8:名無しNIPPER[saga]
2020/11/21(土) 17:08:03.50 ID:lZV+uyxB0
気付くと私は映画館に居た。客席には他に誰も居ない、私だけがその空間と一枚の光を一人占めにしていた。不思議と居心地は良かった。柔らかなシートは私の背中をしっかりとうずめ、上映が終わるまで私はここに座っていてよいのだという気分にさせた。同時に、上映が終わればここを立ち去らなくてはいけないことを、私は理解していた。
スクリーンはゆっくりと、それでいて目まぐるしく映すものを変える。その映画は不思議な物で、私がそれをよく見たいと思うほどゆっくりになり、そうでなければ一瞬で過ぎていった。
そしていつかの記憶が映し出された。
「今日友達に、『あの新田美波の弟なんて、お前は前世で国の一つや二つ救ってたんだろうな』って言われたよ」
いつか弟との会話の中で聞いた言葉だ。私の弟になるくらいで国を救わなければならないのならあなた達の姉になれた前世の私は、きっと地球を救っていたんだと思う。
そしてその映画は、ついにエンドロールを迎える。
「19年か……」
そう呟きながら、ついに席を立つ。寂しかったけれど、その足取りに後悔はなかった。幸せな19年だった。だけど私は幸せを受け取るばかりで、それに値する何かを返せていた気はしない。地球を救うような徳にはほど遠い。心残りといえばそれくらいだろうか。
願わくば、来世でも、あなた達のお姉ちゃんに————
12Res/8.00 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20