメよそんなの!! ゲコ太にそんなことさせないわ!」

清掃ロボに食わせるぞ、と垣根が脅すと女子学生はぬいぐるみをしっかり抱きしめて首を振った。



暫く中学生と話すと垣根はその場を離れた。
女の子がぬいぐるみを抱きかかえて出口に向かうと、ゴーグルが寄ってくる。

「あの子に借りたんスか? あれって常盤台の制服っスよね確か。垣根さん常盤台に知り合い居たんスか」

「あんなの知らねえよ。近くのメダルゲームんとこで見てたらしい。俺が金が終わって、カウント眺めてたらこれ使えって小銭放ってよこしたんだよ」

「結構ガサ……ワイルドなお嬢さまっスね。それでさっきの景品は?」

「何かごちゃごちゃ言い始めたから押しつけてきた」

「ありゃ。あげちゃったんスか」

残念そうにゴーグルは言ったが垣根はせいせいしたらしい。
どう見ても似合わないぬいぐるみは持って帰ってもその後困りそうだった。

「何となく取ったけど、あんなもんどうしろっつうんだよ。まぁ、丁度いい厄介ばらいが出来た。どっちもな」

「でもあの子よっぽど欲しかったんスかね。あのカエル。はあー、お嬢さまもゲーセンで遊ぶんスね……」

「けどよ、この手のゲームって自分で取るまでが楽しいんだろ。人に譲ってもらって、それで喜べんのか」

「それはそうっスけど。プライズって非売品も多いんで、ラスワンを何したって欲しいって奴はやっぱ嬉しいんじゃないスか」

そんなもんか、と首をかしげるとそのままコキコキと鳴らしながら垣根は歩きだした。

「ほら、次。どっかねえのか」

「ちょ、ちょっと待って下さいっス!」

ゲームセンターを満喫したのか飽きてしまったのか。
気まぐれな超能力者の暇つぶしはもう少し続きそうだった。

173 : ◆q7l9AKAoH. [ saga]:2015/01/28(水) 08:19:35.44 ID:h9xNdBB40
ドーモ。
お久しぶりです。
風斬の本体だけ取り損ねて残った専ゲコの山にうちひしがれていたら年を越してた。かなしい

頂点で垣根のイベントやってるね!おめでとう我らが第二位。お祝儀に5万ほど包みましたがSレア上条さん数人と勝利宣言しか出ませんでしたのことよ。ステップ後は同じ確率ならSSRがよかったんだけどこれも不幸か当然か

遅くなったけど今年もよろしくドーゾ
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/01/28(水) 08:26:24.11 ID:N/PFKzJK0
よろしく、乙
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