タイトルを書くと誰かがストーリーを書いてくれるスレ part8
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名無しNIPPER
[saga]
2024/07/10(水) 00:21:05.24 ID:23PJPhpF0
>>26
「Eye love you」
外を歩いているあいだかぶっていた白い柔らかなキャペリンハットを、きみはもう脱いでしまった。
そのせいで、それまでつばが隠してくれていた睫毛、瞳、まなじりが露わになった。
おれはそれを見るのがつらいんだ。だからいまこうして対面に座っているのも、相当我慢してるんだぜ。
知ってるか?
「もちろんそんなの知らないよ」
きみはコーヒーフロートをマドラーでかき回しながら言った。ものすごくびっくりしたよ。
まさか、心を読まれてるんじゃないかって思ってね。でもそういうわけじゃないみたいだ。
「あなたがあんな風になっちゃうなんて、結婚したときは思っても見なかった。
でも不思議だね、なんだかずっと前のことみたいに思えるし、実際そうだと思っているんだけど、
話しているとそういう気分になるのに、でもあれは1年とちょっと前のことなんだよね。
その間に、10歳も15歳も年取っちゃったかも」
それはおれとは全然違うな。おれはむしろ若返った気分だよ。
きみがおれの求めに応えてくれて、おれはすごくうれしかった。
そんなことがあるなんて、きみと会ったときは思っても見なかったからな。
あのときはきみは美人で、優しかった。おれは静かで、伏し目がちだった。
きみはそのころと大きくは変ってはいないよ。成長すべきところを成長させて、いいところはそのまま持っていたんだ。
だから安心して、きみは年を取ったんじゃないよ。おれがきみの思うほど成長していないだけなんだ。
時たま、きみはマドラーの小さなスプーンでコーヒーフロートをすくって食べた。
それに合わせて、くるんと波のように反る睫毛がぱちん、と瞬くのは星に似ていた。
その動作には迷いがない。とても真っ直ぐだ。おれはそんなきみに憧れていたよ。大好きだ。
「ん?」
きみは視線をあげておれの目を見る。
「どうした? わたし、なんか変なとこある?」
「いや、ないよ。むしろ完璧すぎるくらいだ」
なにそれ、ときみは笑った。ああ、視線が外れた。もっときみと目を合わせていたい。
でもそれはできない相談だろう。きみはどういう気持ちでおれの目を見ればよいのだ。
1年数ヶ月の結婚生活のうち、後半の9か月程度は、ほとんどきみとは顔を合わせなかった。
合わせられるはずもなかった。
だって、気づかれたくはなかったから。
罪悪感を抱えたくはなかったから。
生れてくる子どもを楽しみにしていた、きみの白い歯が脳裏に焼きつくのが恐かったから。
「言っとくけど、ぜんぜん許してないからね」
目を合わせずきみは言う。わかってる、と目を伏しておれは返す。
「許してないけど、忘れないから」
「それって、どういう意味で」
「いろんな意味でだよ」
そう言うときみは再び顔をおれに向ける。おれは変らず俯いている。
「おい少年」
きみはからかうような諭すような、あるいは呼びかけるような親密で、しかし泰然とした声音でおれに話しかける。
"おい少年" 懐かしいな、学生のとき、たまにふざけてきみはおれをそう呼んだ。
でもそれははるか遠くになりにけることだ。
「最後なんだから、ちゃんとお互いの顔を見ようよ、貴哉くん、わたしの目が好きって言って、いっつもわたしをみつめてたじゃん」
だから見せてあげる。きみは笑った。白い歯がくっきりと目立つ。その上できみの双眸が、水の月のように光っているとおれは感じた。
「きみ、わたしのことが好きだったんでしょ」
まったくほんとうにその通りなんだよ、とおれは思った。
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