108: ◆3U.uIqIZZE[sage]
2022/08/08(月) 20:47:59.11 ID:hLxC27v2O
「……あのな、鶴乃。お前に謝らないといけないことがある」
「何?」
「ずっと隠してきたが、今年に入ってから俺は度々通院してる」
「え?」
「風邪をひきやすくなったと思ってたが、免疫力が落ちていてな。近々、人間ドックを受ける」
109: ◆3U.uIqIZZE[sage]
2022/08/08(月) 20:51:52.35 ID:hLxC27v2O
だが、予想が外れる淡い期待も手放せない。
もしかしたらという考えを捨てることは出来なかった。
鶴乃は書類を封筒にしまうと元の場所に戻し、その日は早めに就寝するのだった。
110: ◆3U.uIqIZZE[sage]
2022/08/08(月) 20:56:46.79 ID:hLxC27v2O
学校は長期間の休暇が近く、周囲はどことなく慌ただしい。
休暇期間中に出かける先を話し合う生徒もいれば、昨日見たテレビ番組の話で盛り上がる生徒や、
プレイ中のゲームの攻略で盛り上がる生徒もいる。そんな中で鶴乃も明るく振舞い、他愛のない
雑談に興じていたが、少しでも気を抜くとすぐに、自分を取り巻く現状に思考が奪われた。
111: ◆3U.uIqIZZE[sage]
2022/08/08(月) 21:02:25.64 ID:hLxC27v2O
さらに翌日。
学校から帰宅すると、居間の卓に父の書置きが置かれていた。
先日、父が話していた人間ドッグに向かっているらしく、行先が里見メディカルセンターである旨が、文中に記載されていた。
着替えを済ませると、卓に置かれたままの書類を手に取り、他にも書類がいくつかあることに気づく。
112: ◆3U.uIqIZZE[sage]
2022/08/08(月) 21:07:13.37 ID:hLxC27v2O
「母さんとばあさんは、どこにいるか分からなくて連絡できなかった。
だが、 お姉ちゃんにはもう話してある」
「一緒にお店を立て直そうって言ったのに……!」
「お前の気持ちを理解できないわけじゃない。だが、現実はどうだ?」
「…………」
113: ◆3U.uIqIZZE[sage]
2022/08/08(月) 21:09:03.45 ID:hLxC27v2O
「…………いつ?」
「ん?」
「いつ最後の営業をするの?」
「来月はちょうど、店の創業日だ。その日を最後にしよう」
「……分かった」
114: ◆3U.uIqIZZE[sage]
2022/08/08(月) 21:11:35.74 ID:hLxC27v2O
「酷いことになってたね……」
「神浜から離れてはいるが、震源地は震度5も出てるんだな」
「今の揺れ、お店に影響出てないかな?」
「厨房を見に行こう。水漏れでも起きてたら事だ」
115: ◆3U.uIqIZZE[sage]
2022/08/08(月) 21:19:15.59 ID:hLxC27v2O
「大きな地震の後だと余震がある。このあと何回か揺れるだろうな」
「なんか、偶然とは思えないタイミングで揺れたよね」
「本当だな。これから何か嫌なことが起きる予兆じゃなければいいんだが」
「考えすぎだと思いたいけど、今はそう思えない」
「……まあ、今日のところは部屋に戻ろう」
116: ◆3U.uIqIZZE[sage]
2022/08/08(月) 21:22:59.67 ID:hLxC27v2O
昼を過ぎる頃には作業が終わり、父と昼食を共にすると、鶴乃は父に体調を尋ねた。
風邪は回復してきたが、今も父の体をむしばむ癌は進行を続けていると返事があった。
薬を時々飲んでいる姿を見かけたことがあるが、以前よりも服用する量が増えている。
「テレビつけるね」
117: ◆3U.uIqIZZE[sage]
2022/08/08(月) 21:24:19.15 ID:hLxC27v2O
「きっと、ただの思い過ごしだ」
「そうだよね……」
だが、それはすぐに裏切られることとなる。
118: ◆3U.uIqIZZE[sage]
2022/08/08(月) 21:25:25.41 ID:hLxC27v2O
本日はここまでです。続きは明日以降に。
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