【ウマ娘】トレーナー「なんかループしてね?」スペ「2スレ目です!」【安価】
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363: ◆FaqptSLluw[sage saga]
2021/08/10(火) 21:53:22.19 ID:P9tFQQBJ0


「花火は火をつけてこそだ。そろそろやろうか」
「うん! トレーナーちゃん、つけてつけて〜!」


 両手に一本ずつ持った花火を差し出してくるマヤノ。差し出されたうちの一本を取り上げて、残ったもう一本に火をつける。

 マヤノは少し不服そうだったけれど、火が付いた途端にそんな表情は掻き消える。火薬の香りが一瞬香った瞬間、マヤノの表情は華が開くように明るくなり。

――しゅぼ、と一瞬音が鳴り響き、光の洪水。

 まるでシャワーのように流れ出る光の線。赤に青、白に緑と、目まぐるしく色を変えるそれを、マヤノは吐息を漏らして見つめていた。

 しばらく見て満足したのか、いつぞやのように花火を振り始める。……何かの文字だろうか。空中に描かれた線を追って――なるほどな、と頷いた。

 エル、オー、ブイ、イー。……つまるところLOVEだ。実にマヤノらしい文字だと思う。


「トレーナーちゃん、今なんて書いたかわかる?」
「……さぁな」
「むー。じゃあもう一回書くから……次は見逃さないでね!」


 そういいながら、マヤノは再び宙にLOVEを書き始める。そんな様子に苦笑をしながらも、和やかさを感じて思わず微笑んでしまう。

 今年の頭だったら、こんな気持ちにはなれなかったかもしれない。もっと後悔と停滞に満ちた気持ちで、こんな光景を見ていたかもしれない――そう思うと、たまらなくこの日常が愛おしかった。

 ずっと続いてほしい。そう願わずにはいられない。

 でも、それを運命は許してくれない。俺たちはこの時間が過ぎれば、再び元の場所へ――強欲渦巻くターフへと戻らなければならない。

 ……楽しい時間は、まるで花火のように、パッと咲いて、消えていく。楽しい時間であればあるほど、惜しみたくなるような時間であればあるほど、光のように消えていく。

 花火と戯れるマヤノのことを眺めて、俺は一つの気持ちに気付いた。夏の魔法か、あるいは――隠れていた気持ちが花火によって照らされたか。もしくは、マヤノを待つ間に感じていた”想い”とやらが増大してしまったか――。

 なんにせよ、共通して抱いた願いはたったの一つだけだ。


「トレーナーちゃん?」
「……ん、どした?」
「なんかヘンな表情してたから……どうしたのかなって思って」
「ああ、ちょっと考え事……っていうか、造詣を深めてた? っていうか」
「……? とりあえずトレーナーちゃん! これ持って!」


 そう言って差し出してきたのは、先ほどまでマヤノが握っていた花火と同じタイプのもの。ぎゅっと握らされ、何かと思ったら――。


「トレーナーちゃんも色々考えてることとか文字にしてみたら?」


 そういわれて、いつの間にか奪い取られていたチャッカマンで火をつけられる。

 あ、と口に出したのを皮切りに、花火の先端から光があふれだす。


「花火の線、消えるから。なにかいてもバレないよ、トレーナーちゃん」
「……なるほど、ね」


 一瞬何を書こうかな、と思って――ただの線を描いた。

 マヤノは首をかしげて、もう一度考えて――また首をかしげた。


「何かいたの〜?」
「何も」
「え〜、どうして?」


 不思議がるマヤノの頭に手を置いて、俺は小さく笑う。


「――一瞬で消える言葉なんて、ちょっと寂しいだろ」


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