魔王と魔法使いと失われた記憶
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233: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/09/13(日) 20:43:55.72 ID:Wb+JqVAEO


俺がまだガキの頃の話だ。


俺は父上と鹿狩りに出ていた。魔法の実践も兼ねたものだ。
3頭を仕留めて得意気になって帰ろうとした時、それは起こった。


グロロロロロ……


地響きのような唸り声が聞こえた。魔獣??でも、今の自分ならっ!

そんな俺の肩を、父上は押さえた。

『何をするんですか、父上』

『相手が何物か分かっているのか』

『分かりません。でも、俺なら……』

ギロリと睨まれ、俺は硬直した。

『阿呆が。死ぬつもりか?』

『え……何がいるのか、御存知なのですか』

『いや、確信はない。だが、状況を判断しろ。全てにおいて、現状の把握が全てに優先する。……狙いは鹿だろう、置いて立ち去るぞ』

『でもっ、勿体無くは……』

『命より優先されるものはない。俺たちが殺られる可能性は、ゼロではないのだから』

あの勇猛で途轍もなく強い「魔王ケイン」にしては、あまりに臆病なんじゃないか?少しの落胆と共に、俺は背中に背負っていた3頭の死骸を置いた。


その時だ。


『逃げるぞっ』


父上が、俺の手を引いた。次の瞬間。


ゴオオオオッッッ!!!!


上空から炎のブレス??父上がいなければ、丸焦げになっていた。
見上げるとそこには……巨大な紅い龍。


『『加速(アクセラレーション)』だっ!!!』


父上に言われる通り発動する。紅龍はあっという間に小さくなった。

『はあっ、はあっ……す、すみません、父上……』

『言わぬことではない。あれは紅蓮龍『シューティングスター』だ』

『え』

『勝てぬ相手ではない。だが、お前を守りながら戦うのは、困難と察した。
唸り声の質から、奴である可能性をまず考えた。そして不安定な足場、そしてお前の存在。総合的に判断すれば、『加速』を使った逃亡が最善だ。
何も考えずに突っ込むことは勇気ではない。蛮勇だ』

静かに、しかし重く父上は言う。返す言葉もない。俯く俺に、父上は続けた。

『攻めることが悪いわけではない。だが、状況を冷徹に判断しろ、ということだ。何を優先すべきか、誰を救うべきか。その成功可能性はいかほどか。
戦でも政でも、その判断こそが全ての基になる。忘れるな』

『……はい』



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