【シャニマス 】果穂(16)「普通って、なんですか?」
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名無しNIPPER
2021/05/14(金) 00:52:13.25 ID:97gKkE/X0
おそらく自分は、普通の人生を送れない。
なんとなくそう意識し始めたのは、たぶん中学生の時だったと思う。
放クラの活動が軌道に乗ってきて、アイドルをすることにも慣れてきた頃、周りの同級生たちが部活を始め、それまでお遊びだったクラブ活動とは打って変わって、本気で「大会」を目指すような部活動を始めて、なんとなく感じ始めた。
もちろんあたしは部活動はどこにも入っていなくて、アイドル活動で成果を出すことで特例として認められていた。他のみんなにその話をするときは、ちょっと誇らしい気持ちだったのを覚えている。普通じゃない、特別な優越感。
でもわがままなことに、同級生たちと競い合う時間を、ちょっと羨ましく思うこともあった。
蝉が鳴いている。その蝉の声と同じくらいの音量で、吹奏楽部が練習している音が聞こえてくる。
高校の教室は校門から遠いところにあって、中庭を通っていると、教室で練習している吹奏楽の音がよく聞こえる。こんなに大きな音を出す楽器より大きく聞こえる蝉の鳴き声って、すごい。
なんとなく「あー」と声を出してみると、芝生を踏む自分の足音が、消えてしまったような気がした。
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名無しNIPPER
2021/05/14(金) 00:53:44.17 ID:97gKkE/X0
プールの横の自動販売機で、いちごオレのボタンを押した。ガコン。暑い。夏休み直前の日差しはシャツの中まで蒸すような暑さで、日焼け止めを塗っていなかったら今頃どうなるのだろうと冷や汗が流れる。夏はドラマの撮影があるのに。
同級生が使っているのよりも良い日焼け止めで肌を守っても、暑いものは暑い。ほんとは水の方がいいのだろうけど、甘いものを飲みたい気分だから今日は仕方ない。
このあとダンスレッスンがある。この甘味の分は後から取り戻せばいい。一口含むと、炎天下の自販機で冷やされたいちごオレは口の中から身体を冷やしてくれた。ここだけ冷房が効いたみたい。罪悪感があるからか、あんまり甘くはなかった気がする。
以下略
AAS
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名無しNIPPER
2021/05/14(金) 00:54:48.35 ID:97gKkE/X0
スマホで時間を確認すると、待ち合わせの15分前だった。プロデューサーさんが来る前に、いつものコンビニに着いておきたい。
高校に入ってすぐ、夏葉さんが車で迎えにきてくれたことがあった。当然、あんな目立つ車が高校に来たら高校生は大騒ぎになる。
夏葉さんは慣れてるからか、ものともしてなかったけど、あたしはなんだか恥ずかしくて、助手席に乗りながら次からはコンビニにしてください、と言った。それ以降、事務所の人が高校に直接来ることはない。
多分、それが普通の高校生だから。
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名無しNIPPER
2021/05/14(金) 00:56:10.89 ID:97gKkE/X0
「おつかれ果穂、水飲むか?」
待ち合わせの5分前なのに、コンビニのいつもの場所に車は止めてあった。外からは中が覗けないようになってるけど、ナンバープレートで覚えてるからすぐ後部座席のドアを開ける。
「いいです。持ってるので」
以下略
AAS
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名無しNIPPER
2021/05/14(金) 00:57:00.84 ID:97gKkE/X0
「暑いな、今日も」
露骨に話題を作るプロデューサーさんを、このまま無視したらどうなるのかちょっと想像してみる。たぶん、自分で返事をしながら車を出すんだろうな。
ちょっと前のあたしならすぐに返事をしてたと思うけど、最近はなんだか、ちょっとプロデューサーさんにムッとなることが多い。
なんだか、距離感にムズムズするのだ。喉が渇いているのを当ててきたこともそうだし、
以下略
AAS
6
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名無しNIPPER
2021/05/14(金) 00:58:05.30 ID:97gKkE/X0
喉が渇いたのでいちごオレを飲もうとしたけど、プロデューサーさんに見られるのがなんだか嫌で、代わりにスマホを開いた。学級委員からクラスのグループに、明日の日課が送られてきている。すぐに画面を閉じる。
「じゃ、ちょっと早いけど行くか」
「はい」
以下略
AAS
7
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名無しNIPPER
2021/05/14(金) 00:58:40.61 ID:97gKkE/X0
「果穂! 今日は早いのね!」
少し遅れてレッスン室に入ってきた夏葉さんが、元気に声をかけてきた。
「はい、今日は短縮授業の日なので!」
以下略
AAS
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名無しNIPPER
2021/05/14(金) 00:59:29.63 ID:97gKkE/X0
レッスンが終わっても、まだ蝉は鳴いていた。人通りの少ない道を選んで事務所に向かいながら、夏葉さんとアイスを齧る。
「果穂はもうすぐ夏休みかしら?」
「そうです! でもその前に、お盆特番の収録で凛世さんとお泊まりロケがあります」
「羨ましいわね」
以下略
AAS
9
:
名無しNIPPER
2021/05/14(金) 01:00:12.56 ID:97gKkE/X0
夏葉さんは大学を卒業したあたりから、あたしたちがお菓子を食べてても何も言わなくなっていた。むしろ、こうして一緒に食べることの方が多い。この時間も大切にしてくれているのかもしれない。
「夏葉さんは映画の撮影、どうですか?」
「順調よ! 昨日は1つ目の打ち上げがあったわ」
以下略
AAS
10
:
名無しNIPPER
2021/05/14(金) 01:00:42.66 ID:97gKkE/X0
そう思うと、夏葉さんは成人したての時期にあまりお酒の場に顔を出さなかったということになる。凛世さんは、大学生になってすぐは新歓に呼ばれた話をよくしてくれていた。
「夏葉さんは」
「ん?」
「……夏葉さんは、普通の大学生活、送りたかったですか?」
以下略
AAS
11
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名無しNIPPER
2021/05/14(金) 01:01:18.33 ID:97gKkE/X0
「そうね、もちろんそこそこに充実はしていたけど、アイドルを始めてからはその機会は減ったわね」
「寂しかったり、しませんでしたか?」
もともとがアイドルのあたしと違って、夏葉さんは途中からアイドルになったんだ。だったら、感じる差はもっと大きいのかもしれない。
以下略
AAS
12
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名無しNIPPER
2021/05/14(金) 01:02:26.58 ID:97gKkE/X0
「それに、普通の大学生活って何なのかしら」
「え?」
「大学生はこれまでと比べて自由な時間が増えるし、私はそれをアイドルにあてただけとも言えるわ」
「なるほど」
「もちろん小学生からアイドルをしていると、また普通とは違った生活なのかもしれないけどね」
以下略
AAS
13
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名無しNIPPER
2021/05/14(金) 22:22:03.90 ID:97gKkE/X0
今日の待ち合わせは、あたしの方が早かった。
待ち合わせ時間の10分前、コンビニのいつもの位置にプロデューサーさんの車はなかった。ちょっと嬉しい。胸を張るような気持ちになる。
「おう」
「樹里ちゃん!」
コンビニの中でぼーっと涼んでいると、後ろから声をかけられた。
以下略
AAS
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名無しNIPPER
2021/05/14(金) 22:23:03.30 ID:97gKkE/X0
なんとなく会話が途切れる。店内だしそれでいいのだけれど、なんだか手持ち無沙汰で、そういえば渡したいものがあることを思い出した。
「樹里ちゃん、これあげます」
「え?」
カバンから制汗剤を取り出す。CMの収録をした時、スポンサーの人から貰った物だけど、あたしにはなんだか匂いが合わなかった。
「サンキュー?」
以下略
AAS
15
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名無しNIPPER
2021/05/14(金) 22:23:50.49 ID:97gKkE/X0
「果穂、スカート短くね?」
「そうですか?」
スカートの裾を摘んでみる。他のクラスの子と、そんなに変わらないと思う。むしろ記憶の中の樹里ちゃんはもっと短かった気もするけど。
「脚が長いのかもな」
「急に褒めても何も出ませんよ」
以下略
AAS
16
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名無しNIPPER
2021/05/14(金) 22:24:39.79 ID:97gKkE/X0
「あ、果穂ちゃん!」
樹里ちゃんの車の話を聞いていたら、学校の方からクラスの子が駆け寄ってきた。
「友達?」
「はい」
「おう」
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17
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名無しNIPPER
2021/05/14(金) 22:25:21.17 ID:97gKkE/X0
「そう、私生徒会だから、もう準備始まってて」
「そうなんだ! 大変だね〜」
ははは、と汗が浮かんだ笑顔を見せる彼女は、どこか誇らしそうだった。
文化祭当日はきっと参加させてもらえるだろうけど、クラスごとの出し物の準備はそうも行かないと思う。ウチのクラスは何をするんだろう。お化け屋敷かな。喫茶店かな。
文化祭は準備の期間が本番のようなところがあるけど、お仕事で放課後抜けてしまうあたしは、きっと本当の意味での文化祭には参加できない。あたしにとっての、特別な時間。
以下略
AAS
18
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名無しNIPPER
2021/05/14(金) 22:26:00.59 ID:97gKkE/X0
放クラや事務所のみんなとしていたようなライブとは訳が違うけど、あれはあれで独特の雰囲気があって、すごく盛り上がっている印象がある。
「楽しそう! ……あ、でも」
「もちろんリハとかは免除でいいよ! 本番だねぶっつけとかでも全然良いんだけど……やっぱ難しいかな?」
以下略
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名無しNIPPER
2021/05/14(金) 22:26:36.35 ID:97gKkE/X0
「……褒めても何も出ないよ〜?」
「そんなんじゃないって! じゃあ、私はこれで!」
そう言うと、ちょうど様子を伺いにきた樹里ちゃんと入れ違いに、クラスの子はコンビニに吸い込まれていった。
以下略
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20
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名無しNIPPER
2021/05/14(金) 22:27:09.79 ID:97gKkE/X0
「お、アイツ来たよ」
樹里ちゃんの目線を追うと、プロデューサーさんの車が遠くの信号に引っかかってるのが見えた。窓が黒くて中は見えないけど、きっと運転席から手を振っているのだろう。見えないのに。あの人がそういうことをするのは、なんとなくわかる。
「駐車させるのもあれだし、あそこまで行くか」
以下略
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21
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名無しNIPPER
[sage]
2021/05/15(土) 12:29:52.05 ID:kJHUjSXkO
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