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垣根帝督「はぁ? 俺はオタクじゃねえぞ」

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1 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/06(水) 22:36:04.32 ID:7HyDx93o0
ゆるいかんじの『スクール』のSSっつうかだべってるだけみたいな

主な仕様
◎更新不定期
◎時間軸は原作十五巻より前
◎土星わっかゴーグル君は「ゴーグル」呼称。テキトーなキャラ付けと出すかわからん能力の設定も一応済み。ベタっぽい念動系

馴れ合い、あと垣根が原作よりデレるかもしれないから嫌な人は注意
『スクール』周辺は情報少なすぎだからほぼ妄想



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1407332154
2 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/06(水) 22:37:10.63 ID:7HyDx93o0
「なぁ。これどうすんだっけ」
とあるマンションの一室。
カウチに寝転がったままの少年が誰にともなく呟いた。
呑気にスマートフォンをいじるのは学園都市の生んだ最高位の能力者、超能力者第二位垣根帝督。
その声に振り返ったのは、ちらかった机の前でパソコンのキーを叩いていた少年だった。
少年がカウチの前まで部屋をつっきってくると、ぽいっとスマートフォンが放られた。
それを受け取って画面を覗くと少年は首を傾げた。
「なんスか……って、この前『スクール』でリスト作ったSNSアプリじゃないっスか。あれ、垣根さん公開アカにしちゃったんですか?」
『スクール』。毒をもって毒を制する学園都市の自浄装置、暗部組織の一つで垣根がリーダーを務めている。
この少年は、その内でも数少ない正規構成員の一人だった。
能力使用時に腰に下げた装置と頭部を繋いだゴーグルを使うために組織内では「ゴーグル」なんてそのまんまなあだ名で呼ばれている。
本人は、
「どうせならもっとカッコイイので呼んでくださいっス!」と憤慨し、愛用するハンドルネームをメンバーに教えてまわったのだが努力むなしくちっとも浸透していない。

3 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/06(水) 22:39:37.07 ID:7HyDx93o0
ゴーグルにうなずくと垣根はだるそうに足を組んだ。
足元は革靴のままアームレストの上に掛けてしまう。
「別に連絡受けるだけの仕事用の番号だし気にして無かったんだけどさ。何かやたらとフレンド申請が来てんだけど。なんで?」
「なんでそんな動きのないアカに申請が……えーと『どこ鯖ですかコードxxxx-xxxx-……』『高レベ友求』『上位レアトレードリストあります』……あー、垣根さん。もしかして……自分の名前そのまま入れちゃいました?」
「うん」
一覧に表示されたメッセージをざっと見ると。
少年はしばらく考えてから垣根にそんなことを聞いた。
そして何だか気まずそうに頭を掻いた。
「多分……うーん、相手の勘違いっスね。うわ、知らないって怖いわー。垣根さんっスよ? こんなこと言えないって」
「あとな、なんかムカつくのがいる」
一人勝手に納得している様なゴーグルを手招くと垣根はスマホを操作してみせた。
「どいつっスか『かっけえ誤字m9(^Д^)www』うわー!」
「何なんだこれ」
4 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/06(水) 22:41:39.60 ID:7HyDx93o0
顔文字つきのメッセージを読むなりおかしな声をあげるゴーグルの少年。
意味がわからないらしく心底不思議そうな顔をする垣根に。
少年は少し悩んでから息を吐いた。
そして何故か真剣なおももちで切り出した。
「……垣根さんこれは俺の想像なんスけど。どうか怒らずに聞いてもらえますか」
「中身によるな」
「『艦隊っち』ってゲーム知ってますか」
「いや」
「戦艦がモデルになったキャラクターを育てて戦わせるオンラインゲームがあって、『艦っち』なんて呼ばれて今人気なんスよ。多分、そのユーザー間のフレンド募集してる連中に絡まれてます。このSNS名前やキーワード検索も出来るんで」
「俺そんなの知りもしねえけど。なんの関係があんだっつうの」
そこまで説明してからゴーグルはもう一度。
念をおす様に垣根の顔を見つめた。
「えっと……怒らずに聞いてもらえますか?」
「おう。言えよ」
ポーン
そこでスマホが鳴る。
軽い通知音のあとにメッセージバルーンが表示された。
それをみた垣根はほんのちょっと眉を寄せた。
5 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/06(水) 22:44:26.81 ID:7HyDx93o0
「ん? さっきの奴か」
『ねえねえ間違っちゃってるけどどんな気分?』
「意味わかんねえ」
怒っている、と言うよりも呆れた顔で首を鳴らした。
たとえ外国語にも堪能な超能力者だって、外宇宙語で話しかけられてはリアクションに困る。
「あの」
「ああ。さっさと言わねえと俺の気が変わっちまうかもな」
垣根の物騒な言葉を聞いたゴーグルの少年は意を決した様に首をタテに激しく振った。
「そのゲームって、ユーザーが戦艦の上官って設定なんスよ。つまり海軍の司令官っス。だからゲーム内外でもHN提督って呼ばれたりするのが多くて……その、垣根さんの、名前があのー……多分他のやつもそれで勘違いしてるん、だ…と……思います。つうかそれくらいしか考えつきません」
「ふーん」
ごにょごにょとフェードアウトしながら自分の想像でこのできごとの背景を推理するゴーグルの少年に、垣根はつまらなそうに頷いた。
半目で小さな液晶画面を眺めるその顔から今何を考えてるかさっぱりわからない。

6 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/06(水) 22:45:19.12 ID:7HyDx93o0
『スクール』の連中がそこそこの付き合いがあっても、このリーダーのことは読み切れない。例え人間の心理に精通した能力者がいても。
超能力者の思考回路は常人のそれとは違うのだ。
何を考えているのかわからない真っ黒な目のまま、ぷちっと突然切れられるのが何よりおっかない。
特にこの第二位は能力の見た目も派手だがやることも派手だ。
ちょっとしたストレスのはけ口にされて破壊されたものは数知れず、以前アジトにしていた所だって垣根が派手に吹っ飛ばしてしまってやむなく引っ越すことになった。
ちなみに判明しているうちで、最も踏んではいけない地雷が彼の能力『未元物質』にまつわる事だったりする。
「この世界には存在しない物質を生み出し操る能力」なんて、炎や電撃を出したりと言う一般的なものよりスケールの大きな力だが。
何故か能力を使うと背中に羽根が出てくる。天使の様な、と言う言葉がピッタリのメルヘンチックなやつが。
それも六枚も。
天が与えた罰ゲームかそれとも何かの代償なのかは不明らしいが。
どんなに愉快でもそこに触れてはいけない、と言うのが組織内の暗黙の了解になっていた。

7 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/06(水) 22:48:46.44 ID:7HyDx93o0
『人が教えてやったんだからありがたく直したらw恥さらし君』
地雷原を爪先立ちでそろそろ歩いているゴーグルの少年の目の前に、燃料がポイっと投下される。これをよけたところで、別の場所がドカンといくかもしれない。
泣きたい、と言うか逃げ出したい。いいよなあネット上でどれだけ煽ってもおまえには実害ないもんね?! と顔も名前もわからないユーザーに八つ当たりしたいくらいの気分だった。
「決して! 俺は馬鹿にしてる訳じゃねえっス!!」
「つまり俺の名前がお船の提督で、おかげでお前の同類とお友達だと思われてるってことか?」
一体どこが気に障ったのか。
にやあ、と口元をつりあげた垣根の手の中でスマートフォンが嫌な音を立てはじめた。
大慌てでゴーグルは垣根をなだめた。
「垣根さん! スマホが! 画面割れます!!」
「間違ってねえよ本名だよ。一発じゃちゃんと変換できねえし検索もされねえけどな。そんなの俺の責任じゃねえよ。何なんだこいつ」
「暇なんスよきっと」
持ち主の手から避難させたスマートフォンの無事を確かめながらゴーグルの少年は見知らぬだれかさんを憐れむ様に言った。
8 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/06(水) 22:52:19.43 ID:7HyDx93o0
ポン
ポン
ポーン
ものの数分で再びメッセージが届く。
意味のないやりとりの為に貼りついているなんて、この相手はゴーグルの言葉通りよっぽど暇なのだろう。
『既読蹴んなしwあ、ひらがなじゃないとわからないかなwwwwwww』
「垣根さん、相手にしない方がいいっスよ」
「そこまでレベル低くねえよ」
ゴーグルの少年に釘をさされた垣根は手にした雑誌に目を向けたまま答えた。
心外だ、と言いたげな様子ではもう腹を立てていないらしい。
垣根の許可を得てSNS内の他のメッセージや設定のチェックをしていたゴーグルは用の済んだスマートフォンを返した。
「でも公開解除もこいつの拒否もしないんスか」
「こっちが折れたら負けた気がすんだろ」
気にしていないのかと思いきや、そんなことはないらしい。
9 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/06(水) 22:54:27.77 ID:7HyDx93o0
「あれ。しつこくメッセ飛ばしてた奴来なくなりましたね」
それから小一時間近く、数分間隔で挑発的なメッセージと画像の嵐だったのだが。
気付けばぴたりと止んでいた。
「ああ。『スクール』の下の奴に声かけて、軽く灸すえさせといた」
「どんなのっスか」
垣根も、つっかかってきた相手をただ放置していたわけではないらしい。
ちょっとそわそわしながらゴーグルは椅子に座り直して話を聞く。
「電話番号から契約してる端末の名義、そっから『書庫』で所属校割り出して、組織下の奴に学校内のデータをハックさせた」
「それで」
「そいつのこの前の定期考査と『身体測定』の結果を送ってやった。『暇があるなら勉強でもしたら』っつって」
「うわあ。特定怖っ」
口ではそう言いながら、愉快そうにゴーグルの少年は笑った。
せいせいした様子の垣根は指定リスト内の受信メッセージに目を通しながら笑い返した。
「お。何かついでにそいつのプロフや背景の画像がテストの答案になるようにオマケしたらしいぞ。それもひっでえ奴。あいつらも暇だな」
「うっわあ。でも大人気ないってか意外と地味なお返しっスね」
10 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/06(水) 22:56:41.60 ID:7HyDx93o0
「けどそいつのゲームのデータをサーバーから消す、とかまでいくとやりすぎだろ。出来なくねえけど。馬鹿にされたくらいでんなことまでする気はねえよ」
実際にはさせる、と言う方が言葉としてはきっと正しい。
垣根帝督の行動範囲と実行可能な内容は一般的な個人のそれよりはるかに広い。
使える能力、金、人脈。そして選択肢の中には非人道的で反社会的なものも含まれている。
ほんの思い付きで社会的どころか実際に相手を消せる程度には。
そう考えると今回垣根がしたのは他に比べて優しいくらいの対処だった。
その気になればちょっとした警告以上のことが出来てしまうところまで相手に伝わっているのかわからないが。
相手もほんのちょっとのストレス解消のつもりで、言ってみればベルト持ちのプロボクサーをサンドバッグがわりにしようとしたのだ。
これくらいで済んでラッキーだとゴーグルは言ってやりたかった。
しかし。
「それはちょっと俺、垣根さんの味方出来ないっスわ」
「そう言うシャキっとした面は仕事中にしろよ」
ゲーム好きと公言するゴーグルの少年はデータ削除と言う死刑宣告並みの提案に至極真剣な目をしていた。
「あーあ。つっまんねえの。なんかオススメのアプリとかねえの。レベル上げとかめんどくせえのはパスな」
「あっ! それならこのパズルゲーなんてどうスか?」
11 : ◆q7l9AKAoH. [saga sage]:2014/08/06(水) 23:00:22.54 ID:7HyDx93o0
実際艦○れのフレンド機能にユーザー間補助とかそんなのないらしいけど
艦っちはパ○ドラとかパズ○ックスみたいなありがちアプリやよくあるカードゲームモドキを足したもんだと補完してっス


垣根提督「艦むす……?」

東京湾で迷子になったバレーボールさんがなぜか艦隊娘の残留思念てきなデータを読み取ってそこから未元物質で艦むすをつくるよ!
ってネタがさいしょうかんだんだけど
艦むすやったことなくてわかんねえのと資材も補給も整備もなにも
未元物質じゃあ無限供給っぽいからチートハーレム以外の遊びようがなさすぎて没
だれかやって

なんかかけたらまたくる
読みづらかったら言って
ドーモ
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/08/07(木) 00:21:17.65 ID:sl3W/ZmYO
読みづらい
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/08/07(木) 00:39:23.72 ID:2bgx2d2QO
何か最近改行しない奴多いな
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/08/07(木) 02:09:46.19 ID:gfeEGcyNo
改行じゃなくて「行間空けてくれ」って言いたいのか?

俺の環境だと改行はされてる文章に見えるんだけど
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/08/11(月) 08:59:28.77 ID:Z/9c5ty6O
行間だろうね。
文句言う割には日本語自分も正しくないというね笑
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/08/16(土) 19:44:31.27 ID:YxouwVSUo
乙。面白いです。

今はラノベの行間すごい空いてますからねー
慣れてないとこういう詰まった文章読むのは辛いのでしょうか?
すぐ慣れると思いますがー
17 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/22(金) 23:23:34.03 ID:HnNFepJv0

「ちース、今日は間にあいましたよ!」

そう言って部屋に入るゴーグルの少年だったが、彼は室内を見回して首を傾げた。
リビングルームのソファには心理定規だけが座っていた。
肝心のリーダーの姿がない。
連絡があるといつも一番乗りってくらいに待ち構えているのにだ。

「あれ? 招集かかったんじゃないんスか? 時間そろそろっスよね。垣根さんは?」

「あっち。服が決まらないんですって」

心理定規が指差した先、ドアの前には紙袋や箱が乱雑に置かれていた。
見た所買い物帰りと言った感じだった。
それにしても量がやけに多い。

「てっきり君も荷物持ちに付き合ってたのかと思った。違ったの」

心理定規の言葉にゴーグルの少年は首を振る。
今日は用事があって学校に顔を出していた。
彼も一応、真面目に学生生活は送っているつもりだった。
授業中にアプリのイベントに精を出して、休み時間に友達とノートを回しあうくらいの一般的な学生レベルで。

18 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/22(金) 23:25:08.73 ID:HnNFepJv0
「そんなにデカい用事だったんスか?」

聞けば、垣根は昼ごろにいつも使っている運転手を呼びつけて買い物に出かけていたらしい。
心理定規もその場にはいなかったらしいが、リーダーはどっかのファッションショーにでも出るのかとドライバーがこっそり口にしていたのを聞いたんだそうだ。

「いつものじゃダメなんスかね。それにあれは『スクール』での仕事着みたいなもんだって前に垣根さん、自分で言ってませんでした?」

「そう言えばこの前かな。よく行くお店で顔が覚えられたかもしれないってぼやいてたけど」

超能力者なんてネームバリューを考えたらそんなもの、とっくに学園都市じゅうに知れ渡っていてもおかしくないが。
実際は。
超能力者であっても、通称である能力名や本人のフルネーム以外は広く知られていなかったりする。
七名の超能力者のうち、一人は名前どころかどんな能力かさえ。影も形も定かではないくらいだ。

19 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/22(金) 23:27:19.15 ID:HnNFepJv0

『未元物質』垣根帝督もその例にもれないらしい。
今は一応暗部組織にいるのだからあまり有名過ぎても困るのかもしれない。
本人もこだわりがあるのかたまに人目を気にする様な素振りを見せていた。
もしかしたら。
能力を使えば嫌でも目立ってしまうのを実は気にしているのかもしれない。
かと言って急なイメチェンに走るのはゴーグルの少年にはよくわからなかった。
例えば有名校の制服や、目立ち過ぎる特徴で相手に正体を悟られてしまう、なんてことは垣根の場合あまり心配ないように思う。
いい意味で人目を引くことがあっても。

20 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/22(金) 23:34:08.44 ID:HnNFepJv0

「それ服関係あります? つか心理定規は着替えなくていいんスか」

「私? 私仕事中はこれでいいのよ」

「暗部っぽいって言うか、なんか危ない仕事みたいっスよね」

この時期はどこに行っても冷房が効いているからだろうか。
今日はきれいな色のストールを持っていたけど、心理定規の格好はいつも肩が寒そうなドレスばかりだった。
高級クラブでも似合いそうな格好をした見た目推定中学生、と言うのもなかなか怪しい。

「なあに?」

「いや! 大人っぽくてカワイーっスね!」

じっと見ていたゴーグルを心理定規は見つめ返した。
小首を傾げて上目づかいのサービスつき。
美少女にそんなことされたらテンションが上がりそうだけど、ゴーグルはさっと顔の横で両手を振ってついでに首も振る。
リーダーの次くらいに一癖あって食えないのがこの少女なのは『スクール』ならみんなが知っていた。

「はいはい。ちょっと彼の様子見てきてもらっていいかな? そろそろ電話かかってきちゃうかも」

そう言って。
長い爪を気にしながら心理定規はスマートフォンをいじりはじめた。

21 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/22(金) 23:36:24.28 ID:HnNFepJv0

「垣根さん? 俺っス、いいっスか」

「ああ。入れ」

ノックをして、頭を下げつつ部屋に入ったゴーグルは中の様子に眉を寄せた。
リビングルームのすぐ隣の洋室はついこの前までさっぱりしていたのに。
今はどこかの服屋のバックヤードみたいな状態だった。
店ならもう少し片付いているかもしれない。

紙袋、緩衝材にビニール、空き箱も中身の服や小物も乱雑に置かれていた。
有名な服飾ブランドから、『外』の格安メーカー、中には聞いたことのないような店のものまで。
靴だけで少なくとも五つのブランドの箱が積まれていた。
ごちゃごちゃになったその中で垣根は難しい顔をして立っていた。

「聞きましたよ。垣根さんみたいなタイプが表出て人目につかないってのは難しいと思うんスけど」

「だからこうやって色々考えてんだよ。たまには気分転換してえし。けどあれこれ見すぎたな。よくわかんなくなってきやがった」

垣根の着ているものはいつもと同じ。
上着だけ近くのラックに掛けてあった。
着替えようにも何にするかまだ悩んでいるらしい。

22 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/22(金) 23:39:37.96 ID:HnNFepJv0

「ほら、これどう思う」

垣根が近くにあった服を手に取ると、空中から真っ白なものが伸びてきてその内側に入っていった。
等身大のヒト型の風船をふくらめたみたいにあっと言う間にアイテム一式を身に着けた即席のマネキンが現れた。

「そのシャツに眼鏡は呑みサーの大学生みたいっスよ」

「こっちは」

「チャラい医学生みたいっス」

「これは」

「うーん、中堅ホスト。そのグラサンはすげーイケてるんスけど全体的にNo堅気なタダナラヌ危なさがにじみ出ちゃってます」

「お前なあ、褒めてんのかバカにしてんのか。どっちだよ」

次々と部屋の中に現れるオシャレなのっぺらぼうを前にゴーグルがそんな感想を言うと。
おかしそうに垣根は笑った。

「服は変じゃ無いんスよ。うーん、俺にもよくわかんねえっス」

シャツにジーンズでいいや、と言う一般的な男子学生の感覚と比べると垣根は敷居のちょっと高そうなものばかり好んで買っているみたいだった。
だからゴーグルもセンスの良し悪しではなく、パッと見の雰囲気でコメントを返していた。

23 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/22(金) 23:45:37.45 ID:HnNFepJv0

と言うか見せる服見せる服全てアイテムが被っていない。
このリーダーの頭の中には着回し、と言う言葉がないのだろうか。
これ全部買ったんだよな、着るかどうかわからないのに? とゴーグルは段々違う所が気になりはじめていた。

「じゃあこう言うのは」

中身があるのかないのかわからない言葉がプリントされた英字ロゴのTシャツ、ベストと下は黒のデニム。
さっきまでのよりは印象はぐっとラフになったが垣根は今ひとつ納得していない顔だった。

「垣根さん地がいいんスから何着てもカッコいいっスよ」

「そうか?」

「背高いしイケメンだし。あ……っと、垣根さんはモデルみたいじゃないっスかーオーラもバリバリだしー俺みたいなその他大勢顔からしたら超うらやましいっスーあれこれ気にする必要ないっスよーーー」

実はさっきからポケットの中の携帯電話が震え続けている。
心理定規だといいな、と思いながらゴーグルは垣根にあいまいな笑顔を向けた。

「そっか」

垣根はなぜか満足そうにうなづくと、別の包みを開けはじめた。
予想外の好感触に、ゴーグルの少年は視界の下で何かのパラメータが上がったことを知らせるアイコンが見えた気がした。

24 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/22(金) 23:52:33.78 ID:HnNFepJv0

「君ねえ。彼に何言ったの」

「……普通のことです。間違ったことはなにも言ってません」

「何でよりによってあんな……派手好きなパンクスみたいなのになっちゃったの? 全然キャラ違うじゃない。なあにあの髪型」

「逆に目を背けられそうなのにしてみたんだそうでございます。わたくしは一切関与しておりません。俺はノータッチっス!!」

二人がリビングに戻るなり。
険しい顔でゴーグルに寄ってきた心理定規がこっそり指差した先には、普段以上に跳ねた毛束を遊ばせる垣根の頭があった。
ついさっき、着替え終えた垣根が軽く髪に手櫛を入れるとあっという間にスタイリングが決まっていた。
それも『未元物質』効果だろうか。だとしたら万能すぎるとゴーグルはちょっと感動したが。
垣根が唐突に鼻歌を歌いはじめたのでゴーグルがそれを聞くチャンスはなかったのだ。
もちろん、ふっきれるどころか軽くはっちゃけてしまったらしいリーダーにスタッズだらけの派手なジャケットの趣味について意見する度胸なんて最初っからない。
んなもんあるわけない。

25 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/22(金) 23:54:44.66 ID:HnNFepJv0

あれはゴーグルの内部パラメータの変動じゃなかったのかもしれない。
かと言って垣根の方、とは言っても好感度上昇ではなく、なにかのフラグでもなく。
もしかしたらバッドステータスかもしれない。
馬鹿なことを考えながらゴーグルが垣根の頭上に目をこらしても、もちろんアイコンとかマークとかそんな愉快なものは見えない。

「一応聞くけどね。彼の暴走防止もかねて君にお願いしたのはわかってるかな?」

「心理定規……人間、わかっててもできないことってあるんスよ。垣根さんが『心配するな、自覚はある。一回こう言うカッコしてみたかったんだよ』って言うんスよ? そこに俺がストップなんてかけられると思ってるんスか」

ゴーグルは胸をはる。
長いものには巻かれて、危ない橋は叩きもしない。
まして触らぬ垣根に祟りなし、だ。
要領よくやっていかないとこの学園都市では生き残れない。ちょっとオーバーだが。
とりあえず、ゴーグルの少年の中ではこの組織内で下げる選択肢は存在しない。
上げて、上げて持ち上げていくポジションを確立している。

「だからって……あなたたち自由すぎ。男の子ってわかんない」

使えないと心理定規の冷ややかな視線が語っていた。

26 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/22(金) 23:59:31.51 ID:HnNFepJv0

「俺はあれはあれでカッコいいと思うんスけど。フェスとかライブとかそう言うイベントなら」

ちょっとその辺に遊びにいこうぜ、と誘われたらゴーグルもお断りするかもしれない。
似合っているのが幸いと言うか不幸と言うか。
街中であれはとっても残念な人にみえそうだった。
中身が。

「さっきマシンガン持ってかないのかって聞かれたんだけど。どうせあんなの使わないだろうし、私邪魔なのは好きじゃないんだけどな」

壁際に置かれた鏡台とスチールラックを睨んで心理定規は頬を膨らめた。
彼女のスペースには、女の子らしいコスメやジュエリーに混じって物騒な小火器が置かれている。

もし戦闘になっても心理定規の能力は対人なら敵は居なくなる。
自分を、相手が傷つけられないような心の近い距離に置いてしまえばいい。
やりようによってはその場で人の盾も手に入るだろう。
しかし、自分からの攻撃手段は無く、乱戦にはあまり意味がないので彼女は暗部の仕事となると武器を持ち歩いているようだった。

「ギターケースに入れっぱなしのあれっスか。いいんじゃないスか? 今なら多分荷物持ってくれますよ。そうだなあ……バンドやるなら垣根さんはボーカルとかギターみたく派手なのっスかね。心理定規はキーボードか、歌えるならボーカルもいいかも。俺はベースかなあ。そうするとやっぱりもう一人、ドラムも欲しいっスよね。あはは、んなこと言って俺楽器弾けませんけどねー」

「おばかな妄想はいいから」

現実逃避しかけたゴーグルに釘を刺すと心理定規は呆れたように首を振る。

27 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/23(土) 00:05:00.64 ID:t+qvKS460

「で、これからどこ行くんでしたっけ」

「資料のファイル開かなかったの? 第十六学区にある施設よ。ちょっとした……マナー違反が出たみたい」

第十六学区は学園都市でも優れた商業区画だ。
高額なバイトや特別待遇だけでなく、学生の奨学制度や学区内独自の制度も多い。
人も金も多く集まり流れていく地域だ。

中にはもちろん『特別』なバイトもあるのでトラブルには事欠かない場所でもあった。
『スクール』でも前に「お掃除」や「お片付け」をしたことがある。
慈善事業じゃねえんだけど、とリーダーはつまらなそうにぼやいていた。

「あー……そこだったら呑みサーの学生風でバッチリだったんスね。そう言う連中も多いし目立たなかったかも。今はどこ行っても悪目立ちしそうっスよね」

最初のでGOサインを出しておけば話は早く済んだのか、と今更になって気付き。
ゴーグルは肩を落とした。
なんか余計に疲れた気がしていた。
そんなゴーグルの気持ちは、まあわかってるんだろうけど。
垣根をまじまじとみていた心理定規はお構いなしに次の難題をふっかけた。
28 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/23(土) 00:10:27.27 ID:t+qvKS460

「やっぱり着替え直すよう言ってよ。大急ぎね」

ちょっと嫌そうに心理定規は目を伏せた。
でもまあ正直なところ、ゴーグルの少年からみたら垣根も心理定規も派手さなら同列だった。
二人の方向性がちょっと違うだけだ。
ごくごく一般的で地味な服装のゴーグルのほうがたまに浮いているような気がしてしまう。

「ええっ、垣根さん今すげー機嫌いいじゃないスか! それも珍しく! 嫌っスよ。そう言うのって女の子が言った方が効果ありそうだし、心理定規はその辺専門じゃないスか。うまい感じに誘導して下さいって」


そんな気持ちは今は伏せて、情けなく抗議するゴーグルの少年に心理定規は静かに首を振った。
何を言ってるのかしら、なんて心の声が聞こえてきそうなかんじだった。

「効果的だからいやなのよ。私、仕事前に彼の不興なんて買いたくないの。余計な事したくないでしょ」

お馬鹿さん、もおまけについてきそうだった。

「何してんだお前ら。行くんじゃねえの」

ひそひそと二人で話し込んでいる内に、今のいままで人を待たせていたとは思えない態度のリーダーからお声がかかってしまった。

「ほら、まだ間に合うわ。がんばって。ね?」

「ええー!」

いつになく上機嫌な垣根と、口元だけで笑う心理定規に挟まれて。
ゴーグルの少年は自らの不幸さを嘆くしかなかった。

29 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/08/23(土) 00:20:07.43 ID:t+qvKS460

超能力者の自分だけの現実、特にセンスは未知数だぜ
麦野はあの中でも趣味良さそうだよね
下着透けちゃうストッキングはいちゃうけど

ドーモ
スマホでみるとけっこうつまってんね
中身つまらんけどつまってる
せりふまわりの行間いじってみた
ちったあマシかな
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage]:2014/08/24(日) 15:07:53.36 ID:nfKZswzH0

面白いぞ
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) :2014/08/24(日) 19:47:50.53 ID:TK2r7YrF0
マミ「100円ローソンが来週で閉店なんて・・・ショックだわ。」

まどマギの巴マミの日常の物語です。
この物語は見滝原100円ローソンと巴マミのエピソードである。
キャラ設定の崩壊があるかもしれないですが
ご了承下さいまし。

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1408390558/
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2014/08/25(月) 13:59:04.77 ID:8ql7nLHv0

なんかいい感じ、面白い
垣根提督のくだりに凄い納得して笑ってしまった

実際の小説とかだとフリガナが入る分の空きがあったりするが
こういう場だと完全に行間が詰まってるからなぁ
個々人の環境設定次第にもよりはするんだろうけども
33 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/13(土) 01:35:21.61 ID:nVAsCJCm0

「ああっ、ダメっスよそこは」

「ばーか違うだろ。もうちょい下だ」

「右っス右!」

「と、思わせて実は反対側が安全だったりしてな」

「あなた達うるさいわよ。これで……どうかなっ?」

「あーっ!! マジっスかー!!」

「よし。次お前だな」



とあるファミレスの一角。
小さい子供むけのおもちゃを囲んで騒ぐ一団がいた。
夕方、混み合う店内の騒がしさの中でもひときわ目立ちそうな大きな声を上げて少年がテーブルにつっぷした。
目の前におかれた『黒ひげ危機一髪』のプラスティック製の剣をつまむとテーブルをつつきはじめた。


「どうしよう……残り六本っスよ」

34 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/13(土) 01:39:01.61 ID:nVAsCJCm0

任務帰りの『スクール』はご機嫌なゲームの真っ最中だった。
ルールは簡単、負けた奴が他のメンバーの食事をおごる。
それだけ。
ただし、外の車内で待つ構成員のテイクアウト分も含まれるので一般的な学生の財布基準でみると痛い出費になりそうだった。

「心理定規、お前ほんとにあれだけでいいのか。飯食わないと逆に太るらしいぞ」

「あなたが頼みすぎなのよ」

「そっか? 和風御膳とポテトとフライ盛り合わせだろ、やっぱピザも食おっかな」

「……好きにすればいいと思うよ。メインのおかずにから揚げがあるのに揚げ物追加するのはちょっとついてけない」

呆れた様な目をする心理定規の向かいの席。
いつもの服装とは違いややハードな格好の垣根はまだメニューを眺めていた。
出かける直前の懸命なゴーグルの訴えが効いて、パンクロッカーみたいに派手なジャケットが今回陽の目をみることはなかったものの。
音楽の道を踏み外して夜の街に片足突っ込んだ若者の様な格好に余り違いはなかった。

「やっぱり! 俺が飛ばす流れっスよねこれ?」

派手なカップルとうっかり相席してしまった学生、みたいに見えるゴーグルの少年が座るのは当然の様に通路側だった。

35 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/13(土) 01:42:04.12 ID:nVAsCJCm0

「すいません。季節のフルーツのパンケーキ二つ追加」

「垣根さん?! まだ俺やってないのに注文足さないでくださいっス! しかも二個も」

どこに剣を刺すか悩んでいるゴーグルを無視して呼び出し用のボタンを押すと、垣根はデザートまでオーダーした。
店員に似合わない愛想笑いを返した垣根は途端にしれっとした顔で前の席を指差した。

「一個はこいつのだぞ」

「何で勝手に頼んじゃうの。食べるなんて言ってないよ」

一瞬目を丸くした心理定規は細い眉を寄せて抗議する。
テーブルに乗せられていた限定メニューのカードを端に寄せると、垣根は首を振った。

「お前こればっか見てたろ。いいから我慢とかしないで食っちまえ。俺が食ってる間、ぶすっとした面が目の前にあんのは気分が悪いだろ」

「心理定規? 嫌なら俺、食べるっスよ」

「いい。二人にそんないじわるされたら我慢できそうにないし」

こうなったら食べちゃうんだから、と心理定規は頬を膨らめた。

36 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/13(土) 01:45:26.97 ID:nVAsCJCm0

「まさかこんなおもちゃで遊ぶことになるとは思わなかったなあ」

「カードもコインもダメってなると勝負の方法は限られるけど。俺こんなん初めて触るぞ」

「んなこと言ってもっスねえ、心理戦で二人に勝てた試しがないんで。やる前から結果見えてんのはフェアじゃねえっス」

赤と白。
それぞれ小さな剣を手の中で遊ばせる二人が呆れたように笑う。
店内で売られていたおもちゃに目をつけ、これを持ってきたのもゴーグルの少年だった。

「あら。あなたたちだってサイコロやコインの出方を確率以外のやり方で決められるじゃない。でもじゃんけんもダメなの?」

「そりゃ心理定規がいるんスから。俺が何を出すかこっそり誘導してるに決まってるっス。出なきゃ仕草や会話から読み取るんスよお」

情けない声を上げるとゴーグルの少年は目の前のおもちゃをぐるぐる回し始めた。
外からみたところでたった一つのハズレがどれかはわからないだろうに。
よっぽど負けたくないのか、くだらないことに大真面目になるゴーグル。
それを見ていた心理定規は自分の頬に手を当てると大袈裟にリアクションした。

「嫌だな。もしそうなっても、そんな無駄な事しないよ?」

「思い切り損得絡んでるけどな」

37 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/13(土) 01:47:58.51 ID:nVAsCJCm0

「それよりほら。料理来る前にハッキリさせちゃわない?」

いつまでも自分のターンのまま、ゲームの進行を止めているゴーグルを見かねたのか。
心理定規がそう促した。

「ううう……」

散々悩んで渋っていたゴーグルも観念したように顔を上げた。
神様仏様二次元の女神様! と唱えるとゴーグルは思い切って剣を差し込む。
だがカチン、と小さな音がしただけだった。
タルにはまった人形はピクリともしていない。

「やったあああ! やっ……あ、あのスンマセンっス」

「次。さっさと貸せよ」

勝ち誇った様に大きくバンザイをしたゴーグルは次の瞬間、素早く腕をひっこめた。
ささーっと頭を下げながら隣にタル型のおもちゃを回す。

「こう言うのは、グダグダ考えずに直感でだな――」

垣根が言い終わる前にビョン! と人形が跳ね上がった。

「ごちそうさまー」

「ご、ゴチになります」

頭を下げる二人の前で俯くリーダーはちいさくため息をついていた。

38 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/13(土) 01:49:47.96 ID:nVAsCJCm0

今回の敗者がはっきりしたところで、ゴーグルが席を立った。
心配事がなくなったのかすっかり晴れやかな顔をしていた。

「じゃあ俺飲みもの持ってくるっス」

「私ダージリン。あったかいのお願いね」

「アイス抹茶ラテ。あんま薄めんなよ」

「りょーかいっス」

少しして。
グラスを二つと湯気の立つカップを乗せたトレイを手にしたゴーグルが戻ってきた。
二人の前に飲み物を置くと、後ろを振り返りながら席に着く。

「なんかあっちにすごい客がいたんスよ」

そんな言葉を聞いて。
心理定規がカップを持ち上げながら首を傾げた。

「女子ばっかなんスけど、ドリンクバーオンリーどころか弁当とか缶詰持ち込みしてました。おまけに店員呼んでおかわり持って来いって言うんスよ!」

すごくないっスか? とゴーグルは自分の見てきたおかしなものを二人に伝えたが。
きっと席についたままの二人がその光景を見ることもこの感覚を共有することもない。
わざわざ見に行くどころか、きっとついで、で立つ用事もない筈だった。

39 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/13(土) 01:53:01.08 ID:nVAsCJCm0


「随分非常識な連中だな。まぁ、お前みたいのがいないんだろ」

汗をかいたグラスを受け取ると垣根は意地悪く口元で笑った。
濁った底を混ぜ返すとカラカラと氷が音を立てた。

「それにしてもっスねえ。堂々としすぎっス。呼ばれたウェイトレスがかわいそうでしたよ」

「んな馬鹿共に構ってる暇があったらさっさと持って来いっつうの。氷、溶けてねえ?」

眉を寄せながら垣根はストローをくわえた。
それ以上の文句が飛んでこないので、どうやら気にしていた味の方は合格ラインに達していたらしい。

「ねえ、君の飲んでるそれは?」

ゴーグルの手にしたおかしな色にまじりあうジュースを心理定規が不審そうに見ていた。

40 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/13(土) 01:58:43.49 ID:nVAsCJCm0

「これスか? ホワイトメロンジンジャーっス」

ゴーグルは得意げに答える。
なんて言っても、ドリンクバーに並んでいたジュースを適当に混ぜたものだ。
味はまあ、甘い炭酸飲料には違いない。
どうせ飲み放題なんだからそれぞれ一杯ずつ飲めばいいとか言ってはいけない。
これは、混ぜることに意味があるのだ。

「それ、香料と着色料がちょっと違うだけでほとんど砂糖水なんだよな。俺次コークジンジャー」

「1:2でしたっけ」

「そ。氷多めで。レモンあったっけ」

「それ他の店っス」

「やだなあ。あ、それこっちです。いただきまーす」

糖分の塊みたいな独自ブレンドを開拓する男子二人を無視して。
紅一点は目の前に運ばれてきたサラダに手を合わせた。


41 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/13(土) 02:02:08.70 ID:nVAsCJCm0

「そう言えば。何でお前仕事中あんな感じになんの?」

「あ、私も気になってた。話し方とか妙にカッコつけてるよね」

普段は砕けた調子のゴーグルだが、『スクール』での有事の際にはそのキャラクターが度々変わる。
口数はうんと減るし、ふざけたことも言わなくなる。
おまけに敬語。
180度の路線変更を茶化され、ゴーグルは口にしていたサンドイッチを詰まらせかけた。
水で何とか流し込むとテーブルをグラスで叩いて反論する。

「おっ俺はTPOに合わせた感じにしてるんスよ! このノリじゃイザって時にしまらないってくらい自覚あるんス」

「あったのか」

ポテトフライをマスタードとケチャップまみれにしていた垣根が意外そうに眉を上げた。

「別にそのままでいいんじゃない? おかしくてつい笑いそうになっちゃう」

「後はほら……気持ち切り替えてるんスよ。俺ゲーム以外で物騒なのはそんな得意じゃねえってゆーか。だからあれは仕事用のキャラメイクっス」

42 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/13(土) 02:05:53.19 ID:nVAsCJCm0

ゴーグルの言葉に垣根と心理定規は不思議そうに目を合わせた。
何言ってんだろうな?
さあ、わかんなーい
なんて無言のやりとりが聞こえてきそうだった。

「なんでそこで仲良く首傾げちゃうんスか……いーっスいーっス、俺だけ小者なのも自覚済みっス」

肩を落とすゴーグルをまじまじと見て、垣根は呆れた様に息をはいた。
改めて不思議そうに隣に目を向ける。
確かに、暗部組織や後ろ暗いものと関わりがあるようには見えない一見普通の少年だ。
普通の基準が『外』と学園都市では随分違ってしまっているとしても。

「はー。お前みたいなのがなんで『スクール』にいるんだかな」

「それは……お互い言いっこなしじゃないスか。ここで色々あった奴なんて山程いるんスから」

「……ご飯の間くらい、つまらない話はやめない?」

互いに一度視線を合わせると、三人は少しの間黙って目の前の料理を口に運んだ。


43 : ◆q7l9AKAoH. [saga]:2014/09/13(土) 02:12:58.05 ID:nVAsCJCm0

「取りあえず、これからの方針は前と変わらず……でいいのかしら」

一通り食べて、大したことのない会話を終えて。
そう切り出したのはサラダとデザートを食べ終え、一足先に目の前の食器を下げさせてしまった心理定規だった。
彼女が眉を寄せる視線の先では、垣根が最後に運ばれてきたパンケーキにシロップをなみなみと注いでいた。

「動くのに必要な情報を得るにしても、もうちょっと懐に潜り込まないとっスよね」

『スクール』の中では各々の利害の一致から、ある程度の活動指針があった。
いつも電話をよこすエージェントから持って来られる話とは別に、それに沿って組織として動くこともある。

「やっぱり『直接交渉権』を引き合いに出来るくらいの位置にいかないとダメかな。組織でも個人でもいいんだけど、まだそんな話が出来る様な信用も対価も不十分よね」

心理定規はそう呟くと頬杖をついた。
それに答えたのは、それまで黙ってナイフを動かしていた垣根だった。
唇についたクリームを舐めとると。
暗部組織のリーダーは、店内の雰囲気に似つかわしくない裂いた様な笑みを浮かべた。

「信用なんか必要ねえ。ただ『スクール』が便利なポジションにいれば学園都市も俺達を利用せざるを得ないからな。まぁ、こっちが黙って頷くだけのいい子ちゃんじゃねえのはあっちもわかってんだろ」

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