929: ◆b0/EDFEyC136[saga]
2024/07/27(土) 23:15:50.47 ID:UW0xp/yEO
『――スピードが落ちてる!もう一周!』
パピヨン「あ"ぁ"ぁ"!?は――やればいいんでしょやれば!」
新年早々。雨の日のダートコースをパピヨンが苛立ちながら駆ける。雨の日の練習などやろうと思ってやれるものではないのだから、こういう日はトレーニングにうってつけの日だった。
パピヨンは嫌だ嫌だと文句を言っていたが、それはそれこれはこれとして。貴重な機会に走らせないわけにはいかない。
――それにパピヨンも文句を言いながらも走っている。やる気もある、負けん気もある、自我が強く熱がある。あの時の我が儘を叶えようと、パピヨンも必死なのだと、【貴方】はそう解釈している。
パピヨン「――――っらぁ!タイムは!」
『……ああ、さっきの一周よりも速い。一度休憩にしようか、ほらタオル」
パピヨンが【貴方】の差し出したタオルを奪い取り、汗と泥だらけになった顔や腕を拭う。綺麗に手入れしていた尻尾もぐしょぐしょになって、苛立ちを隠さず尻尾を力強く振っている。
ある意味それが努力の証だった。目で見て分かる指標だった。
『……トレーニングが終わったら尻尾の手入れもしようか。今日は念入りにやらせてもらうよ』
パピヨン「……当然でしょ。でも、まぁ。やる気出てきたかも」
ほら、まだやるよ。そう言ってパピヨンがぐっしょりと濡れたタイムを【貴方】に投げ渡すと、また一人ダートコースに向かって行く。その後ろ姿はとても汚れていたが、【貴方】にとっては誰よりも輝いて見えた。
――――雨の土を踏みしめて、キックバックがまるで鱗粉のように飛び散って、彼女の通った道を示す。
ドバイでのレースまで残された時間はもう少ない。ならばどれだけ彼女を高めてあげられるか。それを考える毎日で――トレーニングは続いていく。ずっとずっと、彼女の我が儘を叶えるその瞬間まで。
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