62:名無しNIPPER
2021/11/27(土) 22:52:51.00 ID:u50g9+A20
「文香、バカはよして。そこまでしてどうするつもりなの。無理をして倒れたのはどこの誰なの」
文香は答えずに、立ち上がった。まだ足はおぼつかないが、先ほどより、ちゃんと足に力が入っていた。
でも、それだけ。
万全なんて言葉からは、余りにも遠い。
「文香。そんな状態で舞台なんて立てるわけがないでしょ。あのカチカチのダンスより、もっとみっともないダンスになるわよ」
「みっともなくて……いいんです……」
「よくないわ、そんなの。いい、今時頑張ったの根性論なんて流行んないの。そうやって、頑張ったふりして周りに無理を言って、自己満足よ、そんなの」
「自己満足で……いいんです」
「よくないわ。そんなの全然」
「それでも……伝えたいんです。私は……」
「それって、一体……?」
私の手を振り払って、文香は歩みだした。
並々ならぬ思いが文香の横顔にはあった。でも、伝えたいとは、どういうことか。
舞台の上に立って、誰に、なにかを言いたいとでもいうのか。
そこまで言うなら、好きにすればいい。
自己満足な舞台に上がって、踊って、裸の王女様として頑張ってくれば、その伝えたい誰かに伝わるんじゃないか。
ムキになった私の気持ちは、再び崩れ落ちた文香の前であっという間に吹き飛んだ。
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