9: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/08/26(水) 23:36:46.43 ID:qUczw4Pjo
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そんな事実を聞かされても、まだ理解できていなかった。なんだ、芸人特有のリップサービス?いわゆる、面白くなると思って喋ったこと、なのだろう?それが、今の俺とどうつながると言うのだ。そもそも、俺はお前が言っている平子という人物は知らないし、そんな話をした覚えなどは一切無いのだから。
と、こちらから語っても説得しても酒井は折れず、未だ真剣な顔をしてこちらを見ていた。この時点で誰か呼んだり、警察にでも通報すればよかったのだが、なぜかそんな気は起きなかった。
あまりのスケールに圧倒されていたのかもしれない。いや、としまえんの大きさじゃなくて、話のあまりの理解できなさに。
「もういいんすよ!あのね、もういいんす」
「もういいって、何が」
「───忘れなくて、いいんすよ。そこまでする必要はなかったの。むしろ、そこまでしたから、おかしくなったんです」
「だから……何が!」
いよいよ俺も苛立ってきて、つい大声を出してしまった。見ず知らずの人間に、そこまで感情をぶつけるつもりなんて一つもなかったのに、どうして俺は。にわかに焦り始めているようだった。
自分の知らない、自分の話をされているからか?しかもそれが与太話であれば良いものを、どうしても……どんなに意味がわからない話だと思っていたとしても、なぜかどうしても嘘には思えなかったせいか?
大きく溜息をついて、髪をくしゃくしゃとかきむしった。それで何か解決するわけでもないのだが。
「あの、平子さん。落ち着いて聞いてくださいね」
「もう落ち着いていられる場合じゃないんだけど」
「そうかもしんねえけど!聞いて!」
「何だよ、聞けば満足すんのか!?」
「いいから!」
こほん、と一つ咳払い。そして酒井はひどく大真面目に言うのだ。
「平子さんはとしまえんになりました」
………。
…………………。
「は?」
は?
うーんと、えーと……は?
「だから、言葉そのまま、言ってる通りになったんすよ」
「え?……は?」
「俺もよく分かってねえのよ!だから聞いて!」
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