結標「私は結標淡希。記憶喪失です」
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779: ◆ZS3MUpa49nlt[saga]
2022/01/15(土) 23:55:52.04 ID:2z6G7I5Go


 少年院地下四階にあるエレベーター前の通路は荒れ果てていた。床や壁や天井といった通路にある全ての面はボロボロになっていた。
 巨大な彫刻刀で削り取られたような傷が、鉄球を叩きつけたようなひび割れが、ドリルでこじ開けたような穴が。
 それらのダメージが四方八方へ数多の数見られた。

 そんな中を垣根帝督が肩で息をしながら立っていた。
 口の端に流れる血を手で拭って、


垣根「何でだよ!? 何で倒れねえんだよテメェは!? 必殺の一撃を何発も、何十発もぶつけたはずなんだッ!! 何でテメェは死なずにそこで立ってんだッ!!」


 膝を軽く曲げ、前かがみ気味の体勢になり、ぜぇぜぇと息をする上条当麻へ喚き散らすように聞いた。
 着ている服がボロボロに破け、元々負っていた怪我の傷から再び血が吹き出し、覆っていた白いガーゼや包帯が赤黒く変色している。
 痛めているのか、右手で押さえている左腕が力なく垂れ下がっていた。霞んで焦点の合っていなさそう目でも、しっかりと 垣根を見ながら答える。


上条「……言った、だろ? 絶対に、通さねえってよ。二人の、邪魔はさせねえってな」


 息を交えながら途切れ途切れになっている言葉を聞いて、もう限界なんだと垣根は思った。
 いや、限界なんてとっくの昔に越えているはずだ。
 いつ体が動けなくなってもおかしくない。いつ意識が飛んでもおかしくない。いつ死んでしまってもおかしくない。
 そんな人間がなぜ、未だに垣根帝督の前に立ちふさがっているのか、彼は理解できなかった。

 優勢なのはこちらのはずだ。誰が見ても明らかだ。
 こちらはニ、三発の拳を受けただけだ。素人が喧嘩でやるような稚拙な打撃。
 致命傷なんて一つも貰ってはいない。体力も有り余っている。今からこの建物を滅ぼせと言われれば百回は滅ぼせられるほどに。
 だが、優位に立っているはずの垣根の心臓の鼓動が早くなる。掌が汗で湿る。足が震える。
 まるで追い詰められているのはこちらじゃないか。垣根は歯噛みする。


上条「……どうした?」


 上条が問いかける。


上条「もう、終わりかよ? テメェの未現物質(ダークマター)ってのは、その程度なのかよ?」


 挑発のようなセリフを言う上条。それを垣根は理解が出来なかった。
 なぜこの状況でそんな強気なセリフを吐けるんだ。
 少し小突いただけでぶっ倒れてしまいそうな体で。HP1のゲームのキャラクターみたいな状態で。


垣根「じょ、上等じゃねえかテメェ!! お望み通り全力でぶっ飛ばしてやるよッ!! この建物ごと、俺の未現物質(ダークマター)でなァ!!」


 垣根の背中から六本の白い翼が現れた。
 ガギギギギッ、とその翼は不気味な金属音のようなものを鳴らしながら、後ろへ後ろへ伸びていく。
 一〇メートル、二〇メートル、地下の壁を突き破り三〇メートル、四〇メートル……。
 気付いたら垣根の背中には、一〇〇メートル以上の長さを持つ巨大な翼が出来上がっていた。


垣根「原理はゴムと一緒だ。伸ばせば伸ばすほど力が大きくなる。一〇〇メートル以上伸びた俺の翼はその弾性で途中にある空気や障害物を全部巻き込んで、圧倒的な質量の塊と一緒に前方にあるモン全部吹き飛ばす」


 翼の付け根が唸るような音を上げる。


垣根「テメェの超能力を打ち消す右手は、どうやらチカラによって副次的に起こされる物理現象までは打ち消せねえようだな」


 垣根はこの数分の戦いで得た知識をひけらかす。
 例えば未現物質で作った翼による攻撃は打ち消せるが、未現物質で破壊した壁から飛び散る欠片は打ち消せない。
 だから、翼を引き戻す際に発生する風圧や、それと一緒に飛んでいくガレキは上条には防げない。





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