高垣楓「あなたがいない」
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99: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/20(日) 22:13:14.98 ID:LTP9DQ6S0

 クリニックに通い始めて二か月。
 睡眠はそこそことれているような気がするけれど、仕事のパフォーマンスはさっぱり上がらない。私は少し焦っている。

「先生」
「はい」
「先生からいただいている薬で、夜は眠れるようになってきてます。けど……」
「けど?」
「なにかこう、まだ気持ちが前向きにならないというか、私はまだダメなのかなあ、なんて。ネガティブが考えが支配することも、まだ多くて」
「ふむ、そうですねえ……高垣さんが来られて二か月ですか。正直言えば、二か月くらいで改善することは、そう多くないですね」
「そうですか。でも、私はもう少し……少しでいいんです、早く前向きになれたらって気が逸って」
「それは、どうしてです?」
「やはりファンの方をお待たせするのは、とても申し訳なくて」
「うーん、なるほど」

 先生は、少し考えこんだ。

「今飲まれている前向きになるお薬。高垣さんにはまだ、最低限の量しか出してません。ですから、お薬を増やして様子を見てみましょうか」
「いいんですか?」

 先生の提案に、私は前のめりになる。

「ただ増やすことで体調が急に悪くなったりすることもありますから。その時は減らしてください。いいですね?」
「はい。ぜひお願いします」

 そうして、ミルナシプランを増やすこととなった。
 増やした当初は、胃がむかむかして食欲が落ちた。
 でもこれで前向きになれるのなら、と、しばらく我慢して飲み続ける。
 するとどうだろう。
 胃のむかむかは徐々に忘れるくらいになり、それなりにご飯も食べられるようになった。
 よし、これなら……
 そう思うことが前向き、と言えばそうかもしれない。少しずつであるけれど、自分の感覚のずれが薄れてきたように思えた。

「よし! 高垣、だいぶ調子が戻ってきたようだな」
「はい、ありがとうございます」

 ベテラントレーナーさんとのレッスンでも、以前のような一呼吸のずれが解消されていた。
 よかった。私は、ようやくアイドルへ戻れたのだと、嬉しくなった。
 それまで、私の体調優先でチームの活動もほぼ開店休業状態であった我がチーム高垣は、ここに至ってようやく、掲げていた目標への道を再び歩み始めることとなる。
 それは、単独アコースティックライブ。
 遅れを、取り戻さないと。

 気が付けば、クリニックに通って四か月。目標のライブまであと半年となっていた。

―― ※ ――




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