88: ◆vVnRDWXUNzh3[saga]
2022/11/16(水) 22:06:44.07 ID:W1WHWUQU0
その傾向は、今この場で最も旺盛な“戦意”を漲らせているであろう2人についても変わりませんでした。
《…………りょうかーい》
《はぁ〜〜い………》
島風さん、そして白露さんの返答の声には、不満自体は非常にはっきりと表出していました。
しかしそれでもやはり扶桑さんへの反論はなく、電探上で彼女たちの反応を示す──他の水雷戦隊の方々と比して明らかに大きく突出した──青点もまた名残惜しそうな素振りは見せつつも両翼の隊列へ戻ります。
そのまま敵艦隊は、戦艦や重巡の皆さんによる射撃に追い立てられながらまさに“敗残部隊”という他ない様子で海域より離脱していきました。
「旗艦、よろしかったのですか?あのまま攻撃を続けていれば、ほぼ確実に殲滅できたと思いますが」
深海棲艦達の姿がある程度小さくなったところで、朝潮さんが扶桑さんに問いかけます。しかしながらその声色に疑念や苛立ちと言ったものは見られず、冷静でどこか淡々とした、よく出来た生徒が教師に問題の答え合わせを促しているような響きとでも言いましょうか。
この朝潮さんは父島鎮守府設立時の最初期に配属された艦娘の1人と聞きます。同府で総旗艦・筆頭秘書艦を勤め続ける扶桑さんとの付き合いも長く、当然綾波達より遥かに深く的確に彼女の思考を汲み取ることができるでしょう。
或いはこの詰問も、扶桑さんが下した判断の詳細を面識が少ない綾波達に共有するためという目的があるのかも知れません。
「ええ、そうする必要がないもの」
そうした朝潮さんの機微を察したらしく、扶桑さんもまた即答します。
日本語に不安を残すアメリカ艦の皆さんに配慮してか、日頃の喋り方から比べてもややゆったりとした口調でした。
「確かに殲滅は容易かったでしょうね。戦意が欠片でも残っているとは思えなかったし、あそこまで崩壊した指揮系統を私達の攻撃を受けながら敵が立て直せた可能性も極めて低い。
でも、殲滅する際に“労力”がどれだけ抑えられたにしろ、“弾薬と燃料”の消費量は無視できないものになっていたんじゃないかしら?」
総数300隻超、内1/3以上が撃沈できているとしても残余は200隻前後。統率がどれほど崩壊していようが、残存戦力の中で見れば未だ無傷か軽微な損害で留まっている艦の方が遥かに多かったはずです。
それらの全てを一撃必中で沈められたと考えるのは、流石に皮算用が過ぎますね。
戦艦や重巡といった高い火力と装甲を持つ艦種も母数が膨大である分やはりある程度は残っていたでしょうし、“組織的”な抵抗ができていなかっただけで反撃の砲火自体はチラホラと飛んできてもいました。
敵艦隊に反撃の糸口を与えないために回避運動等は交えつつ戦闘を続けるとなれば、確かに弾薬・燃料の何れも予想される消費量は決してバカになりません。
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