218:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 02:37:43.49 ID:tRJaplXx0
だからモルジアナは、幸せだったと思います。幸せになっていいんです。
だってこれは、きっと、自分が幸せになることを許す為の物語なんだから」
219:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 02:38:12.35 ID:tRJaplXx0
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
220:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 02:40:11.95 ID:tRJaplXx0
文香は安心したように目を細め、深く頷いた。耳に掛かった髪が滑り、落ちる。まるで絹だ。
彼女はゆっくりと、囁く準備のように首を突き出し、しかし千夜の耳には程遠い空に、夢見心地の言葉を紡ぐ。
「私は…… 自分で言うのも、ですけれど…… はい、読書家、だと。
ですが、どれだけの書を読み耽っても、今、千夜さんが仰ったような結論には、辿り着けなかったと思います。それは、千夜さんが見つけた、千夜さんだからこそ辿り着けた答え、だと。……とても愉しく、愛おしい物語でした。
221:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 02:40:37.64 ID:tRJaplXx0
「昔、焼いたクッキーを落として割りました。それを見ていると、どうしてだか気味悪くなって、虚しくなりました。だけど、本当の気持ちは他にありました。……お嬢様が笑ってくれたんです。《増えたね》と。
その時、私は許されました。悲しくなれました。
私は悲しかったんです。頑張って焼いたクッキーを落としてしまって、悲しかったんです。
私は愚かにも、自分の失敗に立ち向かおうとしていました。緊張しながら、折れたクッキーをじっと睨んでいたんです。それを、お嬢様が笑ってくれて、ようやく許されたんです。お嬢様のおかげでようやく、否認を奪われ、私は悲しい思いがある事と、向き合うことが出来たんです」
222:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 02:41:21.01 ID:tRJaplXx0
空気がしん、と澄み渡った。声は静かな世界に放りだされて、その跳ね返りもなく、なんだか独り言のようだと思った。隣に顔を向ければ、そうでない事が分かった。
そこに居ますね、と眼で認めてくれていた。
ここに居ますよ、と笑って返した。
223:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 02:41:49.12 ID:tRJaplXx0
Epilogue――
一ノ瀬志希を捕まえた。志希が捕まってくれた、の方が正しいのだと思う。どっちであろうと構わない。眼目はこうだ、今までのらりくらりと躱されてきたが、
「ようやく話が出来そうですね」
224:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 02:42:22.43 ID:tRJaplXx0
「舞台のですね。くすねたのですか?」
「にゃはは」
都の提案で、記念に二人で片割れずつ持っておくことにした。だが、そうするべきだったのか、志希の真意を今日まで聞きそびれていた。
「幾つもの暗号の先、貴女はこの金貨にどんな意味を込めたのですか」
225:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 02:43:06.24 ID:tRJaplXx0
「特に意味はない、ということですね。そんな気はしていました。それで、もう一つ謎が解けたのですよ」
「ふむふむ。シンリの探究は断らないよん?」
「あの日、私のスマートフォンの電源が切られていました。おかげで頼子さんのメッセージに気付くのが遅れるところでした。志希さん、貴女がやったのですね。貴女なりの、失踪というやつの方法論を実践させる為に」
「ほうほう?」
「私に何らかの連絡が来る事は容易に見越せたでしょう。貴女はその連絡に、私が気持ちの切り替えをつけるまでは気付かないように仕組んだ」
226:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 02:43:58.95 ID:tRJaplXx0
そこへ頼子がやって来た。手には千夜が着る紅と金のショール。笑んでそのまま、着せてくれた。
「本番には間に合いましたね」
腕を通しながら、頷く。時間を掛けただけはあるというところか、仕上がりがいい。志希が見て、言う。
「んん? にゃはは、イイカンジ」
「それは、似合うということですか?」
227:名無しNIPPER[sage saga]
2020/12/02(水) 02:44:30.15 ID:tRJaplXx0
「にゃは、決めちゃえ〜」
「お願いしますね、都ちゃん」
「ぶちかましたれェあうるさいですか」
「それでは、ええと…… よし!」
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