243:名無しNIPPER[sage saga]
2022/03/22(火) 13:08:55.73 ID:XVB8s0iW0
自覚した時にはすでに遅かった。
人間のことを研究材料としては見られなくなっていた。
彼らに行ってきた研究は害悪であり、それを「非道」だと思うようになり、
それを行ってきた己に怒りをも抱いてしまう。
これはスパーダの生涯において最も劇的な変化だった。
それまでの彼は他者のみならず、己自身すら鑑みずに実験材料にするほど、
人格や生命それ自体にはなんら価値を認識していなかった。
しかしここで彼は生まれて初めて、
他者の人格や生命そのものに価値を見出し、
それを一方的に破壊する行為を「非道」とも感じた。
これはスパーダの存在そのものを揺らがしかねない一大事だった。
彼の根源的欲求は武力の探求であり、彼の人格も行動もすべてが
その欲求を基礎として形成されていたはずだった。
無数の悪魔を貪って取りこんできても
この探究心だけは一切薄まることはなく、
スパーダという人格を維持してきた不変の核であった。
だがいま、その核が揺れはじめていた。
人間に対する非道、その自己嫌悪が、絶対的欲求だったはずの武力探求を鈍らせ、
従来の「スパーダ」という人格を蝕みはじめていた。
彼が見出した人間の思念と感情の「強さ」は、
皮肉にも彼自身を殺すも同然の猛毒だった。
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