タイトルを書くと誰かがストーリーを書いてくれるスレ part8
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805:名無しNIPPER[sage saga]
2025/02/25(火) 23:02:17.05 ID:dTGiXyML0
>>64 「三木の名は。」

 ぼくはいつも三木さんの後姿を見ていたのだけれど、彼女の名前が何なのかずっとわからなかった。
同僚が彼女のことを「三木さん、三木ちゃん、三木」などと呼んでいるのを聞くだけだったからだ。
ぼくは三木さんのことが大好きだった。その証拠に、ぼくはいまの彼女のことならほとんどすべてを知っていた。
愛車、住所、行きつけのスーパー、通っているフィットネス、かかりつけ医、出身、好きな食べ物、酒の好み、休日の過ごし方、夜の生活、筆跡、恋人がいないこと、などなど。
 彼女のことを知り、より愛するためならば、どんな努力もできると思った。
実際そのとおり、彼女と近づき、一緒になるために、あらゆることをしたものさ。
 しかしいまだにわからないことがある。
 彼女の下の名前は何というのだろう。

 呼び名を聞いているだけなのに、なぜぼくが、彼女の苗字が三木だということを知っているのかといえば、
いちどだけ、大胆にも彼女の首にかかる名札を覗いたことがあるからなのだ。そこには横書きで「三木」と、
MS丸ゴシックで大きく書かれていて、その左上に「メディアプロモーション課 リアルマーケティング室」とあった。
そしてその名札を彼女に紐づけている紐の下では、ブラウスを張らせている健康的な乳房が、
パリッと決まったスーツの下でひっそりと自己主張していた。あれに触れてみたいなあ、とぼくは折に触れて思う。

 今日もぼくは彼女をじっと見つめていた。同僚と真剣な顔で何かの話しあいをしていると思ったら、話題が切り替わったのか、
目を細め空いた右手を口元に添えて一緒になって笑っているではないか。ぼくはそれがなかなか我慢できない。
こんなに彼女のことを知っていて愛しているのに、決して向こうの彼女の隣に行くことはできない。双眼鏡を下げ、さらに近づく。
 これまで以上に彼女との距離が縮まり、腰と尻のメリハリもリアルに目の当たりにすることができた。
そして思ったより背が高い。ぼくが小さいからかもしれないが、それ以上にヒールのあるパンプスを履いているためだろう。
彼女は仕事に行くとき、大概パンプスを履いていく。

 ぐっと身を乗り出して彼女をみていると、目が合った。まずいと思った。今回はかなり距離を詰めているのだ。
ぼくは想定していた方向へと移動を始めた。だが後ろから靴音がし、何事と思ったところで組み伏せられた。
会社の社員らしかった。おまえ、何してるんだとかれは怒鳴った。その後ろで、警備員が通報しましたと報告した。
三木さんに何する気だったんだ、と社員は言った。ああ、三木さんに勘づかれていたのか。気にしてくれてたんだなあ。

「別に何にも」
 と僕は言った。「でも、下の名前はまだ知らないんだなあ。ねえ、教えてくんないかなあ」


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