715: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/12/29(火) 21:36:26.04 ID:Dh94pGk20
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彼の胸に抱かれながら、私は悔恨の念でいっぱいになっていた。
でも、涙は、流れない。すごく泣きたい気分なのに、泣けないのだ。
……ああ、私は所詮「魔物」なのだ。それを実感し、さらに悲しくなる。代わりに、強く握った手のひらから緑色の「血」が滲むのが分かった。
頭上では、彼の「触手」が必死に私を守っているのが分かった。深紅の大剣の男の剣戟は凄まじく迅く、そして重い。私でもそれが分かった。
剣の一振りで、幹のような「触手」が何本も斬り飛ばされていく。
「邪魔だってんだろうがぁっ!!!!!」
ヴォン
剣から放たれた衝撃波が、私とカルロスを襲う。ボロボロになったカルロスが、残り少なくなった「触手」で盾を作った。……しかし。
バキィッッッ!!!
それは他愛もなく砕け散る。触手の隙間から見える男の顔は、まるで悪鬼のようだ。
地面に剣を突き刺してからの男の攻撃は苛烈だった。明らかに、人間を超越した何かだった。いや、本当に彼は人間をやめかけているのかもしれない。
あの剣が「遺物」と呼ばれるものであることは薄々分かった。
……あれは、ヒトが持っていいものじゃない。ヒトを確実に狂わせるものだ。理屈ではなく、本能で私はそのことを知っていた。
でも……私は、何もできない。……あまりに、無力だ。
胸に抱いている、宝石をちらりと見る。これを使えばきっと、この危地を脱することができるだろう。
でも、それはカルロスが否定したやり方だ。彼の想いを裏切ることになる。……それだけは、できない。
手のひらから、一筋緑の血が流れた。こうやって彼にわずかずつ力を与え続けているけど……もう、限界だ。
「終わりだっっっ!!!!!」
ザンッ!!!
最後の盾も破られた。カルロスは干からび、崩れ始めている。
…………ごめんなさい。私になんて、会わなければ…………
堅く目を閉じる。……このまま、カルロスと一緒に斬られるのだ。
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