492: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/11/01(日) 21:11:13.30 ID:7lCLmiUQO
自分で言うのも何だけど、ボクは誤解されやすい。
この語尾のせいなのだろうか。ボクは元は「偽猫デミキャット」だった。偽猫には言葉を話せるのもいるけど、声帯の関係上どうしても「〜にゃ」と言ってしまう。
その時の癖が、御主人によって人化術を身に着けた後もどうしても残ってしまったらしい。最初の1年は直そうと努力したけど、やめた。
多分直そうと思えば直せたんだろう。でも、ボクはそうしなかった。面倒だったのと、この語尾と見た目を使って道化じみた振る舞いをした方が楽だったからだ。
御主人がそれを苦々しく思っているのは知っている。久々に会ったアリス様もそうだ。
でも、長年染みついた習性は捨てられない。それに、捨てる必要もなかった。こうしていれば、女の子にはちやほやされたし。
「お馬鹿でちょっと被虐趣味があって、見た目がかわいい亜人」として振舞うことに、ボクは満足していた。
しかし、変わる時が来たのかもしれない。否、道化としての仮面をそろそろ捨てる日が来たのかもしれない。
エリックたちの旅が、並々ならぬ覚悟で進んでいることは理解できた。デボラさんもそうだ。
そして、ボクだけが……覚悟がない。
御主人とアリス様がボクをエリックたちに付かせたのは、それに気付いていたからなんだろう。
なぜそんなことをわざわざしたのか。……理由は薄々分かっている。
もう、御主人は永くない。まだまだ生きるみたいなことを言っているけど、ずっと傍で仕えてきたボクには分かる。
夜、ひっそりと自室に消音魔法を張っている意味。
「静かでないと眠れない」何て言ってたけど、あれは大嘘だ。一晩中続く咳を、エリックたちに聞かせたくなかったからだ。
それに、あの煙草。普通の煙草じゃない。肺を中心とした胸の痛みを軽減する、超強力な鎮痛剤だ。
もちろん、それはエリックですら知らない。アリス様はさすがにすぐ気付いたようだけど。
そう、これはボクがオルランドゥ家を継げるか否かの試験なのだ。
そして、このままでは試験にボクは受からない。
軽く査証を奪ってくるって言ったけど、それは簡単なことじゃない。中の偵察はなおさらだ。
ただ、危険に怯えてもボクは変わらない。せめて、形だけでも……彼らに並びたいのだ。
ボクは猫の姿に「戻り」一目散に「女神の樹」の中心へと向かった。
カルロスの言う通りなら、そこにはロックモール統治府があるはずだ。
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