結標「私は結標淡希。記憶喪失です」
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2: ◆ZS3MUpa49nlt[saga]
2021/07/03(土) 23:40:39.52 ID:J2dUQG+bo


風が吹き荒れる中、二人の能力者が相対していた。



一人は少年だった。

触れたら折れてしまいそうな華奢な体。
透き通るような白い肌を持ち、肩まで伸ばした髪の毛は、それに同調するよう黒をそのまま脱色させたような白色をしていた。
中性的な顔立ちからして、知らない人間が見れば白人の女性と見間違える人がいてもおかしくないだろう。
全体的に白で統一された容姿だが、瞳は真紅に輝いていて、彼の圧倒的存在感を助長させていた。


一人は少女だった。

腰まで伸びる長い赤髪を二つに束ねて背中に流している、歳相応の顔付き、体付きをした至って普通の少女、いや、至って普通と形容するのは間違えだと感じる。
彼女の右手には軍用懐中電灯という、その姿に似付かわしくない物が握られているからだ。
警棒を兼ねることが出来るそれは使い方によっては凶器にもなるようなもの。
そのような暴力を、まるで手に馴染んだシャーペンを気軽さに持っているかのように、手に持っているからなおさらである。


「――つーかよォ」


白い少年が呆れた様子で口を開いた。


「オマエみてェな格下がこの俺に楯突こォなンざ、本当に面白れェ話だよなァ? ホント馬鹿みてェなヤツだなオマエって女はよォ」


「…………ふふっ」


神経を逆撫でするような言葉を受けても少女は特に気にする様子もなく、不敵に笑う。


「そんなこと言っちゃってもいいのかしら? 今の貴方の置かれてる状況っていうのはお分かり?」


「あァ? 何言ってンだオマエ?」


「……やっぱり分かっていないようね。本当に理解できるような人なら、普通貴方みたいな口答え出来ないはずだもの」


一呼吸を置き、少女は勉強を楽観視する成績不振の生徒へ現実を告げる教師のような口調で語りかける。


「最初はお互いたくさんの仲間達がいたわ。もちろん貴方にも、一人一人が頼もしくて力になってくれるような仲間がいたわけよ。……でもその頼りになる貴方の仲間たちは次第に数が減っていった。一人減ってはまた一人、って具合にね」


手持ち無沙汰になったほうの手で、軍用懐中電灯を適当に触りながら少女は続ける。


「それに比べて私たちは誰一人欠けていないわ。当たり前よね。そういう風になることは、最初から誰もが分かっていたことなのだから。これはそういうものなんだって」


「…………」


少年は特に反論もすることなく少女の方へ顔を向けていた。


「……つまりは多勢に無勢、いや、そういうレベルを明らかに超えてる絶望的な状況……そうね。まさしく貴方は今絶体絶命の状況へ陥っているってわけ」


少女が言った多勢というのは嘘でも妄言でもない。たしかに彼女の周りにはたくさんの人影があった。
その人影は獲物を逃がすまいと少年を取り囲むようにと広がっている。
絶体絶命。彼女が言ったように少年は端から見ればそういう状況にある。





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