192:名無しのパー速民[sage saga]
2019/05/05(日) 23:17:03.14 ID:AkDEdh7Z0
>>191
【土煙が晴れると、瓦礫の山の中からイストがゆっくりと立ち上がるのが見えるだろうか】
【瓦礫の雨に見舞われた朔夜の方を少し心配そうに見やる、その気遣いは表情だけ。身体は刀をだらりと垂らし、構えなど一つも取っていない】
【――見て取れるのは、明らかな油断と侮りだ。銀の靄の先にいる何かが、ざまあみろ、と――そんな子供じみた感想を、イストの身体で表していて】
【だからこそ、か。――岩ごと土煙を引き裂いて顕れた、正真正銘の"人斬り"を前に、怯えるように情けなく後ずさったのは】
ああ、朔夜――。それが、キミの本気か。凄まじいな。
これは実に、狂気的にして、怪異的だ。刀使いの端くれとして楽しみだよ。キミの剣を魅るのが。
……って、あああああ! こら! 視線を逸らすな視線を!
【明らかとなった朔夜の"異常"を前にして、しかしイストの双眸だけは相変わらずだった。怯懦はなく、逆に楽しげに、抜かれた刀とその遣い手を見やる】
【しかし、それも一瞬だった。お前を殺すと唸りを上げる剣気を前に、まともに見るのも恐ろしい、とばかり。イストの意思に反して顔を逸してしまって】
【……そうしたならば、イストには見ることができた。朔夜にも見えるだろう。側面が剥がれたことで、塔の中身が見渡せる状態になっている】
【比較的きれいなのは一階だけだ。二階から上は、ひどいもので――】
【机やベッドなどの古びた家具が設置されているそこに、古いものから新しいものまで、無数の人間の死体が在った】
【絵本と一緒にベッドで寝ているもの、椅子に座っているもの。体勢はさまざまだが、いずれも"生活している"風に配置されている】
この塔に近づいたヒトたちを、ああして役者として取り込んでいるのか?
……いや、役者というより、あれは……、っが!!?
【イストはどこか得心がいったように呟く。だが事態は、彼女にそれ以上の考えを中断させた】
【突如として、表情が苦痛に歪む。油の切れた機械のように不自然な動きで一歩踏み出し、跳躍。――地盤が、砕けた】
【ろくな助走もない跳躍のはずが、彼女の身体は数メートル空中へと躍り出て】
【そして空を切り、朔夜の頭部を叩き割らんと放たれるのは、必殺の勢いを帯びた兜割り――!】
【イストの表情が歪んでいるのは、先ほどの朔夜の推察通り、怪異によって限界を超えた筋力を強引に引き出されているがゆえだ】
【さらに、イストの使う刀が"偶然"にも妖刀、あるいは怪刀と呼ばれるものであり、非常に頑強であることも合わさって、その破壊力は凄まじい】
【岩をたやすく両断するほどの重撃だ。まともに受けてしまえば、どうなるかわからない――】
――朔夜。一瞬だったけど、見えたぞ。
二階だ。部屋の奥にある大きな姿見。間違いない、あれが基点だ……!
【だが、そこさえ凌げば光明が見えるだろう。――朔夜の対処に関わらず、イストが先ほど見えた光景を伝えるからだ】
【二階の最奥に巨大な姿見が置いてある。イストと朔夜以外は誰も存在しないにも関わらず、そこには――子供の姿が映っている】
【――あの亡霊が、一体なにを思ってこれだけの屍を積み上げたのかは知れないが、】
【どうにかしてあの姿見を破壊すれば、この不毛な戦いも終わるだろう】
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