【ウマ娘】トレーナー「なんかループしてね?」【安価】
1- 20
67:いぬ ◆FaqptSLluw[sage saga]
2021/06/12(土) 02:40:41.05 ID:ICXtl3UQ0
――大丈夫。

 僕はその言葉の無意味さをよく知った。

――勝てるさ。

 僕はその言葉の無責任さをよく知った。

 ああ、よく思い知ったさ。
 だから、だから――思い知ったから。
 目の前で走っているあの子だけは、どうか救ってくれよ、三女神様――ッ!

――――――

 パドックに入り、スペシャルウィークは周囲をまず見渡した。
 ウマ娘にそのような器官があるわけではないが、なんとなく戦うウマ娘がどれくらいの力量を持つか、理解することができる。
 だからこそ、スペシャルウィークは少しだけ拍子抜けした。

――ここには、"みんな"みたいに強い子はいない。

 理性では異なるとわかっていても、しかし本能があまりに高らかにスペシャルウィークの脳裏に事実を焼き付ける。
 此処に居るのは、スペシャルウィークよりも格下のウマ娘たち。ふと脳裏に、よほどのことが無ければ勝てる、と励ましたトレーナーの言葉が過る。
 確かに、勝てるのではないか――。そう思うことは、もはや致し方のない帰結だった。だが同時に、その思い込みこそが、彼女の脚を破滅へと追いやる。

 きっかけは些細なことだった。
 無意識下で油断していたから、ゲートから出遅れた。
 たったそれだけのことだった。これであれば、まだ巻き返せる。気を入れなおせば。
 スペシャルウィークがそう思った直後だった。

――スペシャルウィークもそうだが、君たちの世代には有力なウマ娘が多数在籍している。エルコンドルパサー、セイウンスカイ、キングヘイロー、グラスワンダー……。いずれも名だたる名馬だ。
――そんな環境下だから、君たちは注意すべき存在となる。つまり、君たちはブロックされやすくなる――。道理としてはこうなるが、わかるか?

 はい、と答えたはずだった。もちろん、スペシャルウィークとてトレーナーの言葉を忘れるはずもなかった。――だが、既に賽は投げられていたのだ。
 スペシャルウィークの出遅れを察知したウマ娘が、途端にスペシャルウィークの周囲を囲う。――ブロックだ。
 彼女らよりもスペシャルウィークのパワーは勝っていたが、しかし戦いは数であるというように、彼女たちは数の力でスペシャルウィークを完封した。抜け出せない。

 どうして、という声が脳内でリフレインした。

 次第に息が切れ、差すことも不可能なほどに足が重くなり、全身が鉛になったかのような重い倦怠感がのしかかる。
 ブロックしていたウマ娘も、スペシャルウィークのスタミナが完全に切れたことを察知し、ペースを上げて離脱している。スペシャルウィークは、今此処でレースをしている状態であるのにも関わらず。

――孤独だった。

 そう理解した瞬間、恐怖した。負けてしまうことに?
……否、置いていかれることに。
 黄金の世代とまで呼ばれるスペシャルウィークの世代。彼女も見劣りはしないものの――しかし、現に今おいていかれている。
 レースにも。そして――"みんな"にも。

 息が重い。
 肺から血の香りが昇ってきて、鼻腔に満ちてくらくらする。
 足が重い。動かない。
 先ほどまではターフの先を映していた瞳は、白んで何も捉えていない。
 少しだけ動く耳だけが、誰かが叫ぶ声を感じとる。
 でも、何を言っているのかわからない。
 ああ、きっと応援してくれているんだな。――そう思うが、スペシャルウィークの心はもはや動かない。
 
――日本一になれなどしない。

――私は、スズカさんにみたいには、なれない。

 輝かんばかりのステージでセンターを飾る、憧れのウマ娘のように、私はなることができない。
 できない、出来ない。できないできないできない、できないできない出来ない出来ない――。不可能だ。無理だ。難しいのだ。これこそが否定と――拒絶の念だった。
 もうやめてしまいたい。
 スペシャルウィークは、そう思う他、何もできなかった――。


<<前のレス[*]次のレス[#]>>
1002Res/543.55 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice