【ウマ娘】トレーナー「なんかループしてね?」【安価】
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いぬ
◆FaqptSLluw
[sage saga]
2021/07/08(木) 20:26:41.52 ID:Rij5zJfu0
――薫風が肌を撫でる感覚。
春先の僅かに水気をまとった匂いが鼻腔に満ちて、吐き出せば春の気配だけが肺の中に残る。
気温がだんだんと上がり、麗らかな陽気で着飾ったターフは風に戦いでいた。
そんな朗らかさを感じる競馬場において、その一角だけはまるで真冬のような剣呑な雰囲気を吹雪かせていた。
「どうも、ご無沙汰しております。私、ナイスネイチャのトレーナーをやらせてもらっています、会田と申します」
会田トレーナー。トレーナーの記憶には彼の情報はなかったが、最近はその敏腕さが高く評価されているトレーナーである。
曰く、隠されていたナイスネイチャの才能を発掘した天才調教師。
曰く、自己実現欲求が低かったナイスネイチャを輝かせた天才コミュニケーター。
曰く、当代に二人といない、全ての能力を高い水準で備えた次世代の天才トレーナー。
最近のトレセン学園の話題のうち、トレーナーに関連する話で彼の話が出ないことはないほどの注目株である。
トレーナーは軽く会釈をし、彼と同様に自己紹介を軽く行う。差し出された手のひらを握り、また会釈。――平穏な交流であるかのように思えるが、しかしトレーナーの心中は冷え切っていた。
「皐月賞という大舞台で、ナイスネイチャとマヤノトップガンが争う姿を見れる――。多くの観客は、二人の勝負を目当てに来ているんでしょうね」
「……そうですね。会場の話題は二人でもちきりです」
「観客の期待に応えられないウマ娘たちではないと思います。あとは――彼女たちを育て上げるトレーナーの手腕が、勝負を決める……そう私は考えています」
その言葉に、わずかにトレーナーは首をかしげる。その方針や考え方はありふれたものであるにも関わらず、だ。
「……そう、ですかね? 俺はなんとなくそれだけではない気がします」
「……。まぁ、そうなのかもしれません。彼女たちの勝負で、それが見えてくるのであれば――トレーナーとしてまた一つ成長できるかもしれません。我々としても見逃せない勝負になりそうですね」
「ええ。……今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ。よろしくお願いいたします」
今一度握手を交わし、トレーナーはそれぞれの控室に戻っていく。それぞれの視線には、その熱量のベクトルの違いはあれど――戦意が滾っていた。
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