200: ◆vVnRDWXUNzh3[sage saga]
2023/04/05(水) 23:08:51.79 ID:hz8Qtao20
ケイが顔を上げ、此方を真っ直ぐに見る。向けられた瞳のその奥では、極めて強い決意の光が輝いている。
彼女だけではない。カチューシャも、アンチョビも、松風鈴も、遠藤はるかも。ほんの数秒前までルナティックモードもいいところの現実に打ちのめされていた筈の面々は、ケイが口にした一言を皮切りに全員が尽く戦意を取り戻していた。
無論、何もかも吹っ切れたというワケじゃない。カチューシャの目尻にはまだ涙が溜まっていて僅かに鼻を啜っているし、遠藤はるかは献血に全てを捧げたが如き顔色だ。アンチョビの唇は今にも血が滲みかねないほど噛み締められ、松風鈴の肩は室内空調がバチコリ効いているにも関わらず小刻みに震えている。
ケイにしたって、セリフの威勢の良さと反比例して顔色の悪さはエンドーといい勝負。声も掠れて酷くか細かった。
それでも、彼女達は“前”を向いていた。辛い現実を、自分達では本来到底手に負えない“大人の領域”を正面から受け止め、大いに傷つきながら尚も諦めてはいなかった。
西住みほを助けるという、彼女達が信じる“正義”の完遂を。
元々“理解していた”組に関しては言うまでもない。ミカは意味深に顔を伏せながら静かにカンテレを掻き鳴らし、ダージリンはいつの間にやら取り出したティーカップを傾けつつ微笑み、アスパラガスはようやく問題が一つ解決できたとでも言いたげに肩を竦める。
西住まほ、そして鶴姫しずかは、表情どころか全身から炎の如く強烈な闘気を漲らせて此方を見ていた。
「もう一度聞くわ、ソラ。私達が、ミホを助けるために次にやることは?」
川 ゚ -゚)「っ」
………ああ、認めるとも。再度ケイが此方に指示を促してきた時、不覚にもほんの僅かながら目頭が熱を帯びたことを。苦しみながらも現実を受け入れた上で、尚も戦うことを辞めず進み続ける彼女達の美しさに魅入られたことを。
“クライアント”からの要望や、その先に控える私自身の野望とは関係なく、ここに集う戦車道乙女たちの力になりたいと心の底から思ったことを。
我ながら笑えてしまう。彼女達に過酷な未来を背負わせたのは、悪逆無道の謀略に引きずり込んだのは、どこの誰だと。どのツラ下げて、力になりたいなどとほざけるのかと。
嗚呼、それでも。彼女達が“その道”を進むと覚悟を決めたのなら。
川 ゚ -゚)「…………………。ええ、そうですね」
先に述べた通り、外道と自覚した上で私にも外道なりの矜持がある。どんな事があっても、“最後の一線”を曲げはしない。
だが、仮に“その時”が来るならば。
それに備え、彼女達が自身の信じる“正義”を貫くために最大限の準備を整えておくこともまた。
川 ゚ -゚)「先ず、大洗町の現状に関する情報収集を最優先に行いましょう。その上で、ダージリンさんとまほさんには黒森峰と聖グロリアーナOGの人脈を介して関東沿岸部における自衛隊の展開状況を探っていただき──────」
“顧客”である彼女達に対する、【艦娘専門店】店員としての最低限守らなければならない矜持だろう。
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