タイトルを書くと誰かがストーリーを書いてくれるスレ part8
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589:名無しNIPPER[saga]
2024/07/15(月) 00:30:28.00 ID:PkGqKcfT0
>>37「歩けメロス」

 メロスは憤怒した。必ずあの冷酷無残な王を、おれの手で葬り去らねばならないと考えた。
メロスには法理というものがわからぬ。しかし、平穏を乱すものには、人一倍敏感であった。

 町へ石を売りに来て、バザールを練り歩いていると、その路傍で警吏に連行された者が二、三のみならずいた。
めちゃくちゃに殴られ流血した者もいれば、体を縄でぐるぐる巻きにされ、砂にまみれて引きずられていった者もいた。

「あいつらはいったい何をしたというのだ」
 メロスは目の前の果物商に尋ねた。
 果物商はメロスをちらと見、そして目を逸らし首を振った。
 メロスは問いつめたが、頑として首を横にふるばかりで、口を割らなかった。他の多くの者についても同様であった。

 日も傾いたころ、メロスは路地に入った。そこに数人たむろする若者がいたので、彼は若者たちに、先ほどと同じことを尋ねた。

 若者たちは顔を合わせ、周囲を見渡したのち、内緒話をするようにして、これは内緒なんだが、と前置きをして言った。
「王が勝手に決めた無数のルールを破ったせいなんだ」
「なに。それであのようなことをされるというのか」
「しかも、住民が誰も知らないルールもたくさんあるし、取るに足らないことも取締まったり、
 そもそもない規則でしょっ引かれるとか」

 メロスはいきり立って、王の元へ走り出した。まったく彼は単純であった。
あり得ぬと思ったことを放っておけるほど、彼は薄情ではなかったし、合理的でもなかった。

 彼は裏路地から、裏通りを通って球場へ走った。すると、向うから大声が聞こえた。
「そこの石売り、走るのは禁止だ!」
 メロスは振り返った。向こうから、警吏らしい人物が三人ほど、競歩でやってくるのが見えた。
メロスは吹きだしてしまった。競歩の警吏を無視して、彼はカール・ルイスばりのダッシュをした。
しかしメロスはカール・ルイスを知らなかった。そもそも、100メートル走という競技自体、この世界にはないのである。
 メロスは裏通りを駆けた。誰も彼には追いつけない。このまま、王宮へ至り、王ごと町を吹きとばせる気もしていた。
 しかし、その意志を知らぬ街の者たちが、彼を総がかりで諫めた。
「そこの、走るな!」
「宮城は走行禁止だぞ!」
「急ぐ際は、競歩しか認められていないぞ!」
「裏切者!」
「裏切者!」
「無法者!」

 そう叫んで、人々が競歩で彼を追ってきたのだった。
 彼は独尊な人間であったが、裏切りや掟破りは何よりも彼の恨むところであった。
 だが、あの法によって圧迫される人民を知らぬ王は、必ず打ち破らねばならないのだ。
彼は苦しい心を抑えて走った。だが、変わらず競歩の住民の、裏切者! 無法者! 犯罪者!の大合唱は彼を襲う。
次第に涙が出てきた。この圧政を止めようとしているのに、おれはどうしてこんな讒謗を受けねばならぬのか。

 気づくと、競歩の集団に追いつかれ、彼は完全に包囲されてしまっていた。
 こうなっては、走ることもままならぬ。彼は競歩の集団のペースに合わせた。
しかし足並みは合わず、まるで轢かれるように、集団のなかに呑み込まれてしまった。
そして集団が解散するときには、かつてメロスだった石売りの青年は、どこに行ったかわからなくなってしまっていた。


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