【ウマ娘】トレーナー「なんかループしてね?」【安価】
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732:いぬ ◆FaqptSLluw[sage saga]
2021/07/11(日) 08:25:31.00 ID:enp2fy890

 がちゃり、と。控室のドアが控えめに開かれた。


「あ……」


 俺が此処に居ると分かっていたはずなのに、まるで此処に居ることに驚いているかのようなマヤノ。

 何か声をかけなければ――そうは思うが、マヤノの纏う雰囲気が、簡単に声をかけることを躊躇させた。

 静かに部屋に入って、椅子に座るマヤノ。うつむき加減の表情は、見えない。

 その後、しばらくは静かな空気が控室に広がる。やがて、観客の声が遠のいて――そうなってようやく、マヤノが口を開く。


「と……。――っ! トレーナー、ちゃん!」


 ぐし、と一度目元をこすって。

 マヤノは――作り物の満面の笑みを作って、声を張り上げる。


「マヤ、マヤ……。……っ。マヤね……っ」
「マヤノッ! もういい、もういいんだよ……。君は十二分に頑張った! ナイスネイチャにも勝ったっ! 俺も此処に居る……!」


 マヤノの前に立って、ぐ、と握られた手のひらを包み込む。

 でも、マヤノの手のひらから伝わってくる震えは止まらない。

 思わず、マヤノのことを抱きしめていた。……その体は、手のひらよりも震えていた。


「トレーナー、ちゃん……。マヤね、マヤね……負けちゃったぁ……っ」


 小さくつぶやくマヤノ。震えている手のひらがもっときつく握られて、口元は一文字に結ばれた。

 じくり、じくりと。シャツに悲しみがにじみだす。


「消えちゃうかと思った……! 負けられないって、そうおもって! でも……マヤは……!」
「……。もういい、もういいんだ。今日はちょっと調子が悪かっただけだよ」
「ちがうもん……っ! あの人は、あの人は強かった……。 マヤじゃ絶対に届かない、遠いとこに居たんだもんっ! 負けた! マヤは! 負けたんだよ……トレーナーちゃん……」


 何も言えずに、俺はマヤノのことを抱きしめることしかできなかった。

 自分の非力を悔やむ声。自分の不出来を悔やむ声。恐怖。絶望。

 マヤノが呟くたび、シャツのシミは増えていく。

 それらすべてが、俺が彼女に背負わせてしまった重さだった。


「ごめんな……」
「……っ。うぁ、あ、あ、ああ、うあぁ……」


 一度切られた堰が止まることはない。

 マヤノから嗚咽が漏れ、俺はそれを受け止めることしかできない。

 慰めることなんてできなかった。俺がこんな変な運命を背負ったトレーナーでなければ、こんな思いさせずに済んだ。

 彼女の苦しみは、俺の存在があって助長されていた。そう考えるからこそ、慰めることは、なんとなく憚られた。

 ただただ、俺はマヤノの背中を撫でて、涙が枯れるまでを待つしかできずにいた――。


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