居眠りをするプロデューサーを前にしたアイドルはどうするのか
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4:case3. 秋月律子 ◆ShFOCME.j.[sage]
2020/10/07(水) 17:14:26.36 ID:tUtpJUVg0
「失礼します、プロデューサー宛に書類届いてますよ」

 郵便受けを覗いてきたら厚みのある封筒があったものだから、宛名を見てまずはこっちに、と届けに来たはいいものの、受取人は自分のデスクに伏せていびきをかいている。こっちはレッスンの合間の休憩時間だって言うのに……。仕事中に居眠りしてるだらしない所を新人の子達に見られたら、幻滅されちゃいますよ? 大人の男性を憧れの目で見てる子だっているんですからね。

「うわ、ひどい……」

 デスクに置いておくかな、と思って近寄ってみると、モニターは点いたまま、書類が散らかったまま、おまけにその書類の近くには飲みかけのコーヒーまであるじゃない。こぼしたらどうするんですか、もう……! 使わない時のパソコンはスリープにしておかないと! 筆記用具も使わないなら一ヶ所にまとめておきましょうよ! プリンターから出力されてる書類だって、一目見て分かるような誤字脱字がある! 「もしくわ」なんてどうタイプしたら出てくるんですか!

「……う」
「あ」

 しまった。内心でプリプリしていたら、声に出ちゃってたかも。いや、でも、これはプロデューサーが悪いですよ。劇場の仕事が始まって更に忙しいのに、前より一生懸命になってるのは本当にすごいですけど、疲れ果てて業務のパフォーマンスを落としてたら本末転倒じゃないですか。手伝えることがあれば言ってくださいね、って申し出てるのに。もしかして、愛想が悪かったのかしら、私。
 夢と現実の狭間に踏み込まないようコーヒーを遠ざけ、ちょっとだけデスクの上を整理していると、彼が寝息混じりに何かを口にしたようなものが聞こえた。

「……いいよ、母さん、一人でやるから……」

 うっすらと開いた目が私を見ていた。

「わっ、私、お母さんじゃありませんっ!」
「!! ……う、何だ、律子か。びっくりさせないでくれよ」

 大きな声が出てしまった。まぶたを擦りながらのっそりと彼が起き上がる。

「びっくりしたのはこっちですよ、何を口走ってるんですか、いきなり」
「え、何か言ってたか、俺」
「……母さんって言われました」
「あ、あはは、悪い悪い。ガキの頃の夢見てたんだ、多分」

 プロデューサーも恥ずかしかったのか、耳をほんのりと赤くしている。小学生が、学校の先生のことを間違えて「お母さん」って呼んでしまう、あの現象だったのかな。でも、私の頭に咄嗟に浮かんだのは、家でお母さんに呼びかける私のお父さんの姿だった。どうして結婚するとお互いのことを、お父さん、お母さんって言うようになるんだろう。子どもが生まれるとそうなるのかな。目の前の相手から「お母さん」って呼びかけられる光景がつい浮かんでしまい、慌てて頭を振って熱を振り払った。

「ダメですよ、机の上キレイにしとかなきゃ」
「俺の母さんみたいなこと言わないでくれって、恥ずかしいよ」
「だからお母さんじゃありませんってば! 言われないようにしてくださいよ!」
「はは、ますますそれっぽいな」
「もう〜〜〜! ばかっ!!」

(完)


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