1:名無しNIPPER
2021/11/27(土) 20:20:32.22 ID:u50g9+A20
変な人、というのが彼女への最初の印象だった。
だってそうじゃない?
世の中じゃ誰もがスマホを見ているのに、彼女は本を読んでいたから。
文庫本じゃなくて、分厚いハードカバーの本を。
それでも、喫茶店や電車の中だったら、単なる読書家で済ませていたと思う。或いは、そういう場所で読んで、読書家ぶりたいだけの人。
でも読んでいる場所が、エレベーターの中だったら?
それも、本に夢中で、エレベーターが着いたことすら気づいてないとしたら?
それが私――速水奏と鷺沢文香の始まり。
初めて、事務所に来た日の事だった。
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2:名無しNIPPER
2021/11/27(土) 20:25:32.25 ID:u50g9+A20
アイドルになろうなんて思ったのは、小さな気まぐれだった。
色々なことにうんざりして、色々なことが嫌になって、色々なことから逃げ出したあの日の夕方。
3:名無しNIPPER
2021/11/27(土) 20:27:38.70 ID:u50g9+A20
彼女の見た目が、そんな考えに陥った一因であった。
深海を思わせる黒く深い長い髪の毛に、南国の砂浜のように白い肌。
4:名無しNIPPER
2021/11/27(土) 20:29:54.28 ID:u50g9+A20
変わった人だったけど、スタッフの人だろうか。
それとも綺麗な人だったし、案外、私と同じようなアイドルにスカウトされた人か。
5:名無しNIPPER
2021/11/27(土) 20:31:55.24 ID:u50g9+A20
今度は読んでいなかったのだろう。ギュッと胸の前で本を抱いた姿で彼女は私を見て立ち尽くしていた。
6:名無しNIPPER
2021/11/27(土) 20:33:11.94 ID:u50g9+A20
7:名無しNIPPER
2021/11/27(土) 20:35:19.22 ID:u50g9+A20
アイドルになったからと言って、すぐにあの煌びやかな世界に飛び出せる訳ではなかった。
湖を優雅に泳ぐ白鳥のようでも、水面下では必死に足をばたつかせている。
8:名無しNIPPER
2021/11/27(土) 20:36:43.44 ID:u50g9+A20
夕暮れ時。
並び立つビルを彩るのは、刺々しいスポットライトやLEDの装飾された看板の数々。どれもこれも自己主張が強くて、統一感なんてまるでない凸凹な都会の風景。
9:名無しNIPPER
2021/11/27(土) 20:38:08.83 ID:u50g9+A20
二人っきりのダンスレッスン。基礎的な振り付けをひたすら繰り返すような日だった。
運動には、多少の自信はあったけど、ダンスレッスンは想像以上にハードだった。
疲れた体に、程よい炭酸の甘さと冷たさが良く沁みた。
10:名無しNIPPER
2021/11/27(土) 20:40:25.46 ID:u50g9+A20
「千里の道も一歩から、でしょ」
「千里どころか、万里の道に感じます」
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