【ウマ娘】エアグルーヴ「たわけがッ! 今日が何の日か知らんとは……」
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◆FaqptSLluw
[sage saga]
2021/07/25(日) 17:40:56.48 ID:kSZaZ/Zr0
「それで、俺があえて君にハンバーガーを食べさせた理由がわかるか?」
「ふむ、パンズはともかく、パティは大豆で出来ているね?」
「ご名答。ソースもカロリーを出来る限り取り除いたうえで、味を似せている」
「随分と器用になったものだね」
「君のおかげだ」
「そうかい。だったら還元してもらわないとねぇ」
還元、と鸚鵡返しすれば、タキオンは頷いて、こちらに手を差し出す。
いつもは長すぎる袖に覆われているものだから、差し出された手の白さにびっくりした。
思わず怪訝にタキオンを見ると、彼女はいつにもまして爛々とした目でこちらを見つめていた。
「……俺には君の考えが見通せない」
「だが汲み取ることはできる」
「汲み取れないからこういう質問をしていると気付いてほしいものだが」
「それこそ”汲み取れない”だろう? 君が第一に聞くべきは”何か御用ですか、タキオン様”ではないのかな」
「堂々巡りだな。で、還元って具体的に何を欲してるんだ、タキオンは」
ふむ、とタキオンは一つ考えて。
「私は日夜思考を欠かさない。眠るときくらいだろう、あるいは眠っているときも思考は止まっていないのかもしれない。つまりそれは、思考するために必要なリソースを常に消費している、と言い換えることもできる」
「ほう」
「思考に必要なものは大きく分けて二つ。睡眠と――適度な栄養摂取だ。一般的にはブドウ糖を摂取することにより脳細胞の活動が活発化する、などと言われているが……物事はそう簡単ではない」
「……へぇ」
「心と頭の関係だ。心という非実際性でありながら、しかし明確に存在する人間の器官は、我々のパフォーマンスに大きな影響を与えてくれる」
「つまりだ、君は何を言いたいんだ?」
「もう一つくれ」
「もうないぞ」
「えぇーっ?!」
ここにきてタキオンが相貌を崩した。
「君、私のトレーナーなら私の要望を前もって予想したうえで行動するべきだろう!」
「いや、そもそも材料の都合上一個しか作れなくて」
「今すぐ調達したらどうだね、トレーナーであるならば!」
「そんな無茶な……」
「今すぐ準備しろよー。はーやーくー」
いつもは理知的だが、自身の要望が通らないことがあるとこうなる。
俺以外の誰の目にも触れたことがないであろうこの態度が、少しむずがゆくて俺は好きだった。
だが。
「ないものはない」
「……」
「無言で見られても作れないからな」
「……」
「……本当だ」
「……」
「……はぁ。わかった、今すぐには無理だから、今日の夕方だったらどうだ?」
「それでいいんだよ、さすが私のトレーナー君だね」
「現金な奴だ……」
「物質主義の何が悪い、本来知性ある生き物は――」
「はいはい、理解してるぞ。じゃあ今日の夜、トレーナー室に来い。実験にかまけて遅れるなよ」
タキオンは聞いているのか聞いていないのか、こくりと頷いて部屋を出て行った。
……ちなみにだが、やはりと言うべきかタキオンはやってこなかった。
ので、研究室にハンバーガーを持っていくと、珍しくタキオンが眠っていて。
ひょっとして、期待のあまり体力を使いすぎたのだろうか、なんて思って。その様子が少しだけ微笑ましく思えた。
こうして、今日も一日が暮れていくのだ。明日もまた、タキオンのわがままに付き合わされる日が待っているんだろう。
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