2:名無しNIPPER
2021/05/03(月) 11:44:42.02 ID:fXMEQlMj0
「長門さんは本当に本が好きなのね。」
高校に入学してしばらく経ったゴールデンウィーク前。
朝倉さんが私の家に来てそう言った。
「・・・うん。本は好き。」
朝倉さんが作ってくれた、山盛りのカレーライスに目を落としながら、
私はそう言った。
「でしょうね。長門さんったら気づいたらいつも本を読んでいるんだもの。」
お皿に、ルーの跡と米粒を一つも残さずに、朝倉さんはカレーを食べている。
器用だな、と感心していると、
「そんなに本が好きなら、」
「図書館にでも行ってみればいいんじゃない?」
朝倉さんは、私の目を見据えて、そのように言った。
「・・・図書館?」
その目を見返すことができずに、私はそう聞いた。
「そうよ。市立の大きめの図書館が近くにあるでしょ?そこなんか、長門さんきっと気にいると思うわ。」
「なんなら、今度一緒に行きましょ。」
「・・・考えておく。」
伏目がちにそう呟いた私をみて、
朝倉さんは満面の笑みを浮かべた。
考えておくと口では言ったものの、
私は図書館には一人で行くつもりだった。
別に朝倉さんが嫌いだからではない。
むしろ、こんな私に唯一仲良くしてくれる大切な人だと思っている。
私は、彼女が怖かった。
いや、彼女だけではない。
他者が怖かった。
他者と交われば、私は自分の形を保てなくなる。
まるで、蒸気のように霧散していってしまう。
そんな粘り気のあるとした恐怖が私にはあった。
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