2: ◆ivbWs9E0to[saga]
2020/12/18(金) 21:19:39.44 ID:dICjsRIu0
電車の中は暖かい。
地下への階段を降りていくほどに、冷たくて痛い外の空気から暖かくて柔らかい空気に変わっていく。いつもより人の少ない座席に座ると、お尻からじんわり暖められていって、ついウトウトしてしまう。
というのは普段の私で、今の私の目は冴え渡っていた。なぜなら起きたばかりだから。
それでも気持ち良いものは気持ち良い。冷えた空気に引き締まっていた頬が図らずも緩む。
座席の縁に掌を這わせて暖をとっていると、抱えていたリュックがブルリと小さく一度だけ振動した。
『可奈、起きてる?』
『起きてるよ〜。電車乗ってる!』
『何時に着く?』
『六時ちょうどに駅に着くかな〜』
『改札のところにいるから』
お母さんとやり取りしてるみたい。緩み切ったはずの頬が更にもう一段柔らかくなる。いつものように音楽を再生しようとスマートフォンに指を滑らせていると、『Home, Sweet Friendship』の文字が目に入ったので今日はここから再生することにした。
少し前なら歌い出さないように口をギュッと結んでいたけれど、今はマスクをしているので少しなら口を動かしてもへっちゃら。左右の人の邪魔にならない程度に頭でリズムを取っていると、あっという間に目的の駅に到着した。
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