【安価とコンマで】艦これ100レス劇場【艦これ劇場】

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909 :【99/100】 ◆Fy7e1QFAIM [saga]:2018/01/07(日) 18:38:07.36 ID:EGTLO2bo0
ラバウルに着いた提督は、旅の荷物の整理を終えると、自分が居なかった間の鎮守府の様子を大淀から聞いていた。
執務室はクリスマス支度の最中なようで、壁や置物にところどころ布が被されていた。

提督「そっか。問題なさそうで良かったよ」

大淀「ええ。敵の強襲なども特になく、穏当に過ごすことが出来ました」

提督(帰って早々、今夜でお別れなんだよな〜……) やや落ち着かない様子で聞いている

大淀「で、報告は終わりなのですが……」

大淀がパッと布を引っ張ると、豪華な飾りつけのツリーや料理の乗ったテーブルが露わになった。
扉の前で待機していた艦娘たちが執務室に入ってきた。

天津風「お帰りなさい。少し早いけど、退職祝いってとこかしら。五月雨から話は聞いてるわ」

クラッカーの音とともに紙吹雪が部屋中に舞い散った。

如月「クリスマスを一緒に過ごせないのは残念だけど……ここでまとめてお祝いしてしまえばいいわよね? ってね」

弥生「五月雨から話を聞いて……提督に感謝の気持ちを伝えたい、って私たちに何が出来るか考えてみたんです」

提督「ありがとう。あー……ちょっと、嬉しすぎて泣きそう。ところで、五月雨は?」

廊下を駆ける音がする。五月雨の足音のようだった。

五月雨「お待たせしましたぁ〜! なんとか間に合ったみたいで良かったです」

息を切らせているエプロン姿の五月雨。エプロンにはクリームや果汁の跡がついていて、ついさっきまで格闘していたことが伺える。
彼女が両手に持っているトレイの上には、ホールのショートケーキが乗っていた。

夕張「まさか当日に即席で用意することになるとは思わなかったけど……。横須賀で間宮さんから借りたレシピが役立ったわね。
スポンジのふわふわ感からクリームの甘味に至るまで、何から何まで計算ずくのショートケーキよ」

五月雨「五月雨、頑張って作りました。ふにゃっ!?」

提督にケーキを見せようと近づいた拍子に、足元に置かれたプレゼント箱につまづいてしまう五月雨。
当然の物理法則かのようにケーキは宙を舞い、提督の顔面に直撃する。
咄嗟の出来事に驚いた提督だったが、「美味しい」の意を込めて親指を立てた。

・・・・

酒を呑み、食事を楽しみ、語らい、……どんちゃん騒ぎの夜を終えて。提督は五月雨の寝室を訪れた。
提督の後に続いて五月雨が部屋に入る。五月雨は思い出したかのようにケースに入ったDVDを提督に手渡した。

五月雨「まさかお別れの日にこれを渡すことになるとは思いませんでしたけど……帰ったら観てください」

五月雨はベッドの上で横になると布団を被った。提督はベッドに座ると外から見える夜空を眺めていた。

提督「ああ、ありがとう。それにしても……すごい恰好になってしまったな」

提督の恰好はスポーツキャップにサングラス、ネックレスに指輪と奇抜なものになっていた。
これらは「かさばる物や食べ物は持っていくのに難儀するだろうから」という艦娘たちの配慮によってプレゼントされたものだった。

五月雨「提督。……提督と一緒に過ごせて、楽しかったですよ」

提督「俺もだ」

五月雨「五月雨は……提督のこと。大好きですよ」

長旅の疲れが溜まっている中、ラバウルに着いたら朝からケーキ作りをし、そこから夜までパーティーを楽しんでいた五月雨。
出来るだけ長く提督とこの時間を一緒に過ごしたいとは思うものの、睡魔には抗えず五分と持たず眠りに落ちてしまう。

提督(『俺もだよ』……なんて、言うわけにもいかないしなあ)

提督「さようなら。ありがとう」

提督は、眠る五月雨の頬にそっとキスをすると、現れた扉を押し開けて中に消えて行った。

・・・・

神乃「はぁ〜あ。帰ってきてしまったな」

侘びしさの漂う静かな部屋。一人暮らし用の、執務室よりもはるかに狭い部屋であるにも関わらず、神乃にはひどく広い空間に感じられた。
スマートフォンを充電して日付を確認すると、五月雨たちと過ごしていた数ヶ月分の時間が経過していたらしかった。
その間に着信があった履歴はなく、メールの類も届いていないようだ。

神乃「とりあえず掃除だな。それから、お袋に会いに行って、親父の墓参り。他のことはそれから考えよう」

五月雨と最初に会った時にこぼしたカップラーメンはそのまま放置されていて、乾いた麺のカスやスープのシミは床と一体化しているようだった。

神乃(こりゃ引っ越したら敷金は帰ってこないな……)

雑巾を濡らして床拭きをする。
引き籠もっている時はそんなことは微塵も思わなかったはずなのに、埃っぽい部屋だなあと神乃は感じていた。
910 :【100/100】 ◆Fy7e1QFAIM [saga]:2018/01/07(日) 18:56:54.44 ID:EGTLO2bo0
上着をハンガーにかけて、ソファに腰かける神乃。就職面接の帰りだった。
電気ケトルのスイッチを入れ、コンビニで買ってきたカップラーメンを袋から取り出す。

神乃「まさかその場で採用されるなんてなぁ。ま……実際にこの目で見ても良いと環境だとは思った。ツイてる、と考えていいのかな」

神乃が受けた企業はコンシューマーゲームを作っている会社で、前職に比べれば給料は雀の涙に等しかった。
曰く「大コケしてソーシャルから撤退した」だそうで、ゲーム事業の規模は年々縮小していっているようだ。

神乃「思えば子供の頃からゲームっ子だったもんなあ。これも何かの因果というもんなのか」

面接では「田園風景や山村よりもむしろ16色のドット絵に懐かしさを感じる」「義務教育よりもゲームや漫画から学んだことの方が多い」
「ゲームに限らず遊びというのは現実逃避のための手段ではなく、こんなご時世でも希望や理想を描く意志を育むための救い」
と、常人からすれば社会不適合者の烙印を押されかねない問題発言を連発していた神乃であったが、それが逆に響いたのかその場で採用と相成った。

神乃「はあ。お袋も案外元気そうだったし……ようやくこっちでもなんとかやっていけそうだな」

カップラーメンを啜りながら、五月雨から渡されたDVDケースを手に取る神乃。観ようと思えばいつでも観れたのだが、なんとなく放置したまま一ヶ月が経過していた。

神乃「これ見たら絶対色々思い出すよな〜……。未練がましいけど、そう簡単に割り切れるもんでもないんだよなあ」

カップラーメンを置いて、アルコール度数の高い缶チューハイを冷蔵庫から取り出す。それをグビッと一口飲んでから、ディスクを再生機器に挿入した。

・・・・

観た。

映像の内容は、五月雨たちが鎮守府について自ら説明するというものだった。
ところどころ内輪ネタと思しき箇所があったり、原稿を読み上げながら自分で笑ってしまったりと、映像作品としては失格の出来なのだろう。
だが……それが愉快で面白くもあり、懐かしくもある。そして、もう決して手の届かない場所なのだと思うと、涙を堪えずにはいられなかった。

自分の選択に後悔はない。覚悟の上だった。しかし……もう一度彼女たちに会えたのなら、どれだけ心が満たされるだろう。
分かっていても、再会を願わずには居られなかった。それが何への祈りなのかは自分でも分からないが、祈らずには居られなかった。

・・・・

神乃が働き始めてから何ヶ月が経つ。途中参加ではあったものの、懸命に働いてプロジェクトに貢献していった。
人間関係も前職よりは円滑で、神乃自身、働き甲斐を感じていたようだった。

神乃「デバッグして欲しい? もうバグはあまり残ってないって言ってませんでしたっけ」

プログラマーの報告を聞きながらメモを取る神乃。

神乃「ふんふん。プログラム上設定していない位置に、存在しないはずの扉が見つかったと。で、その扉は決して開かず意図が分からない。
デバッガーからの報告を聞いてもあったり無かったりまちまちで出現条件が分からない……か。なるほど、演出周りの設定が何か悪さしてるんですかね」

神乃「なんにせよ、本当にそんなバグがあるのかどうかさえ疑問ですね。ちょっとオカルトめいてるし。分かった、調べてみます」

VRヘッドマウントディスプレイを装着して、開発中ソフトのデバッグを始める神乃。
このゲームは、異なる時代・舞台で展開するシナリオをそれぞれのキャラクターでロールプレイするという(どこかで聞いたことのある)内容のもので、
作中のアイデアは少なからず神乃が発案したものも含まれていた。

神乃「これは……」

見覚えのある扉だった。神乃が近づくと、扉が開いてそのまま中に吸い込まれてしまう。

・・・・

それは夢にまで見た景色だった。暑い太陽の熱気が身を包んで、それを和らげるように涼しい風が吹き抜けていく。
常夏の青い空に伸びる白い入道雲。ダイヤモンドのようにキラキラと光る海。澄んだ空気。そして……何より記憶に残っているのはこの執務室だった。

五月雨「提督! お帰りなさい……」

駆け寄って強く提督を抱き締める五月雨。戸惑いながら、その感触を確かめるように身を寄せる提督。
五月雨の、陽だまりのようなぽかぽかした温もりが伝わってくる。触れ合える。確かな実感がそこにあった。

五月雨「色んな人に協力してもらって……やっと完成したんです。提督が、私たちと会うための……。
そして私が、提督に会いにいくための扉です。次元の壁を超えるんです」

提督がやってきた扉は、消えることなく室内に残っていた。

提督「ずっと、望み続けてはいたけれど。まさか本当に会える日が来るなんて……。嬉しいよ、すごく」

五月雨「これからは、ずっと一緒にいられるんですよ。大丈夫です。まだ提督としての籍は残ってますから」

壁にかかっていた制帽を提督に渡す五月雨。提督はそれを受け取って被った。

提督「そっか。ああ、じゃあ……俺の気持ちを言ったことがなかったね」

五月雨は緊張とともに唾を飲み込んだ。なんだかいつになく真面目な表情をして提督をじっと見つめている。

提督「……もう躊躇わない。好きだよ、五月雨。ありがとう」

小さな体を抱き締める。五月雨の安堵した笑い声が聞こえる。何気ない、しかしそれでいてかけがえのない日々の記憶が蘇る。
現実も架空も関係なく、今まで五月雨と過ごしてきた日常は、自分の中で紛れもない真実だった。
提督は、この時になってようやくそれを悟ったのだった。
911 : ◆Fy7e1QFAIM [saga sage]:2018/01/07(日) 18:58:02.24 ID:EGTLO2bo0
以上でございます。お付き合いありがとうございました。
最後なんで頑張ったつもりです。楽しんでもらえたなら幸いです。
めっちゃ時間がかかってしまってすみませんが、なんとか完結させることが出来てよかったです。

例によって下のやつはおまけです。



////チラシの裏////
あんまりイチャイチャしねえっすとかほざいてましたがウソになりましたすんません。
まあ最後だしこのぐらいはね……(?)

あえてタロットの話を書いてなかったんで最初にそれから入りますか。おまけ要素なんですけどね。
正位置:才能・可能性・創造性・スタート
逆位置:無気力・スランプ・非現実的・無計画
そんな意味合いを持つ魔術師のカードなのでした。
バックボーンとしては頷ける感じの話になりましたね。



【キャラなど】
・五月雨
五月雨提督って……偏見なんすけど、愛が深すぎるやばい人みたいなの多いじゃないですか
(馬鹿にしているのではなくリスペクトの意味で「やばい」と表記しています)。
そのお眼鏡にかなう出来のものが描けるのかな〜……みたいな不安があったんすけれども。

キャラ像的に、あんまり恋愛的な方向にグイグイ行く感じじゃないんでどうしようかとは思ったんですけど。
ただ、提督の手を引っ張って楽しそうな方向へあっちゃこっちゃ行くイメージは強かったので結構アグレッシブな感じになっています。
思ったことをストレートに伝えられる、子供の無邪気さみたいなとこが根幹にありますね。

・提督
尖ってますね。いろいろな厨二病患者をモデルにして生まれたキメラ的存在です。
単体だとこれまでで一番どうかしてるやつなんですけど、五月雨やラバウルの面々によって中和されている感じですね。
なんちゅうかこう……難儀な性格してますね。気難しい厨二病小僧が大人になるとこんなんなるんかなーみたいなイメージで書きました。

・ほか
ラバウルの艦娘たちはいい感じに南国に適応したような大らかなキャラにしています。アローラの姿……じゃないか。
舞風だけ過去のあるキャラなのでちょっと掘り下げましたがまだ尺が足りてないですね。
他の鎮守府のキャラはあっさり目に書きましたが、これも終盤は単に尺が足りなくなってるだけすね。
まあ尺があったとしても、やっぱり五月雨と提督がメインの話なんでこんなもんでいいかなーと。配分はもうちょい平等に割り振るべきでしたが。



【ストーリーなど】
一つ言っておきたいのですが、筆者は営業職でもなければゲーム業界のゲの字もない業界・業種で働いてますからね。
あと別にリアルもそこまで荒んでないです。そこら辺はあくまでフィクションの表現なのであしからず。

架空と現実を対比するみたいな描写が多いですけど、まあこれは現実は現実でも“作中での”現実なんで、あれです。
そんなに世の中めちゃくちゃなサバイバル世界なわけじゃないですからね。そりゃ二次元の方がハッピーかもしれんけども。
ただ、ラバウルの面々とか他の鎮守府の人たちとか、全体を通じて人間の中にある陽の一面をメインに描いているので、
作中での現実ではそこから離れた人間の……んー、形容しがたい何某かの負の部分をやってみました。

あとは、敵とか出てこない話にしようと思ってたのでこのようになりました。それはそれで不安だったんですけど、まあなんとかなりましたかね。
その……なんか軍記物っぽくゴリゴリした感じで頑張って動かすのはそれ用の世界観が必要っていうか。
増設に次ぐ増設を遂げた今になってバトルをメインにやるとかも展開的にしんどいのでこんな運びです。
お題にホラーって来てたけど同様の理由で難しそうだったのでやめときました。

それから、今作は結構ノリで書きました。ノリでっていうと適当かよみたいに思うかもしんないですけど、そうではなく。
「このキャラだったらこう言うかな」「このキャラがこう言うならこうだな」みたいな連想を無限に繋げてって、
切った貼ったして出来上がった感じですかね。カタい言葉で表現するなら蓋然性のある流れを心がけた、ってとこでしょうか。
ラストはご都合エンドなんですけども、……逆に聞くけど最後の最後で後味悪いの読みたい? 嫌じゃない?



毎回書いてることではありますが艦これ要素ゼロでしたね。
でもこういうの書く人がいてもいいんじゃないかな、二次創作だし。
ってことで4年間ありがとうござ……4年間!? 正気か??
そんなに書いてたんですねー……(厳密には3年と半年程度)。

こんだけ長く続いてると追っかけるのも一苦労だったと思います。
本当にお付き合い頂きありがとうございました!
912 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/08(月) 00:19:47.23 ID:B5K4HNgKO
乙です
913 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/12(金) 18:01:42.87 ID:L5Qzu2qAO

長い間お疲れ様
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