【枯れても走ることを】能力者スレ【命と呼べ】
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312: ◆Rinne/R.E.[sage saga]
2019/06/23(日) 23:51:14.69 ID:LB+IBXF70
【街中――――公園】
【春薔薇もとうに終わった薔薇のアーチはこなれた緑色の葉っぱ、昼間であればうんと広げて喜ぶのだとして、今は夜であるのなら】
【いちご色したお月様もとうに欠けてしまった後のお月様がうすぼんやりとした雲の向こう側から瀞むような月明かりを受けて、それでも僅かな艶めきを忘れず】
【日差しに伸びた新芽のぶんだけ歪な形になったところをひょいと潜る人影一つ、蜜柑の房によく似た形のお月様に照らされるのなら、仕草のたびに影だってどこまでも】

――――――――――――――、あれ、

【いくつも連なった薔薇のアーチは春先や秋口ならば見る者だれでも魅了して見せると豪語して止まぬもの、けれども夏の入り口となれば、それでも緑の色どりはごくごく何か癒す色をして、】
【数個目を気儘に潜り抜けたところで、――ぽつと漏れる声が一つあった。なればやはりごく気儘な声音であるのだろう。赤い薔薇が咲くなら千本の鳥居にも似通う最中に、硬質の足音すら止めて】
【――曖昧に溜息を吐くような音節があった、ともすれば誤差にも等しい数秒の出来事。「――――止まってる」。つぶやきに付随するのはりんと涼やかに響くような/ちゃらりと掠れたような金属質の余韻】
【――――言葉を述べたのが涼やかなる金属質で、なにかこすれ合うようなのが掠れた金属質だった。見るなら長く伸びた影の手元より延びるもの、鎖と、丸みと、然るに懐中時計と思しきもの】

壊れちゃったかな。……まだ五年ぐらいなのに。
……――兎でも通るなら、あげるのに。遅刻しないもの。止まってるから。

【どこかうんと遠くで雨でも降っているような温度の風が吹き抜けたなら、――鈴の音によく似た笑い声は小さな反響、鎖ごと吊るして覗き込む仕草が文字盤を煌めかせるなら】
【あるいは夜闇の中、ちかりちかりと遠くまで誰かがここに居ると知らせるのかもしれなかった。――そうでなくても、どうせ誰かが居るのなら、彼女の姿を見つけるのは容易いのだけれど】
【――だから/だから?/だから。彼女はやがてふらりとアーチとアーチの隙間から逃げ出すんだろう、やはり昼間ならごく好ましいのだろう花壇を無視して、夜に全身を投げ出す刹那に】

【腰まで伸びた黒髪が月明かりにごく彩度の低い虹色の艶めきを抱いた、なれば真っ白の肌は余計に映えて、あどけなさを十全に遺すかんばせを彩るには十分すぎるほど】
【ふと俯けばごく黒く見える眼差しはけれど月明かりを臨むのならどこまでも明るく透き通るのだろう。光の加減によって色を変える眼は瞬きのたびにすら煌めきの彩度もまた変えるから】
【そうして裾を揺らすのは緑みに黒いワンピース、そうだとしてごく細く描かれた生成りの縦縞が軽やかさを添えて、だとしてもたっぷりとした裾が翻るたびに覗くパニエの布地は物理的に重たげだけれども】
【かかとの分厚いストラップシューズの底にはあまりお淑やかではないのを証明する程度には泥がこびり付いているのだろうから、】
【――見やるに十六ほどの少女であるのだろう。眩しい朝よりか余程暗がりの夜のほうを好むような表情をしていて/けれどこんなに遅い時刻に出歩くにはやはりまだ少し幼すぎるようだから】

――――――いつの間に、止まってたんだろう。もう日付も変わっちゃったのかな。

【やがて丁寧に整えられた花壇すら通り過ぎて、芝生の地面にためらいなくお尻を委ねるなら。やっぱりお淑やかな乙女ではありえなかった、スカートの柔いふくらみだけではごまかせない何かを隠しているのに違いない】
【手元に弄ぶのはやはり旧びた懐中時計、何か少し弄ったらば戻せやしないかといじくる指先は、――すぐに飽きてしまって蓋ばかり何度も鳴らして開閉を繰り返す、今度は蓋だって壊れてしまいそうなのに】

音々ちゃんがメールしてきたらお誕生日。

【――――――そのうちそれだって飽きてしまって、ぼんやりと膝を抱えだす。夜風はどこまでも涼しく柔らかいから、きっと散歩に良く適していた】


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