1:名無しNIPPER
2021/05/23(日) 10:58:43.09 ID:VDGJuTNc0
「おばぁぢゃぁぁぁぁぁあん!?」
「あらあら、どうしたの?」
ある土曜日の昼下がり、可愛い可愛い孫娘が私を訪ねてやってきました。
SSWiki : ss.vip2ch.com
2:名無しNIPPER
2021/05/23(日) 11:02:40.56 ID:VDGJuTNc0
「お兄ぢゃんがぁぁぁぁああ!」
「ふふふ、もう、しょうがないんだから…」
どうやら、お兄ちゃんと喧嘩をしたらしい。普段は仲良しな分、喧嘩をすると堪えるのかしら。
3:名無しNIPPER
2021/05/23(日) 11:04:16.14 ID:VDGJuTNc0
「ほら、これでも食べて落ち着いて」
「ふぁい…」
4:名無しNIPPER
2021/05/23(日) 11:05:42.17 ID:VDGJuTNc0
「ん!?」
「どうかしたの?」
「おいひい!!!」
5:名無しNIPPER
2021/05/23(日) 11:07:11.27 ID:VDGJuTNc0
「それで?お兄ちゃんとどうして喧嘩になったの?」
「そうだ!聞いてよおばあちゃん!お兄ちゃん!アタシが見てたテレビのチャンネル勝手に変えたの!」
「あらあら」
6:名無しNIPPER
2021/05/23(日) 11:09:19.48 ID:VDGJuTNc0
「『お前はいっつもいっつもヒーロー見過ぎ』って…ついこの間まで、お兄ちゃんだって好きだったのに…」
ただでさえ、背が大きくて、大人っぽく見られがちな彼女にとっては、家族だけは理解してくれると思っていたのだろう。もちろん、お兄ちゃんには裏切ったつもりはないのだろうけれど。
7:名無しNIPPER
2021/05/23(日) 11:10:30.29 ID:VDGJuTNc0
「それに今日はヒーローじゃなくて、ライブの映像見ようとしてたのに…」
「あら?そうなの?」
「うん!!!!放クラのデビューライブ!!!」
8:名無しNIPPER
2021/05/23(日) 11:11:43.51 ID:VDGJuTNc0
「やっぱり樹里ちゃんはかっこいいです!!!」
ヒーローを語る時と同じ熱を帯びた目で、彼女は放クラのメンバーについて語り出した。私はそれを聞き、相槌を打ちながらお茶を啜る。
9:名無しNIPPER
2021/05/23(日) 11:12:45.48 ID:VDGJuTNc0
「あっ!?もうこんな時間…」
気づけば、日も暮れかかり、時計の針は六時を指していた。
「もう帰らないといけないねぇ」
10:名無しNIPPER
2021/05/23(日) 11:15:16.22 ID:VDGJuTNc0
「アタシ、おばあちゃんと一緒に住む!!!」
「あらあら…貴女には素敵な家族がいるでしょう?」
「…でも一番凄いのは、おばあちゃんだもん!!」
11:名無しNIPPER
2021/05/23(日) 11:16:49.90 ID:VDGJuTNc0
「アタシ、おばあちゃんと一緒に住む!!!」
「あらあら…貴女には素敵な家族がいるでしょう?」
「…でも一番凄いのは、おばあちゃんだもん!!」
12:名無しNIPPER
2021/05/23(日) 11:18:00.38 ID:VDGJuTNc0
「みんな?」
「うん!!!みんな言ってるよ!!!『あの人より優しい人は見たことがない!』とか『あの歳であの美しさは反則だ!』とか…」
あぁ、違うのよ、愛しい孫娘ちゃん。私は別に優しくも、美しくもないの。
13:名無しNIPPER
2021/05/23(日) 11:19:45.85 ID:VDGJuTNc0
「ふふふ、大袈裟ですねぇ」
「大袈裟じゃないよ!今日だって、アタシの話聞いてくれたし…いつも、アタシが来るたびに新しいお菓子を用意してくれる…歌もとっても上手だもん!!!」
「歌は好きだから続けているだけですよ」
14:名無しNIPPER
2021/05/23(日) 11:20:48.10 ID:VDGJuTNc0
「本当はね、いたのよ。私より優しいあの人が。私より美しいあの人が。私より美味しいお菓子をくれるあの人が。私より自分に厳しいあの人が。私はそれを真似してるだけ」
「えぇ!?本当に?」
「本当よ…もうみんな、随分前に遠いところにいってしまったけれど…」
15:名無しNIPPER
2021/05/23(日) 11:22:03.07 ID:VDGJuTNc0
「ええ本当よ、そしていつかは貴女もそうなるの」
「そんなの…無理だよ…アタシはおばあちゃんみたいになんて…」
「なれるよ」
16:名無しNIPPER
2021/05/23(日) 11:23:07.45 ID:VDGJuTNc0
「おばあちゃんも貴女くらいの歳のころはそうだったよ」
「えぇ!?おばあちゃんが!?嘘だよ!そんな話聞いたことないもん!」
そうね、確かに貴女から見れば私のわがままなんてイメージは無いのかもしれないわね。けれど…
17:名無しNIPPER
2021/05/23(日) 11:25:14.73 ID:VDGJuTNc0
「私はね、とても大きなわがままを言ったもの」
「…そんなに大きなわがままだったの?」
「えぇ、今後の人生に関わるような大きな大きなわがままを聞いてもらったの」
18:名無しNIPPER
2021/05/23(日) 11:27:17.70 ID:VDGJuTNc0
そして、私は今でも…一人になった今でも、こうしてあの人たちの真似事をして面影を残そうとしている。それは私の自己満足で、やっぱりわがままなのだ。
「ねぇ、おばあちゃん…だったらさぁ…」
「ん?」
19:名無しNIPPER
2021/05/23(日) 11:29:34.56 ID:VDGJuTNc0
あの人たちの前では、いつまでも子供だった私。それが嫌だった頃もあった。いつまで経っても自分一人だけが、かっこいいあの人たちに追いつけない。そんな風に思っていた頃もあった。けれど、今はあの頃のようにもう一度と願わずにはいられない。『おばあちゃん』としてよりも、『小宮果穂』としての方がきっとこの子の背中を押せるから…だから、『私』はほんの一瞬『アタシ』に戻る。
20:名無しNIPPER
2021/05/23(日) 11:30:33.52 ID:VDGJuTNc0
「おばあちゃん…」
「んー?」
「…なんだか眠たそうなんだけど…」
21:名無しNIPPER
2021/05/23(日) 11:31:48.82 ID:VDGJuTNc0
「…アタシ、帰る。帰ってお兄ちゃんと仲直りしてくるよ」
「…えらいねぇ」
いつだったか、自分も兄との喧嘩を美しいあの人に相談したことを思い出す。本当に何から何までそっくりだ。
26Res/9.80 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20