216:名無しのパー速民[sage saga]
2019/05/15(水) 03:31:20.11 ID:DSINPimJ0
>>215
………………少しだけ、おんなじね。
【何かを誤魔化すためだけにある沈黙が横たわる、ならば沈黙など慰めによく似た無意味でしかないんだろうか/ないのだろう】
【だって何かが似ていたところで私達(わたしとあなたと)が同じになるはずもないのだから。二人同じ悲しみに耽るにも、その境遇すら異なりすぎて】
【ましてや同じような傷口を擦り合わせるには、――こんなよくわからない少女の形をしているだけの誰かより余程優れた人があなたには居るのなら、】
…………下の川、見たかしら? 大きいでしょ。あれが、あたしたちのご先祖様。……といっても、さすがに川から生まれたわけじゃなくって。
うちの神様はあの川なのよ。そういうことになっているの。……源流がね、この奥にあるのよ。見ていく?
【――だからきっと彼女は意図的に答えなかった。長い黒髪は光を受けると烏の羽のように艶めいた。そうして黒色のまなざしは光を受けたなら血のように色鮮やかに艶めいて】
【まったく何一つ関係ない物事を、ふっと、本当にふっと、思い出したような声が尋ねた、――「それとも」なんて声音はやはり努めて無機質を装う、鈴の音の理屈が述べるに、】
わたしと、あなたと、二人きりで話した方が、いいかしら。
【「だってなんだか狡いじゃない?】
あなたがそんな風に言ってくれてるのに、わたしはだんまりだし。――あははは、あたしが、抑えてるんだけど。……。
その間のこと、聞かないでおいてあげる。見ないでおいてあげる。その代わりに――、何かあったら、すぐに間に入ってあげるわ、それとも、
満足、したのなら――そうね、やっぱり源流でも見ましょうよ。だって、死んだ人間の言葉なんて聞いたり真に受けたり、しない方が健全だから。
【ならば提案なんてことをすること自体が不健全だと思っている節があった、――木の葉に咀嚼されてしまった月明かりはどこまでも朧気にぼやけて、感情すら不明瞭に照らすなら】
【視界の向こう側に微かに桜色が見えた。桜の木がそこにあるようだった。どうあれ桜の時期などこの国であってなお終わっているべきだった。――だからやはりここは何か異界に近しい】
【昔ッから、山の中なんて場所は人間の場所ではないから、怪異談も少なくなかった。――なれば死者と会話する奇跡の一ツ二ツあって何がおかしいというのだろう】
それとも帰る? お嫁さんをいつまでも神隠ししてたら旦那さんに殺されちゃう。
【やはり何かそこだけ浮いてしまったような社の傍らに佇むのなら人の姿をしているだけで彼女も忌まれるべき化け物なのだと誰にだって理解させた、】
【そうだとして異界の食べ物など勧めてくるわけではないし、望むのなら選択肢のどれだって彼女は許すのだろう。――あるいは、違った言葉すら、きっと】
【――こんな場所まで来てくれるのだから。来てくれたのだから。厚底靴で登山を敢行してくれたお礼と詫びくらいしたいと思うのは、きっと多分人間だってそうなんだろう】
【それとも或いは空っぽの神様に何かの意味を与えてもいいのかもしれなかった。この神様はこのお願い事を叶えるって思ってくれたなら、きっと神様ってそういうのが大好きだから】
【それとも或いは蛇を連れて帰ってもいいのかもしれなかった。*****の例もある。人間一人の魂を護ってみせるのに幾許か心許ないとして、無防備よりきっとマシだと思われた】
【それとも或いは邪神の聖地だと言って今のうちに焼き滅ぼしてしまってもいいのかもしれなかった。いつか世界を滅ぼそうとした神の神格を癒すためにこの場所はあるのだろうから】
【それとも或いは、――、だからきっとなんだってできた。なんだってしてしまう選択肢があった。それが叶うかは別として。どんなお願いごとも、誰にだって願う権利はあるはずで】
【――――願ったら叶うわけではないと、努力したから報われるわけではないと、愛したから愛されるわけではないと、知りたくなかった/知るしかなかった神様の墓標と、その成れの果て】
【どちらもそろって月の光の色をしていた。山中であるはずなのにここばかりが明るかった。帰ると言って背を向けるなら、その帰り道すら、こんなふうに明るく煌めくのだろう】
【ならばこれから行く先すらこんなふうに照らされるのかもしれなかった。だって、】
【(自分が食べたかった食事も欲しかった愛も向けてほしかった笑顔も掛けてもらいたかった言葉もなにもかもなにもかも、人に与えて、それで、底抜けの器を満たした気でいたのだから、)】
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