タイトルを書くと誰かがストーリーを書いてくれるスレ part8
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689:名無しNIPPER[sage saga]
2024/11/02(土) 09:56:16.55 ID:m1iyE81+0
>>650 「報いる時間」

 引きずっているくらいに重い鈍重な足取りだと俺は感じているが、実際には一歩一歩確かに踏みしめる、意志を感じる歩き方で、俺はこの町にやってきた。
 17kgを超す鞄に何が入っているか、誰も知る必要はないだろう。この中身は、俺と、この町に必ずいるはずのやつ以外が知る必要はないんだ。
俺が来たのも、俺の個人的な意思によるもので、やつですら知らない。俺には友人といえる人間はいないし、友人といえた人間ですらも、やつ以外にいないんだ。
だから俺がここにいることも、誰も知らない。その可能性があるとすれば、昨日と一昨日に泊まったそれぞれのモーテルの主人だが、きっと覚えていないだろう。
他に誰か泊まっているかを訊ねたら、ふたりとも「知らん」と答えたのだ。あんなのが、俺を覚えてなんているものか。

 もちろん俺はこの町での、やつとの用が済めば、もうやることはすべて終わってしまうから、生きるか死ぬかどうしようかと思っている。
わざわざ死ぬほど俺自身に関心もないし、死なずに生きるほどやる気もない。やつがどう反応するか、それ次第で決めてしまおうか。
そうだ、それがいい、他人に決めてもらうのがいちばん楽だ。誰も困りはしないだろう。

 一昨日と一昨昨日、このあたりでは雨が降ったらしい。
モーテルですごした夜に大雨が通り過ぎたのを聞いたが、その雨雲がこの町の手前で発達して、2日間続く雨になった。
その残滓で空気が冷蔵庫みたいに冷えて、皮の長靴の縫製のほつれからしみこんだ水が冷たい。
足をふみ出すたびに、ぬかるんだ地面に靴裏がわずかにめり込んで滑った。
昼間に誰かが残した足跡に街灯の光が降りかかって、不揃いな輝きを路面に生み出している。とても魅惑的で、自然現象化のように見えた。
しかしそうではない。人がいなかったら、こんなにきらびやかに光らない。もっとのっぺりとした光沢にしかならない。俺にはそれが信じられない。

 足跡とタイヤ痕だらけの道を進んでは折れ曲がり折れ曲がっては直進し、ついにやつの家の前に来た。橙色の安っぽい電灯の明かりが室内に見えた。
妻と一緒にいるのだろう。俺の用も済ませることができそうだ。ラウラ、お前のために俺はやってきたんだ、こんなに重い荷物を持って。
トタンの塀からお邪魔して、玄関前の石段に鞄を下ろした。そして紐を解き、鎖鎌をとり出す。
それを横に除け、サバイバルナイフ二丁、大ぶりなセラミックナイフ、ブラックジャック(砂入りと石入りの2袋)、延べ棒があるのを確かめた。
そしてその底に、ずれないように固定したプラスチックの箱があるのを確認して、よし、と俺はゆっくり、大きく頷いた。
こいつのために俺はやってきたのだ。

 ラウラはやつの親友を殺した。モーテルで不倫を重ねていた炭鉱夫の男を使い、その不貞を嗅ぎつけたやつの親友・アンドレ・ベリーヌソンを絞殺し、
首と両手足を切断して遺棄した。アレン、それがやつの名前だが、アンドレが行方をくらませたことにかなり心をかき乱されたらしい。そうにちがいない。
俺はアンドレの首を見つけて確信したね。あの炭鉱夫がまずアンドレを死なせたのを、遺棄されていた場所から知った。
そしてそいつを問いつめると、ラウラがアンドレを殺せと言ったんだ、とはっきり言った。
そのとき、やつとラウラ夫婦はすでに引越して行方が知れなくなっていた。
炭鉱夫をダム湖に沈めた後、俺は根性でやつの転居先を見つけ出し、ここまで歩いて来たのである。

 住民登録籍を俺は他人に売っていたから、俺は交通機関を使うことができなかった。宿も、届出をしていない闇モーテルのような怪しいところしか使えない。
それでも俺は生きてここまで来ることができた。そうであるからには、きちんと用を済まさなくてはならない。ラウラを速やかに抹殺するのだ!

 ゆっくり立ちあがって、扉に触れ、その軽さを確かめ、ドアノブに手をかけて少しだけ回してみた。うん、軽い。音もたてずに、スーッと開きそうだ。
これで俺のジャーニィはおしまいだ。これだけあれば、きちんとラウラの息の根を止めるには十分だろう。やつにも、ほんとうに久々に会うことができる。
かつて失踪した友人を見て、いったいどんな反応をするだろう。懐かしむだろうか。人相の変化に驚くだろうか。それとも忘れているだろうか。
いや、そんな期待はやめにしよう。なったようになるしかないのだ。俺はそれに従うだけ……

 アレン、お前の親友の仇を討つよ。この友情は永遠のものなんだよ。
 俺は胸を張って扉を開けた。


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