タイトルを書くと誰かがストーリーを書いてくれるスレ part8
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770:名無しNIPPER
2025/01/25(土) 21:28:05.20 ID:Nrw+zYUt0
>>51 「死してなお輝く」

 いまだに残されている和室に通された。もう畳を見られることはまずないのだが、僕の曽祖父は、
その祖父の代からリフォームを繰り返して住み続けている彼の生家の和室を維持していた。
もういい加減和室やめようよ、と母は帰省の度に言っているが、曽祖父はそうだなあ、と返すだけ返して、結局そのままにしている。

 座布団に座りかねてもぞもぞしていると、ヘルパーさんと一緒にホバーチェアに乗った曽祖父がお茶とお菓子をもってやってきた。
もう110歳を迎えて歩くこともままならないのだが、一応お茶を用意するくらいはまだまだ可能なので、
帰省の度に全員分のお茶を淹れてはニコニコしている。手はすごく震えているけど。

「ねえ」
 と僕はケーキ菓子の包装を剝いてそれを食べながら曽祖父に訊く、「何でずっとここ和室なの」

 曽祖父は黙って虚空(どこにも焦点は合っていなさそうだった)を見つめ、数十秒、いやもしかすると数分間じっとして、
僕らがみんなお茶を飲んだりお菓子を食べるのをやめ、静かに彼の発言を聞きのがすまいと息を詰まらせながら見つめてしばらく経ってから、
ようやく
「それはー」と口を開いた。

 そこからも緩慢な動きではあった。しかしどこを見ているかは全員がよくわかった。ゆっくり頭を外旋させ、
和室の廊下側の壁、すなわち障子の上方に視線をやった。そこには曽祖母ら先祖の遺影が架けられていた。

「ここには梨麻さんがいるから……」

 梨麻というのは曽祖母のことだ。50年以上前に亡くなっていて、僕はもちろん母も彼女のことは知らないが、
曽祖父は親戚との集まりでいつも彼女のことを話すので、その存在は認知していた。

「ねえ、梨麻さん」

 そう呼びかけると、遺影の曽祖母は笑顔になった。それを見て曽祖父は嬉しそうに、幼さに溢れた笑みを浮かべた。
曽祖母の記憶は、いまでも曽祖父のなかでは鮮度を失っていないようだった。


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