魔王と魔法使いと失われた記憶
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318: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/09/28(月) 19:59:30.60 ID:YA6smyVZO


……しかし、魔王は襲ってこなかった。代わりに聞こえたのは、落胆とも悲嘆とも付かない溜め息だった。


「……何故、俺やジャックがこんなことをしようとしているか、ちゃんと話したことがなかったな」

「え」

魔王は俯くと、そのまま静かに席に座り直した。その表情は、影になって見えない。

「俺たちは『サンタヴィラの惨劇』を疑っている。あれが父上の意思ではなく何者かによって引き起こされた事件ではないかと。
そして、それは……『魔王ケイン』を、ひいては魔族そのものを世界の仮想敵とするためのものだったのではないかと」

「……何のために?」

「どこの国も矛盾や不満を抱えている。その怒りを魔族に向けさせることで、世を平安に保ちたいのではないかというのが……俺たちの仮説だ。
勿論、『4勇者』も虚構だ。お前の育ての親、宰相トンプソンも含めてな」

「違うっ!!」と声に出かかったけど、私はそれを耐えた。今は、彼の話を聴く時だ。
何より、それを否定しきれない自分がいた。「六連星」デイヴィッドは、4勇者の親族なのだ。

魔王が震えている。

「……だが、同胞がその虚構の犠牲になっているのは……耐えられん。俺はズマ魔候国の正統後継者にして真の魔王だ。同胞たちを救う……責務がある」

「ズマ魔候国って、ハンプトン大魔候がいるじゃない」

「ハッ」と心底軽蔑しきった様子で魔王が吐き捨てた。

「あれは自らの富と安寧しか考えていない僭王だ。奴も討たねばならん。民のためにも」

「討たねばならない人が、そんなにいるのね」

「……そうだ。トンプソンもデイヴィッドも、ハンプトンもアヴァロンもだ。だが……俺には力が足りない。昨日、それを思い知った」

この人は、多くのものを背負い過ぎている。見た目は子供だけど、普通の人が背負ったらすぐに潰れてしまいそうな業を背負ってしまっている。
そして、それを自分だけで抱え込もうとしている。魔族のために。


……そんなの、もつわけないじゃない。





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