7:名無しNIPPER[saga]
2021/05/16(日) 20:07:24.59 ID:emsexCaj0
「新しいトレーナーは教え方が上手いようでね。今のところ順調だよ」
病室に備え付けのパイプ椅子に座って、
慣れた手つきで林檎の皮をむきながら、タキオンが言う。
つくづく月並みな見舞品だとは思うが、月並み以外のやり方を知らない。
来るたびに林檎を持ってきて、目の前でむいて差し出してくるのを、
トレーナーは嫌な顔一つせず、むしろ嬉しそうに、そして飽きもせず口に運ぶ。
昔からこの人は、自分の我儘に文句を言いつつ、甘やかして受け入れたっけと、ぼんやりと考える。
それが当たり前だと思っていたし、そのことがやけに心地よかった。
「フ、落ち込むことは無いさ。君は確かに私を有馬記念で勝たせた」
林檎を切り分け、皿の上に置いて差し出す。
「だが君の上にも下にもたくさん人がいる。この世界は当然、君が考えている以上に広いのさ」
トレーナーは偉そうなタキオンの物言いに苦笑しながら、林檎を食べる。
ゆっくりとフォークを林檎に突き刺し、口の前に持っていき、口を少しだけ開けて、
先端を軽くかじってから、少しだけ咀嚼して飲み込む。
弱弱しい食べ方だ。
そんな食べ方をされると、どうしようもなく、なぜだか、ひどく胸を掻きむしりたくなってしまう。
「…油断は大敵とでも言いたいんだろう?あいにく、準備は万端だ。その上で予測をしているんだよ」
ふふんと、余裕ぶって、タキオンは一つ上から物を言うように、トレーナーを見下ろす。内心など、おくびにも出さない。
以前と同じ態度で接する。
そうするとトレーナーは、タキオンのことを、かわらないなぁというような目で見て、少し嬉しそうにしてくれる。
だからタキオンは、いつものように、自信ありげな薄笑いを浮かべる。
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