【俺ガイル】さよならメモリーズ
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49: ◆.6GznXWe75C2[saga]
2021/09/03(金) 18:08:40.98 ID:YbM8yKa9O
 この辺りに勤めてから数年が経つような俺ですら一度も足を踏み入れたことのなかった小さな路地を進む。雪ノ下さんに連れられて向かった先は、その道をさらに奥に入り込んだ場所にひっそりと佇むように構えている本当に小さなバーだった。
 
「なんでこんなとこ知ってるんすか」
「物好きな友達に教えてもらったの」

 中に入ると、間接照明を主として外とさして変わらない薄暗い店内が現れる。ジャズナンバーが微かに聞こえてきて、場違いな感覚に陥る。
 
「いらっしゃいませ」

 バーテンダーがカウンターの奥からそっとそう声をかけると、雪ノ下さんは小さく頭を下げ、それから端の方のカウンター席についた。それに倣い、俺も雪ノ下さんから一人分空けたイスに腰掛ける。
 
「モスコミュールで。比企谷くんは?」

 えっ、注文早くない? まだメニューを目にもしてないんだけど?
 
「えっと……」

 急いで辺りを見渡すと、どこかで見たことあるような気がする名前が並んでいる木の板を見つけた。これが恐らくメニューだろう。
 
「じゃあ、ジントニックで」
「かしこまりました」

 そう言うやいなや、バーテンダーはシェイカーに酒やら氷やらを放り込み始めた。
 
「比企谷くんは、こういうところよく来るの?」
「いえ、全然」

 何度か挑戦はしたものの、結局酒はあまり好きになれなかった。飲めないわけではないから付き合いの席では飲める程度だ。
 
「ふぅん。最初にジントニックなんて頼むから、通なのかと」
「ジントニックって通ですか?」

 むしろカクテルの中ではメジャーもいいところだと思う。俺がいま選んだ理由もなんとなく名前を知っているからに過ぎない。

「シンプルなカクテルだからね。その店の実力が一番如実になるって言うよ」
「へぇ」

 また一つ知識を得てしまった。と、思うのと同時に目の前にグラスがそっと置かれる。いつの間にかシェイキングまで終わっていたらしい。


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