14:名無しNIPPER[sage saga]
2023/01/07(土) 14:11:07.09 ID:FRtckmfc0
「……今日本屋に寄ったのもね、実はそのあたりの迷いを払拭できるかなって思ってのことだったの」
「そういえば……どんな本を買ったんですか?」
「ううん……結局見つからなかった。たぶん古い本なのよね。新書ばかりの本屋さんにはないみたい」
「タイトルは……?」
郁代が一呼吸おいて、そっと呟く。
「!」
そのタイトルは……ひとりが数年前に学校の図書室で読んで感銘を受けた、古い小説の名前だった。
「実はね、リョウ先輩に聞いたの。ひとりちゃん、その本から得たインスピレーションを大事にして、今度の曲の歌詞を考えたんだよって」
「……!」
その話は、リョウ以外の誰にもしていない。
しかもそれも、会話の中でぽろっとこぼしたような、ほんの些細な話だ。
作り上げた歌詞をリョウにじっと読み込まれるのが気恥ずかしくて、言い訳がましく話したエピソード。
まじめに聞かれているとは思わなかったが、リョウはその言葉をちゃんと受け止めていて、そして郁代はその言葉を聞いて、少しでも歌唱のヒントになればと本屋に探しに行っていたのだ。
こんな事実、全然知らなかった。
今日こんな出来事が起こらなければ……あのときふらふらと本屋の前を通らなければ、一生知らずにいたのかもしれない。
みんなが結束バンドに懸ける想いの強さに改めて気づき、ひとりは毛布をぎゅっと握り締めた。
「その本を読めば、もっと歌詞に想いを乗せられるんじゃないかって思ったんだけど……また今度探しに行かなきゃね」
「……わ、私も探しますっ……久しぶりに読みたいし……」
指先をくるくると動かして、ひとりの髪をからめて遊ぶ郁代。
身体に伝わるわずかな感触が、郁代の優しい声が、無性に愛おしく思えた。
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