5:名無しNIPPER[sage]
2020/08/12(水) 01:15:50.82 ID:VoH9wFcH0
「あはは。何泣いてるのさ」
俺は笑う。目の前で泣きじゃくる少女を。
「それは……」
口ごもる可奈。でも大体わかってる。バックダンサーとして出演した初めてのステージで失敗したことで落ち込んでるのだろう。
彼女はこけた。それはもう天海春香を連想させるほど芸術的に。隣で踊る少女を巻き込んで。
ただ疑問がある。オーディションに落ちた時だってここまでひどいことにはなっていなかった。
失敗してもまた次頑張る。大抵の場合可奈はそうやってまた立ち上がれるはずだ。
ヘタクソだとデタラメだと笑われても歌ってきたんだから。
「どうせ可奈はおっちょこちょいだから本番でも何かやらかしたんだろう」
気になった俺は何も知らないふりをしてかまをかけた。
「それもだけど」
やっぱり他に理由があったらしい。
「私は! 志保ちゃんの、早くデビューしたい志保ちゃんの邪魔をしちゃった!」
北沢志保。可奈と同期の少女。一緒に練習する機会が多いらしく可奈は彼女の話をよくしていた。
なかなか打ち解けられないけど、誰よりも一生懸命に頑張る彼女はすごいんだと、仲良くなりたいのだと話していた。
巻き込んでしまった彼女が北沢さんだったのか。
それなら合点がいく。
自分自身の失敗よりも誰かを傷つけてしまうことに一番ダメージを受けるんだ可奈は。
「で、それでどうするのさ。泣いてへこんで彼女のためになるの?」
「ううう……。分かってるよ。だけど私は!」
もう見てられないな。
「二度とチャンスがないわけじゃないでしょ?」
「へっ?」
この世の終わりのように落ち込んでいた可奈はやっぱりそのことすら頭になかったらしい。
「北沢さんと一緒に歌いたいんでしょ。だったら次のステージで彼女と一緒に大成功させてチャンスをつかみ取れよ」
「あっ! えへへっ。そうだよね」
涙をぬぐって顔をあげた。その瞳には強い力がこもっていた。
「私! もっと練習する。ありがとう! 今度こそ〜♪ だいだい〜せいこ〜♪ 志保ちゃんといっしょに〜♪ 歌うんです〜♪」
そうだよ。大切なもののためにならいくらでも君は頑張れるんだ。
「本当、単純だよな。落ち込んだり張り切ったり」
走り去っていく彼女を見て思わず笑う。
可奈は決して強くないし壁にぶつかれば人並みにくじける。
それでも何度だってまた歩き出す姿を見ているから応援したくなるんだ。
だからその先にある道を信じていてよ。
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