日向「安価とコンマで依頼を解決する」七海「その2だって」
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◆DWp3lSnh.v3L
[saga]
2023/10/01(日) 16:19:30.37 ID:NRjwkcuO0
日向「…………」
早朝も早朝、まだ日も出ていない頃。俺はいつもは着ない黒いスーツに身を包んで、その部屋の前に立っていた。理由は勿論、約一ヵ月前に約束した舞園の「依頼」を達成するためだ。
……部屋の前に立ち続けて数十分後、普段着の舞園がいそいそと現われる。
舞園「日向先輩! お待たせしてしまって申し訳ありません!!」
日向「いやいや良いって。それより、朝の生放送の打ち合わせまで時間がないんだろ? 早く準備した方が良いぞ」
舞園「はい!」
舞園は俺の警告に力強く頷くと、その部屋──舞園に用意された楽屋へと飛び込んでいく。……ここは某所のテレビ局。なぜ俺がそんな場所にいるのかというと──
──今日一日、私の仕事ぶりを見ていて下さい。
それがあの日、舞園が俺に依頼してきた内容だったからだ。意味と理由を問うても「全部終わったらお話しします」の一点張りだ。どうしようかと悩んだ俺だが、まぁどんなに変でも依頼は依頼だし、拒否する理由もそこまで無いと思い俺は今日一日、舞園の仕事ぶりを見させて貰う事になったのだった。
──朝──
アナウンサーA・B・C「「「おはようございます」」」
アナウンサーA「○月×日△曜日のめざ○しテレビです!」
アナウンサーB「本日のゲストは今をときめく女子高生。私立希望ヶ峰学園所属、超高校級のアイドル、舞園さやかさんに来て頂きました!! 舞園さん、今日はどうぞよろしくお願いします」
舞園「はい! よろしくお願いします!(ニコッ)」
いつものアイドルスマイルで、和やかに朝のニュース番組の挨拶をする舞園。俺はと言えば、夜明け前から動いていた為に今頃になって襲ってきた眠気を覚ますために、眠○打破を飲んでいた。……舞園の奴、以前から頭も気立ても良い奴だとは思ってたけど、それ以上に「察し」が良いな。アナウンサーが……と言うより番組スタッフが欲しい台詞をここぞというタイミングで放っている感じがする。
……例の「聲」って奴か? 確かにそんなもんが使えるなら何を言われずともスタッフの要望に答えることなど朝飯前だろうが……。結局、その番組のゲスト出演の時間が終わるまで、舞園は「芸能人」として働き続けたのだった。
──それからすぐ──
マネージャー「はい! 次は○○テレビの収録で某県某所まで行かなくちゃいけないんだから早く!! ほら! 見習いくんもさっさとする!!」
舞園「はい!」
日向「は、はい!!」
舞園を支え続けてきた真のマネージャーに叱責されながら、俺達はテレビ局のワゴンに大急ぎで乗り込む。ちなみに今の発言で分かるとおり、今の俺の立場は「希望ヶ峰学園から派遣されてきた、社会学習がしたいという学生──ようは『一日マネージャー見習い』」だ。
……車での移動時間も、舞園は一秒たりとも無駄にはしなかった。次の番組の台本を読み終わるないなや、SNSとブログの更新を始め、それも済ませてしまうと今度は学校の課題に手を付け始めたのだ。……なんというか、アイドルの世界ってもっとこう「友情」「鍛錬(努力)」「勝利(名声)」が物を言う物かと思っていたのだが、実際は全然違った。
──影での努力──そんな誰でもやっているような当り前の事を、人の何倍も何倍もやり続けなくちゃいけない……。そして、それだけ頑張ってもその努力が報われるとは限らない……そんな、あまりにも厳しい世界なのだと言うことを、この時、俺はようやく理解し始めていた。
──昼──
舞園「はーい、舞園さやかです!(ニコッ) 今私は、SNSで超話題の「あの」お菓子……。現在前人未踏の八冠制覇に向けて奮戦中の「元超高校級の棋士」が対局時のおやつとして食べたと言うことで有名になったぴ○りん……その最新版を食べさせに来て頂いています!!」
台本通りの台詞にその場でアドリブを加えながら、某県のデパートにあるスイーツショップの前で、舞園はテレビカメラに向かって和やかに喋る。……ついさっきまで台本を隅から隅まで読み込んでいた真剣な眼差しとは思えない和やかっぷりだ。「豹変した」と表現しても過言では無いだろう。
舞園「わぁっ! これがハロウィンぴ○りんですか。うーん、いつもながら見た目がとってもキュートで可愛いですね! では早速……いただきまーす!(あむっ)……うーん、美味しい! 岐阜県名産の「宿儺かぼちゃ」を使っているからか、カボチャの優しい甘みが口いっぱいに広がっていきますね!!」
朝の生放送同様、いや、それ以上にコメントが完璧だ。期間限定商品の魅力をタップリと伝える口話術と、カメラの前では決して笑顔を絶やさない信念……。現場にいたからこそ、俺は舞園のそういった「リアルな凄さ」というものをありありと感じられた。
──昼過ぎ──
車の中で超簡単にお昼を済ませ(要はコンビニ飯)、次なる現場……アニメの収録スタジオへと、俺達は急ぐ。舞園は依然、SNSの更新を傍らに、最新のニュース情報をチェックしていた。「いつか、どこかで役に立つかもしれない」……そんな確定もしていない「可能性の未来」の為に、舞園は必死になって勉強を進めていた。
……ここまでの仕事ぶりを見ていくだけでも、俺は過去の自分が恥ずかしくて恥ずかしくて仕方がなくなった。……何が「才能が欲しいだけなんだ」だ。超高校級と呼ばれている奴らが、どれだけ大変な苦労と、それを上回る地獄のような努力をしているのかお前は知ってたのか──日向創くんよ。
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