4: ◆yufVJNsZ3s
2020/08/12(水) 23:36:36.76 ID:NLnJB+H60
山間を抜けた先、特筆すべきこともない港町――とは漣の弁である。泊地を発ってJR、JR、私鉄と乗り継ぎ、そろそろ六時間が経過しようとしていた。長旅というほど長旅ではないにせよ、小旅行というにはあまりに遠い。
漣からこの話を持ち掛けられたのは二週間ほど前のことだった。二週間。それは、単なる約束事なら十分すぎる猶予期間だけれど、故郷を訪ねるには聊か急すぎる。
どうして漣が俺を誘ったのか、俺はその理由を知らない。ついぞ聞けずじまいに終わってしまった。
思い当たる節はいくつかある。あるのだが……確度はあまりにうすぼんやりとしていた。曖昧模糊とした中に沈んでいた。だからこそ確かめなければならないという思いの結果として、俺はいまレンタカーを彼女の故郷に向けて走らせている。
七年。まるまる七年、俺は漣とともにいた。筆頭秘書艦として漣は随分と尽力してくれたし、泊地運営の力にもなってくれた。書類仕事も、風紀是正も、中央との折衝も、果ては食堂の新メニュー考案まで。一体あの小さな体のどこにそんな馬力が眠っているのか不思議なくらい。
まったく暇や退屈からは程遠い日常が、あそこ、俺たちの暮らす泊地にはあって、その愉快さの全てが漣のおかげだとは決して言えないけれど、漣がいなければその愉快さは決して存在しえなかっただろうとは思う。
たとえ不確かであっても、曖昧だとしても、俺のなかにおける彼女の重さは本物だ。
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